このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

✩.*˚警察官を目指すコナン✩.*˚

翌日…。私は授乳が終わり、赤ちゃんと二人で病室にいた。もうしばらくしたら、赤ちゃんを預けて、工藤君の所へ様子を見に行こうとしていた頃…病室の扉が開いた。

「灰原っ!」
「工藤君…退院したの?」
「うん、さっき…ごめんね、心配かけて。もう大丈夫だから。」
「そう、よかった…もう少ししたら行こうと思っていたのよ?」
「そうなんだ」

私達はそんな会話をしながら、私達の間に産まれた赤ちゃんを見つめる。

「よく、寝てるね…」

そう言う工藤君は、久しぶりに見る赤ちゃんを目の前にして笑みを浮かべていた。

「名前…どうしようかしら?」
「そうだね…」

産まれてから名付けられていない、名前のない私達の子供…私も工藤君も、子供の名前に相当悩んでいた。

「蘭さんはお花の名前にちなんで付けたみたいだけど…私達はどんな風に付ければいいのか…難しいわね…」
「じゃあ、灰原の名前にちなんで喜怒哀楽の楽とか、哀愁の愁とか…」
「それなら、貴方の名前にちなんでコナンのナンを南にするとか?」
「「うーん。」」

私達はそう名前の案を出しながら、どれもピンと来ない名前に唸りながら悩んでいた。そんな時、ふと工藤君が赤ちゃんを見つめてこんな事を質問してくる。

「ねえ、灰原のお父さんの名前って何だったの?」
「えっと…厚司っていうの。どうして?」
「厚司か…いい名前だね。」

工藤君はそうぽつりと言うと、口を開いた。

「あのさ…灰原のお父さんの名前貰って付けようか??」
「え!?」

突然の提案に、私は驚く。だけど、彼は冗談ではなく、赤ちゃんを真っ直ぐ見つめて真剣な顔で言っていた。

「灰原だって、家族が急に亡くなって辛い想いをしたと思うんだ…でも、お父さんだってきっと天国で…灰原ともっと一緒に暮らしたかったって悔やんでると思う。もちろん、お母さんやお姉さんだってね。だからって訳じゃないけど…お父さんの名前一文字貰って付けないかなーって…ダメかな?」
「工藤君…」
「それに、兄ちゃんと同じで僕も変わった名前付けそうだしさ…」

そう言って、あははと笑う彼に私は胸が熱くなって驚いて涙が頬を伝って滑り落ちた。

「灰原…あ、ごめん、僕また変な事言っちゃった?ごめんね!」
「ううん。」

私は工藤君のその言葉に首を振り、そして彼を見て、笑みを浮かべて言った。

「あなたが…こんなにも、私の事を思ってくれていたなんて思わなかったから…」
「……」
「子供の頃、突然居なくなった家族の事で寂しい思いをしたのは確かだから…でも、その寂しさを拭う様に、あなた達家族や博士や吉田さん達がいた。それはあの頃の私にとっても救われた事だったのよ」

そう言って、私は彼に笑みを浮かべる。

私は今でもあの頃の気持ちを忘れてはいけないと思いながら、生きている。人を亡くした悲しみはとても辛いものだって事は、身に染みて感じていた。だから…もう誰も失いたくない。

彼は、そんな私の言葉を黙って聞いていた。

「貴方のお兄さんが、小さい時からずっとあなたと一緒に私の面倒も見てくれたって事もあるんだけどね…」
「だって兄ちゃんは僕の面倒で慣れていたし…」

ぽつりと言った彼に、私は言う。

「ありがとう、工藤君…でもいいのかしら?そんな風に決めちゃって…」
「うん!僕はいいよ。灰原がまだ迷っているなら、名前の本も兄ちゃん達から借りてくるよ!」
「ありがとう。」

そう言って、翌日も彼は病室にやって来て…蘭さんから借りて来た赤ちゃんの名前の本を持って来るなり、お互いに名前を必死に考えた。まだ成人してない私達に赤ちゃんはまだ早すぎたのかな?と思っていたけど…。

「良かったね、未熟児で産まれなくって…」

そう、彼の口から放たれた言葉に驚いた私は本に向けていた目線を彼に向ける。

「早かったかも…って思ったけど、この子灰原に早く会いに来たくて仕方なかったのかな?って…思ってさ……」

彼にそう言われて、私はすやすや眠っている我が子を見つめて言った。

「そうかもしれないわね…」

早いか遅いかなんて関係ない。この子が産まれたタイミングが、私達に会いたくて出てきた瞬間だと思うと、私は嬉しくてたまらなかった。

早く産まれたんだから、早めに名前を付けてあげないと…と、私達は命名に勤しんだ。

「あ、灰原…厚司の司って、つかさって読むよね!」
「え、ええ…」
「つかさはどうかな?」
「……いいわね、じゃあそれに加えて…勇司にしましょうか?」
「え!?」
「貴方みたいに、勇気を持った子に育ちます様に…」
「僕、勇気あるかな?」
「ええ…子供の頃はもじもじしていたかもしれないけど、警察官への道や子供の事…それから、私達の事も御両親に報告してくれたじゃない…それって、勇気出したって事なのよ?最近の貴方は、私達の為に色々してくれてるもの…感謝してる。」
「灰原…」

私がそう言うと、彼は嬉しそうに…だけど、照れくさそうに笑みを浮かべた。そして、私は司の文字を調べていき、ある事に気づいた。

「待って…司って、嗣にすると受け継ぐって意味らしいわ…お父さんの漢字を受け継ぐ名前になるわね。」
「うん!じゃあ…勇気も受け継ぐっていう意味も込めて"勇嗣(ゆうし)"に決定!?」
「ええ。」

私達はお互いに顔を見つめ笑みを浮かべた。彼はパァっと明るい表情を浮かべながらやっと名前を付けられた赤ちゃんを覗き込んで話しかけた。

「勇嗣~大きくなるんだぞ?」

そう言って、ニコニコしていた。私はふと思って、彼に聞く。

「勇嗣、抱いてみる?」
「え?いいの?」
「何言ってるのよ、貴方の子でしょ?」
「う、うん…」

そう言って、私の手伝いもあって工藤君はぎこちなくもあるけど…まだ小さくて目も開いてない我が子を初めて抱いた。

「本当に、小さいね…」
「貴方の子よ?」
「う、うん…」

勇嗣を抱きながら、緊張しているのが分かるくらい工藤君は顔を強ばらせて固まっていた。

「そんなに緊張しなくてもいいのよ?」
「だって、落としたら大変だもん…灰原、交代!」
「もう?まったく…」

息もできなかったくらい、固まってた工藤は自分の身体を解すように、息を吐いた。

「はあ~」
「息止めて抱くことないのよ…これじゃ、先が思いやられるわ…ね~?」

そう言って、私は工藤君から受け取った勇嗣に向かって声をかける。

「そんな事言ったって、しょうがないじゃない。初めてなんだから…」
「お兄さんは、もっと子供の頃から貴方の面倒見ていたのに…」

そう言う私の言葉に、一瞬工藤君は固まった。あの事かな?と、私は思いながら、工藤君に言う。

「知ってるわよ…」
「え!?何を?」
「とぼけないでよ…警察学校で、今はもう居なくなった同期生から、嫌がらせ…されていたんでしょ?」
「……」
「どうして言わないのよ!」
「言ったら、心配されると思ったし、自分で解決しようって思ったから…でも、兄ちゃん…灰原に言っちゃったんだ……」

私が知ってる事に、ムッとする工藤君に私は言う。

「お兄さんからじゃないわ!貴方が眠っていたあの日、先生から聞いたのよ。でも、お兄さんは貴方が倒れた事で、それが原因で倒れたのかと思って、貴方の事を私達に知らせに来た後すぐに警察学校に行って、事情を聞きに行ったり大変だったのよ」
「え、兄ちゃんが…」
「ま、違うと分かって安心したみたいだけど…でも、お兄さんには感謝しなさい…あなたの事になると、必死なのよ。昔からね…」

その時、抱いていた勇嗣がぐずりだし、私はゆさゆさと揺らしながら、ベビーコットへ戻しオムツを替え始めた。

「でも、お兄さんに過保護って言うと、困った様な顔するのは面白いけどね…」
「え、灰原兄ちゃんをからかってたの?」
「まあね~」

そう言って笑う私は、勇嗣のオムツを替え終わりシーツをかけ、工藤君を見ると言った。

「でもね…何かあったら、言って欲しいって言うのは本音。隠れて自分だけで解決しようとしないで欲しいの…後から聞かされた方が心配は大きいんだから…」
「う、うん…ごめん。あ、哀…」

名前を呼ばれ、私は心臓が大きく高鳴る。名前で呼ばれたのは、幼稚園ぶり。目を大きく開いて、工藤君を見る私に工藤君は言った。

「お母さんが、そろそろ灰原じゃ変だって言うから…って、おかしいかな?」

頬を赤く染めて、照れ笑いする工藤君に私は笑みを向ける。

「いいんじゃない?ちょっと呼びずらいみたいだけど…」
「うん。」
「そうそう、明日退院するの。写真、沢山撮ってはいたけど…あなたも撮る?」
「うん!撮る撮る!」

そう言って、彼は何枚も何枚も自分の携帯のカメラで撮り、収めた。明日から、また彼は警察学校に戻らなければならない。携帯は没収されてしまうけど、隙を見て携帯の写真は見させてもらう魂胆でいるらしい。

「灰原も僕の事名前で呼んでよ」

そう言う彼に私は断固として拒否した。

「いやよ」
「えー?何で?」
「絶対にい、や!」

今更恥ずかしくて呼べないのは私も一緒。でも、工藤君が勇気を持って呼んでくれた事、私は嬉しかった。優しい彼が提案し、二人で決めた勇嗣という名前。この子にどんな将来が待ち受けているのか分からないけど…甘えん坊に育つ事は、彼を見ればよく分かる。

そんな彼は、名前を呼ばなかった私の目の前で口を膨らませて不貞腐れていた。
8/13ページ
スキ