黎明期
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(迎え撃つ彼女〈上〉)
朝日が眩しい甲板で、シュイは大きく伸びをして潮の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
いまシュイは調達の遠征でパドルに乗船している。初めての遠征で緊張したが、イゾウ隊長からプレゼントされた髪紐に勇気をもらったおかげで無事任務を終えて帰路の途中だった。
無事帰って来るように。
出発の朝髪紐を手に見送りに来てくれたイゾウ隊長。藤色と紺色の2色で編まれて両端には紫翡翠の石玉が飾る素敵な髪紐。薙刀を収めるホルダーベルトに結ぶ藤色と白色の飾り紐と合わせて、シュイにとって1番の御守りになっている。
予定では今夜にはモビー・ディック号に着くと聞いた。早く隊長に無事完了したことを報告したくて、待ち遠しいシュイは暇があれば甲板に出て進行方向を眺めている。
そんなそわそわしているシュイに声をかける人物がいた。今回乗っているパドルのブライアン組長である。
「おはよう、シュイちゃん。何か見えるかい?」
「おはようございます。モビーが少しでも見えるかなって見てました」
「もうちょっとだよ。それにしても、イゾウの奴も隅に置けないなあ」
ブライアン組長は元本船所属で、若かりし頃のイゾウ隊長と同じ隊に居てよく一緒に行動していたらしく、イゾウの部下であるシュイのことを遠征中何かと気にかけてくれる親切な人だった。
そんなに分かりやすかっただろうか。シュイは照れくさくて無意識に髪紐の紫翡翠を触っていた。
その時穏やかな朝の甲板に響く報せ。
「敵襲ーーー!!」
それまで穏やかだった空気が一変した。ブライアンとシュイは目を合わせて頷くと、それぞれ持ち場へ足早に向かった。
シュイは調達係員の船内避難を指揮する。非戦闘係員の誘導を最優先に、パドルの戦闘員の邪魔にならないよう甲板を駆け回り声がけをしていく。最後の1人を船内へ先導していくなか、横付けされた敵船から乗り込んでくる影を横目で確認した。
主船ではないとはいえ、あの『白ひげ』に向かってくるのだから、相当自信があるのだろう。思ったより攻めの姿勢に危機感を感じ、最後の係員を船内に押し込んだシュイは直ぐ様身を翻した。
戦闘の最前線に向かっていけば、負傷者を抱えながらシュイとすれ違うパドルクルーの数が、近づく程に多くなっていく。シュイは薙刀を組み立てながら、掛けるスピードを上げた。
ちょうどシュイの視界に、負傷者に肩を貸すクルーの背後に迫る敵の剣が見えたので、シュイは踏み込んで振り下ろす剣ごと相手を横に薙ぎ払った。
「早く船内へ!」
「すまん。助かった!」
彼等が後退する最後尾だったようで、前線ではパドルクルーが同数の敵と拮抗している。それでも向こう側はまだ主力が控えていて、数人が様子見をしていた。
あまり良い状況ではないとシュイは感じた。何とか援軍が来るまでの時間稼ぎをするべく、シュイが薙刀を構え直したところ、敵船の中央に座る人物がゆっくり腰を上げた。
目元深くまで覆うバンダナに肩には猿を従える大男。両眼の目立つ隈から頬に一本のラインがあり、腰には長剣をさげている彼。
遊騎士ドーマだった。先日の遠征出発前にスカルから教えて貰った要注意人物のひとりである。益々まずい状況なのが判明していく。
向こうの頭が一歩前に出たので、シュイも切合の間を抜けゆっくり歩み出る。戦闘の場に似合わない雰囲気を持つシュイの登場に、ドーマの口元が苦く緩む。
「…あんたも白ひげか?」
「どうも。白ひげ16番隊員だけど、何か?」
「隊長じゃないのか、つまらん」
「それはごめんなさいね。でも隊長の相手に貴方は勿体無いわ。どうぞお引き取りを」
「ふっ…引くと思うのか?」
「まさか」
ドーマが鼻で笑いシュイは軽く肩を竦めて見せた。次の瞬間には2人の距離は無くなり、互いの武器が高い音を立ててかち合った。
初動に反応してきたシュイにドーマは軽く目を見開き、シュイは引き攣りそうになる口元を無理矢理笑みに変えた。
自分では、敵わない。
シュイは悔しかった。やはり新世界で名を上げた船長だ、いち隊員の自分では実力差が明確だった。この実力差で何とか本船の援軍到着までの時間稼ぎをせねばならない。
その上自分の覇気はまだ持続力が足りないので、序盤から使ってスタミナ不足となれば即座に決着がついてしまう。
薙刀を大きく振るい一端距離を取って、呼吸を整える。少しの恐怖を飲み込んで覇気の残量を調整しつつ薙刀に纏わせながら、シュイは力いっぱい踏み込んだ。
ドーマの重い一撃は正面から受けず薙刀の柄を捻りながら力を逸らし、シュイが空いた脇から突くもドーマの対応スピードは速く長剣で受け止められる。ステップで距離を空けて踏み込んで振り下ろすが、あっさり弾かれて終わる。ドーマが間合いを詰めて来て躱して背後を取れたと思ったら、やはり追い付いて気付けば再び正面に対峙している。
シュイの身軽さを活かして数回繰り返すが、ドーマは冷静に全ての攻撃を受けきっていたし、後半はシュイの薙刀の型を読まれて反撃まで追加してくる。スピードは互角なので避けるのに苦労した。
時間稼ぎとはいえ似たような動きは通用しなくなるので、次の一手を考えてたところ左足腿が急に熱くなりシュイの視界が突如ズレた。次に全身に打ちつけられた痛みがあり、自分が倒れたのだと分かった。
どうして倒れたの。薙刀を握りしめながら顔をあげると、ドーマの右肩に拳銃を持つ猿の姿があった。その銃口からは細く白い煙が揺れている。
ああ、自分は撃たれたのか。拳銃を扱える猿だったとは、迂闊だったな。
足を負傷して甲板に倒れている自分と、まだ余力があり立っている敵。この状況にシュイの心は冷えていく。時間稼ぎをしなくちゃいけないのに、身体が動かない。ただ敵が近づくのを呆然と見つめていることしか出来なかった。
「思ったより保ったお嬢さんだ」
皮肉な称賛と共にドーマの振り上げた白刃が、やけに眩しく感じた。それがゆっくり振り下ろされるなか、シュイの頭に浮かんだ背中はーーー
「ーーー火拳っ!!」
視界いっぱいに広がる炎に、倒れ込んだシュイを引っ張り上げてくれる力強い腕。立ち上がり不安定に立つ肩を抱き寄せる熱い身体。メラメラと掴めない炎が揺らぐなか、シュイの冷え切った心が溶けていく。不安で心細い待ち時間が、どれだけ長く感じたことか。
シュイは思わず炎化して人型が整わないエースに抱きついた。エースも視線を敵に向けたまま、さらに彼女を抱き締めるよう力を込めた。
「エース…っ」
「悪ィ、待たせたな」
押しかえすように片手を突き出して、ドーマを鋭く見据えるエース。ドーマは体勢を崩しながらも数歩後退して、ゆるりと長剣を構え直している。先の攻撃はほぼ直撃したはずだが、余力を感じられる構えであった。
相手の構えをみて、シュイを抱くエースの腕の力が抜けていくのが分かる。シュイも合わせてエースから身を離して、左腿の傷をハンカチで素早く巻いて縛り薙刀を持ち直した。さっきまで固まって動かなかった身体が嘘のように軽い。
「手当て行っていいぜ」
「ううん。ここに居させて」
「…多分庇えねェぞ」
「良いの。一緒に戦いたい」
シュイから自然と共闘の言葉が出た。どうしてもシュイを前線から引かせたいエースは眉をしかめて言葉を重ねようとするが、ドーマの肩から離れた猿の代わりに現れた横に立つ新たな存在に口を結んだ。
同じくバンダナで額を覆い短剣を逆手で両手に持つ彼は、ドーマ海賊団の副船長だった。これで2対2になってしまった。
一瞬シュイに視線をやったエースはひとつ息を吐き、彼女に背を見せるように構え直した。シュイもエースと背中を合わせるように薙刀を構え直す。手元にはいつもの小瓶を忘れずに持って。
「行くぞ、シュイ!」
「うん!」
エースとシュイ2人は同時に駆けていった。
朝日が眩しい甲板で、シュイは大きく伸びをして潮の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
いまシュイは調達の遠征でパドルに乗船している。初めての遠征で緊張したが、イゾウ隊長からプレゼントされた髪紐に勇気をもらったおかげで無事任務を終えて帰路の途中だった。
無事帰って来るように。
出発の朝髪紐を手に見送りに来てくれたイゾウ隊長。藤色と紺色の2色で編まれて両端には紫翡翠の石玉が飾る素敵な髪紐。薙刀を収めるホルダーベルトに結ぶ藤色と白色の飾り紐と合わせて、シュイにとって1番の御守りになっている。
予定では今夜にはモビー・ディック号に着くと聞いた。早く隊長に無事完了したことを報告したくて、待ち遠しいシュイは暇があれば甲板に出て進行方向を眺めている。
そんなそわそわしているシュイに声をかける人物がいた。今回乗っているパドルのブライアン組長である。
「おはよう、シュイちゃん。何か見えるかい?」
「おはようございます。モビーが少しでも見えるかなって見てました」
「もうちょっとだよ。それにしても、イゾウの奴も隅に置けないなあ」
ブライアン組長は元本船所属で、若かりし頃のイゾウ隊長と同じ隊に居てよく一緒に行動していたらしく、イゾウの部下であるシュイのことを遠征中何かと気にかけてくれる親切な人だった。
そんなに分かりやすかっただろうか。シュイは照れくさくて無意識に髪紐の紫翡翠を触っていた。
その時穏やかな朝の甲板に響く報せ。
「敵襲ーーー!!」
それまで穏やかだった空気が一変した。ブライアンとシュイは目を合わせて頷くと、それぞれ持ち場へ足早に向かった。
シュイは調達係員の船内避難を指揮する。非戦闘係員の誘導を最優先に、パドルの戦闘員の邪魔にならないよう甲板を駆け回り声がけをしていく。最後の1人を船内へ先導していくなか、横付けされた敵船から乗り込んでくる影を横目で確認した。
主船ではないとはいえ、あの『白ひげ』に向かってくるのだから、相当自信があるのだろう。思ったより攻めの姿勢に危機感を感じ、最後の係員を船内に押し込んだシュイは直ぐ様身を翻した。
戦闘の最前線に向かっていけば、負傷者を抱えながらシュイとすれ違うパドルクルーの数が、近づく程に多くなっていく。シュイは薙刀を組み立てながら、掛けるスピードを上げた。
ちょうどシュイの視界に、負傷者に肩を貸すクルーの背後に迫る敵の剣が見えたので、シュイは踏み込んで振り下ろす剣ごと相手を横に薙ぎ払った。
「早く船内へ!」
「すまん。助かった!」
彼等が後退する最後尾だったようで、前線ではパドルクルーが同数の敵と拮抗している。それでも向こう側はまだ主力が控えていて、数人が様子見をしていた。
あまり良い状況ではないとシュイは感じた。何とか援軍が来るまでの時間稼ぎをするべく、シュイが薙刀を構え直したところ、敵船の中央に座る人物がゆっくり腰を上げた。
目元深くまで覆うバンダナに肩には猿を従える大男。両眼の目立つ隈から頬に一本のラインがあり、腰には長剣をさげている彼。
遊騎士ドーマだった。先日の遠征出発前にスカルから教えて貰った要注意人物のひとりである。益々まずい状況なのが判明していく。
向こうの頭が一歩前に出たので、シュイも切合の間を抜けゆっくり歩み出る。戦闘の場に似合わない雰囲気を持つシュイの登場に、ドーマの口元が苦く緩む。
「…あんたも白ひげか?」
「どうも。白ひげ16番隊員だけど、何か?」
「隊長じゃないのか、つまらん」
「それはごめんなさいね。でも隊長の相手に貴方は勿体無いわ。どうぞお引き取りを」
「ふっ…引くと思うのか?」
「まさか」
ドーマが鼻で笑いシュイは軽く肩を竦めて見せた。次の瞬間には2人の距離は無くなり、互いの武器が高い音を立ててかち合った。
初動に反応してきたシュイにドーマは軽く目を見開き、シュイは引き攣りそうになる口元を無理矢理笑みに変えた。
自分では、敵わない。
シュイは悔しかった。やはり新世界で名を上げた船長だ、いち隊員の自分では実力差が明確だった。この実力差で何とか本船の援軍到着までの時間稼ぎをせねばならない。
その上自分の覇気はまだ持続力が足りないので、序盤から使ってスタミナ不足となれば即座に決着がついてしまう。
薙刀を大きく振るい一端距離を取って、呼吸を整える。少しの恐怖を飲み込んで覇気の残量を調整しつつ薙刀に纏わせながら、シュイは力いっぱい踏み込んだ。
ドーマの重い一撃は正面から受けず薙刀の柄を捻りながら力を逸らし、シュイが空いた脇から突くもドーマの対応スピードは速く長剣で受け止められる。ステップで距離を空けて踏み込んで振り下ろすが、あっさり弾かれて終わる。ドーマが間合いを詰めて来て躱して背後を取れたと思ったら、やはり追い付いて気付けば再び正面に対峙している。
シュイの身軽さを活かして数回繰り返すが、ドーマは冷静に全ての攻撃を受けきっていたし、後半はシュイの薙刀の型を読まれて反撃まで追加してくる。スピードは互角なので避けるのに苦労した。
時間稼ぎとはいえ似たような動きは通用しなくなるので、次の一手を考えてたところ左足腿が急に熱くなりシュイの視界が突如ズレた。次に全身に打ちつけられた痛みがあり、自分が倒れたのだと分かった。
どうして倒れたの。薙刀を握りしめながら顔をあげると、ドーマの右肩に拳銃を持つ猿の姿があった。その銃口からは細く白い煙が揺れている。
ああ、自分は撃たれたのか。拳銃を扱える猿だったとは、迂闊だったな。
足を負傷して甲板に倒れている自分と、まだ余力があり立っている敵。この状況にシュイの心は冷えていく。時間稼ぎをしなくちゃいけないのに、身体が動かない。ただ敵が近づくのを呆然と見つめていることしか出来なかった。
「思ったより保ったお嬢さんだ」
皮肉な称賛と共にドーマの振り上げた白刃が、やけに眩しく感じた。それがゆっくり振り下ろされるなか、シュイの頭に浮かんだ背中はーーー
「ーーー火拳っ!!」
視界いっぱいに広がる炎に、倒れ込んだシュイを引っ張り上げてくれる力強い腕。立ち上がり不安定に立つ肩を抱き寄せる熱い身体。メラメラと掴めない炎が揺らぐなか、シュイの冷え切った心が溶けていく。不安で心細い待ち時間が、どれだけ長く感じたことか。
シュイは思わず炎化して人型が整わないエースに抱きついた。エースも視線を敵に向けたまま、さらに彼女を抱き締めるよう力を込めた。
「エース…っ」
「悪ィ、待たせたな」
押しかえすように片手を突き出して、ドーマを鋭く見据えるエース。ドーマは体勢を崩しながらも数歩後退して、ゆるりと長剣を構え直している。先の攻撃はほぼ直撃したはずだが、余力を感じられる構えであった。
相手の構えをみて、シュイを抱くエースの腕の力が抜けていくのが分かる。シュイも合わせてエースから身を離して、左腿の傷をハンカチで素早く巻いて縛り薙刀を持ち直した。さっきまで固まって動かなかった身体が嘘のように軽い。
「手当て行っていいぜ」
「ううん。ここに居させて」
「…多分庇えねェぞ」
「良いの。一緒に戦いたい」
シュイから自然と共闘の言葉が出た。どうしてもシュイを前線から引かせたいエースは眉をしかめて言葉を重ねようとするが、ドーマの肩から離れた猿の代わりに現れた横に立つ新たな存在に口を結んだ。
同じくバンダナで額を覆い短剣を逆手で両手に持つ彼は、ドーマ海賊団の副船長だった。これで2対2になってしまった。
一瞬シュイに視線をやったエースはひとつ息を吐き、彼女に背を見せるように構え直した。シュイもエースと背中を合わせるように薙刀を構え直す。手元にはいつもの小瓶を忘れずに持って。
「行くぞ、シュイ!」
「うん!」
エースとシュイ2人は同時に駆けていった。