✩.*˚警察官は苦悩の連続✩.*˚
「でも、蘭は妃先生の自宅に居るんじゃねーか?」
「バカね、まずは先生の所に行って、蘭さんと話せる様に取り持ってもらうのが先じゃない。先生の自宅に直接行ってもいいけど…蘭さんが貴方の姿を見て、素直にドアを開けて出てくるとは思えないし…」
灰原さんにそう言われ、俺はそうだな。と、納得する。
「それに…蘭さんと喧嘩して別居してるんだもの…二人が会った所で、また喧嘩になったらどうするのよ?それとも、小五郎さんと妃先生の様に別居したままでいいって言うの?」
「それはダメだ。」
「だったら、先生に委ねなきゃ!苦手かも知れないけどね…」
背中を押され続ける俺は、灰原さんの言葉で段々と足取りは軽くなっていく。
ちゃんと話さなきゃいけない事だって言うのは分かってるものの、どう話せばいいのか正直分からないでいた。
蘭が出て行った理由は、男の俺にはどうすればいいのか分からないから、余計に俺の頭を悩ましていたのだ。
コナンと灰原さんが妃法律事務所のインターフォンを押す。栗山さんの後に出てきた妃先生はコナン達を見て、驚いた表情をさせていた。
「妃先生!」
「あら、コナン君と哀ちゃん…久しぶりね。勇嗣君だったかしら?大きくなったわね…」
「突然すいません。今、大丈夫ですか?」
灰原さんが丁寧に挨拶をする後ろから俺は姿を現すと、妃先生は一瞬険しい表情をさせていたのを俺は見逃さなかった。
「新一君…聞いたわよ、蘭から…」
「すいません…あの、蘭は?」
「……」
俺が尋ねると、妃先生は俺の目を一点に見つめて腕を組み沈黙していた。
「あ、あの……」
「いいわ、付いてきて…」
妃先生はそう言うと栗山さんに後は頼むと言い残すと栗山さんはクスッと笑って、かしこまりましたと言って、俺達を見送ってくれた。
そして、俺達は蘭の居る妃先生の自宅へ向かった。鍵を通す妃先生の後に続いて、俺達はぞろぞろと入って行く。
「お母さん?どうしたの?こんな時間に…」
奥から蘭の声と一緒に掛けてくる蘭に俺は緊張が走り、蘭の視線は一瞬で俺に向いた。
「新一…」
「蘭…あのさ…」
どう話していいか困惑してる俺に、妃先生に促されるように俺達は奥の部屋へ通された。
「鈴ちゃんは僕達が見ててあげるから、兄ちゃんと蘭ねーちゃんは二人で話した方がいいよ」
そう言って、コナンと灰原さんは鈴がいる隣の部屋へ行ってしまった。
向かい合わせに座るソファーに俺と蘭。蘭の横に妃先生が座る形になって話は開始された。
「あの…さ…蘭…俺…」
「私…分かってるから。新一が仕事忙しいのだって知ってる。でも、鈴の夜泣きが酷くて私は一人で耐えられなかったのよ…あの日、私がやるから寝てていいって言ったけど、本当に寝るなんて…あの後大変だったんたから…」
「悪かった…けど、俺がいた所で何も出来ねーし…」
「それでも…」
そこまで言うと蘭は俯いてしまった。あの日の俺の行動が許せなかったんだろう。
「でも私、あの日こそはイライラしていたけど、少し離れて暮らして…気持ちが少し落ち着いたの。少し育児ノイローゼになっていたのかもね…」
「ごめんな、お前の気持ち…分かってやれなくて。悪かったよ…帰って、きてくれるか?」
「うん!」
俺は蘭の言葉にやっと安堵し、お互いに顔を合わせて微笑んだ。確かに育児は母親しか出来ないことが多いが…それでも父親にも出来る事はある。俺は蘭や鈴をこれまで以上に支えてやろうと誓った。
「新一…私こそ、突然出て行ってごめんなさい。」
蘭はそう言って、俺に頭を下げた。謝るのは俺の方だと思い、俺は言う。
「何言ってんだ…俺が悪かったんだから…ごめんな、蘭…」
「ううん。」
何とか蘭の別居が解消したこの騒動はコナンや灰原さん、妃先生を巻き込んで集結を迎えた。妃先生やコナンや灰原さんが居てくれたからこそこうして冷静話せたんだろうと思っている。
「良かったわ~これで解決ね。」
「すいません。色々…」
「でもこれで、鈴の夜泣きは落ち着くんじゃないかしら?」
「え!?」
「母親がイライラしてると、赤ちゃんにもそれが伝わってしまうのよね~蘭の心も落ち着いたみたいだし、新しい命の為にも支えてやらなきゃダメよ?」
妃先生に言われ、俺はハッとして顔を上げる。
「新しい命!?」
「実は、二人目…出来たみたいで…」
「え!?」
「イライラしていたのは、そのせいもあったみたいなの。」
「そうか。」
俺は仲直りの瞬間に耳にした嬉しい報告に笑顔が宿った。それを聞いていた妃先生に結構仲良くやってたんじゃないと言われ、俺と蘭は照れくさくなっていた。
「コナン君、哀ちゃん!ごめんね、なんか巻き込んじゃったみたいで…」
「良かったね、蘭ねーちゃん!」
「新一さんて…こういう所ダメなのよね…」
灰原さんの言葉に、俺は言い返す言葉がなかった。今回、コナンや灰原さんが居なかったら解決出来なかったからこの二人には感謝している。
「じゃあ、あなた達はこのまま帰れるわよね?」
「うん、ありがとうお母さん…」
「じゃあ、私は仕事が残ってるから行くわね?気をつけて帰りなさいよ」
そう言って、妃先生は足早に掛けて行った。その後、俺達六人は俺と蘭の家へ向けて帰路に着く。
「コナン、今日はありがとな!」
「ううん。」
「それでよ…父さんと母さんにはこの事内緒にして置いてくれねーか?」
そう言って、コナンに懇願する俺は頼むという合図をコナンに向けて送っていた。
そうやって頼む俺を見て、コナンは頭の後ろで手を組みながらどうしよっかなあ~?なんて言いやがる。俺の反応を楽しむかのようにコナンは組んでた手を降ろしイタズラな笑顔を向けて、冗談だよと言い放った。
「おい、コナン!」
「言わないよ~でも、また別居になったら今度こそ言っちゃうかも~?」
俺とコナンの会話を聞いて、灰原さんが笑ったのを筆頭に…蘭も笑いだし…俺とコナンにも笑いが込み上げてきた。
しっかりしている様で、蘭の心の中で育児の葛藤があった事。それを俺に気を使って言わずに溜め込み…今回の様な事が起きてしまった事を思うと、俺ももう少し気をつけてやらないといけないと思った。
灰原さんの言う通り、こういう事には乏しい俺は…二人に教えて貰わなきゃ分からなかった事に、二人の存在が大事に思えた。
そして帰宅後…もう一つ蘭のお腹に宿った命を抱えながら…蘭を手伝う様に灰原さんも一緒に夕食の準備に取り掛かっていた。
その間、俺は久しぶりに会ったコナンと色々な話をする。警察官になって学んだ事、思った以上に体力勝負な仕事だと言う事…まだ慣れないけど、頑張れそうというコナンの言葉を聞いて安堵していた。
食事の準備が整って、俺達は食べ始めた。
「明日にはお父さん達帰ってくるみたいだけど、やっぱり早く向こうに移住しなきゃいけないみたいなんだ…でも、僕達の事まだ心配で居てくれるんだけど…」
コナンは父さん達の事を思い、申し訳なさそうに言う。早く自立出来ればいいんだけど…と言うコナンに、俺はまだ未成年のコナンがこんなにしっかりとした気持ちを持っている事に驚いた。
「まだお前らは未成年なんだから、親は頼っていいんだぞ?」
「うん…」
そんな話をしている時に、勇嗣がぐずりだし慌ててコナンは抱き上げて勇嗣の背中を軽く叩きながらあやし始めた。
「手馴れてるな…」
俺はぽつりと言うと、コナンは何も言わなかったけど笑みを浮かべて照れくさそうにしていた。
「勇嗣は抱き癖付いちゃってさ、寂しくてすぐ泣いちゃうんだよ」
そんなコナンの言葉に、俺達は皆心の中で思っていたと思う。
(お前の小さい頃にそっくりだ)
そして、蘭は俺の方を見て言った。
「新一も、コナン君を見習ってよね~」
「あ、ああ…分かってるよ」
コナンが小さい頃はよく面倒見てきて分かっていたハズなのに、自分の息子の事は仕事が忙しくあまり手を掛けてやってなかったと反省していた。
色々あったこの日…俺は沢山の事をコナンと灰原さんから学んだ。教えてやるばかりだったコナンが俺の手を引っ張り解決の糸口を見つけてくれた事は感謝している。
ありがとうなんて愚問だろうが、今回ばかりは弟夫婦には感謝せずに居られなかった。コナン達に困った事があった時、その時は俺らが何とかしてやろうと誓い、この日の夕食は久しぶりに暖かい夕食を堪能した。