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(告げられる彼女)
長い雨が止んだある日、白ひげ海賊団傘下のホワイティベイ海賊団がモビー・ディック号に訪れた。異動する14番隊のイレーナを迎えに来たのだ。
その晩にはイレーナの送別会として盛大な宴が行われた。古参メンバーが多く所属する傘下海賊団のひとつなので、久しぶりの再会に皆盛り上がっていた。
古株組が中央で盛り上がるなか、若年組はいつも通りの宴を楽しんでいた。シュイはじめ16番隊班長は馴染みの隊の班長等と固まってグラスを傾けている。
16番隊のグレイとユーリ、11番隊のシルバに8番隊のアンソニー。先日15番隊班長に昇格した元スペードのコーネリア、他数名。
穏やかなメンバーでゆっくり他愛のない会話をしていたけど、お酒が回れば若い故の悩みが出てくるもので。アンソニーがぽつりとパドル乗船の恋人と別れたことを零せば、話題は恋の話に染まっていく。
周りが慰めたりしているなか、それまで会話の聞き役になっていたシュイが口を開いた。
「やっぱり同船じゃないのは辛い?」
「同じ家族とはいえ、距離があるとな。違う船同士は自然消滅しやすい」
「同じ船同士でも普通に別れることがあるんだから、不思議じゃないよ」
「…イゾウ隊長は大丈夫なのかな?」
「は、隊長? シュイ、どうしたよ」
「だってイレーナさんと離れ離れになるんだよ」
「なんでそこでイレーナが出るんだ?」
「2人はそういう仲でしょ」
「お前なぁ…」
そう信じてイゾウを心底心配するシュイに、右隣のグレイは呆れて肩を落としている。向かい側にいるユーリたちは顔を突き合わせてコソコソ話し始めた。
「おい、なんで気づいてねぇの、あの娘。あれだけ分かりやすくて」
「隊長がまだ言ってないみたいで…」
「シュイも敬愛と区別出来てるか怪しいけどね」
「外堀から埋めるタイプだったんスね、イゾウ隊長って」
シュイの左隣にいたコーネリアは彼らの反応でなんとなく察した。エースと離れて16番隊で過ごす彼女を巡って、知らぬ間に何なら愉快なことになっているようである。
気づいていないシュイにコーネリアは聞いた。
「シュイは恋人欲しいと思うの?」
「んー、どうかな…婚約者は居たんだけど」
「「「はあ!?」」」
「家同士で決めた相手で、2回しか会ってないけどね」
「それってエースに会ってなかったら嫁いでたんだよね?」
「うん。家が決めたことだから、使命感しかなかった。感情はあとからついてくるものだと聞いてたし、実際彼は良い人だったから特に不安もなかったし」
「何それ…ついていけないんだけど」
「サムライの一族では、よくある話よ」
さらりと使命だと言いきるシュイに、ユーリは開いた口が塞がらない。婚約者の存在を知らなかったグレイは頭を抱えて下を向いている。他のメンバーも驚きを隠せていない。
彼らは知らないのだ。その婚約者にはもう会えないことを。シュイの事情をあえて言い触らすことでもないのでコーネリアは黙っていた。つい癖でシュイの頭を撫でていれば、同船のよしみで無条件に甘えてくれる彼女。相変わらず可愛い末っ子である。
周りの反応を内心楽しく見守っていると、中央で盛り上がっていた1部の隊長たちがこちらに向かってくるのが見えた。スペースを空けるためコーネリアが腰を上げれば、シルバたちも気づいて動く。その中で立ち上がったグレイは向かってくるイゾウへ足早に歩み寄り、何かを言うと他の輪へ加わっていった。
グレイの行動にシュイが首を傾げていれば、隊長のイゾウとキングデュー、副隊長のカイルとアカツキが合流して再び乾杯する。新任班長のコーネリアに絡むアカツキの明るい声を横に、シュイは隣に座ったイゾウが気になって仕方がない。恋人と離れることになるのに、普段と様子が変わらないイゾウ。大人同士はそういう感じなのかとぼんやりグラスを傾けていれば、あぐらをかいた足に肘をついたイゾウがシュイの顔を覗き込んだ。
「婚約者がいたとは初耳だなァ」
シュイは口に含んだお酒を一気にごくんと飲み込んだ。危うくむせるとこだった。
グレイだ。さっきイゾウに近寄って何かを囁いていたから。そろりと視線をやれば、いつもの綺麗な笑みに圧を感じる。まるで言い逃れを許さない様な、無言の圧を。
「か、隠してたつもりはありません。ただあちらを思い出すのが辛かった時期は考えないようにしてたので、話す機会がなかったんです」
あえて異世界から来たなど、大声で言えるものじゃない。スペードクルー以外で知っているのは監視対象時に関わった幹部のみだ。
だから本当に話す機会がなかったし、アンソニーの話がきっかけで久しぶりに思い出したくらいである。
「…その男は大切だったか?」
「兄が進めた縁談なので、私の意志は介入しません。けれど、こんな異端児に真っ直ぐ想いを向けてくれた方なので、悪い人では、ない…」
シュイはイゾウに向き直りかけ、言葉が途切れた。
イゾウの詠めない瞳が真っ直ぐ向けられていたから。隊長の畏怖でもない、別の何か熱いものが籠もった瞳だった。まるであの2人きりで砂浜にいた晩のように。
「イゾウ、隊長…?」
「そいつを、好いてたか?」
「……え」
わたしがあのひとを? 慕ってはいたが、エースに向ける感情に近かったと思う。雛鳥が初めて見るひとを親鳥と慕うように。
けれど、いまその質問をして来た目の前の彼は、ちがうの。何故かぽかぽかとあたたかくなる心があった。婚約者とエースともちがう、なにか。次第に温度が上がって火傷するくらいに、熱いなにか。
返答に固まってしまったシュイに、イゾウは小さく舌打ちした。もういい、色々考えるのをやめよう。
「回りくどいのは、やっぱ性に合わねェ」
ぼそりとそう呟いたイゾウは身を乗り出すと腕を伸ばし、シュイの後頭部を抱えて引き寄せた。バランスを崩したシュイの頬に手を添えて、顔を傾ける。そして、ピンク色の濡れた唇を己の唇で塞いだ。
「―――――」
少し距離が空いてイゾウが目を開ければ、涙目で頬を赤くするシュイの表情があった。
「みんなが…」
「誰も居ねぇよ」
縋るように周りを見れば、あれだけ固まっていたメンバーの姿は近くになく、イゾウとシュイの2人になっていた。
いつの間に居なくなったの。それにわたしはいま、彼に何をされたの。恋人がいるんじゃなかったの? 思考が色々と追いつかない。
「…イ、ゾウ…さ」
「ちっと黙ンな」
「んっ…」
シュイの顔をこちらに向かせてもう一度口づけをすれば、彼女の細い指が縋るようにぎゅっとイゾウの着物を掴んだ。少し甘い果実酒を味わうように合わせる角度を変える度に、シュイの吐息が微かに漏れていく。
シュイの唇の甘さがなくなりかけた頃そっと唇が離れれば、伏せ目がちでぷるぷると小動物のように震える彼女。彼女の白く細い首筋まで赤くなっていた。仕掛けて於いてあれだが、感情が追いついていないのだろうな。けれどイゾウの着物を掴む手はそのままで自然と口角が上がる。
「あの…、なぜ?」
「したかったから」
「…っ、と、唐突過ぎます…」
ふいっと視線を外すシュイは口を尖らせた。急じゃなければいいのか。そんな仕草と合わせて、イゾウはくつくつと喉を鳴らしてしまう。
頬を赤らめて目を伏せる彼女の横顔が何とも色気があり魅入っていると、こちらの視線に気づいてないのか。シュイは空いてる方の手で、唇をそっと撫でていた。
無意識なのだろうか。先ほどまで触れ合っていたそこを、名残惜しそうに指でなぞるなど。予想以上にやってくれる。
「…あんま、煽ってくれるなよ」
「ふぇ…?」
イゾウはたまらず細い身体を抱き寄せた。力加減を間違えたら壊れそうな彼女を腕に優しくおさめれば、甘く柔らかな香りに目眩がしそうだった。止められない想いは自然と口から落ちていった。
「…シュイ、好きだ」
耳元で囁かれる言葉に、シュイの瞳が大きく見開かれて涙がゆっくりと頬に零れた。イゾウの広い背中に回されかけた細い腕は空を切り、だらりと甲板に落ちていく。
シュイの心が、カチリと小さく鳴っていた。
シュイの反応が気になりイゾウが身体を少し離したところ、イゾウの名が呼ばれる。ふとそちらに意識が向いた瞬間、シュイはイゾウの腕のなかから立ち去った。まるで霧のようにふわりと消えていった彼女。甘い香りだけが残る自分の腕を静かに見下ろしていれば、中央で騒ぎ疲れた連中がダラダラと戻ってくる。
「あれ、イゾウひとり? シュイいなかった?」
「ちょっと、な」
「ふーん。てっきり口説き落とすの失敗したのかと思った」
ハルタの軽口くらいいつもなら受け流すのに、先程のシュイの様子が気になっていたイゾウはついグラスを傾ける動きが固まった。そんならしくない様子にハルタだけでなく、カイルも軽く目を見開いている。
「え、当たりなの?」
「…まあ、少しがっついちまった」
「あちゃー。シュイ、驚いたんじゃない?」
どんまいと言われるが、イゾウはあまり気にしていなかった。
今回は少し急いてしまったが、彼女に伝わるまで何度でも伝えるだけだ。イゾウはそう思っていた。
だから翌朝、あんな報告を受けることになるなんて誰が予想出来ただろうか。
「――シュイが、居なくなりました」
長い雨が止んだある日、白ひげ海賊団傘下のホワイティベイ海賊団がモビー・ディック号に訪れた。異動する14番隊のイレーナを迎えに来たのだ。
その晩にはイレーナの送別会として盛大な宴が行われた。古参メンバーが多く所属する傘下海賊団のひとつなので、久しぶりの再会に皆盛り上がっていた。
古株組が中央で盛り上がるなか、若年組はいつも通りの宴を楽しんでいた。シュイはじめ16番隊班長は馴染みの隊の班長等と固まってグラスを傾けている。
16番隊のグレイとユーリ、11番隊のシルバに8番隊のアンソニー。先日15番隊班長に昇格した元スペードのコーネリア、他数名。
穏やかなメンバーでゆっくり他愛のない会話をしていたけど、お酒が回れば若い故の悩みが出てくるもので。アンソニーがぽつりとパドル乗船の恋人と別れたことを零せば、話題は恋の話に染まっていく。
周りが慰めたりしているなか、それまで会話の聞き役になっていたシュイが口を開いた。
「やっぱり同船じゃないのは辛い?」
「同じ家族とはいえ、距離があるとな。違う船同士は自然消滅しやすい」
「同じ船同士でも普通に別れることがあるんだから、不思議じゃないよ」
「…イゾウ隊長は大丈夫なのかな?」
「は、隊長? シュイ、どうしたよ」
「だってイレーナさんと離れ離れになるんだよ」
「なんでそこでイレーナが出るんだ?」
「2人はそういう仲でしょ」
「お前なぁ…」
そう信じてイゾウを心底心配するシュイに、右隣のグレイは呆れて肩を落としている。向かい側にいるユーリたちは顔を突き合わせてコソコソ話し始めた。
「おい、なんで気づいてねぇの、あの娘。あれだけ分かりやすくて」
「隊長がまだ言ってないみたいで…」
「シュイも敬愛と区別出来てるか怪しいけどね」
「外堀から埋めるタイプだったんスね、イゾウ隊長って」
シュイの左隣にいたコーネリアは彼らの反応でなんとなく察した。エースと離れて16番隊で過ごす彼女を巡って、知らぬ間に何なら愉快なことになっているようである。
気づいていないシュイにコーネリアは聞いた。
「シュイは恋人欲しいと思うの?」
「んー、どうかな…婚約者は居たんだけど」
「「「はあ!?」」」
「家同士で決めた相手で、2回しか会ってないけどね」
「それってエースに会ってなかったら嫁いでたんだよね?」
「うん。家が決めたことだから、使命感しかなかった。感情はあとからついてくるものだと聞いてたし、実際彼は良い人だったから特に不安もなかったし」
「何それ…ついていけないんだけど」
「サムライの一族では、よくある話よ」
さらりと使命だと言いきるシュイに、ユーリは開いた口が塞がらない。婚約者の存在を知らなかったグレイは頭を抱えて下を向いている。他のメンバーも驚きを隠せていない。
彼らは知らないのだ。その婚約者にはもう会えないことを。シュイの事情をあえて言い触らすことでもないのでコーネリアは黙っていた。つい癖でシュイの頭を撫でていれば、同船のよしみで無条件に甘えてくれる彼女。相変わらず可愛い末っ子である。
周りの反応を内心楽しく見守っていると、中央で盛り上がっていた1部の隊長たちがこちらに向かってくるのが見えた。スペースを空けるためコーネリアが腰を上げれば、シルバたちも気づいて動く。その中で立ち上がったグレイは向かってくるイゾウへ足早に歩み寄り、何かを言うと他の輪へ加わっていった。
グレイの行動にシュイが首を傾げていれば、隊長のイゾウとキングデュー、副隊長のカイルとアカツキが合流して再び乾杯する。新任班長のコーネリアに絡むアカツキの明るい声を横に、シュイは隣に座ったイゾウが気になって仕方がない。恋人と離れることになるのに、普段と様子が変わらないイゾウ。大人同士はそういう感じなのかとぼんやりグラスを傾けていれば、あぐらをかいた足に肘をついたイゾウがシュイの顔を覗き込んだ。
「婚約者がいたとは初耳だなァ」
シュイは口に含んだお酒を一気にごくんと飲み込んだ。危うくむせるとこだった。
グレイだ。さっきイゾウに近寄って何かを囁いていたから。そろりと視線をやれば、いつもの綺麗な笑みに圧を感じる。まるで言い逃れを許さない様な、無言の圧を。
「か、隠してたつもりはありません。ただあちらを思い出すのが辛かった時期は考えないようにしてたので、話す機会がなかったんです」
あえて異世界から来たなど、大声で言えるものじゃない。スペードクルー以外で知っているのは監視対象時に関わった幹部のみだ。
だから本当に話す機会がなかったし、アンソニーの話がきっかけで久しぶりに思い出したくらいである。
「…その男は大切だったか?」
「兄が進めた縁談なので、私の意志は介入しません。けれど、こんな異端児に真っ直ぐ想いを向けてくれた方なので、悪い人では、ない…」
シュイはイゾウに向き直りかけ、言葉が途切れた。
イゾウの詠めない瞳が真っ直ぐ向けられていたから。隊長の畏怖でもない、別の何か熱いものが籠もった瞳だった。まるであの2人きりで砂浜にいた晩のように。
「イゾウ、隊長…?」
「そいつを、好いてたか?」
「……え」
わたしがあのひとを? 慕ってはいたが、エースに向ける感情に近かったと思う。雛鳥が初めて見るひとを親鳥と慕うように。
けれど、いまその質問をして来た目の前の彼は、ちがうの。何故かぽかぽかとあたたかくなる心があった。婚約者とエースともちがう、なにか。次第に温度が上がって火傷するくらいに、熱いなにか。
返答に固まってしまったシュイに、イゾウは小さく舌打ちした。もういい、色々考えるのをやめよう。
「回りくどいのは、やっぱ性に合わねェ」
ぼそりとそう呟いたイゾウは身を乗り出すと腕を伸ばし、シュイの後頭部を抱えて引き寄せた。バランスを崩したシュイの頬に手を添えて、顔を傾ける。そして、ピンク色の濡れた唇を己の唇で塞いだ。
「―――――」
少し距離が空いてイゾウが目を開ければ、涙目で頬を赤くするシュイの表情があった。
「みんなが…」
「誰も居ねぇよ」
縋るように周りを見れば、あれだけ固まっていたメンバーの姿は近くになく、イゾウとシュイの2人になっていた。
いつの間に居なくなったの。それにわたしはいま、彼に何をされたの。恋人がいるんじゃなかったの? 思考が色々と追いつかない。
「…イ、ゾウ…さ」
「ちっと黙ンな」
「んっ…」
シュイの顔をこちらに向かせてもう一度口づけをすれば、彼女の細い指が縋るようにぎゅっとイゾウの着物を掴んだ。少し甘い果実酒を味わうように合わせる角度を変える度に、シュイの吐息が微かに漏れていく。
シュイの唇の甘さがなくなりかけた頃そっと唇が離れれば、伏せ目がちでぷるぷると小動物のように震える彼女。彼女の白く細い首筋まで赤くなっていた。仕掛けて於いてあれだが、感情が追いついていないのだろうな。けれどイゾウの着物を掴む手はそのままで自然と口角が上がる。
「あの…、なぜ?」
「したかったから」
「…っ、と、唐突過ぎます…」
ふいっと視線を外すシュイは口を尖らせた。急じゃなければいいのか。そんな仕草と合わせて、イゾウはくつくつと喉を鳴らしてしまう。
頬を赤らめて目を伏せる彼女の横顔が何とも色気があり魅入っていると、こちらの視線に気づいてないのか。シュイは空いてる方の手で、唇をそっと撫でていた。
無意識なのだろうか。先ほどまで触れ合っていたそこを、名残惜しそうに指でなぞるなど。予想以上にやってくれる。
「…あんま、煽ってくれるなよ」
「ふぇ…?」
イゾウはたまらず細い身体を抱き寄せた。力加減を間違えたら壊れそうな彼女を腕に優しくおさめれば、甘く柔らかな香りに目眩がしそうだった。止められない想いは自然と口から落ちていった。
「…シュイ、好きだ」
耳元で囁かれる言葉に、シュイの瞳が大きく見開かれて涙がゆっくりと頬に零れた。イゾウの広い背中に回されかけた細い腕は空を切り、だらりと甲板に落ちていく。
シュイの心が、カチリと小さく鳴っていた。
シュイの反応が気になりイゾウが身体を少し離したところ、イゾウの名が呼ばれる。ふとそちらに意識が向いた瞬間、シュイはイゾウの腕のなかから立ち去った。まるで霧のようにふわりと消えていった彼女。甘い香りだけが残る自分の腕を静かに見下ろしていれば、中央で騒ぎ疲れた連中がダラダラと戻ってくる。
「あれ、イゾウひとり? シュイいなかった?」
「ちょっと、な」
「ふーん。てっきり口説き落とすの失敗したのかと思った」
ハルタの軽口くらいいつもなら受け流すのに、先程のシュイの様子が気になっていたイゾウはついグラスを傾ける動きが固まった。そんならしくない様子にハルタだけでなく、カイルも軽く目を見開いている。
「え、当たりなの?」
「…まあ、少しがっついちまった」
「あちゃー。シュイ、驚いたんじゃない?」
どんまいと言われるが、イゾウはあまり気にしていなかった。
今回は少し急いてしまったが、彼女に伝わるまで何度でも伝えるだけだ。イゾウはそう思っていた。
だから翌朝、あんな報告を受けることになるなんて誰が予想出来ただろうか。
「――シュイが、居なくなりました」