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第一章:このままの身体では……

「ただいまー」

その声に反応し俺と和葉は探偵事務所の扉の方へ振り向く。

「おおー!帰ってきよったなー?」
「蘭ちゃん!おかえり~」

急に来た俺と和葉に2人は驚き目を丸くする。

「和葉ちゃん!」
「らーんちゃん!久しぶり!」

ねぇーちゃんと和葉は手を取り合って久しぶりの再開に嬉しそうにしておった。

工藤は相変わらずの歓迎で、俺の方を呆れながら見ているだけやった。俺ちっちゃい工藤に顔を近づけ、ニヤついた。

「どうなんや?風邪の具合いは?」

そう聞く俺の問いに、工藤の代わりにねぇーちゃんが答えておった。

「もう大丈夫だって、先生が言ってたよ」
「よかったなあ~」
「ほんなら、皆で飯でも食いに行こか?」

俺は工藤の頭をポンと叩くと食事に誘う。隣にいる工藤の様子がちょっと気になるけど…毛利の姉ちゃんもおっちゃんも行く気満々で立ち上がっとった。

「え?いいよ、家で…わざわざ外に行かなくても……」
「いいじゃない!折角大阪から来てくれたんだし、たまには外で食事しようよ!」
「だったら、出前とかでもいいよ!」
「どうしたのよ?コナン君…?」
「なんだ?外に行きたくない訳でもあるのか?」

工藤は外で食事に行きたくない様子を醸し出しながら、困った顔でおっちゃん達を説得している様やった。工藤の中で何かがあるのは悟っていたとしても、何を考えているのか分からんかった。

おっちゃんもに問いただされる工藤は、俯いてどう言おうか考えとるみたいやけど…次の瞬間、ゆっくりと話し出した。

「じゃ、じゃあ…薬の量減ってからでもいい?」

そう投げかける工藤の言葉に目を丸くする一同。

「外で食事するって事は、その場で薬飲まなきゃでしょ?外であんなに薬飲みたくないよ……」
「やーっぱり、その事気にしていたのね?先生に言われたでしょ?薬の量はだんだん減るから心配ないって…」
「でも…」
「そんな事気にしてたら、ずっと外食行けないわよ?」

ねーちゃんに諭されながら、外食行くのを拒む工藤を説得していたんやけど、仕舞いには“留守番してるから行ってきてきていいよ”という始末。平気な素振りをしながらも、工藤は心のどこかでずっと我慢しとったんやろうなと思い、俺は工藤の身体を持ち上げるとおっちゃんや姉ちゃんや和葉に向けて言う。

「ちょー、このガキと話してくるよって!上、上がんで!」

工藤は目を丸くして俺の方を何をする気だと言う風に見つめて来とったが、そのまま3階へ向かった。

「ちょっ、平次!?」
「男同士の方がええんや!そこで待っとき!」

声をかけてくる和葉を安心させるように言い放ち、俺は工藤と自宅にしている3階へ行き、扉を締めると工藤を降ろした。

トンと、地面へ降ろされ足音をさせる工藤に、後ろから声を掛けた。

「どないしてん?工藤…」

そう聞かれ、工藤はポツリと呟いた。

「なんでも…」
「無いわけないやろ!」

工藤の言葉を俺は直ぐに遮って続けた。

「なんや?薬の量増えたんか?」

探偵事務所で言っとった工藤の言葉を思い出して、問いかけた。その言葉を背中で聞いてハッとする工藤は俺の方へ振り向くと悲しげな表情を浮かべながら言った。

「あいつら…俺が薬飲む時、凄い心配するんだ…量を見て、驚いたりするし…あんなに量あるんだから仕方ねーけど…」
「お前はおっきい病気したんや、ガキ連中が心配するのも無理ないやろ!」
「けど…あのな、服部……」

工藤はきっと減らない薬を飲むのを心配するガキ連中に悪いと思ってるんやろうか…そんな事を思いながら何かを言おうとする工藤の言葉を待っとった。

「灰原に、言われた…体力が戻らないのは、子供の姿のままだからって…手術で使った薬は、元に戻った時の俺の身体に値するものだから、なかなか効かないのは当然だって……そして、早く解毒剤を完成させて元の身体に戻らないと、ずっと、このまま戻れなくなるって…」
「ほんまか?」

工藤は俺を見上げながら、悲しい顔でちっこいねえーちゃんに言われた事を伝えてくる。

その言葉を聞く俺は目を丸くし、焦る反応するしか無かった。

工藤は静かにコクリと頷く。

頷いたまま、しばらく工藤は顔を上げることは無かった。

薬の量の事もそうやけど、ずっと我慢して来たんだろう。

少しでも弱音を吐けば周りの連中が工藤を心配してくる。

それが、居た堪らなかったんやろう。

俺は、工藤の頭に手をポンと置くと、身体を震わせていた。

ずっと我慢していた想いが工藤の胸を掻き立てる。

「今日は出前にしよか」

このまま工藤の心を抉るような真似は出来へん。その想いで、俺は工藤にそう提案する。

工藤にその言葉が聞こえたか分からへんかったが、工藤が落ち着くまで俺は待つ事にしたんや。
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