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(彼女と伝説の邂逅〈上〉)
スペード海賊団は偉大なる航路(グランドライン)を進んでいた。ログポースが示す方向に航海していれば、不思議なことが起きる海域に入っていた。
波は穏やかで風は吹くのに、ずっと深い霧に包まれているのだ。周りの様子が分からず不気味な雰囲気がある海域。陽が届かないから時間も分からない。
スカルが知るどの噂の海域にも当てはまらないので、船員は首を傾げつつこの不思議な海域を通り過ぎるのを待っていた。
シュイはこの霧に覆われてから甲板で過ごすことが多くなった。陽が遮られて肌の弱さを心配することはないし、何より故郷と似た環境に羽を伸ばしてゆっくり過ごせている。船長のエースも滅多にない気候を楽しんでいた。
姉弟のように霧の中の甲板で仲良く過ごす2人を船内から見守るクルーたち。
「エースはともかく、度胸あるなあ、シュイは」
「俺、この霧なんか怖くてムリ…」
「この霧が故郷に似てるそうよ。毎日目輝かせてるわ」
「お嬢が喜んでて何より」
「こうも周りが見えないのは不安が募るが、航路は合ってんだ。もうしばらくの辛抱だろう」
デュースは集まったクルーにそう言って、船縁で並ぶ元気な2人の背中を見つめた。
みんなに見守られるエースとシュイは緩やかな風を受けてのんびり過ごしていた。そのとき、エースが不意に頭上を見上げた。羽ばたきが微かに聞こえたからだ。
「どうしたの、エース?」
「…なんだ、あれ」
褐色の両翼を持つ人型のソレは、深い霧の中から現れた。頭上から甲板にいるエースとシュイを見下ろして、黄金色の瞳を細めた。
「ヤット見ツケタ…」
ソレが両翼を大きく羽ばたかせて強風が甲板にいる2人を襲う。エースは船縁を片手で掴みつつ、飛ばされないようシュイを抱きしめた。あまりの強風にまともに目が開けられない。
風に堪えていると不意に腕の中が軽くなったように感じた。風が止んだ瞬間目を開ければ、そこにシュイの姿はなかった。確かに腕の中にいたはずなのに、霧のように消えた彼女。
困惑するエースが視線は這わせれば、シュイを見つけた。上空にいるソレの腕に抱えられている、シュイの姿を。
「シュイ!」
エースの呼びかけに応じない彼女は気を失っているようだった。力なくだらりと下がる左腕のブレスレットが霧の中で目立つ。
ソレは一度シュイを一瞥し、エースに背中を向けて霧の中へ飛び去っていった。
「待てよ、おい! シュイを返せーー!」
エースの声が聞こえた船内のクルーが慌てて甲板へ出てくるもシュイの姿はもう既になかった。
ストライカーめがけて駆けようとするエースの肩をデュースが間一髪のところで掴んで止めた。
「待てってエース。不可解な海域なんだ、先走るな!」
「すぐ追わねえと間に合わなくなるぞ!」
「お前まで行方不明になられたら困るんだよ。先ずは状況把握してからだ!」
「エースくん、デュースの旦那。海域から抜けそうですぜ!」
あれほど濃かった霧は晴れて、久しぶりの空と海の青さが目に染みる。その霧がひらけた先に、島が現れた。ゴツゴツした赤黒い岩肌に覆われた大小の山が複数奥にそびえており、手前は手入れのされていない木々が広がっていた。ログポースは目の前の島を指している。
船は潮の流れに乗りそのまま島に着岸する。辺りに島らしき影はないので、連れ去られたシュイもこの島のどこかにいることだろう。
得体のしれない島なので船員を島の捜索に2つ、船番に1つにグループ分けをした。島の捜索は全容が見えないため着岸した地点から右回りと左回りで分かれて捜索する。
シュイのことが気がかりでカリカリするエースとその抑え役であるデュース率いるグループと、スカルとコーネリア率いるグループで捜索が始まった。
エースは荒々しく草木をかき分けてズンズン進んでいく。無駄に音を立てて行くので、他の獣を呼び寄せやしないかデュースが辺りを警戒していると、
「どなたかな」
不意に船員以外の声がした。そちらを向けば、麻で出来た民族衣装を纏う男がひとり立っていた。背には弓を背負っている彼は、原色カラーの顔料をひいた目元を細める。
「旅人かい。人の上陸なんて何十年振りだろうね」
「すみませんが、この島の住民ですか? 実は仲間がこの島に連れてこられたかもしれないんです。何かご存じではありませんか?」
「…ああ、彼女のお仲間ですね」
デュースは背筋がざわりとした。一言も連れ去られた仲間の性別は言っていない。
エースが静かに気を放ち腰を落としかけていたら、男は両手を上げて敵意がないと示してきた。
「失礼。難しいでしょうが、警戒しないでもらいたい。かのお嬢さまにはある事を手伝って貰うため、こちらで丁重に迎えさせてもらっています」
「…どういうことだ?」
「詳しく説明をしたいので、良ければ我らの村まで来ていただけますかな」
伝説の動物として、不死鳥やグリフォンと並び有名な『呼鳥(こちょう)』。
人の魂を運び、死者の言葉を届けると言われ生死を操る鳥であり、契約すれば不死になれると言い伝えられている。
その呼鳥が住処にしているのが、この島である。島の周りの海流は孤立しており、数十年に一度数日だけ海流が変わり外海へつながるが、それ以外は誰もたどり着けない島であった。
争いを好まず、穏やかな気性の呼鳥。言伝えを信じた者より強引に契約しようと狙われ、乱暴な扱いを受けることが多かったので、こうして静かに過ごす島を見つけてここに住み着いた。この島の村の住民はその呼鳥を代々見守る使命を受け持っている。
「あの呼鳥の島だったなんて…」
逆回りで捜索していたチームと合流し、案内されて着いた村には男と似た装束を着る村人が長閑に生活していた。村の中央にある広場には壁がなく柱だけの広い屋根付きの空間があり、そこでエース達は説明を受けた。
情報通のスカルは伝説の呼鳥の登場に感極まっている。他のクルーも驚きを隠せない。そんななかエースは呼鳥よりもシュイの安否が知りたかった。
島の村に案内したコムラと名乗る男にエースは聞いた。
「それでうちのクルーはいま何処で何を手伝っているんだ?」
「奥の岩壁にある呼鳥の住処で孵化の手伝いをしてもらっています。呼鳥の主の御子でして、皆が誕生を待ち望んでいます」
「どうしてシュイだったんだ?」
「いまこの島には呼鳥の雌がいないからです。主の番いは病気で御子の誕生を見ることなく亡くなりました。だからお嬢さまに手伝っていただいてます」
女性だからシュイを連れ去った? なら甲板に居たのがバンシーなら、同じことが起きていたのだろうか。何か重大なことを見落としてないか、デュースはどこか腑に落ちなかった。
「呼鳥の孵化は雌が絶対必要なのか?」
「必要です。孵化後に両親鳥から血を分け与える儀式があるからです」
「血を…?」
血が苦手なスカルの声が若干震えた。エースは静かなままである。
「世間に広まっている呼鳥の契約とは、血を与えることで成立します。産まれたすぐは親鳥から。そのあと人間と契約できます」
「契約したら不死になるって聞いたけど…」
「それは嘘ですね。その呼鳥が持つ異能を借りれるだけです。代償は契約者の心臓で、契約は死ぬまで続きます」
「では、シュイが血を与えたら契約したことになるのだろうか?」
「いいえ、お嬢さまは血を分けられても契約にはなりません。何故ならお嬢さまは我らと「――おい」
エースが鋭くコムラの言葉を遮った。色々質問していたデュースとスカルが突然のことで軽く目を見張る。いつも情報を聞き出すときは黙っていることが多いエースなのに。
「契約の話より、その孵化はいつになるんだ?」
「早ければ明日には」
「俺たちがシュイがいるという住処に行くことは可能か?」
「出来れば遠慮いただきたい。数少ない呼鳥の安らげる場所です。孵化後、速やかにお嬢さまをこの村まで送ると主が言っていました」
「その言葉、信じていいんだな。シュイには傷一つなく、だ」
「主の言葉です。偽りはありません」
「…分かった。その言葉、信じるぜ」
エースはコムラの言葉に頷いて立ち上がった。デュースが何処に行くんだと聞けば、船に戻っていると言う。
スカルがさらに呼鳥について質問する横で、デュースは去っていくエースの背中から目が離せなかった。
「おや、話は終わったのかな?」
村の入り口で喫煙していたコーネリアとブリーにエースは近づき、無言で手を突き出した。2人は顔を見合わせたあと、コーネリアがにっと口角を上げて懐から煙草を取り出してエースに渡す。
エースは煙草をひとつ受け取って能力で火を付けると、煙をたっぷり肺に含んで吐き出した。エースが滅多に口にしない煙草を欲しがるときは、何か頭が熱くなったときだ。
「お嬢はどうだった?」
「早くて明日には合流できるらしい」
「なら良かったじゃねえか」
「…連れ去られてんだぞ」
ブリーの能天気さにエースはじろりと視線をやるも、大人なブリーは笑顔でスルーした。
スペード海賊団の中でも武闘派の彼らは、気配を感じるのに長けている。だからエースがシュイから感じる違和感を、彼らも感じ取っているはずなのに何も言わない。エースの探るような視線も、年上の2人には通じないのだ。
「そうだね、シュイは『普通の女の子』だからエースは心配だよね」
コーネリアからはこの言葉である。エースはお手上げだった。何枚も上手な彼らにこれ以上探りを入れられる程、エースは器用ではないから。
エースは村の背後にそびえる山のような岩壁をしばらく見上げた。今ごろシュイはどうしているだろうと思いながら。半分になった煙草を咥えて、デュースに宣言した通り自船に戻ることにした。背後で会話されてる内容を知ることなく。
「牽制しおって、心配症が」
「ほんと可愛いね」
船長であるエースが受け入れているのだから、別にシュイが何者でも構わないのだ。実際自分たちは彼女自身を気に入っているし、何も問題ない。
一服終えたコーネリアとブリーはまだ話中であろう村の広場にいる仲間たちの下へ足を進めるのだった。
スペード海賊団は偉大なる航路(グランドライン)を進んでいた。ログポースが示す方向に航海していれば、不思議なことが起きる海域に入っていた。
波は穏やかで風は吹くのに、ずっと深い霧に包まれているのだ。周りの様子が分からず不気味な雰囲気がある海域。陽が届かないから時間も分からない。
スカルが知るどの噂の海域にも当てはまらないので、船員は首を傾げつつこの不思議な海域を通り過ぎるのを待っていた。
シュイはこの霧に覆われてから甲板で過ごすことが多くなった。陽が遮られて肌の弱さを心配することはないし、何より故郷と似た環境に羽を伸ばしてゆっくり過ごせている。船長のエースも滅多にない気候を楽しんでいた。
姉弟のように霧の中の甲板で仲良く過ごす2人を船内から見守るクルーたち。
「エースはともかく、度胸あるなあ、シュイは」
「俺、この霧なんか怖くてムリ…」
「この霧が故郷に似てるそうよ。毎日目輝かせてるわ」
「お嬢が喜んでて何より」
「こうも周りが見えないのは不安が募るが、航路は合ってんだ。もうしばらくの辛抱だろう」
デュースは集まったクルーにそう言って、船縁で並ぶ元気な2人の背中を見つめた。
みんなに見守られるエースとシュイは緩やかな風を受けてのんびり過ごしていた。そのとき、エースが不意に頭上を見上げた。羽ばたきが微かに聞こえたからだ。
「どうしたの、エース?」
「…なんだ、あれ」
褐色の両翼を持つ人型のソレは、深い霧の中から現れた。頭上から甲板にいるエースとシュイを見下ろして、黄金色の瞳を細めた。
「ヤット見ツケタ…」
ソレが両翼を大きく羽ばたかせて強風が甲板にいる2人を襲う。エースは船縁を片手で掴みつつ、飛ばされないようシュイを抱きしめた。あまりの強風にまともに目が開けられない。
風に堪えていると不意に腕の中が軽くなったように感じた。風が止んだ瞬間目を開ければ、そこにシュイの姿はなかった。確かに腕の中にいたはずなのに、霧のように消えた彼女。
困惑するエースが視線は這わせれば、シュイを見つけた。上空にいるソレの腕に抱えられている、シュイの姿を。
「シュイ!」
エースの呼びかけに応じない彼女は気を失っているようだった。力なくだらりと下がる左腕のブレスレットが霧の中で目立つ。
ソレは一度シュイを一瞥し、エースに背中を向けて霧の中へ飛び去っていった。
「待てよ、おい! シュイを返せーー!」
エースの声が聞こえた船内のクルーが慌てて甲板へ出てくるもシュイの姿はもう既になかった。
ストライカーめがけて駆けようとするエースの肩をデュースが間一髪のところで掴んで止めた。
「待てってエース。不可解な海域なんだ、先走るな!」
「すぐ追わねえと間に合わなくなるぞ!」
「お前まで行方不明になられたら困るんだよ。先ずは状況把握してからだ!」
「エースくん、デュースの旦那。海域から抜けそうですぜ!」
あれほど濃かった霧は晴れて、久しぶりの空と海の青さが目に染みる。その霧がひらけた先に、島が現れた。ゴツゴツした赤黒い岩肌に覆われた大小の山が複数奥にそびえており、手前は手入れのされていない木々が広がっていた。ログポースは目の前の島を指している。
船は潮の流れに乗りそのまま島に着岸する。辺りに島らしき影はないので、連れ去られたシュイもこの島のどこかにいることだろう。
得体のしれない島なので船員を島の捜索に2つ、船番に1つにグループ分けをした。島の捜索は全容が見えないため着岸した地点から右回りと左回りで分かれて捜索する。
シュイのことが気がかりでカリカリするエースとその抑え役であるデュース率いるグループと、スカルとコーネリア率いるグループで捜索が始まった。
エースは荒々しく草木をかき分けてズンズン進んでいく。無駄に音を立てて行くので、他の獣を呼び寄せやしないかデュースが辺りを警戒していると、
「どなたかな」
不意に船員以外の声がした。そちらを向けば、麻で出来た民族衣装を纏う男がひとり立っていた。背には弓を背負っている彼は、原色カラーの顔料をひいた目元を細める。
「旅人かい。人の上陸なんて何十年振りだろうね」
「すみませんが、この島の住民ですか? 実は仲間がこの島に連れてこられたかもしれないんです。何かご存じではありませんか?」
「…ああ、彼女のお仲間ですね」
デュースは背筋がざわりとした。一言も連れ去られた仲間の性別は言っていない。
エースが静かに気を放ち腰を落としかけていたら、男は両手を上げて敵意がないと示してきた。
「失礼。難しいでしょうが、警戒しないでもらいたい。かのお嬢さまにはある事を手伝って貰うため、こちらで丁重に迎えさせてもらっています」
「…どういうことだ?」
「詳しく説明をしたいので、良ければ我らの村まで来ていただけますかな」
伝説の動物として、不死鳥やグリフォンと並び有名な『呼鳥(こちょう)』。
人の魂を運び、死者の言葉を届けると言われ生死を操る鳥であり、契約すれば不死になれると言い伝えられている。
その呼鳥が住処にしているのが、この島である。島の周りの海流は孤立しており、数十年に一度数日だけ海流が変わり外海へつながるが、それ以外は誰もたどり着けない島であった。
争いを好まず、穏やかな気性の呼鳥。言伝えを信じた者より強引に契約しようと狙われ、乱暴な扱いを受けることが多かったので、こうして静かに過ごす島を見つけてここに住み着いた。この島の村の住民はその呼鳥を代々見守る使命を受け持っている。
「あの呼鳥の島だったなんて…」
逆回りで捜索していたチームと合流し、案内されて着いた村には男と似た装束を着る村人が長閑に生活していた。村の中央にある広場には壁がなく柱だけの広い屋根付きの空間があり、そこでエース達は説明を受けた。
情報通のスカルは伝説の呼鳥の登場に感極まっている。他のクルーも驚きを隠せない。そんななかエースは呼鳥よりもシュイの安否が知りたかった。
島の村に案内したコムラと名乗る男にエースは聞いた。
「それでうちのクルーはいま何処で何を手伝っているんだ?」
「奥の岩壁にある呼鳥の住処で孵化の手伝いをしてもらっています。呼鳥の主の御子でして、皆が誕生を待ち望んでいます」
「どうしてシュイだったんだ?」
「いまこの島には呼鳥の雌がいないからです。主の番いは病気で御子の誕生を見ることなく亡くなりました。だからお嬢さまに手伝っていただいてます」
女性だからシュイを連れ去った? なら甲板に居たのがバンシーなら、同じことが起きていたのだろうか。何か重大なことを見落としてないか、デュースはどこか腑に落ちなかった。
「呼鳥の孵化は雌が絶対必要なのか?」
「必要です。孵化後に両親鳥から血を分け与える儀式があるからです」
「血を…?」
血が苦手なスカルの声が若干震えた。エースは静かなままである。
「世間に広まっている呼鳥の契約とは、血を与えることで成立します。産まれたすぐは親鳥から。そのあと人間と契約できます」
「契約したら不死になるって聞いたけど…」
「それは嘘ですね。その呼鳥が持つ異能を借りれるだけです。代償は契約者の心臓で、契約は死ぬまで続きます」
「では、シュイが血を与えたら契約したことになるのだろうか?」
「いいえ、お嬢さまは血を分けられても契約にはなりません。何故ならお嬢さまは我らと「――おい」
エースが鋭くコムラの言葉を遮った。色々質問していたデュースとスカルが突然のことで軽く目を見張る。いつも情報を聞き出すときは黙っていることが多いエースなのに。
「契約の話より、その孵化はいつになるんだ?」
「早ければ明日には」
「俺たちがシュイがいるという住処に行くことは可能か?」
「出来れば遠慮いただきたい。数少ない呼鳥の安らげる場所です。孵化後、速やかにお嬢さまをこの村まで送ると主が言っていました」
「その言葉、信じていいんだな。シュイには傷一つなく、だ」
「主の言葉です。偽りはありません」
「…分かった。その言葉、信じるぜ」
エースはコムラの言葉に頷いて立ち上がった。デュースが何処に行くんだと聞けば、船に戻っていると言う。
スカルがさらに呼鳥について質問する横で、デュースは去っていくエースの背中から目が離せなかった。
「おや、話は終わったのかな?」
村の入り口で喫煙していたコーネリアとブリーにエースは近づき、無言で手を突き出した。2人は顔を見合わせたあと、コーネリアがにっと口角を上げて懐から煙草を取り出してエースに渡す。
エースは煙草をひとつ受け取って能力で火を付けると、煙をたっぷり肺に含んで吐き出した。エースが滅多に口にしない煙草を欲しがるときは、何か頭が熱くなったときだ。
「お嬢はどうだった?」
「早くて明日には合流できるらしい」
「なら良かったじゃねえか」
「…連れ去られてんだぞ」
ブリーの能天気さにエースはじろりと視線をやるも、大人なブリーは笑顔でスルーした。
スペード海賊団の中でも武闘派の彼らは、気配を感じるのに長けている。だからエースがシュイから感じる違和感を、彼らも感じ取っているはずなのに何も言わない。エースの探るような視線も、年上の2人には通じないのだ。
「そうだね、シュイは『普通の女の子』だからエースは心配だよね」
コーネリアからはこの言葉である。エースはお手上げだった。何枚も上手な彼らにこれ以上探りを入れられる程、エースは器用ではないから。
エースは村の背後にそびえる山のような岩壁をしばらく見上げた。今ごろシュイはどうしているだろうと思いながら。半分になった煙草を咥えて、デュースに宣言した通り自船に戻ることにした。背後で会話されてる内容を知ることなく。
「牽制しおって、心配症が」
「ほんと可愛いね」
船長であるエースが受け入れているのだから、別にシュイが何者でも構わないのだ。実際自分たちは彼女自身を気に入っているし、何も問題ない。
一服終えたコーネリアとブリーはまだ話中であろう村の広場にいる仲間たちの下へ足を進めるのだった。