✩.*˚警察官は苦悩の連続✩.*˚
「バカモン!」
出勤早々、僕は目暮警部に怒られた。一生懸命哀達が起こしてくれたらしいけど、中々起きられなかった僕は寝坊し、やっと警視庁に着いた頃にはお昼を廻っていた。
直ぐに目暮警部に遅刻した云々を伝えると、目暮警部の怒鳴り声が僕に向けられた。
「すいません」
僕はその言葉を言うのが精一杯で、頭を上げられない。それに、目暮警部の目を見る勇気もなかった。怒っているのは見なくても雰囲気で伝わる位、警察学校で鍛えられたとしても怖くて動く事が出来なかった。
「ここは警察学校じゃない、現場なんだぞ?もっと気を引き締めなさい」
「はい…」
「とりあえず、苦いコーヒーでも飲んで目を覚ましてきなさい」
そう言うと、目暮警部は机の上に珈琲代として小銭を置くと立ち上がった。僕が小銭に目を移している隙に僕の横を通り抜け、高木刑事に一声掛けるとスタスタ歩いていく。
「高木君、後は頼んだぞ。」
「あ、はい。」
「あの…目暮警部、これ…」
そう声を掛けるが、目暮警部は見向きもせず部屋を出ていこうとしていた所、僕は頭を下げてお礼を言った。
「ありがとうございます」
その後、ため息をさせながら僕は自動販売機が密集している休憩所へ行き、珈琲と思いながら思わずココアのボタンを押してしまった。
「あっ…」
そう声を上げた時にはもう遅く、まあいいかと…買ったばかりのココアを飲もうとしているとそこには……。
「兄ちゃん…」
「コナンじゃねーか、珍しい所で会うな…今から現場か?」
「あ、うん…」
兄ちゃんの登場に少しだけ安堵感が増し、笑みが零れる。兄ちゃんは、僕が飲もうとしているココアを取り上げると僕の手にコーヒーが渡される。
「ほい」
「え?」
「こっちの方が目が覚めるから、こっち飲めよ」
「兄ちゃん…僕がコーヒー苦手なの知ってるでしょ?」
「いいから、いいから。」
そう言って、強引にコーヒーとココアを取り替えるとココアを一気に飲み干していた。
「目暮警部から聞いたの?寝坊の事…」
「あ、ああ…まあな。依頼人の資料取りに来たついでに目暮警部に会ったんだ。それで、ちょっとな。」
兄ちゃんに寝坊した事を知られしょげながらコーヒー缶を空けずに握りしめていると…兄ちゃんは僕の頭を軽くポンと叩くと呆れたように言ってきた。
「な~に落ち込んでんだよ?警察学校にもっとおっかねー教官いただろ?目暮警部が優しく見える程に…それを耐えて卒業したんだから、大丈夫だよ!」
「でも…」
「それに連日事件が多かったからな。お前のやる仕事だって増えてる事は想像が付く。寝不足で遅刻するのも仕方ねーよ…それにお前反省してるんだから、目暮警部も許してくれるさ」
兄ちゃんに励まされながら、今日が大事な日だと言うことを伝える。
「今日、検挙しに行くんだ…この間の事件の容疑者かも知れない人を…なのに、大事な日に寝坊しちゃって…だから、目暮警部があそこまで怒るの分かるんだ。だけど…」
「目暮警部、怖いか?」
「え?」
「小さい時から知ってるんだもんな…他の先輩刑事と違って特別な思いがあるんだろ?」
「うん」
小さい時から時々出入りしていた警視庁に、まさか自分が働くなんて思っても居なかった事もあって、普段僕に優しい目暮警部に怒られた事に戸惑いが僕の中で起きていた。
でも、そんな僕の心を解き放つ様に兄ちゃんは言う。
「それに考えてみろよ、刑事課の研修1ヶ月だろ?お前にとっては長いかもしれないけど、刑事課…もう少し頑張ってみろよ」
「……うん!」
そうだった。この課はずっとやる訳じゃない…。1ヶ月…1ヶ月なんだ。これを乗り切れば…その後は……そこまで思うとあっと思い、兄ちゃんにある事を相談しようと口を開いた瞬間僕の名前を呼ぶ声がして振り向いた。
「コナン君!そろそろ…」
現場に向かう為、高木刑事が僕を呼びに来た所で…高木刑事の視線は兄ちゃんに向けられた。
「あ、工藤君…資料でも取りに来たのかい?」
「まあ、そんな所です。」
二人は軽く挨拶を交わすと、高木刑事は少し急ぎめに僕に言う。
「コナン君、そろそろ行こうか?あまり遅くなると容疑者に逃げられるかも知れないからね…」
「あ、はい。じゃあ兄ちゃん、またね。」
「おう、頑張れよ!」
僕は兄ちゃんから渡されたコーヒーを勢いよく飲むと、缶をゴミ箱に捨て高木刑事と共に走り去った。
そして、高木刑事と車に乗り合わせながら、現場に向かう途中の車で…高木刑事は僕に言う。
「コナン君、目暮警部の事あまり気にしなくていいからね…」
「え?あ、はい。」
「目暮警部が怒らない日なんてないからさ…ははっ…」
高木刑事は笑いながら元気づけてくれる。
「僕なんか、新米刑事の時毎日の様に怒られていたよ…警察手帳紛失してしまって、仮病使って休んで探した時なんか、それがバレて警視庁までジョギングさせられたりしてね~」
「高木刑事が…」
「今は昔より優しくなったと言うか…ま、ここぞと言う時はこっぴどく怒られるけどね…だから、コナン君が落ち込む事は無いんだよ。遅刻は良くないけど、次気をつければいいんだから。」
高木刑事は昔の自分の経験を交えて語ってくれた。同時に昔より優しくなった目暮警部に怒られて、落ち込んでる自分はなんて弱いんだろうと…自分自身落胆する。
それでも、落ち込んでなんて居られない。僕は、今から犯人と思われる容疑者の心当たりを探って、警視庁に連れてこなきゃいけないんだ。
心に迷いがあっては、容疑者に逃げられる。僕はそう思い、気持ちを強く持ち高木刑事と一緒に現場近くに向かっていた。