黎明期
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(悩める彼女)
あなたの存在はわたしの全てだった。
太陽のような絶対的存在。
あなたの背中についていく。
いつまでも共にいることを願ってた。
それは変わらないと思っていたのに。
エースが先の功績により、この度新2番隊隊長に就任することになった。長年空席だった2番隊隊長の席。久しぶりの全隊隊長揃いに、祝いの宴が盛大に行われた。
1番隊と兼任していたマルコ隊長も楽が出来ると嬉しそうにお酒を飲んでいた。新隊長就任に合わせて、隊員を増員することになった。元スペードクルーの多くは既に2番隊へ異動が決まっていると聞いた。
だからシュイも異動する気満々で、エースに就任祝いと異動を伝えたが、彼からはこう返された。
「悪ィな、シュイ。そいつはだめだ」
シュイの伸ばした手はエースに届くことなく空を切った。彼女の縋る視線を振り払うようにエースは顔を背ける。
「俺たちは家族だ。どの隊でもそれは変わらねェよ」
「でも、わたしはエースの傍にいたい。同じ隊で貴方を支えたいの」
「…あんまわがまま言うなよ」
わがまま、なのかな。
ただスペードの時みたいに隣に居たかっただけなのに。
他の皆が良くてわたしがだめな理由ってなんだろう。
俯いたシュイを置いて横を立ち去るエース。シュイは振り返って遠くなる背中を、ただ見つめるしかなかった。
ひとりになったシュイがとぼとぼ甲板中央に飲み物を取りにいくと、見かけた白ひげに呼ばれた。
「どうした、シュイ。なんでせっかくの祝いの席で暗い顔をしてんだ?」
「父さま…」
優しく声をかけられたシュイは目を潤ませながら、白ひげに駆け寄りその大きな左足に寄りかかった。白ひげが見守るなかゆっくり口を開く。
「わたしの想いを、受け取ってもらえなかったの。一方的だったみたいで」
そうか、と白ひげはゆっくり酒を嚥下して言葉を送る。
「相手あってのことだ。お前さんの希望通りにいくとは限らねェ」
エースに想いを受け取ってもらえなかった事実にまたシュイの視界がぼやけていく。けれど白ひげの言葉は聞き逃さないよう顔を上げる。
「お前さんはちゃんと伝えた。あとは相手次第で、こればっかりは仕方がねェことだ。どっちも悪くねェ。しかしお前さんを断るとは、そいつは見る目がねェなあ」
大きな手がそっとシュイの頭を撫でてくれる。シュイの瞳からそっと涙が溢れて流れた。そしてやっとシュイの顔に笑みが浮かんだ。
「父さま、だいすき」
「グラララ、うれしい事言ってくれるじゃねェか。シュイ、まだたくさん出会うんだ。そいつだけじゃねェさ、落ち込むことはない」
あったかい言葉にあたたかい眼差しが、シュイの落ち込んでいた心を溶けていく。
シュイは寄りかかったまま眠りについていた。白ひげは娘を起こさないよう身体を動かさず、マントで風除けをしてあげた。
「親父、…と、シュイ?」
そこにふらりと酒のツマミを取りに来たイゾウが、白ひげの膝で眠るシュイの姿に気づいて足を止めた。近づいて顔をのぞき込めば、かすかに赤くなっている目元に眉を寄せる。
「泣いてたのか…」
「なあに、大したことじゃねェよ。シュイも子供じゃねェんだ、恋のひとつやふたつあるもんさ」
「…そんなにあっちゃ困るけどな」
白ひげはそう零したイゾウの表情に目を見開くと、笑い出した。突然笑った白ひげにイゾウや近くで円座になって飲む面々が揃って不思議そうに見上げれば、白ひげは今夜の宴イチ機嫌の良い表情を浮かべた。
「相当入れ込んでるモンだな、イゾウ」
「うちの隊員だからな」
ボカした言い方に白ひげは片眉を上げて酒坏をあおった。イゾウはシュイに視線を戻していて、こちらの視線には気づかない。
「せいぜい手ェ離すんじゃねぇぞ」
「ああ、そのつもりさ」
イゾウはシュイを起こさないよう抱き上げて船内へ向かった。その背をぼんやり見送れば、またひとり息子が声をかけてくる。
「親父、何笑ってんです?」
「…無自覚も厄介なモンだなぁ」
「へ?」
「なんでもネェよ、アホンダラ。ほら、飲むぞ」
イゾウは船内に進みながら眠るシュイをどこに運ぶか考えていると、ライラックとイレーナに出くわした。彼女たちはこれから部屋に戻ると言う。
ライラックが寝顔可愛いとシュイの頬を撫でている。今夜も末娘は人気のようだ。
「あれなら私たちがシュイちゃん運びますよ」
イレーナはそう申し出てくれた。彼女たちなら体格体力的にも小柄なシュイは運べるだろう。
それに女性クルー専用のフロアは男立入禁止区画となっている。だからふたりに出会えたのは良いタイミングだ。
けれどイゾウは何故か頷けなかった。イゾウの着物を掴むシュイの細い手が視界に入る。
「申し出はありがてェが。このまま俺の部屋で寝かせることにするよ」
「分かりました。イゾウ隊長の部屋です、ね……え? 隊長のお部屋っ!?」
「うるせェな、起きるだろ」
いつもの冷静なイレーナは了解しかけて、驚いてしまった。目の前の隊長は平然ととんでもないことを言ってのけたのだ。隣にいるライラックも状況が追いつかず、ぽかーんとしている。
イゾウはそんな混乱する妹たちにふっと不敵な笑みを浮かべた。
「シュイの同室には上手いこと言っといてくれな」
釘を刺すことを忘れずに、そのままお休みと言い去っていくイゾウ。
ライラックとイレーナはしばらく混乱したまま廊下で突っ立っていた。
「落ち込むくらいなら迎えてやれよ」
「あいつ、いつの間にあんな強くなったんだよ…」
デュースは呆れながら隣を見下ろした。隣にはエースが膝を抱えてぶちぶち言っている。
エースの隊長就任を期に、新2番隊として隊員を再編成をする際、元スペードクルーを幾人呼んでいたのだが。
あの来る者拒まずのエースが、何故かシュイだけは断ったのだ。あれだけ隣にいることを許容してきた彼女を。
エースは受け止めきれないことがあった。それはシュイの成長だった。
先日のドーマ海賊団との戦いで、気づいたら彼女は隣にいたのだ。守られる立場ではなく、共に戦う立場で。共闘がやり辛いわけではなかった。
けれど、気持ちが追いつかない。
知らない間に自分の知らない彼女になっていたことが、どうしても受け入れられない。それが彼女の努力によるものだとしても。
「お前はシュイに弱いままでいてほしかったのか?」
「…分からねえ」
海賊業は危険とは隣り合わせである。自分が隣にいないときは、非戦闘員のシュイが無事かどうか心配になるので、戦う術を持ってもらうことは有り難い。
でもスペード時代なら自分のために強くなってくれたと思えるが、白ひげ加入のいま、強くなったシュイは誰の隣にいるだろう。自分じゃない別の奴の隣にいるじゃないか。
「…変なプライドは捨てとけよ。面倒になる前にな」
ため息混じりに忠告したデュースは、エースを置いて賑わう宴の輪に戻っていく。
ひとりになってしばらく考えても、エースは分からないままだった。
「よォ、また会えたな」
イゾウが自室でシャワーを済ませて出て見れば、ソレは居た。畳が敷かれて一段高い一角に横たわるシュイの枕元で、ユウヒは橙色に淡く輝いていた。
イゾウは聞きたいことがあったと言いながら畳の一角に腰を下ろすと、ユウヒが真っ直ぐ見上げてくる。
「ボク、ヨウジ?」
「ああ。ユウヒはシュイの中には入るが、同じ契約者のエースには入らねェのが気になってな」
聞く割にあまり関心なさ気で濡れた髪を拭きながら尋ねるイゾウに、ユウヒはしばらく黙ると小さく息を吐いた。まるで観念したように。
「イゾウ、テ、ダシテ」
イゾウが素直に左手を出せば、ユウヒは嘴で中指を噛み切った。裂傷して溢れる血をユウヒは優しく舐めていく。粗方血が止まるまで舐めて、ユウヒはイゾウの手のひらから顔を離す。
そしてユウヒの身体を包む輝きが少し強くなったと思えば形取るシルエットが変わっていき、鳥類から人型になった。幼い少年の姿をしたユウヒはゆっくりと黄金色の瞳を細めた。
「ケイヤク、カンリョウ」
イゾウは裂かれた指を舐めながら、目の前で起きたことが興味深くて口角が上がる。
呼鳥との契約は自分の血を飲ませることで成立する。ひとりの呼鳥に契約者は2人まで。ユウヒは既にシュイとエースで契約済みのはずだが。
「俺と契約した理由は?」
「シュイト、ナガクイッショニ、イルトオモッタカラ」
「契約は2人までじゃなかったのか」
「ソウダヨ、イゾウトエース、フタリ」
何故かシュイが入っていない。眉を上げたイゾウの反応に驚かせて満足したのか、ユウヒは立ち上がりくるくると回る。
「シュイトハ、ケイヤクデキナイ。ケド、シュイダケ、ハイレル。ダッテ、シュイハ、ボクタチトーーー」
ーーコンコン
ノックをして部屋に入って来たのは16番隊副隊長のカイル。畳の一角に腰を下ろし眠るシュイを見守るイゾウの姿につい笑みがこぼれた。イゾウから船内に入る前に視線で合図をされたと思えば、なかなか予想以上の状況である。
「シュイを部屋に連れ込むのに、私をだしに使わないでほしいですね」
「おい、その言い方は誤解されるだろ」
「なら気まぐれな行動は控えてください」
カイルの小言にいつもの癖で懐から煙管を取り出したところで、眠るシュイが視界に入る。イゾウは舌打ちをして、葉を入れることなくくるりと煙管を回した。
そんな隊長の様子に目を細めながら、勝手知ったる隊長部屋で晩酌の用意を進めていくカイル。持ってきた酒を入れたグラスを渡すとき、イゾウの左手の傷に気づいた。
「隊長、指はどうされました?」
「…ちょっとユウヒに噛まれただけさ」
そのユウヒはシュイの横でふわぁと欠伸をしている。このときカイルはどうせイゾウが変なちょっかいを出したのだろう位にしか思わなかった。
カイルを急かすようにイゾウがグラスを突き出してくる。イゾウの向かいに椅子を動かして座り、カイルは差し出されたグラスに自分の持つグラスを合わせた。軽い音が鳴り、長い夜の始まりである。
「どうせ今夜は寝られねェんだ。俺が落ちるまで付き合えよ」
「ええ、喜んで。お守りは慣れてますから」
ふたりの静かな酒盛りは、シュイが起きるまで続いた。自分の置かれた状況に驚いて慌てるシュイに、ふたりはそっくりな笑みを浮かべて見守っていた。
そのあと起きたシュイが、残り少ない起床時間までのふたりの仮眠を見守ることになるのだった。
あなたの存在はわたしの全てだった。
太陽のような絶対的存在。
あなたの背中についていく。
いつまでも共にいることを願ってた。
それは変わらないと思っていたのに。
エースが先の功績により、この度新2番隊隊長に就任することになった。長年空席だった2番隊隊長の席。久しぶりの全隊隊長揃いに、祝いの宴が盛大に行われた。
1番隊と兼任していたマルコ隊長も楽が出来ると嬉しそうにお酒を飲んでいた。新隊長就任に合わせて、隊員を増員することになった。元スペードクルーの多くは既に2番隊へ異動が決まっていると聞いた。
だからシュイも異動する気満々で、エースに就任祝いと異動を伝えたが、彼からはこう返された。
「悪ィな、シュイ。そいつはだめだ」
シュイの伸ばした手はエースに届くことなく空を切った。彼女の縋る視線を振り払うようにエースは顔を背ける。
「俺たちは家族だ。どの隊でもそれは変わらねェよ」
「でも、わたしはエースの傍にいたい。同じ隊で貴方を支えたいの」
「…あんまわがまま言うなよ」
わがまま、なのかな。
ただスペードの時みたいに隣に居たかっただけなのに。
他の皆が良くてわたしがだめな理由ってなんだろう。
俯いたシュイを置いて横を立ち去るエース。シュイは振り返って遠くなる背中を、ただ見つめるしかなかった。
ひとりになったシュイがとぼとぼ甲板中央に飲み物を取りにいくと、見かけた白ひげに呼ばれた。
「どうした、シュイ。なんでせっかくの祝いの席で暗い顔をしてんだ?」
「父さま…」
優しく声をかけられたシュイは目を潤ませながら、白ひげに駆け寄りその大きな左足に寄りかかった。白ひげが見守るなかゆっくり口を開く。
「わたしの想いを、受け取ってもらえなかったの。一方的だったみたいで」
そうか、と白ひげはゆっくり酒を嚥下して言葉を送る。
「相手あってのことだ。お前さんの希望通りにいくとは限らねェ」
エースに想いを受け取ってもらえなかった事実にまたシュイの視界がぼやけていく。けれど白ひげの言葉は聞き逃さないよう顔を上げる。
「お前さんはちゃんと伝えた。あとは相手次第で、こればっかりは仕方がねェことだ。どっちも悪くねェ。しかしお前さんを断るとは、そいつは見る目がねェなあ」
大きな手がそっとシュイの頭を撫でてくれる。シュイの瞳からそっと涙が溢れて流れた。そしてやっとシュイの顔に笑みが浮かんだ。
「父さま、だいすき」
「グラララ、うれしい事言ってくれるじゃねェか。シュイ、まだたくさん出会うんだ。そいつだけじゃねェさ、落ち込むことはない」
あったかい言葉にあたたかい眼差しが、シュイの落ち込んでいた心を溶けていく。
シュイは寄りかかったまま眠りについていた。白ひげは娘を起こさないよう身体を動かさず、マントで風除けをしてあげた。
「親父、…と、シュイ?」
そこにふらりと酒のツマミを取りに来たイゾウが、白ひげの膝で眠るシュイの姿に気づいて足を止めた。近づいて顔をのぞき込めば、かすかに赤くなっている目元に眉を寄せる。
「泣いてたのか…」
「なあに、大したことじゃねェよ。シュイも子供じゃねェんだ、恋のひとつやふたつあるもんさ」
「…そんなにあっちゃ困るけどな」
白ひげはそう零したイゾウの表情に目を見開くと、笑い出した。突然笑った白ひげにイゾウや近くで円座になって飲む面々が揃って不思議そうに見上げれば、白ひげは今夜の宴イチ機嫌の良い表情を浮かべた。
「相当入れ込んでるモンだな、イゾウ」
「うちの隊員だからな」
ボカした言い方に白ひげは片眉を上げて酒坏をあおった。イゾウはシュイに視線を戻していて、こちらの視線には気づかない。
「せいぜい手ェ離すんじゃねぇぞ」
「ああ、そのつもりさ」
イゾウはシュイを起こさないよう抱き上げて船内へ向かった。その背をぼんやり見送れば、またひとり息子が声をかけてくる。
「親父、何笑ってんです?」
「…無自覚も厄介なモンだなぁ」
「へ?」
「なんでもネェよ、アホンダラ。ほら、飲むぞ」
イゾウは船内に進みながら眠るシュイをどこに運ぶか考えていると、ライラックとイレーナに出くわした。彼女たちはこれから部屋に戻ると言う。
ライラックが寝顔可愛いとシュイの頬を撫でている。今夜も末娘は人気のようだ。
「あれなら私たちがシュイちゃん運びますよ」
イレーナはそう申し出てくれた。彼女たちなら体格体力的にも小柄なシュイは運べるだろう。
それに女性クルー専用のフロアは男立入禁止区画となっている。だからふたりに出会えたのは良いタイミングだ。
けれどイゾウは何故か頷けなかった。イゾウの着物を掴むシュイの細い手が視界に入る。
「申し出はありがてェが。このまま俺の部屋で寝かせることにするよ」
「分かりました。イゾウ隊長の部屋です、ね……え? 隊長のお部屋っ!?」
「うるせェな、起きるだろ」
いつもの冷静なイレーナは了解しかけて、驚いてしまった。目の前の隊長は平然ととんでもないことを言ってのけたのだ。隣にいるライラックも状況が追いつかず、ぽかーんとしている。
イゾウはそんな混乱する妹たちにふっと不敵な笑みを浮かべた。
「シュイの同室には上手いこと言っといてくれな」
釘を刺すことを忘れずに、そのままお休みと言い去っていくイゾウ。
ライラックとイレーナはしばらく混乱したまま廊下で突っ立っていた。
「落ち込むくらいなら迎えてやれよ」
「あいつ、いつの間にあんな強くなったんだよ…」
デュースは呆れながら隣を見下ろした。隣にはエースが膝を抱えてぶちぶち言っている。
エースの隊長就任を期に、新2番隊として隊員を再編成をする際、元スペードクルーを幾人呼んでいたのだが。
あの来る者拒まずのエースが、何故かシュイだけは断ったのだ。あれだけ隣にいることを許容してきた彼女を。
エースは受け止めきれないことがあった。それはシュイの成長だった。
先日のドーマ海賊団との戦いで、気づいたら彼女は隣にいたのだ。守られる立場ではなく、共に戦う立場で。共闘がやり辛いわけではなかった。
けれど、気持ちが追いつかない。
知らない間に自分の知らない彼女になっていたことが、どうしても受け入れられない。それが彼女の努力によるものだとしても。
「お前はシュイに弱いままでいてほしかったのか?」
「…分からねえ」
海賊業は危険とは隣り合わせである。自分が隣にいないときは、非戦闘員のシュイが無事かどうか心配になるので、戦う術を持ってもらうことは有り難い。
でもスペード時代なら自分のために強くなってくれたと思えるが、白ひげ加入のいま、強くなったシュイは誰の隣にいるだろう。自分じゃない別の奴の隣にいるじゃないか。
「…変なプライドは捨てとけよ。面倒になる前にな」
ため息混じりに忠告したデュースは、エースを置いて賑わう宴の輪に戻っていく。
ひとりになってしばらく考えても、エースは分からないままだった。
「よォ、また会えたな」
イゾウが自室でシャワーを済ませて出て見れば、ソレは居た。畳が敷かれて一段高い一角に横たわるシュイの枕元で、ユウヒは橙色に淡く輝いていた。
イゾウは聞きたいことがあったと言いながら畳の一角に腰を下ろすと、ユウヒが真っ直ぐ見上げてくる。
「ボク、ヨウジ?」
「ああ。ユウヒはシュイの中には入るが、同じ契約者のエースには入らねェのが気になってな」
聞く割にあまり関心なさ気で濡れた髪を拭きながら尋ねるイゾウに、ユウヒはしばらく黙ると小さく息を吐いた。まるで観念したように。
「イゾウ、テ、ダシテ」
イゾウが素直に左手を出せば、ユウヒは嘴で中指を噛み切った。裂傷して溢れる血をユウヒは優しく舐めていく。粗方血が止まるまで舐めて、ユウヒはイゾウの手のひらから顔を離す。
そしてユウヒの身体を包む輝きが少し強くなったと思えば形取るシルエットが変わっていき、鳥類から人型になった。幼い少年の姿をしたユウヒはゆっくりと黄金色の瞳を細めた。
「ケイヤク、カンリョウ」
イゾウは裂かれた指を舐めながら、目の前で起きたことが興味深くて口角が上がる。
呼鳥との契約は自分の血を飲ませることで成立する。ひとりの呼鳥に契約者は2人まで。ユウヒは既にシュイとエースで契約済みのはずだが。
「俺と契約した理由は?」
「シュイト、ナガクイッショニ、イルトオモッタカラ」
「契約は2人までじゃなかったのか」
「ソウダヨ、イゾウトエース、フタリ」
何故かシュイが入っていない。眉を上げたイゾウの反応に驚かせて満足したのか、ユウヒは立ち上がりくるくると回る。
「シュイトハ、ケイヤクデキナイ。ケド、シュイダケ、ハイレル。ダッテ、シュイハ、ボクタチトーーー」
ーーコンコン
ノックをして部屋に入って来たのは16番隊副隊長のカイル。畳の一角に腰を下ろし眠るシュイを見守るイゾウの姿につい笑みがこぼれた。イゾウから船内に入る前に視線で合図をされたと思えば、なかなか予想以上の状況である。
「シュイを部屋に連れ込むのに、私をだしに使わないでほしいですね」
「おい、その言い方は誤解されるだろ」
「なら気まぐれな行動は控えてください」
カイルの小言にいつもの癖で懐から煙管を取り出したところで、眠るシュイが視界に入る。イゾウは舌打ちをして、葉を入れることなくくるりと煙管を回した。
そんな隊長の様子に目を細めながら、勝手知ったる隊長部屋で晩酌の用意を進めていくカイル。持ってきた酒を入れたグラスを渡すとき、イゾウの左手の傷に気づいた。
「隊長、指はどうされました?」
「…ちょっとユウヒに噛まれただけさ」
そのユウヒはシュイの横でふわぁと欠伸をしている。このときカイルはどうせイゾウが変なちょっかいを出したのだろう位にしか思わなかった。
カイルを急かすようにイゾウがグラスを突き出してくる。イゾウの向かいに椅子を動かして座り、カイルは差し出されたグラスに自分の持つグラスを合わせた。軽い音が鳴り、長い夜の始まりである。
「どうせ今夜は寝られねェんだ。俺が落ちるまで付き合えよ」
「ええ、喜んで。お守りは慣れてますから」
ふたりの静かな酒盛りは、シュイが起きるまで続いた。自分の置かれた状況に驚いて慌てるシュイに、ふたりはそっくりな笑みを浮かべて見守っていた。
そのあと起きたシュイが、残り少ない起床時間までのふたりの仮眠を見守ることになるのだった。