花色の雫
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険しい山道をいくつも抜けて行く。ひとつ、またひとつ道を抜ける度に見覚えのある景色が広がっていく。
久し振りに地を踏み息が乱れているのが、少しおかしくて笑みが零れる。以前はきっと軽々とかけていたのに。
微かに冷たくなった風が吹き抜けて、ふと顔をあげれば小さくも大きくもない門が見えた。一度立ち止まり息をひとつつくと、あと僅かの距離を縮める為再び足を踏み出した。
その足取りは知らず軽くなっていた。
『花色の雫』
コンコン――
「はーい」
門を叩けば間延びした声が応えた。今更緊張してきたのか、どくどくと自分の心音がやけに煩い。落ち着かせる為にゆっくり息を吐いたところで、扉が開いて中から人が顔をのぞかせた。
「はーい、何か御用ですか?」
事務員の制服を着た少年は自分よりいくらか年上だろう。初めて会うのに、そのほんわかした雰囲気は懐かしき彼を思い出させる。
胸の奥がちくりと痛むのには気付かぬふり。
「突然すみません。学園長はいらっしゃいますか?」
事務員の彼に連れられて離れに向かう。時間帯からして授業なのか、幸い生徒に出くわすこともなかった。
離れにつき事務員と別れて、室内から許可を貰って障子を開ける。
「おぬしは……」
「お久し振りです、学園長」
私の姿を見た学園長は普段隠れている目をこれでもかと見開いていた。ヘムヘムが入れてくれたお茶に手をつける間もなく、私は口を動かす。
長期の不在と連絡しなかったお詫びに始まり、今日忍術学園に来るまでの経緯、そして私の勝手で我が儘なお願いを。
そんなお願いを学園長は頷いてくれた。けれど最後に一つだけ聞かれた。
「本当にそれでよいのじゃな?」
会わないままで
隠したままで―――
私は学園長に頷いて見せた。それは意思を曲げないように、迷いを消すように。学園長もそうか、と言ってそれ以上言及しなかった。
その優しさに心温まる思いを噛み締めて、礼をして退室しようとすると学園長から贈られた言葉。それに上手く笑えたか、自信はない。
「おかえり、 」
*
その日の授業を終えて職員室へ戻ると、どこか騒がしかった。
「お疲れ様です」
「おぉ来たな。半助ちょっと来なさい」
山田先生に呼ばれて行けば、満面の笑みを浮かべている。その隣りに先程まで他の先生たちに囲まれていた人物が腰を下ろした。
「紹介しよう、今日付けで事務員になった子だ」
「はじめまして、小牧です」
そう挨拶をした少女は見た目は五年生と同じくらいだが、洗礼されたその仕草が大人らしい雰囲気を見せる。可愛らしくも綺麗な笑顔に、私は密かに心を打たれた。
だから気付かなかったんだ。山田先生たちが寂しげに笑って彼女を見守っていたことに。
「今日からこちらでお世話になります、小牧です。どうぞよろしくお願いします」
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