✩.*˚警察官は苦悩の連続✩.*˚
「お前を…過保護にし過ぎたのかも知れないな…」
「え?」
「過保護にし過ぎてなかったら、もっと強い子になっていたかもしれない。それは、父さん達の責任だ。」
「そんなこと…」
私はコナンの子供の頃の事を思い出しながら話し出した。
「お前が産まれた時、可愛くてな…父さんも母さんも医者から無事に産まれるか分からないと言われていたんだが、母さんがそれでも産むと言って産んだんだ。でも、未熟児でな…産まれた時は、本当に心配したんだ…大きくなるのか不安もあった。だが、新一がな…ずっとお前の傍から離れずに、面倒見てくれてな…」
「兄ちゃんが?」
「ああ。お前が元気になるまでずっと傍から離れなかった…初めての弟だからかもしれないがな…。それに、本当は産まれてなかったかもしれない命だから…大事に育てようと、母さんと話してお前をそれこそ大事に育てたんだ。新一も一緒にな。」
そして、私は家族のアルバムから一枚の写真をコナンに見せた。それは、コナンが退院して初めて家に来てから一週間たった時の物だった。
まだ赤ん坊のコナンを抱きながら、笑顔でカメラに向かってピースする新一とコナンの後ろに私と有希子が寄り添って映っていた。
コナンはその写真に触れながら、ぽつりと呟いた。
「僕、こんなに小さかったんだ…」
そう言って、笑みを浮かべながら流れ出る涙を拭っていた。この頃は、弟が産まれた事に新一は喜びずっとコナンの遊び相手になってくれていたのを思い出す。
仕事が忙しかった私達にとって、新一の存在は有難かった。私達の代わりに、新一が親の様に常にコナンの傍にいたから…コナンはずっと新一に懐いていたように感じていた。
今でも新一はコナンの事を自分の事のように心配している……。
大事な、たった一人の唯一無二の兄弟だから、新一にとっても、コナンが大事な存在だと言うことはよく分かっていた事だった。
きっとこれからも…新一もコナンも…お互いに頼りながら生きていくのだろうと感じていた。そして、このもう一人の息子が泣き虫じゃ無くなるのはいつになるのだろう?と、私は外国へ移住する少し前のこの日…コナンの心配を未だにさせられていた。
「僕、お父さんの子供らしくないよね…」
コナンは写真を見ながらぽつりとそんな事を言い出し私は不思議に思う。
「だって、兄ちゃんみたいに強くないし…いつまで経っても、心配ばかり掛けてるしさ…こんな息子でごめん…」
「何を言ってるんだ…前も言っただろ?お前はお前でいいんだ。新一の様になろうと思わなくていいんだぞ?」
「でも…」
「それに、お前はしっかり父さんの子だ。父さんがあげたあの本を読んで警察官になったんだからな。」
そう言って、コナンの背中に手を当てる私は見て、照れ笑いにも似た笑みを浮かべ、またぽつりと頬を涙が伝っていた。
そんなコナンの頭を撫で"大丈夫だ"と言ってやると、子供の様に満面の笑みを向けていた。
そして、そうだ。と、思い出した様にコナンは哀君や勇嗣の事を口にすると、扉の外で聞いていたのだろう、そっとドアが開き、勇嗣を連れて哀君と有希子が部屋に入って来た。
「勇嗣…」
コナンはそっと呟くと二人の傍へ近寄った。
「なんだか、随分会ってなかったような気がする…」
「忙しかったもの…仕方ないわよ。抱いてあげて…」
「うん。」
哀君にそう声を掛けられ、コナンは勇嗣を優しく腕の中に引き入れていた。勇嗣の顔を覗き込むコナンに抱かれると勇嗣は"あー"と言って、コナンに手を伸ばしていた。
そんな勇嗣が堪らなく嬉しいのだろう。笑みを浮かべて勇嗣を抱き締めていた。
「僕、頑張るよ…警察官の仕事…辞めないよ」
そう言ったコナンの言葉に、哀君も笑みを浮かべると二人で顔を合わせながら笑っていた。勇嗣を中心に家族を持った事で…コナンの諦めようとしていた心を止めたのだろう。
「コナンちゃ〜ん、元気になった?」
そう言って、有希子はコナンが抱き締めていた勇嗣も一緒にコナンを抱き締めた。
「お母さん!勇嗣潰れちゃうよ〜」
そして、コナンの肩を持って顔を覗き込むとコナンに話しかけた。
「よかった。貴方の笑った顔見ると、安心するのよ〜貴方はずっと、その笑顔で周りを和ませていたんだから。だから、きっと大丈夫よ…」
「お母さん…うん。」
涙を完全に拭うコナンに、哀君は言う。
「泣いていたら、勇嗣に笑われちゃうわよ?」
「ごめん…」
「まあ、でも警察学校で一度も泣かなかったのは褒めてやろう。お前にしては上出来だ。」
そう言ってやると、からかわないでよと笑っていた。そして、久しぶりにコナンを混ぜて夕食を共にしていると…しばらく面倒を見てあげられなかった勇嗣を、コナンが率先して見てやっている事に、私も有希子もまだまだ子供な所はあるが、コナンも父親としての一歩を踏み出している事に気付かされた。
警察官になって、大変な事はあるだろうが…いつか、大きく成長してくれる事を願っている。
「ごめんね、心配かけて」
「いつもの事だから、気にしなくていいのよ〜」
哀君にそう返され、コナンは口を噤んでいたが…この日の夕食は、久しぶりにのんびりと…腹いっぱい食べられたのだろうとコナンが美味そうに食べているのを見て思っていた。
悩みが一つ解決に向かっているコナン、今夜はきっとぐっすり眠れるだろう。
二人の息子がいても、歩む道も…性格も違う二人を見ていると、実に面白いと感じてしまう。特にコナンには、未だに心配掛けられるが…それが時より嬉しくなる事もある。それが親の性というやつか…。
そんな思いを抱きながら、久しぶりにキッチンが笑い声と共に賑やかさに花が咲いていた。