このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

✩.*˚警察官は苦悩の連続✩.*˚

パトカーだと目立つからと、覆面パトカーで男を送り届けている時…大変な話も一緒に耳にした。

「刑事さんって、今いくつだ?」
「僕は19です。高校卒業して直ぐに警察官目指したので…」
「やっぱり歳下だったか…最初見た時中学生くらいかと思ってさ、びっくりしたけどな…」
「え?ちゅ、中学生!?やだな、冗談に聞こえないですよ~」
「冗談じゃねーし」

男の発言に軽くショックを受けるが、そのまま話は続いた。

「あの男、捕まえてくれるかな?」
「大丈夫です、優秀な先輩刑事が沢山居ますから。」
「もし、捕まえてくれなかったら…俺またあいつに利用されるんだぞ?あいつに捕まったら、もう解放してくれないかもしれない…それこそ、死ぬまで…」
「貴方はどうしてそこまで分かっていながら、友達と言って利用され続けていたんですか?」
「……」

男は僕の質問に黙り込む。

「貴方は何も手を染めてないですよね?なのに、どうして…」
「……もう、やっちまってるんだよ」
「何をですか?」
「最初に友達になる代わりにやった事が…薬物を試す事だったんだ…」

僕はそれを聞いて、路肩に停車すると後方の男の方を振り向いて見た。

「それ、本当!?」
「まあ、やったのは2年前だし…もう時効だろ?」
「いや、薬物の時効は7年なんだ…1度きりだとしても見逃せない事を貴方は…あっ!」

そんな話をしている時に、男は車から逃げ出し僕もそれを全力で追いかけた。

「もしもし?高木刑事…」

高木刑事に電話で状況を伝えながら、僕は男の追跡を続けていた。状況を伝え終わり、受話器を切ると僕は男の逃げる方へ全力で追いかけた。

もう少しという所で男に向かって飛びかかり、漸く確保する事が出来た。男は逃げるのを諦めた様に倒れたまま動かず、拳を強く握っていた。

僕は身体を起こすと男に言う。

「ダメだよ、これ以上罪を重ねちゃ…どんな薬をやったのかは知らないけど、まだ軽い方だと思うから。だから、先輩刑事の話を聞けば早く出てこられるかもしれないし…」

そう言って、男の腕を掴む僕に殴り掛かろうとした男の腕をもう一つの腕でガシッと掴み制止した。

「それと、警察官に手を挙げちゃダメだよ…公務執行妨害と言って、それも罪になるから。」
「……こんな事なら、友達なんて作ろうとしなきゃよかった…」
「きっと、見つかるよ…貴方が更生して、ちゃんと正しい道に進めば…いつか、本当に信じられる友達が。」
「そうだといいな…」

男はそう呟くと、小さく身体を震わせながら涙を流していた。友達が欲しいが為に罪を犯してしまった後悔が男の心を支配している様に、しばらく男の涙は止まらなかった。

僕はその男の手に重く硬い手錠を掛けた。そして、これが僕が警察官になって初めて容疑者に手錠を掛けた瞬間だった。テレビで観る様な達成感なんてなく、重い緊張感が押し寄せていた。

そして、覆面パトカーまで戻ると、高木刑事が丁度着いた所で僕達に駆け寄ってきた。

「コナン君!」
「彼を、お願いします。」

僕はただ一言だけ言うと、高木刑事は何も聞かずそのまま黙って男の肩を抱えながら、パトカーまで連れていった。

警視庁に戻ると、男の取り調べは改めて行われた。高木刑事から心配はないと伝えられ、話は続いた。

「今、他の刑事がその彼の居場所を突き止めて逮捕に向かってるから、その内捕まると思うよ。だから、君は心配しないで…と言っても君も逮捕になるけど、更生に導いてあげるから心配しないで…」
「どうせあいつが出てきたら、同じ事だし…一生あいつから解放されねーんだ、俺は。」
「そんな事は無い。出所後しばらく君には護衛を付け、安全に生活出来るようにするから…今はとりあえず君が使用した薬物について話してくれるかな?」

その時、扉が開かれ僕は呼ばれ退出した。例の男が逮捕されたと聞かされ、僕は応援に向かうと…首に刺青の入った強面の男が両側の刑事に挟まれ、連行されている所だった。

「工藤、ちょっとこいつ見張っててくれ」
「あ、はい」

そう言われ、僕は男の隣に座った。手錠も繋がれてるし大丈夫だろうと思いながら、怖い雰囲気のこの男と二人きりになった事で、僕の中の恐怖心が募っていた。

「ふん、そんな怖がるなよ…俺だって観念してるさ…」
「別に、僕は…」
「俺のダチが世話になったそうじゃないか。」
「え?」
「あいつも可哀想な奴なんだ…よろしく頼むぜ、刑事さんよ~」

僕はその男の言葉と一緒に笑ってない目でニヤリと浮かべる表情に恐怖が増し、これ以上一人でこの男を見張る事が出来ないと思った。別の刑事さんに変わってもらおうと車から出て、近くにいた刑事さんに声を掛けた。

「すいません、僕にはちょっと負担が大きくて…誰か変わって貰えないでしょうか?」
「は?」
「本当、すいません…あの、怖すぎて…僕にはちょっと…」
「たくっ、しゃーねーな…」

そう言って先輩刑事に懇願すると、仕方ないと言った素振りで先輩刑事は車に乗り込むが…次の瞬間声を上げた。

「おい、奴はどうした?」
「え?車に乗ってるはず…」

そう思った瞬間、目の前に男の走り去る姿が見え…逃げたぞと先輩刑事の一声に、その場にいた刑事は捕まえに走り出した。

僕も慌てて追いかけ様と走り出した時先輩刑事に一蹴された。

「お前はいい、怖がってる奴に何が出来る?」

そう一喝され、僕は俯いて立ち止まってしまった。悔しさでどうにもならない思いで胸が押し潰されるような感覚に苛まれていた。

「コナン君!ここにいたのかい?彼は大丈夫、無事に引き渡されたから…って、どうかしたのかい?」

僕の様子がおかしい事に気づいた高木刑事に心配そうに尋ねられ、僕は小さく謝った。

「ごめんなさい…」
「何かあったのかい?所で、例の彼は?」
「実は、僕が油断している隙に逃げられてしまって…」
「え?」
「それで今他の刑事さん達が捕まえに行ってて…」

高木刑事は顔を上げられずやっと説明する僕の肩を叩いて言った。

「後は他の刑事に任せておけばいい。とりあえず、目暮警部に報告しに行こう!」
「え?でも…」
「大丈夫。どっちにしろ、警部に隠しておく事は出来ないんだから…」
「そう、ですよね…」
「行こう。」
「はい。」

高木刑事に後押しされ、僕はやっと歩きながら重い足取りで目暮警部に報告しに行った。

「ダメじゃないか、コナン君…警察官が怖がってたら…警察学校で鍛えられていたと思ったんだがね…」
「警部、コナン君は現場にまだ慣れてないですし…今日の所は…」
「……」

高木刑事の言葉に、目暮警部は厳しい表情になり僕に言う。

「警察官になったら、新人もベテランも関係ない。一般市民から見たら、みんな同じ警察官なんだ。こちらが躊躇していたら、今回の逃げられた犯人の様に甘く見られてしまう。堂々たる態度で接しなさい」
「はい…」
「今日の所はもう帰りなさい…明日は公休だから、ゆっくり休んで復帰するといい」
「分かりました。今日は、すいませんでした。」

僕は目暮警部に怒鳴られることも無く、優しく諭す様に注意された。絶対怒鳴られると思っていた僕の予感に反して、目暮警部は優しかった。

二人に謝り、僕は高木刑事に出口まで見送られた。

「一人で帰れるかい?お兄さんに連絡しようか?」
「いえ、大丈夫です。お先に失礼します」

高木刑事に僕は頭を下げると身を翻した。

「あ、コナン君!」

僕が再び高木刑事の方へ振り向くと、高木刑事は優しい笑みを浮かべて言う。

「気にしなくていいからね。あの男はきっと捕まる。任せてくれればいいから。」
「はい。」
「今日はあれだね~コナン君がこの課に来てから初めて容疑者に手錠を掛けた日だね…」
「え?」
「覚えておくといいよ、きっと後々いい思い出になる。じゃ、気をつけて。まっすぐ帰るんだよ」

そう言い残して高木刑事は警視庁の中へ入っていった。

その後僕は、一人肩を落としながら家までの道を歩いていく。悔しい思いがいっぱいで、警察官に向いてないんじゃないかと思うくらいの失敗をしてしまった。

捕まえるってあの男と約束したのに…早速破ってしまう自分が情けなく、警察官になって初めての挫折を味わったこの日、どんな顔して家に帰ればいいのか分からず…ゆっくりと歩いていた。
13/17ページ
スキ