花色の雫
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あの日学園に戻る準備をしていたら、雅兄が渡したのはとある問屋の場所だった。
「何か困ったらそこへ報せを出せ」
「知らない問屋だけど、雅兄の知り合い?」
「お前も良く知る人物じゃ」
そして、その人物からの返事がいま手の中にある。
ーー紺野春之助
父上・竜助の教え子のひとりで、自分自身もよく一緒に過ごした先輩だった。戦忍引退後は問屋を立ち上げ物資調達の傍ら、密かに対忍の情報屋をしているのだと雅兄が言っていた。
下町に住居があるとはいえ思ったより文の返しが早いのは、すみれから報せが来るのを予期していたに違いない。
一筋縄では行かないひとなので、どう知りたいことを聞き出すか考えて文と睨めっこしていたら。
「文と見つめあってなにやってんだ?」
「留」
肩越しに顔をみせたのは留三郎。手に用具道具を持っているので、昼休みを使って部活動しているのだろう。
「ある卒業生の方からの文よ。一瞬名前から顔が浮かばなかっただけ」
「まあ、すみれはここに長いから知り合い多いだろうな」
「流石に全員を知ってるわけではないわよ」
袷に文を収め、背後の留三郎に向き合えばそっと頬を撫でられた。不思議に思い首を傾げていると。
「今日は泣いてないな」
「そんな泣かないよ。意地悪ね」
「もう黙ってどこか行ってくれるなよ」
「仕事で外出もあるわ」
「ここに帰ってきてくれるなら、許す」
いつまで先日の件を持ち出すのだろうか、少し呆れるが。それだけ心配かけたのかと申し訳なくも思う。そして相変わらず、ここが帰る場所だと示してくれる。
知らずに力んでいた身体からふっと力が抜けた。そのまま留三郎の肩に頭を乗っけてもたれ掛かる。額からはすっかり成長した逞しい身体を感じ、鼻からはおひさまの匂い。
ああ、ここが自分の落ち着ける場所のひとつなのだと改めて自覚する。
「もちろん、ここに帰ってくるよ」
顔は見えなかったけれど、額越しに彼が笑みをこぼしたのがわかった。
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