黎明期
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(迎え撃つ彼女〈下〉)
トップスピードの差からエースと距離が少し開くなか、シュイは手に持つ小瓶の蓋を外して、エースが踏み込むだろうポイントへ向けて投げた。小瓶が割れると同時にエースがそこに到達した瞬間、エースの纏う炎が色を一部変化させて倍増する。
2色の炎を拳に込めて、エースはドーマへ攻撃していく。その横でそれらの炎を恐れることなく纏わせながら、シュイが副船長に薙刀を振り下ろした。
シュイの薙刀を短剣で受け止めながら、副船長のクライヴは目の前の存在が不気味でならなかった。ドーマとほぼ同じ実力を持つ能力者の登場より、味方のとはいえ燃え盛る炎に一切怯まない目の前の彼女に心がざわつく。
我が船長と対峙していたときは力及ばない中明らさまな時間稼ぎにひとり奮闘して哀れだったが、いま自分と堂々と対峙している彼女は同一人物なのかと目を疑う。
やはり自分より実力は落ちるが、それでも果敢に攻めてくる姿勢が理解出来ない。一体何が彼女をそう強く突き動かすのか。たかがひとり増援が来ただけなのに。
クライヴは息つく隙を与えないよう連続で攻めた。シュイは拙いながらもなんとか受け流すが、押され気味になる。
クライヴが好機と踏込みを強めたところを、シュイは足元に燻ぶる火の粉を下から掬うように薙刀を振るえば、再び立ち昇る炎が壁となった。近距離攻撃が叶わず引くと、追いかけるようにシュイが炎を纏いながら薙刀を振り回す。
視線の端で拮抗した激しいぶつかり合いをする我が船長と炎の能力者をとらえる。助太刀したいのに、揺るがない彼女がもどかしい。こちらが優位のはずなのに炎のせいで思ったように攻められないのだ。
一先ず炎を利用出来ないようにドーマたちと距離を取れば、彼女は誘いにあっさり乗ってきて着いてきた。クライヴは口元が緩む。余り周りを気にしないタイプのようだな。
場所を変えて再び武器を交えるクライヴとシュイ。炎を頼れない彼女は徐々に押されていく。
あと一歩という時に、ドーマの渾身の一撃が炎の能力者を吹き飛ばしたのがシュイの背後に見えた。そしてドーマは直ぐ様身を翻し自分たちの方に向かってくる。これで挟み撃ちだ。
彼女は不利な状況にまだ気づかないのか、クライヴに向けて薙刀を構えて振り下ろしてくる。後ろは当然ガラ空きのまま。
「周りはよく見ることだな、嬢ちゃん!」
後ろが無防備なシュイにドーマの長剣が届こうとした瞬間、ドーマは巨大な眩い炎に突撃されて吹き飛ばされていった。それを追うようにエースが猛スピードでドーマに向かっていく。
状況の変化がついて行けず攻撃が鈍ったクライヴはシュイの薙刀をもろに受けてしまい崩れ倒れた。直ぐ様起き上がり負傷した患部を押さえながら距離を取れば、彼女はすぐ後ろで起こる爆音を気にせずゆっくり薙刀を構え直している。
彼女の服や頬が炎で焦げても表情ひとつ動かなさいし、背後で仲間が吹き飛ばされても見向きもしない。クライヴには心底理解が出来なかった。
「よそ見するなんて余裕あるのね」
「なんで味方が吹き飛ばされても平気なんだよ…」
「だって、私はエースを信じてるから」
仲間に対する絶対的な信頼の言葉。彼女がどこか一回り大きい存在に見えてきた。
優位なのは変わらずこちらなのだ、負けるはずがない。クライヴは背中に流れる汗を振り払うように、最後の一撃を攻めるため駆け出した。
シュイは深呼吸をして静かに迫ってくる副船長を見据えた。先程足に負った傷の痛みは増しており、身体はぼろぼろで立っているのもしんどい。覇気の残量は僅かになり、これが最後の攻撃になるだろう。
薙刀を前で縦に持ち、水面に落ちる水滴をイメージして優しく甲板をつく。そこから白い霧が広がり、パリパリと表面が凍っていき、ふわりと周りの空気の流れが変わる。シュイ特有の覇気の発動である。
シュイは冷気の渦を感じ取ったと同時に前方へ薙刀を突き刺した。
「ーー氷結槍!」
突いた薙刀にならって一直線に氷の槍が無数に甲板から突き出て伸びていく。その槍はクライヴを捕らえ、彼の身体に複数の打撃を同時に食らわせた。
そしてクライヴの身体は力なくだらりと氷の槍に挟まって動かなくなった。
シュイの、勝ちだ。
シュイは安心から一気に力が抜けて後ろに倒れかかったが、優しく逞しい腕に受け止められた。覗き込まれて見えた顔は優しいものだった。
「ブライアンさん…」
「お疲れさん、シュイちゃん。モビーの援軍が着いたから、もう大丈夫だよ」
「良かった…。あの、エースは…?」
ブライアンの視線をたどって見れば、毅然と立つエースの見慣れた背中が見えた。あちらも戦闘の決着がついているみたいだ。特に大きな怪我はしてなさそうで安心する。
スペード時代から見続けてきた背中と少しの間だけ預けあえたことが嬉しかった。ただ護られるだけでなくて、一緒に敵に向かっていけたことで身体に力が湧いた。まだまだ自分の実力が足りなくて足を引っ張るけど、いつかまた共闘出来るように訓練しないと。
だって貴方の隣に立ちたいから。
戦いを終えて体力の限界だったシュイはエースの背中を見つめながら意識を手放した。落ちていく意識のなか、誰かが左手を握り自分の名前を呼んでくれた気がした。
エースはシュイ特性の誘炎剤で2色になった炎を横目に、ドーマへ拳を振り降ろした。能力者の自分に気圧される事なく正面からぶつかるドーマは、やはり噂通りの実力者であった。
援軍が来るまでの時間稼ぎでぼろぼろにされたシュイの姿が頭をよぎり、ちりっとエースの心が少しひり付いた。炎の威力を上げて攻めるも、ドーマは怯まない。
手強いなと呟いたとき、ドーマが何故か視線を一瞬動かした。つられて気配を読めば、自分達から距離を取り対峙する向こうの副船長とシュイ。エースの炎の庇護から離れた彼女は当然実力差から押されていく。
シュイの戦況に動揺してしまったエースをドーマは見逃さなかった。
「隙あり!」
「ぐわぁ!」
覇気を纏った強烈な斬撃をモロに食らってしまい、エースは飛ばされて壁に打ち付けられた。軋む背骨に顔を歪めながら顔を上げれば、ドーマはあろう事か副船長と対峙するシュイの背後を狙おうとしている。
それを見た瞬間エースの中で何かが焼き切れた音がした。
俺がどれだけ大事にシュイを護ってきたと思ってるんだ。
陽に弱い肌も、細い手も、白い頬も。俺の炎による火傷以外は傷なく護ってきたのに。
お前なんかが、彼女を傷付けるのか。
この俺の目の前で、そんなことあってたまるか。
もうこれ以上、彼女を傷付けさせるかよ。
エースの炎が激情に合わせて増大していく。打ち付けられた身体の痛みが麻痺して消え、いつもより速くなるスピード。
エースはシュイを背後から切りつけようとしたドーマに突進して、彼女から突き離す。今度はドーマが外壁にめりこんで埋まる前に、エースは仁王立ちして見下ろした。
先程炎を大量に放出してもなお湧き上がる炎。ドーマの頬にも炎の色が写るくらい、周りは炎の渦に囲まれる。その炎を拳に込めて大きく振り上げるエース。
「誰だろうと俺のシュイを傷つけるヤツは許さねェ!!」
エースが来た途端、別人のように動きが良くなったシュイ。彼女の危機がきっかけで爆発的に炎の質が変わり攻撃力も上がったエース。
自分は彼等のとんだ地雷を踏んだようだ。
ドーマは目の前に迫る燃えたぎる炎に対して、為すすべもなくただ見つめていた。そしてエースの拳によりドーマの巨体は甲板へ深く沈んでいった。
エースの勝利である。
敵の戦闘不能を確認したエースは大きく息を吐いて、パドル横につけられたモビーディック号をゆっくり見上げた。その天辺にはためく白ひげの髑髏を見据えて、ぎゅっと拳を握る。
まだ、だ。まだ力が足りない。
自分にもっと実力があれば、手負いのシュイが無理して闘うことはなった。
自分がもっとしっかりしていれば、シュイが挟み撃ちのような危ない目に合うこともなかった。
自分の名が白ひげの下でもっと広まれば、加護である彼女に手を出す愚か者が減るだろうか。
さらに力が欲しいとエースは強く願った。
大事な彼女が傷を負う姿をもう見たくないから。
ふとシュイの名を呼ぶ声が聞こえて振り返れば、パドル船員に支えられてぐったりする彼女の姿があった。エースは慌てて彼女に駆け寄る。シュイの顔色は少しだけ悪く、火照った頬には汗が流れていた。
「シュイ!」
「安心しな。気を失っただけだ」
そう静かに言うイゾウはシュイの汗をそっと拭う。彼女ばかり気にしていたエースは、周りの様子に気づくのが遅れた。
先行のエースに続いて援軍に来たのは1番隊と16番隊。残りのドーマ海賊団をあっさり蹴散らしており、応戦が終わる直前だった。
唖然とするエースにイゾウは笑みを深めながら、奮闘した弟の頭をぽんと優しく撫でた。今回はエースとシュイふたりの活躍のおかげで被害は最小限に収まったのだから。
思わぬ労いにエースは、嬉しさと悔しさが混ざり複雑だ。撫でられたところを左手で触れて金色のブレスレットが揺れる。
「イゾウ、シュイちゃんを医務室へ運んでやろう」
「ん。そうだな」
「お、俺が運ぶ!」
シュイを支えていたブライアンはイゾウに彼女を預けようとして動きを止めた。エースの突然の申し出に驚いたからだ。
イゾウはブライアンと顔を見合わせてエースに眉を下げて返した。
「俺は構わねェが、マルコが向こうでお前さんを呼んでるぜ」
エースがイゾウが示す方を向けば、マルコが来いと手招きしている。どうやら先行の援軍についての報告を求められているようだ。
隊長命令を無下に出来ず、エースは何度もシュイを振り返りつつマルコの方へ駆けて行った。そんなエースの背中を見送りながら、ブライアンはからりと笑う。
「面白い若手だな。こりゃあ楽しみだね」
「だろ? マルコは手ェ焼いてるけどな」
「お前んとこのお姫さんもなかなかだったぜ」
ブライアンの言葉にイゾウは口角を上げてみせた。自隊の隊員が褒められるのは隊長として嬉しいものだ。
ふと腕の中にいる大事な隊員のシュイを見下ろせば、彼女の腕にどこかで見たことがある金色のブレスレット。イゾウはそれに一瞬目を細めてから、シュイをモビーの医務室へ連れて行った。
イゾウが歩く度に彼女の髪紐がふわりと揺れていた。
トップスピードの差からエースと距離が少し開くなか、シュイは手に持つ小瓶の蓋を外して、エースが踏み込むだろうポイントへ向けて投げた。小瓶が割れると同時にエースがそこに到達した瞬間、エースの纏う炎が色を一部変化させて倍増する。
2色の炎を拳に込めて、エースはドーマへ攻撃していく。その横でそれらの炎を恐れることなく纏わせながら、シュイが副船長に薙刀を振り下ろした。
シュイの薙刀を短剣で受け止めながら、副船長のクライヴは目の前の存在が不気味でならなかった。ドーマとほぼ同じ実力を持つ能力者の登場より、味方のとはいえ燃え盛る炎に一切怯まない目の前の彼女に心がざわつく。
我が船長と対峙していたときは力及ばない中明らさまな時間稼ぎにひとり奮闘して哀れだったが、いま自分と堂々と対峙している彼女は同一人物なのかと目を疑う。
やはり自分より実力は落ちるが、それでも果敢に攻めてくる姿勢が理解出来ない。一体何が彼女をそう強く突き動かすのか。たかがひとり増援が来ただけなのに。
クライヴは息つく隙を与えないよう連続で攻めた。シュイは拙いながらもなんとか受け流すが、押され気味になる。
クライヴが好機と踏込みを強めたところを、シュイは足元に燻ぶる火の粉を下から掬うように薙刀を振るえば、再び立ち昇る炎が壁となった。近距離攻撃が叶わず引くと、追いかけるようにシュイが炎を纏いながら薙刀を振り回す。
視線の端で拮抗した激しいぶつかり合いをする我が船長と炎の能力者をとらえる。助太刀したいのに、揺るがない彼女がもどかしい。こちらが優位のはずなのに炎のせいで思ったように攻められないのだ。
一先ず炎を利用出来ないようにドーマたちと距離を取れば、彼女は誘いにあっさり乗ってきて着いてきた。クライヴは口元が緩む。余り周りを気にしないタイプのようだな。
場所を変えて再び武器を交えるクライヴとシュイ。炎を頼れない彼女は徐々に押されていく。
あと一歩という時に、ドーマの渾身の一撃が炎の能力者を吹き飛ばしたのがシュイの背後に見えた。そしてドーマは直ぐ様身を翻し自分たちの方に向かってくる。これで挟み撃ちだ。
彼女は不利な状況にまだ気づかないのか、クライヴに向けて薙刀を構えて振り下ろしてくる。後ろは当然ガラ空きのまま。
「周りはよく見ることだな、嬢ちゃん!」
後ろが無防備なシュイにドーマの長剣が届こうとした瞬間、ドーマは巨大な眩い炎に突撃されて吹き飛ばされていった。それを追うようにエースが猛スピードでドーマに向かっていく。
状況の変化がついて行けず攻撃が鈍ったクライヴはシュイの薙刀をもろに受けてしまい崩れ倒れた。直ぐ様起き上がり負傷した患部を押さえながら距離を取れば、彼女はすぐ後ろで起こる爆音を気にせずゆっくり薙刀を構え直している。
彼女の服や頬が炎で焦げても表情ひとつ動かなさいし、背後で仲間が吹き飛ばされても見向きもしない。クライヴには心底理解が出来なかった。
「よそ見するなんて余裕あるのね」
「なんで味方が吹き飛ばされても平気なんだよ…」
「だって、私はエースを信じてるから」
仲間に対する絶対的な信頼の言葉。彼女がどこか一回り大きい存在に見えてきた。
優位なのは変わらずこちらなのだ、負けるはずがない。クライヴは背中に流れる汗を振り払うように、最後の一撃を攻めるため駆け出した。
シュイは深呼吸をして静かに迫ってくる副船長を見据えた。先程足に負った傷の痛みは増しており、身体はぼろぼろで立っているのもしんどい。覇気の残量は僅かになり、これが最後の攻撃になるだろう。
薙刀を前で縦に持ち、水面に落ちる水滴をイメージして優しく甲板をつく。そこから白い霧が広がり、パリパリと表面が凍っていき、ふわりと周りの空気の流れが変わる。シュイ特有の覇気の発動である。
シュイは冷気の渦を感じ取ったと同時に前方へ薙刀を突き刺した。
「ーー氷結槍!」
突いた薙刀にならって一直線に氷の槍が無数に甲板から突き出て伸びていく。その槍はクライヴを捕らえ、彼の身体に複数の打撃を同時に食らわせた。
そしてクライヴの身体は力なくだらりと氷の槍に挟まって動かなくなった。
シュイの、勝ちだ。
シュイは安心から一気に力が抜けて後ろに倒れかかったが、優しく逞しい腕に受け止められた。覗き込まれて見えた顔は優しいものだった。
「ブライアンさん…」
「お疲れさん、シュイちゃん。モビーの援軍が着いたから、もう大丈夫だよ」
「良かった…。あの、エースは…?」
ブライアンの視線をたどって見れば、毅然と立つエースの見慣れた背中が見えた。あちらも戦闘の決着がついているみたいだ。特に大きな怪我はしてなさそうで安心する。
スペード時代から見続けてきた背中と少しの間だけ預けあえたことが嬉しかった。ただ護られるだけでなくて、一緒に敵に向かっていけたことで身体に力が湧いた。まだまだ自分の実力が足りなくて足を引っ張るけど、いつかまた共闘出来るように訓練しないと。
だって貴方の隣に立ちたいから。
戦いを終えて体力の限界だったシュイはエースの背中を見つめながら意識を手放した。落ちていく意識のなか、誰かが左手を握り自分の名前を呼んでくれた気がした。
エースはシュイ特性の誘炎剤で2色になった炎を横目に、ドーマへ拳を振り降ろした。能力者の自分に気圧される事なく正面からぶつかるドーマは、やはり噂通りの実力者であった。
援軍が来るまでの時間稼ぎでぼろぼろにされたシュイの姿が頭をよぎり、ちりっとエースの心が少しひり付いた。炎の威力を上げて攻めるも、ドーマは怯まない。
手強いなと呟いたとき、ドーマが何故か視線を一瞬動かした。つられて気配を読めば、自分達から距離を取り対峙する向こうの副船長とシュイ。エースの炎の庇護から離れた彼女は当然実力差から押されていく。
シュイの戦況に動揺してしまったエースをドーマは見逃さなかった。
「隙あり!」
「ぐわぁ!」
覇気を纏った強烈な斬撃をモロに食らってしまい、エースは飛ばされて壁に打ち付けられた。軋む背骨に顔を歪めながら顔を上げれば、ドーマはあろう事か副船長と対峙するシュイの背後を狙おうとしている。
それを見た瞬間エースの中で何かが焼き切れた音がした。
俺がどれだけ大事にシュイを護ってきたと思ってるんだ。
陽に弱い肌も、細い手も、白い頬も。俺の炎による火傷以外は傷なく護ってきたのに。
お前なんかが、彼女を傷付けるのか。
この俺の目の前で、そんなことあってたまるか。
もうこれ以上、彼女を傷付けさせるかよ。
エースの炎が激情に合わせて増大していく。打ち付けられた身体の痛みが麻痺して消え、いつもより速くなるスピード。
エースはシュイを背後から切りつけようとしたドーマに突進して、彼女から突き離す。今度はドーマが外壁にめりこんで埋まる前に、エースは仁王立ちして見下ろした。
先程炎を大量に放出してもなお湧き上がる炎。ドーマの頬にも炎の色が写るくらい、周りは炎の渦に囲まれる。その炎を拳に込めて大きく振り上げるエース。
「誰だろうと俺のシュイを傷つけるヤツは許さねェ!!」
エースが来た途端、別人のように動きが良くなったシュイ。彼女の危機がきっかけで爆発的に炎の質が変わり攻撃力も上がったエース。
自分は彼等のとんだ地雷を踏んだようだ。
ドーマは目の前に迫る燃えたぎる炎に対して、為すすべもなくただ見つめていた。そしてエースの拳によりドーマの巨体は甲板へ深く沈んでいった。
エースの勝利である。
敵の戦闘不能を確認したエースは大きく息を吐いて、パドル横につけられたモビーディック号をゆっくり見上げた。その天辺にはためく白ひげの髑髏を見据えて、ぎゅっと拳を握る。
まだ、だ。まだ力が足りない。
自分にもっと実力があれば、手負いのシュイが無理して闘うことはなった。
自分がもっとしっかりしていれば、シュイが挟み撃ちのような危ない目に合うこともなかった。
自分の名が白ひげの下でもっと広まれば、加護である彼女に手を出す愚か者が減るだろうか。
さらに力が欲しいとエースは強く願った。
大事な彼女が傷を負う姿をもう見たくないから。
ふとシュイの名を呼ぶ声が聞こえて振り返れば、パドル船員に支えられてぐったりする彼女の姿があった。エースは慌てて彼女に駆け寄る。シュイの顔色は少しだけ悪く、火照った頬には汗が流れていた。
「シュイ!」
「安心しな。気を失っただけだ」
そう静かに言うイゾウはシュイの汗をそっと拭う。彼女ばかり気にしていたエースは、周りの様子に気づくのが遅れた。
先行のエースに続いて援軍に来たのは1番隊と16番隊。残りのドーマ海賊団をあっさり蹴散らしており、応戦が終わる直前だった。
唖然とするエースにイゾウは笑みを深めながら、奮闘した弟の頭をぽんと優しく撫でた。今回はエースとシュイふたりの活躍のおかげで被害は最小限に収まったのだから。
思わぬ労いにエースは、嬉しさと悔しさが混ざり複雑だ。撫でられたところを左手で触れて金色のブレスレットが揺れる。
「イゾウ、シュイちゃんを医務室へ運んでやろう」
「ん。そうだな」
「お、俺が運ぶ!」
シュイを支えていたブライアンはイゾウに彼女を預けようとして動きを止めた。エースの突然の申し出に驚いたからだ。
イゾウはブライアンと顔を見合わせてエースに眉を下げて返した。
「俺は構わねェが、マルコが向こうでお前さんを呼んでるぜ」
エースがイゾウが示す方を向けば、マルコが来いと手招きしている。どうやら先行の援軍についての報告を求められているようだ。
隊長命令を無下に出来ず、エースは何度もシュイを振り返りつつマルコの方へ駆けて行った。そんなエースの背中を見送りながら、ブライアンはからりと笑う。
「面白い若手だな。こりゃあ楽しみだね」
「だろ? マルコは手ェ焼いてるけどな」
「お前んとこのお姫さんもなかなかだったぜ」
ブライアンの言葉にイゾウは口角を上げてみせた。自隊の隊員が褒められるのは隊長として嬉しいものだ。
ふと腕の中にいる大事な隊員のシュイを見下ろせば、彼女の腕にどこかで見たことがある金色のブレスレット。イゾウはそれに一瞬目を細めてから、シュイをモビーの医務室へ連れて行った。
イゾウが歩く度に彼女の髪紐がふわりと揺れていた。