黎明期
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(想いを刻む彼女)
貴方は知らないでしょう。
私がどれだけ貴方に助けられたのかを。
エースに異動を断られてショックだったあの晩。ひとりにしないでカイル副隊長と朝まで傍に居てくれたことが嬉しかった。
調達の仕事で本船を離れることが多くても、帰船時に必ずお帰りと甲板で迎えてくれること。
私の弱いところも包み込んで守ってくれるやさしい場所を与えてくれたこと。
ここに居て良いのだと安心出来る。
貴方がいる16番隊は、私にとってかつてのスペード海賊団と同じになっていた。
だから今日、シュイはある部屋に来ていた。
「…お嬢さんが来るとはね」
彫り師のジンは来室者に軽く目を見開いた。女性クルーが希望するのは珍しいし、あのエースに傾倒していることで有名なシュイだったからだ。
ジンとシュイはソファに向き合わせて座り、ジンから施術の説明を受ける。彫れば簡単に消せないものなので、何度も意思確認をされた。
けれどシュイの返事は変わらない。
「思ったより頑固だなあ」
「はじめて言われました」
「ホントかよ。ペイントやシールもあるんだが…」
「ぜひタトゥーでお願いします」
どっかの隊長を思わせる程の頑固さにジンは頭をかいた。隊に所属するとそこのトップに似てくるのだと誰かが言っていたな。
なかなかジンに納得してもらえなくて、シュイは心の内を隠すことをやめた。
「決して思いつきではありません。前までの依存してた自分と決別して、新たな気持ちで生きるために刻みたいんです」
シュイの出方が変わったからか、ジンの雰囲気も変わった。肘掛けに肘をついて目を細めてシュイを真っ直ぐ見つめる。
「入れ墨はやり直しがきかねェものだぞ。本当に良いのか?」
「将来後悔しないとは言い切れませんけど。変わりたくて自分が決意したことを、曲げたくないんです」
数秒お互い視線を逸らさず見つめあい、そして先に折れたのはジンだった。シュイの想いに納得してもらえたようである。施術の了承を得られてシュイはほっとした。
それからデザインの打合せをし、施術に入る。シュイは施術ベッドにうつ伏せになって待機する。横でカチャカチャと道具を並べながら、ジンはふと疑問に思い訊ねた。
「おたくの隊長には言ってきたのかい?」
「いいえ。もしかして許可が要りました?」
「いんや、あいつが聞いたら止めそうだなっと思っただけ。きっと驚くだろうな」
それはシュイも同じ意見だと言い、くすっと笑みをこぼした。多少の小言はもらうだろうことも。
ジンがそっと施術患部に手を添えて、はじめるぞと声をかける。シュイはこれから来る痛みを受け止めようと、そっと目を閉じた。
ある日からイゾウはシュイの違和感に気づいた。
避けられているのか、彼女と会う頻度が減っているようだった。直近のスケジュールに調達係で船を空ける予定はなかったはず。
また髪型が変わっていた。いつもは高めに1つにくくることが多いシュイだが、帽子を被らないのに左に流すようにまとめている。似合っているけど、動きやすさを重視する彼女には珍しい髪型だった。
「カイル、最近シュイに変わったことはないか?」
「…なぜ直接聞かれないのです?」
「聞けたら苦労しねェよ」
たまたま自室に書類を提出しに訪れたカイルに聞いてみた。カイルは余所に視線をやり、近頃減っている上司とシュイのエンカウント頻度を思いつく。
「どっかの隊に彼氏でも出来たんですかね」
「…………は?」
「なーんて、冗談です。…ちょっと隊長、インク垂れてますよ」
カイルの笑えないジョークを聞いたせいで、イゾウは謎の思考に陥っていた。
彼氏が出来た? 居てもおかしくない歳だし、うちの末娘は他の隊からも可愛がられているし。若い衆がちらほら噂をするからモテるのだろう。実際素直で可愛いし。
でも隠すことが苦手な彼女である。様子が可笑しいのは気づくはずだが。そういえば自分は彼女から避けられているから、その変化も分からないんだった。それにシュイは過去に隊長格を騙せたほど己を隠すことには長けている一面もある。
けど色恋には器用でない印象だったが、女は1日でもがらりと変わると言うし。あの純粋な彼女も変わる可能性は、あるか?
そんなこんな彼女のことを思いながら廊下を歩いていると、前方に張本人がバンシーと腕を組んで楽しそうに2人で歩いていた。相変わらず仲良しだな。シュイは用事があるのか、分岐点でお互い手を振り分かれていった。
まどろっこしいのは嫌いだ。直接聞いてみよう。
イゾウはシュイの後を足早に追い、廊下の壁に両手をついてシュイの行く手を塞いだ。まん丸に目を見開いてイゾウを見上げるシュイ、久しぶりに目が合った瞬間だった。
「イゾウ隊長?」
「シュイ、俺に何か言うことはないかい?」
「えっと…それは……」
シュイの視線が不自然に泳ぐ。イゾウを避けている自覚があるので、気不味いのを隠せていない。あと一押しだなとイゾウが目を細めて顔を近づけたところに、邪魔者が現れた。
「嬢ちゃん、明日の消毒なんだが…おっと。お取り込み中かい?」
へらへらしながら声をかけたのは彫り師のジン。それに聞こえた消毒という単語。
シュイが急に左首筋を隠すように髪型を変えたこと。何故かイゾウを避けていたこと。いま、これらがすべて繋がった。
イゾウがばっと腕に閉じ込めたシュイの方に視線を戻せば、視界には壁だけ。ふわりと流れる香りを目で追えば、遠くなっていく彼女の細い背中があった。
「シュイ、お前…っ」
「ごめんなさい隊長、あとでちゃんとお話しますからー!」
シュイはそう言いながら廊下の向こうへ駆けていった。彼女が廊下を曲がった先で、廊下を走るんじゃないよい!と注意を受けているのが聞こえる。
イゾウはシュイを追いかけなかった。右肩を掴んで動きを止めたジンに、ゆっくり向き直った。
「どういうことか説明してもらおうか」
「そう睨むなって、美人が台無しよ。俺はただ嬢ちゃんの依頼に応えただけだぜ」
「お願いされたからって、彫ってんじゃねぇよ。肌弱いんだぞ」
「嬢ちゃんの決意を無下にはしたくなかったんでね。真っ直ぐでいい女だよな、俺惚れそうだ」
「頭ぶち抜かれてェのか」
「そりゃあ勘弁」
バシバシ殺気を放つイゾウの前でもへらりと笑えるジン。獲物を構えはじめたイゾウに、ジンは1枚の紙を突き出して渡す。
「安心しな、嬢ちゃんはてめぇ一筋さ。妬けるねー」
渡された紙に描かれたものを見て、イゾウは息をのむのだった。
シュイは緊張していた。彫り師のジンから施術完了と覆っていた傷バンドを外されたその足で、イゾウ隊長の自室の前に来ていた。内緒でタトゥーをした後ろめたさから数日避けていたし、この間捕まったときは逃げてしまったから、ノックをするのに勇気がいった。
ノックが出来ずにもだもだしていると、部屋の中から声をかけられた。
「シュイ、入ってくれ」
少し笑いを抑えるような優しい声。シュイはそろりと扉を開けて入室する。
イゾウは畳の1角に腰を下ろし、お茶を飲んでいた。そして自分の横を軽く手で叩いた。促されるままシュイはイゾウの横に座った。傍にはもう一つの茶器が用意されており、シュイの来室は読まれていたようだ。
「患部はもう痛まないのか?」
「はい、腫れもないので今日無事傷バンドが取れました」
そう言うシュイの髪型はまだ左に下ろしてまとめられている。
シュイは少し眉を下げて詫びる。ゆっくり話すシュイの言葉を聞き逃さないよう、イゾウは耳を傾けた。
「隠れてするようなことしてすみませんでした。ただ、タトゥーを入れたのは前の自分との決別だったんです」
別世界から来た自分を最初に受け入れてくれたエースとスペード海賊団に、ずっと依存していた。気づいたのはエースに異動を断られたあの晩だった。
何も無くなってしまったとショックを受けてたけど、朝まで一緒にいてくれたイゾウ隊長とカイル副隊長の存在に、その虚無感は違うのだと分かった。
いま自分は白ひげ海賊団の16番隊の隊員。優しい16番隊のメンバーと、周りにはたくさんの家族。何も見えていなかったの。自分はこんなにもあたたかい場所にいることに。
「私は白ひげの16番隊が大好きです。貴方の16番隊のひとりになれて、私は幸せ者です」
貴方への感謝と誇りをタトゥーに込めて。
「イゾウ隊長、ありがとうございます」
目の前のシュイが本当に幸せそうに微笑むので、イゾウは返事をするのも忘れるくらい魅入っていた。
何も知らない箱入り娘が海賊生活に順応するのはひと苦労だったろうに。潜在能力の覚醒を強要され、戦いを知らない手を血で染めてしまったのに。陽を知らない白い肌に負わなくていい傷跡を負わせているのに。
それでも彼女は微笑んでいた。
イゾウは思わず片手で顔を覆った。
ああ、たまらない。本当に真っ直ぐでどこまでも綺麗な彼女に、揺れ動く感情がどうしようもなかった。
心配そうに顔を覗き込むシュイに、心の内を笑顔で隠して大丈夫だと返した。
「こちらこそ、16番隊に来てくれてありがとな」
許可をもらって柔らかな髪を後ろに手で流せば、白く細い首筋に刻まれたタトゥー。白ひげ王道のデザインではなく、シュイオリジナルのデザインのソレに、イゾウは目を細めて笑みを深めた。
「似合ってるよ、シュイ」
イゾウの言葉にシュイの笑顔が輝いた。
シュイオリジナルのデザインは、十字を唐草模様に崩して髭のカーブは三日月型に重ねられている。
唯一無二のデザインをイゾウは愛おしそうにそっと指で撫でた。
『その十字のとこ、よく見てみな。数字の16が隠れてるからよ』
貴方は知らないでしょう。
私がどれだけ貴方に助けられたのかを。
エースに異動を断られてショックだったあの晩。ひとりにしないでカイル副隊長と朝まで傍に居てくれたことが嬉しかった。
調達の仕事で本船を離れることが多くても、帰船時に必ずお帰りと甲板で迎えてくれること。
私の弱いところも包み込んで守ってくれるやさしい場所を与えてくれたこと。
ここに居て良いのだと安心出来る。
貴方がいる16番隊は、私にとってかつてのスペード海賊団と同じになっていた。
だから今日、シュイはある部屋に来ていた。
「…お嬢さんが来るとはね」
彫り師のジンは来室者に軽く目を見開いた。女性クルーが希望するのは珍しいし、あのエースに傾倒していることで有名なシュイだったからだ。
ジンとシュイはソファに向き合わせて座り、ジンから施術の説明を受ける。彫れば簡単に消せないものなので、何度も意思確認をされた。
けれどシュイの返事は変わらない。
「思ったより頑固だなあ」
「はじめて言われました」
「ホントかよ。ペイントやシールもあるんだが…」
「ぜひタトゥーでお願いします」
どっかの隊長を思わせる程の頑固さにジンは頭をかいた。隊に所属するとそこのトップに似てくるのだと誰かが言っていたな。
なかなかジンに納得してもらえなくて、シュイは心の内を隠すことをやめた。
「決して思いつきではありません。前までの依存してた自分と決別して、新たな気持ちで生きるために刻みたいんです」
シュイの出方が変わったからか、ジンの雰囲気も変わった。肘掛けに肘をついて目を細めてシュイを真っ直ぐ見つめる。
「入れ墨はやり直しがきかねェものだぞ。本当に良いのか?」
「将来後悔しないとは言い切れませんけど。変わりたくて自分が決意したことを、曲げたくないんです」
数秒お互い視線を逸らさず見つめあい、そして先に折れたのはジンだった。シュイの想いに納得してもらえたようである。施術の了承を得られてシュイはほっとした。
それからデザインの打合せをし、施術に入る。シュイは施術ベッドにうつ伏せになって待機する。横でカチャカチャと道具を並べながら、ジンはふと疑問に思い訊ねた。
「おたくの隊長には言ってきたのかい?」
「いいえ。もしかして許可が要りました?」
「いんや、あいつが聞いたら止めそうだなっと思っただけ。きっと驚くだろうな」
それはシュイも同じ意見だと言い、くすっと笑みをこぼした。多少の小言はもらうだろうことも。
ジンがそっと施術患部に手を添えて、はじめるぞと声をかける。シュイはこれから来る痛みを受け止めようと、そっと目を閉じた。
ある日からイゾウはシュイの違和感に気づいた。
避けられているのか、彼女と会う頻度が減っているようだった。直近のスケジュールに調達係で船を空ける予定はなかったはず。
また髪型が変わっていた。いつもは高めに1つにくくることが多いシュイだが、帽子を被らないのに左に流すようにまとめている。似合っているけど、動きやすさを重視する彼女には珍しい髪型だった。
「カイル、最近シュイに変わったことはないか?」
「…なぜ直接聞かれないのです?」
「聞けたら苦労しねェよ」
たまたま自室に書類を提出しに訪れたカイルに聞いてみた。カイルは余所に視線をやり、近頃減っている上司とシュイのエンカウント頻度を思いつく。
「どっかの隊に彼氏でも出来たんですかね」
「…………は?」
「なーんて、冗談です。…ちょっと隊長、インク垂れてますよ」
カイルの笑えないジョークを聞いたせいで、イゾウは謎の思考に陥っていた。
彼氏が出来た? 居てもおかしくない歳だし、うちの末娘は他の隊からも可愛がられているし。若い衆がちらほら噂をするからモテるのだろう。実際素直で可愛いし。
でも隠すことが苦手な彼女である。様子が可笑しいのは気づくはずだが。そういえば自分は彼女から避けられているから、その変化も分からないんだった。それにシュイは過去に隊長格を騙せたほど己を隠すことには長けている一面もある。
けど色恋には器用でない印象だったが、女は1日でもがらりと変わると言うし。あの純粋な彼女も変わる可能性は、あるか?
そんなこんな彼女のことを思いながら廊下を歩いていると、前方に張本人がバンシーと腕を組んで楽しそうに2人で歩いていた。相変わらず仲良しだな。シュイは用事があるのか、分岐点でお互い手を振り分かれていった。
まどろっこしいのは嫌いだ。直接聞いてみよう。
イゾウはシュイの後を足早に追い、廊下の壁に両手をついてシュイの行く手を塞いだ。まん丸に目を見開いてイゾウを見上げるシュイ、久しぶりに目が合った瞬間だった。
「イゾウ隊長?」
「シュイ、俺に何か言うことはないかい?」
「えっと…それは……」
シュイの視線が不自然に泳ぐ。イゾウを避けている自覚があるので、気不味いのを隠せていない。あと一押しだなとイゾウが目を細めて顔を近づけたところに、邪魔者が現れた。
「嬢ちゃん、明日の消毒なんだが…おっと。お取り込み中かい?」
へらへらしながら声をかけたのは彫り師のジン。それに聞こえた消毒という単語。
シュイが急に左首筋を隠すように髪型を変えたこと。何故かイゾウを避けていたこと。いま、これらがすべて繋がった。
イゾウがばっと腕に閉じ込めたシュイの方に視線を戻せば、視界には壁だけ。ふわりと流れる香りを目で追えば、遠くなっていく彼女の細い背中があった。
「シュイ、お前…っ」
「ごめんなさい隊長、あとでちゃんとお話しますからー!」
シュイはそう言いながら廊下の向こうへ駆けていった。彼女が廊下を曲がった先で、廊下を走るんじゃないよい!と注意を受けているのが聞こえる。
イゾウはシュイを追いかけなかった。右肩を掴んで動きを止めたジンに、ゆっくり向き直った。
「どういうことか説明してもらおうか」
「そう睨むなって、美人が台無しよ。俺はただ嬢ちゃんの依頼に応えただけだぜ」
「お願いされたからって、彫ってんじゃねぇよ。肌弱いんだぞ」
「嬢ちゃんの決意を無下にはしたくなかったんでね。真っ直ぐでいい女だよな、俺惚れそうだ」
「頭ぶち抜かれてェのか」
「そりゃあ勘弁」
バシバシ殺気を放つイゾウの前でもへらりと笑えるジン。獲物を構えはじめたイゾウに、ジンは1枚の紙を突き出して渡す。
「安心しな、嬢ちゃんはてめぇ一筋さ。妬けるねー」
渡された紙に描かれたものを見て、イゾウは息をのむのだった。
シュイは緊張していた。彫り師のジンから施術完了と覆っていた傷バンドを外されたその足で、イゾウ隊長の自室の前に来ていた。内緒でタトゥーをした後ろめたさから数日避けていたし、この間捕まったときは逃げてしまったから、ノックをするのに勇気がいった。
ノックが出来ずにもだもだしていると、部屋の中から声をかけられた。
「シュイ、入ってくれ」
少し笑いを抑えるような優しい声。シュイはそろりと扉を開けて入室する。
イゾウは畳の1角に腰を下ろし、お茶を飲んでいた。そして自分の横を軽く手で叩いた。促されるままシュイはイゾウの横に座った。傍にはもう一つの茶器が用意されており、シュイの来室は読まれていたようだ。
「患部はもう痛まないのか?」
「はい、腫れもないので今日無事傷バンドが取れました」
そう言うシュイの髪型はまだ左に下ろしてまとめられている。
シュイは少し眉を下げて詫びる。ゆっくり話すシュイの言葉を聞き逃さないよう、イゾウは耳を傾けた。
「隠れてするようなことしてすみませんでした。ただ、タトゥーを入れたのは前の自分との決別だったんです」
別世界から来た自分を最初に受け入れてくれたエースとスペード海賊団に、ずっと依存していた。気づいたのはエースに異動を断られたあの晩だった。
何も無くなってしまったとショックを受けてたけど、朝まで一緒にいてくれたイゾウ隊長とカイル副隊長の存在に、その虚無感は違うのだと分かった。
いま自分は白ひげ海賊団の16番隊の隊員。優しい16番隊のメンバーと、周りにはたくさんの家族。何も見えていなかったの。自分はこんなにもあたたかい場所にいることに。
「私は白ひげの16番隊が大好きです。貴方の16番隊のひとりになれて、私は幸せ者です」
貴方への感謝と誇りをタトゥーに込めて。
「イゾウ隊長、ありがとうございます」
目の前のシュイが本当に幸せそうに微笑むので、イゾウは返事をするのも忘れるくらい魅入っていた。
何も知らない箱入り娘が海賊生活に順応するのはひと苦労だったろうに。潜在能力の覚醒を強要され、戦いを知らない手を血で染めてしまったのに。陽を知らない白い肌に負わなくていい傷跡を負わせているのに。
それでも彼女は微笑んでいた。
イゾウは思わず片手で顔を覆った。
ああ、たまらない。本当に真っ直ぐでどこまでも綺麗な彼女に、揺れ動く感情がどうしようもなかった。
心配そうに顔を覗き込むシュイに、心の内を笑顔で隠して大丈夫だと返した。
「こちらこそ、16番隊に来てくれてありがとな」
許可をもらって柔らかな髪を後ろに手で流せば、白く細い首筋に刻まれたタトゥー。白ひげ王道のデザインではなく、シュイオリジナルのデザインのソレに、イゾウは目を細めて笑みを深めた。
「似合ってるよ、シュイ」
イゾウの言葉にシュイの笑顔が輝いた。
シュイオリジナルのデザインは、十字を唐草模様に崩して髭のカーブは三日月型に重ねられている。
唯一無二のデザインをイゾウは愛おしそうにそっと指で撫でた。
『その十字のとこ、よく見てみな。数字の16が隠れてるからよ』