黎明期
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(いつもの彼女)
シュイの朝はゆっくりだ。
船内の廊下を行き来するクルーの数が増えた頃に目を覚ます。シュイの同室はナース職で既に居らず、反対側にあるベッドは綺麗に整えられていた。
窓から差し込む日差しのなか女性クルー専用の共用洗面台で顔を整えたあと、部屋で寝巻の浴衣を脱いで着替える。七分袖で膝丈のAラインパーカーワンピースとレギンスにショートブーツを合わせて、腰近くまで長くなった髪をサイドにまとめる。
春気候の海域に入ったため気温は温かく上着は着なかった。武器ホルダー兼鞄を腰に巻いて、部屋を出て食堂へ向った。
朝食前に食堂横の掲示版で自隊のスケジュールと諸連絡を確認しながら、すれ違うクルーと挨拶する。
今日の隊務は午前の甲板掃除だけ。これなら午後は調達係の仕事ができる。近日中に寄港する島で調達したい物資のリストアップが捗りそうだ。提出された購入希望リストが一部雑で整理が必要だったから丁度いい。
粗方確認が終わって食堂に入り朝食を受け取る。今ではモビーで出される料理はある程度食べれるようになったシュイ。もちろん苦手な味付けはまだあるが、日常生活には困らない範囲。食事に関してはサッチ隊長の尽力のおかげである。
おまけで貰えたデザートのゼリーに笑みを浮かべて空いてる席を探していると、手を上げて呼ぶ人物がいた。
1番隊のマルコ隊長だ。こんな遅めの時間に食堂にいるのは珍しい。テーブルに近寄り挨拶をする。マルコは既に食事は済んでいて、彼の前には珈琲カップと新聞のみ。
「おはようです、マルコ隊長。どうされました?」
「俺にはおそようだよい。それよりおたくの寝坊助の隊長を起こしてきてほしい。会議前に打合せしたいことがあるんだい」
「…起こすくらいご自身でいかれては?」
「鬼に蹴られるのはごめんだよい」
マルコは少し大袈裟に肩を竦めてみせた。頼みごとを断れないシュイは困ったように笑うしかなかった。
シュイ所属の16番隊長であるイゾウは朝に弱い。また寝起きも良い方ではないので、起こしにいった人物が物騒な目に合った事例が尽きない。幹部クラスでさえ無事に済まないので起こすのは大変だと有名だった。
偶々シュイがその役目を言い付けられ彼を起こしに行くと、イゾウは何事もなく起きてきてシュイが無傷だったことは、古参クルーに衝撃をあたえた。以来、寝坊したイゾウを起こす役はシュイ担当になっていた。
食事を終えて食堂を出て、隊長幹部部屋があるフロアに向かうシュイ。各々持ち場で仕事をこなす時刻に近いので、廊下では誰ともすれ違わなかった。目当ての部屋の扉を少し強めにノックする。
「イゾウ隊長、朝ですよ。起きてください」
もちろん返事はないし、起きてる気配もない。
失礼します、と一言言い扉を開けて部屋に入る。カーテンが閉じた室内はまだ薄暗い。香木の懐かしい香りが満ちた部屋に心癒されながら、サイドテーブルのポットを食堂から持ってきた新しいものと入れ替える。朝起きたら茶を煎れる習慣をシュイが知ってから、お湯の温度と量に困らないように始めたことである。ついでに使用済の茶葉を回収する。
シュイが入って物音を立てても、部屋の主はうつ伏せでまだ寝ている。枕元に膝をついてもう一度名前を呼べば、ぴくりと目蓋が上がりぼんやり視線が交わさる。
ようやくお目覚めである。いつもの凛々しい彼の滅多に見られない無防備な姿に、くすぐったい思いを内に隠して、シュイは囁くように言葉をかける。
「マルコ隊長が呼んでましたよ。そろそろ起きてください」
「…あぁ、例の打合せか…」
イゾウはうつ伏せから肘をつき、いつもの綺麗な笑みを浮かべて腕を伸ばし、シュイの頬をそっと撫でた。
「おはよう、シュイ」
「おは、ようです」
シュイは少し噛みながら返すのに必死だった。起きがけの色気が半端ないので、毎度心臓に悪い。
イゾウがついと目を細めて上体を起こしたので、ベッドから出る邪魔にならないようシュイは立ち上がり避けた。サイドテーブルに向かうシュイの背後から着替えの布擦り音が聞こえ始める。いつからシュイが居ても気にせず着替えるようになっただろうか。
決して振り向かないように片付けの続きをしていると、キュッと帯を締め終えたイゾウがシュイの背後から茶器へ腕を伸ばした。
「今日は甲板担当だったか。日射しに気ィ付けな」
「はい。では、失礼しますね」
端正な顔が近い上に、耳元で囁かれて頬が熱い。何より各班の隊務をきちんと把握しているのは流石だ。
赤くなった表情を隠すようにシュイは一礼して、イゾウの自室を出た。廊下で高鳴る心音を落ち着かせるためひと息つくと、回収したポット等を食堂に返してから、他の隊員が待つ甲板へ足を進めた。
今日の仕事は一段と捗りそうだな。自然と口角は少し柔らかく上がっていた。
シュイの背中を見送り、彼女が交換してくれたポットでお茶を淹れつつ身支度をしていく。部屋に残る彼女の香水の香りを微かに感じながら、淹れたお茶を飲めば自然と頭が冴えてくる。
支度を終えて部屋を出たところで丁度マルコが廊下の向こうから現れた。打ち合わせはマルコの部屋でいいだろうと、イゾウもそちらへ足を進める。
「よお、寝ぼけさん」
「あまりウチのを使い走りにしてくれるな」
「適任者が運良く現れたんでね、ついよい。それにお前さんがなかなか起きてこないのが悪いねい」
マルコが自室の扉を開けてくれたので、イゾウは中に入り中央に配置されたソファーに座った。1番隊隊長ともあれば来客が多いので、置くようにしたらしい。マルコは向かいのソファーに腰かけた。
「まあ、悪い目覚めじゃなかったさ」
「不思議だよい。シュイだけ何もないのが。わざとかと疑うくらいに」
「そうだなあ、強いて云うなら香り、か?」
「は?」
お互い持参した手元の書類を捲りながら話していれば、からかったつもりのマルコが胡乱げに片眉を上げた。純粋に感じたことを言っているのに心外である。
「柔らかい香りがあの子からはするからな。気ィ張れないっつーか、無防備になる感じだな」
「…益々不思議だよい」
「俺もだよ」
本題の打合わせそっちのけで考え込んでいるマルコにイゾウは苦笑した。それほど気になるのか。自隊問わず彼女に関する話題は尽きないようだ。
頭の良い同僚にこれ以上詮索されないように、イゾウはまとめてきた書類を突き出して打合わせを半ば強引に始めたのだった。
2日後の朝、予定通り島に寄港したモビー号。着いた島は夏島で季節は春。花木が色鮮やかに島を飾り、料理の種類が豊富で目移りしそうだ。穏やかな雰囲気で店が多く並び観光客で賑わっている。
記録(ログ)は3日と航海士から聞いたシュイたち調達係は、購入リストと手に最終打合せをしていた。今回は3グループに分かれて物資調達にあたる。因みにシュイ所属の16番隊は滞在2日目の船番の隊務がある。
ジャックたちと分かれて船を降りたシュイのグループは食材担当。荷物持ち兼護衛する班に合流すると、そこには新2番隊隊長のエースがいた。
先日の祝宴の際、あまりいい会話をしなかったシュイとエース。気不味い空気のなか会話もそこそこに買出しへ出発した。
島の中央にある市場で出港前に食材が必要数届くように手配していく。船員が多いのでいくつかのお店に分けて購入していると、八百屋の店主が人懐っこい笑顔でオススメのフルーツを差し出した。
「沢山買ってくれた嬢ちゃんにオマケだよ。モラードだ。食べやすくて美味しいよ!」
渡されたのはいつも見るバナナより色味が赤っぽいもの。皮を剥いてかじれば、少し酸味のある甘さが口いっぱいに広がった。
シュイが美味しいと微笑めば、店主はにかりと喜んだ。シュイが追加でいま食べたモラードを注文していると、右手を引かれた。顔を向ければシュイの手にあるモラードをエースがかぶりついている。残りをすべてひとくちで。
シュイは思わずきょとんとしてしまった。しばらく別隊で過ごして忘れていたが、スペード時代はよくあった光景である。この距離感が懐かしい。モラードを飲み込んだエースは美味いなと言い、他の陳列するフルーツを見渡した。
「他は良いのか?」
「そうね、リスト上のものは揃ったはずだよ」
「もっと買ってけば。フルーツ好きだったろ」
シュイがエースを見上げれば、何故か視線が合わない。エースは鼻の頭を指でかいている。シュイはくすっと笑みをこぼしてしまう。
以前のシュイはこちらの食事が合わず食べれるものが少なくて、唯一抵抗なく食べれたフルーツをエースが上陸する度に片っ端から買い揃えてくれていたことを思い出した。覚えててくれていたのだ。それと鼻の頭をかくときは、エースが照れたときの癖である。
笑われたことに気づいたエースは少し不貞腐れて口を尖らせている。それを宥めるようにシュイはエースの左腕にすり寄って甘えた。
「うん、いまも好き。でも種類多くて悩むから、エースが選んでくれる?」
「いいぜ、任せろ!」
いつもの笑顔でエースは店主にほかのオススメを聞いてる横で、シュイはどこか安心していた。
エースの言った通り、私たちは家族だ。それはスペード時代から変わらない。この安心出来る距離感が無くなることは想像したくない。特別な関係を求めていたわけじゃないのだから。
自分は深く考え過ぎてしまったのかな。別の隊にいても、こうして彼との距離感は変わらない。ならば、このままで良いのだろう。エースの言った通りだった。
シュイは両手でエースの左手を握れば、力強い手のひらが優しく握り返してくれる。2人の手首には同じ金色のブレスレットが輝いていた。
シュイの朝はゆっくりだ。
船内の廊下を行き来するクルーの数が増えた頃に目を覚ます。シュイの同室はナース職で既に居らず、反対側にあるベッドは綺麗に整えられていた。
窓から差し込む日差しのなか女性クルー専用の共用洗面台で顔を整えたあと、部屋で寝巻の浴衣を脱いで着替える。七分袖で膝丈のAラインパーカーワンピースとレギンスにショートブーツを合わせて、腰近くまで長くなった髪をサイドにまとめる。
春気候の海域に入ったため気温は温かく上着は着なかった。武器ホルダー兼鞄を腰に巻いて、部屋を出て食堂へ向った。
朝食前に食堂横の掲示版で自隊のスケジュールと諸連絡を確認しながら、すれ違うクルーと挨拶する。
今日の隊務は午前の甲板掃除だけ。これなら午後は調達係の仕事ができる。近日中に寄港する島で調達したい物資のリストアップが捗りそうだ。提出された購入希望リストが一部雑で整理が必要だったから丁度いい。
粗方確認が終わって食堂に入り朝食を受け取る。今ではモビーで出される料理はある程度食べれるようになったシュイ。もちろん苦手な味付けはまだあるが、日常生活には困らない範囲。食事に関してはサッチ隊長の尽力のおかげである。
おまけで貰えたデザートのゼリーに笑みを浮かべて空いてる席を探していると、手を上げて呼ぶ人物がいた。
1番隊のマルコ隊長だ。こんな遅めの時間に食堂にいるのは珍しい。テーブルに近寄り挨拶をする。マルコは既に食事は済んでいて、彼の前には珈琲カップと新聞のみ。
「おはようです、マルコ隊長。どうされました?」
「俺にはおそようだよい。それよりおたくの寝坊助の隊長を起こしてきてほしい。会議前に打合せしたいことがあるんだい」
「…起こすくらいご自身でいかれては?」
「鬼に蹴られるのはごめんだよい」
マルコは少し大袈裟に肩を竦めてみせた。頼みごとを断れないシュイは困ったように笑うしかなかった。
シュイ所属の16番隊長であるイゾウは朝に弱い。また寝起きも良い方ではないので、起こしにいった人物が物騒な目に合った事例が尽きない。幹部クラスでさえ無事に済まないので起こすのは大変だと有名だった。
偶々シュイがその役目を言い付けられ彼を起こしに行くと、イゾウは何事もなく起きてきてシュイが無傷だったことは、古参クルーに衝撃をあたえた。以来、寝坊したイゾウを起こす役はシュイ担当になっていた。
食事を終えて食堂を出て、隊長幹部部屋があるフロアに向かうシュイ。各々持ち場で仕事をこなす時刻に近いので、廊下では誰ともすれ違わなかった。目当ての部屋の扉を少し強めにノックする。
「イゾウ隊長、朝ですよ。起きてください」
もちろん返事はないし、起きてる気配もない。
失礼します、と一言言い扉を開けて部屋に入る。カーテンが閉じた室内はまだ薄暗い。香木の懐かしい香りが満ちた部屋に心癒されながら、サイドテーブルのポットを食堂から持ってきた新しいものと入れ替える。朝起きたら茶を煎れる習慣をシュイが知ってから、お湯の温度と量に困らないように始めたことである。ついでに使用済の茶葉を回収する。
シュイが入って物音を立てても、部屋の主はうつ伏せでまだ寝ている。枕元に膝をついてもう一度名前を呼べば、ぴくりと目蓋が上がりぼんやり視線が交わさる。
ようやくお目覚めである。いつもの凛々しい彼の滅多に見られない無防備な姿に、くすぐったい思いを内に隠して、シュイは囁くように言葉をかける。
「マルコ隊長が呼んでましたよ。そろそろ起きてください」
「…あぁ、例の打合せか…」
イゾウはうつ伏せから肘をつき、いつもの綺麗な笑みを浮かべて腕を伸ばし、シュイの頬をそっと撫でた。
「おはよう、シュイ」
「おは、ようです」
シュイは少し噛みながら返すのに必死だった。起きがけの色気が半端ないので、毎度心臓に悪い。
イゾウがついと目を細めて上体を起こしたので、ベッドから出る邪魔にならないようシュイは立ち上がり避けた。サイドテーブルに向かうシュイの背後から着替えの布擦り音が聞こえ始める。いつからシュイが居ても気にせず着替えるようになっただろうか。
決して振り向かないように片付けの続きをしていると、キュッと帯を締め終えたイゾウがシュイの背後から茶器へ腕を伸ばした。
「今日は甲板担当だったか。日射しに気ィ付けな」
「はい。では、失礼しますね」
端正な顔が近い上に、耳元で囁かれて頬が熱い。何より各班の隊務をきちんと把握しているのは流石だ。
赤くなった表情を隠すようにシュイは一礼して、イゾウの自室を出た。廊下で高鳴る心音を落ち着かせるためひと息つくと、回収したポット等を食堂に返してから、他の隊員が待つ甲板へ足を進めた。
今日の仕事は一段と捗りそうだな。自然と口角は少し柔らかく上がっていた。
シュイの背中を見送り、彼女が交換してくれたポットでお茶を淹れつつ身支度をしていく。部屋に残る彼女の香水の香りを微かに感じながら、淹れたお茶を飲めば自然と頭が冴えてくる。
支度を終えて部屋を出たところで丁度マルコが廊下の向こうから現れた。打ち合わせはマルコの部屋でいいだろうと、イゾウもそちらへ足を進める。
「よお、寝ぼけさん」
「あまりウチのを使い走りにしてくれるな」
「適任者が運良く現れたんでね、ついよい。それにお前さんがなかなか起きてこないのが悪いねい」
マルコが自室の扉を開けてくれたので、イゾウは中に入り中央に配置されたソファーに座った。1番隊隊長ともあれば来客が多いので、置くようにしたらしい。マルコは向かいのソファーに腰かけた。
「まあ、悪い目覚めじゃなかったさ」
「不思議だよい。シュイだけ何もないのが。わざとかと疑うくらいに」
「そうだなあ、強いて云うなら香り、か?」
「は?」
お互い持参した手元の書類を捲りながら話していれば、からかったつもりのマルコが胡乱げに片眉を上げた。純粋に感じたことを言っているのに心外である。
「柔らかい香りがあの子からはするからな。気ィ張れないっつーか、無防備になる感じだな」
「…益々不思議だよい」
「俺もだよ」
本題の打合わせそっちのけで考え込んでいるマルコにイゾウは苦笑した。それほど気になるのか。自隊問わず彼女に関する話題は尽きないようだ。
頭の良い同僚にこれ以上詮索されないように、イゾウはまとめてきた書類を突き出して打合わせを半ば強引に始めたのだった。
2日後の朝、予定通り島に寄港したモビー号。着いた島は夏島で季節は春。花木が色鮮やかに島を飾り、料理の種類が豊富で目移りしそうだ。穏やかな雰囲気で店が多く並び観光客で賑わっている。
記録(ログ)は3日と航海士から聞いたシュイたち調達係は、購入リストと手に最終打合せをしていた。今回は3グループに分かれて物資調達にあたる。因みにシュイ所属の16番隊は滞在2日目の船番の隊務がある。
ジャックたちと分かれて船を降りたシュイのグループは食材担当。荷物持ち兼護衛する班に合流すると、そこには新2番隊隊長のエースがいた。
先日の祝宴の際、あまりいい会話をしなかったシュイとエース。気不味い空気のなか会話もそこそこに買出しへ出発した。
島の中央にある市場で出港前に食材が必要数届くように手配していく。船員が多いのでいくつかのお店に分けて購入していると、八百屋の店主が人懐っこい笑顔でオススメのフルーツを差し出した。
「沢山買ってくれた嬢ちゃんにオマケだよ。モラードだ。食べやすくて美味しいよ!」
渡されたのはいつも見るバナナより色味が赤っぽいもの。皮を剥いてかじれば、少し酸味のある甘さが口いっぱいに広がった。
シュイが美味しいと微笑めば、店主はにかりと喜んだ。シュイが追加でいま食べたモラードを注文していると、右手を引かれた。顔を向ければシュイの手にあるモラードをエースがかぶりついている。残りをすべてひとくちで。
シュイは思わずきょとんとしてしまった。しばらく別隊で過ごして忘れていたが、スペード時代はよくあった光景である。この距離感が懐かしい。モラードを飲み込んだエースは美味いなと言い、他の陳列するフルーツを見渡した。
「他は良いのか?」
「そうね、リスト上のものは揃ったはずだよ」
「もっと買ってけば。フルーツ好きだったろ」
シュイがエースを見上げれば、何故か視線が合わない。エースは鼻の頭を指でかいている。シュイはくすっと笑みをこぼしてしまう。
以前のシュイはこちらの食事が合わず食べれるものが少なくて、唯一抵抗なく食べれたフルーツをエースが上陸する度に片っ端から買い揃えてくれていたことを思い出した。覚えててくれていたのだ。それと鼻の頭をかくときは、エースが照れたときの癖である。
笑われたことに気づいたエースは少し不貞腐れて口を尖らせている。それを宥めるようにシュイはエースの左腕にすり寄って甘えた。
「うん、いまも好き。でも種類多くて悩むから、エースが選んでくれる?」
「いいぜ、任せろ!」
いつもの笑顔でエースは店主にほかのオススメを聞いてる横で、シュイはどこか安心していた。
エースの言った通り、私たちは家族だ。それはスペード時代から変わらない。この安心出来る距離感が無くなることは想像したくない。特別な関係を求めていたわけじゃないのだから。
自分は深く考え過ぎてしまったのかな。別の隊にいても、こうして彼との距離感は変わらない。ならば、このままで良いのだろう。エースの言った通りだった。
シュイは両手でエースの左手を握れば、力強い手のひらが優しく握り返してくれる。2人の手首には同じ金色のブレスレットが輝いていた。