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新一とコナン⑤

書斎

私は書斎に篭って原稿に目を通していたが、一段落ついて休憩しようとキッチンへ向かいコーヒーカップに珈琲を注いで飲んでいた。

有希子は買い物に出かけ、新一とコナンはまだ学校から帰ってきてないのだろう。この時間は静かな家の中で仕事をしている事が多い。

そんな事を思っていると、新一とコナンの部屋の中からすすり泣く声がし、扉を開くとコナンがノートを前にして涙を流していた。静かだと思っていたら、学校から帰って来て泣いているコナンがそこにいた。

「どうした?」

そっと声を掛けてやると、コナンは涙ながらこちらを見て訴えかけるように見てくる。

「お父さん…」
「そうか、普段はまだ新一は帰ってなかったな…」

いつもコナンの宿題は新一が見てやってるのだが、まだ帰ってこない為にコナンは一人で分からない問題に悪戦苦闘している様だった。

「分からない問題があるのか?どれ、父さんと一緒にやろうか?」
「うん!」

しばらく宿題を見てやっていると、理解したようで後は一人で解けるようになっていた。

「あと少しだな。じゃあこれはさっきの問題と少し似てるが違う所がある…それがどれなのか、分かるか?」
「これ?」
「ああ、正解だ。」
「やった!」

この子は少しヒントを与えてやれば後は理解するのが早かった。日頃の新一の教え方が上手いのだろう。

宿題が終わったノートを閉じると、コナンは嬉しそうに私に笑顔をくれながらお礼を言う。

「ありがとう、お父さん!」

コナンは新一以上によく笑う子だと二人目の息子を見て思っていた。こういう所は有希子に似たのだろう。

「コナン、本でも読むか?」
「本?」
「ああ、書斎においで。」

そう言って書斎に連れていくと、相変わらず本の量に圧倒され口を広いて上の方を見上げていた。

「この部屋いつもすっごい本の数だね〜」
「どれか読みたいものはあるか?」
「うーん…あれは何の本?」

そう言って、コナンの届かない所にある本を指さして、私に聞いてくる。私はコナンを肩車をして、選ばせた。

「ゆっくりでいいぞ。決まったら言いなさい。」
「うーんとね、えっとねー…」

しばらく時間は掛かるかもしれないが、コナンが決まるまでじっくりと選ばせてやる事にして、コナンが本を手に取るまで待つ事にした。

「じゃあこれ!」
「決まったのか?」
「うん!」

そう返事を聞いて、私は肩車をしていたコナンを降ろすと、コナンは決まった本を両手で持ちながら私の方へ視線を送りながら満面の笑みをさせて二度目のお礼を投げてきた。

「ありがとう〜僕いっぱい本読んで、新一兄ちゃんみたいに頭良くなりたい!」
「そうか…」

そう話すコナンが選んだ本は、少し漢字が多めで小学生にしては少々難しい本だった。普段新一を見ているからか、少し難しい本が読みたくなったのだろう。そんなコナンの頭を撫でてやると、もう1冊コナンに渡してやった。

「分からない漢字があれば、これで調べなさい」
「国語辞典?」
「ああ。それでも分からなかったら、新一に聞くんだぞ?」
「うん!分かった!」

そう言い聞かせて、私は両手で抱き抱えるように本を持ったコナンを連れて書斎を出ると、丁度新一が学校から帰宅した所だった。

「どうしたんだ?」

新一が問いかけるとコナンは余程嬉しかったのだろう…先程書斎から持ってきた本を見せ付けるように、新一の質問に問いかけていた。

「お父さんから借りた!」
「え?その本漢字多いぞ?読めるのか?コナン…」
「大丈夫だもん!」

そう言って、コナンはバタバタと部屋へ駆け込んで行った。それを追い掛けるように、新一も部屋に入っていった。

二人の会話を扉越しに聞いていると、こんな会話が飛び込んできた。

「本当に読めるのかよ?」
「大丈夫だよ!国語辞典あるから!」
「兄ちゃんが調べてやろうか?」
「だめー!自分でやるの!」

そんな会話を聞きながら、ふっと笑みを浮かべていると…今度は有希子が買い物から帰宅し、不思議な顔を覗かせた。



私と有希子はキッチンへ行くと、二人で珈琲を飲みながら今日のコナンの話を含めて二人の息子の事を話していた。

「へー、優ちゃん…優しいじゃない。普通小説家の父親なんて敬遠されちゃうわよ?」

有希子は両腕で頬杖を突きながら、さっきのコナンとの話をする私に目線を送りながら、感心するようにニコニコしながら言ってくる。

「泣いていたものだから、何事かと思ってな…」
「本当コナンちゃんは泣き虫なのよね〜」
「だが、よく笑う。」
「ふふっ、そうね…」

コナンは確かによく泣く子だが、同じくらいよく笑う子だ。それは有希子も理解している事で、私のその言葉に同意し笑っていた。

「でも、まあ〜コナンはあれでいいだろう…」
「そうね…何かあれば、新ちゃんに頼ってるみたいだし…いいお兄ちゃんに恵まれたわね〜」
「ハハッ…新一も、すっかりお兄さんだな。」
「本当に〜産んで良かったわね〜」

当初こそ、コナンが未熟児として産まれて心配は募ったものの…今ではすっかり元気に新一と共に明るく過ごしている事で安心していた。

夕食の時間になり、先程渡した本を広げて"お父さん!ここまで読めた〜"と言ってニコニコしてくるのを見て、最後まで読めたらちゃんと返すんだぞ?と言うと元気に返事をしていた。


そして、また後日……。いつもの様に一人で書斎に篭ってカタカタとパソコンを弄っていると、書斎の扉がそーっと開きコナンが顔を覗かせた。

「ん?どうしたんだ?」

恐る恐る入ってくるコナンに、そっと声をかけるとコナンはまたしても恐る恐る口を開く。

「お仕事…忙しい?」
「いや、丁度キリがついたところだ。どうした?こっちに来なさい。」

そう言うと、トコトコと傍に寄ってくるなり持っていたノートを広げてコナンは言う。

「ここが分からないの。」
「どれ?」

私は机の上の物を端に避けると、コナンから受け取ったノートを机の上に広げるてコナンの身体をひょいと持ち上げ、膝の上に乗せた。

コナンの後ろから私は問いかける。

「どこが分からないんだ?」
「ここ〜どうやっても答えが分からないの。」
「そうか…どこまで分かってるんだ?」
「えっとねー」

私はそう問いかけると、コナンは理解している途中まで説明した。

「そこまでわかってるなら、後は簡単だ…」

そう言ってヒントを交えて答えを導いてやると、コナンは答えを出せた喜びに笑顔になってやったーと叫んでいた。答えをそのまま教えてやる事はしないが…ヒントをくれてやると、その問題に少しづつ立ち向かっていた。

「出来た!」

きっと、推理をしている新一と同じ気持ちなのだろう。何かを解けた時の達成感は何よりも変え難い笑みで埋め尽くされる。

その時の新一と同じ顔をしているコナンを見て、やはり兄弟なんだと改めて思える。

その後、新一が帰宅する少しの間…コナンを膝の上に乗せて、話をしていた。普段忙しく仕事をしている私と、こうしてゆっくり話をする事は滅多に出来ない事はコナン自信も分かっているのだろう。

この時間の間だけは…書斎にコナンの笑い声が大きく響いていた……。
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