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✩.*˚警察官は苦悩の連続✩.*˚

秋から冬になりかけの肌寒い頃、僕の研修も軌道に乗り始めていたのも束の間で、地域課の研修からそろそろ刑事課の研修へと移ろうとしていた。

折角優しい先輩警官が指導係として僕の担当になってくれたのに、きっと刑事課は怖い先輩警官になるんだろうなと、不安な思いが胸を掻き立てる。

いつもの様に、警らしている時…隣にいた先輩が言う。

「来週から刑事課か…」
「あ、はい…色々お世話になりました」

僕は先輩に短い時間だったけど、色々指導してくれた先輩にお礼を言う。地域課の仕事はパトロールが多く、殆どと言っていい程この先輩警官に指導されながら巡る事が多かった。

そして、この日もいつもの様に警らしていた時…信号待ちで停車していた時、反対側の信号が青になった瞬間…僕達の目の前を物凄いスピードで原付が駆け抜けて行った。

「工藤!」
「はい!」

先輩警官の声にサイレンを鳴らすと、直ぐに原付を追いかけた。

「そこの原付止まりなさい」

先輩が拡声器を使って警告すると、原付の運転手さんは落胆しながらも、素直にその場に停車し止まって待って居てくれた。

先輩警官と二人で運転手さんに駆け寄り事情を聞く。運転手は女性ドライバー。スピードの事を指摘すると、早く帰りたかったからと話す。

「スピード出したって同じ事なんだから、安全運転で帰りなさい」
「はい」

先輩警官の言葉に、女性ドライバーは素直に返事をし、今回は厳重注意という事でそのまま安全運転で帰宅してもらう様に促した。先輩警官の話だと、女性でも物凄いスピードで走っている人は少なくないらしい。

確かにパトロールをしていて、自動車の取締りも多いけど、原付やバイクのドライバーのスピードでの取締りも結構目立っていた。今の女性ドライバーも少しスピードを抑えて走って欲しいと思いながら見送った。




そして、僕達は再び警らを再開した。この日の警らは朝まで続いた。この2ヶ月に渡って僕を指導してくれた先輩警官の言葉一つ一つを胸に刻み、来週からやってくる刑事課への研修に肩を落としていた。

そんな時、夜が空け…取締りも落ち着いた頃、先輩警官がゆっくりと口を開いた。

「時々お兄さんが様子を見に来ていたの、知ってたか?」
「え!?」

僕はパトカーを運転しながら驚いて思わず顔を先輩警官に向ける。危ないから前と注意され運転に集中した。

「この二ヶ月間…大変な思いで職務していたからな、周りの事なんて気づかないのは無理もない…」
「あの…兄ちゃんは、どうして?」
「お前が心配で見に来ていたのに決まってるだろう」
「……」

知らなかった。あの日、兄ちゃんに会っても何も言わなかったし、僕は僕で…警察官という仕事を必死でまさか兄ちゃんが来ていたなんて思いもよらなかった。

いつ来ていたんだろう?とさえ不思議になって思う。

「お兄さんは探偵だからな、時々交番に用があって来るのも頷ける。ま、そのついでと言っていたが…ついでは交番の方かもしれんな。」
「そうですか…兄ちゃんが…」
「子供の頃、両親共忙しくて寂しい思いをしたらしいじゃないか…」
「あ、でも兄ちゃんが居たのでそうでもなかったですよ。僕はいつも兄ちゃんから離れなかったらしいので…それに…仕事から帰ってきたら、充分なくらい可愛がられてもらいましたから。」

そんな話をしながら、僕は笑みを浮かべながら子供の頃の事を話す。忙しい中わざわざ様子を見てくれたのかと、相変わらず心配症な兄ちゃんに僕は思わず笑みが零れる。

でも、どうして先輩警官は今こんな話をするんだろう?と不思議に思っていると…それは次の言葉で理解した。

「実はな…お前に少し似てる奴が居るんだ…お前は寂しい思いはして来なかったみたいだが、そいつは…両親が忙しくてな…半家出状態になってるんだ…きっとその内パトロール中にでも会うだろう…」
「…その子は、高校生とかですか?」
「中学生だ…タチの悪い輩とつるんでる。更生させたいんだが、そう上手くはいかないんだ。お前が警察学校から帰ってきた時に合わせてやるよ、また交番勤務になるだろうしな。」
「…はい。」

なぜ先輩は僕にこんな話をするんだろう?と、この時は不思議でならなかった。先輩でも手を焼く様な子を僕なんかが何を言ったからって無理に決まっているのに…そんな思いが掻き立てる。

でも、先輩にも思う所があったんだと後々知る事になる。今の僕に課せられた課題は刑事課に警察学校…先が思いやられる問題でいっぱいだった…そして、お父さんとお母さんはこのまま行ったら、僕が警察学校に行ってる間に外国に移住する事になるし…今の僕には悩む事が沢山あった。

そんな話をされた翌週…僕は地域課の研修を終え、刑事課に移る事になった。

兄ちゃんにとっては刑事課なんて容易い事なんだろうけど、僕にはとてもじゃないけど早く1ヶ月過ぎ去って欲しいと思いでいっぱいだった。

「コナン君!」
「あ、高木刑事!実は今日から刑事課に…」
「うん、聞いてるよ!実は僕が君の指導係になってね、1ヶ月だけどよろしくねっ!」
「あ、はい!よろしくお願いします!」

高木刑事が指導係だと聞いて僕はとても安心していた。高木刑事は優しく色々教えてくれた。毎日事件が絶えないくらい忙しいのに、そんな想いを顔に表さないタイプだと僕は高木刑事を見て思う。

警視庁の廊下を歩きながら、高木刑事は言う。

「刑事課の研修って事は、いつか工藤君と一緒に仕事する事になるかも知れないな~」
「え?兄ちゃんと?」
「うん、工藤君…時々事件物を扱う事もあるから、時々警視庁に来るんだよ。だから、鉢合わせすると思うよ?ま、その方がコナン君の事分かって安心すると思うんだけどね~」
「どういう?」
「工藤君の弟思いは有名だからね!」

高木刑事はそう言うと、僕の言葉を待たずに扉を開けて先に入っていった。高木刑事の後ろに続いて入室した僕を見て、目暮警部が歓声を上げながら声を掛けてきた時、周りの刑事からの目線が突き刺さった。

「おお~コナン君じゃないか~君の事はよく工藤君から聞いとるよ、今日から刑事課かね?立派になったもんだ!うんうん。」
「警部さん、その、目立つ事はちょっと…」

僕は周りの刑事さん達を尻目にやっとそう答え、恥ずかしさで顔が赤くなってしまった。

「そうだった、コナン君は工藤君と違って恥ずかしがり屋さんだったな!すまんすまん。」
「警部、それもどうかと…」

隣の高木刑事がフォローしてくれたけど、目暮警部はアッハッハッとただ笑いながら僕の背中を叩いて期待してるぞと言い放っていた。

「ごめんね、コナン君…警部、悪気はないから…」
「あ、はい…大丈夫です」

僕はそう返事して研修期間中、お世話になるこの刑事課を見渡して刑事さんの人数に圧倒され緊張が走っていた。

1ヶ月もの間、やって行けるんだろうか…と、不安まで押し寄せていた。
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