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✩.*˚哀とコナンと……③✩.*˚

「うっわ~可愛いね~蘭ねーちゃん!」

三月も終わりに近づいていた頃、蘭は子供を無事に出産した。

コナンを連れて病院にやってきた俺は産まれたばかりの赤ちゃんを見せてやると、満面の笑顔を浮かべて喜んでいた。

「よかったね、蘭ねーちゃん!」
「ありがとう。でも、男の子だと思ったら女の子だったなんて…」
「え?最初男の子だって言われてたの?」
「ううん。違うの、産まれてからのお楽しみと思って教えて貰ってなかったのよ…でも、お腹凄い勢いで蹴ってたからてっきり男の子だと思っていたんだけど…」

蘭は産まれる前のお腹の様子を思い出してクスッと笑うと再び口を開いた。

「元気な女の子に育ちそうね…」
「でも赤ちゃんてこんなに小さかったんだね!」

赤ちゃんを見て、目を輝かせるコナンを見て俺は一声言った。

「お前の方がちっちゃかったけどな」
「だって僕未熟児だったんだもん、しょうがないじゃん!」

そうコナンに言われて、コナンが産まれた頃は凄く小さかったのを思い出す。あの時は父さんも母さんも心配していたが、目の前のコナンを見てそんな心配は皆無だったと思わされる。

だけどあの頃、NICUで眠るコナンを見ていた俺に蘭は励ましてくれたんだったなと、思い出していた。

そして、テンションの上がったままのコナンは蘭に尋ねた。

「ねー、名前決めたの?」
「うん…鈴にしようかなって…」
「鈴?」
「うん…私と合わせると鈴蘭よ!って、どうかな?」

蘭はまだ俺に言ってなかったのもあり、俺に目線を向けると照れくさそうに聞いてきた。俺はその名前を聞き、笑顔を向けると言った。

「いいんじゃないか?蘭らしくて…」
「うん!僕もいいと思う!」

俺とコナンはそんな風に言ってやると、蘭は微笑みながら"よかった"と言って、安心していた。

その後蘭の両親や園子も見舞いに来ていて、少し賑やかになった病室の中色んな人に囲まれた鈴はすやすやと眠っていた。

小五郎のおっちゃんはコナンにとって少し苦手な存在の様で…おっちゃんから遠ざかる感じで鈴をしばらく眺めていた。

それに気づいたおっちゃんもわざとコナンに話しかけていて、コナンは苦笑いを浮かべて難を逃れていた。



時は流れ、五月になりアメリカの留学を終えた灰原さんは無事に帰国した。

「灰原!おかえり!」
「ただいま」

灰原が帰国した事を聞きつけて、俺と蘭とコナンは鈴を連れて阿笠邸を尋ねた。

玄関のドアが開かれ、灰原の姿を見るなりコナンは灰原さんに向かって元気よくただいまと叫んでいた。

そんな灰原さんはコナンを見て微笑みかけながら、家に招いた。

「蘭さん、産まれたんですね…おめでとうございます」
「ありがとう、哀ちゃん…ええ、無事に産まれたの。連れてきてもよかった?」
「ええ、もちろん」

中に通されながら鈴に目をやる灰原さんは安心したように微笑んでいた。

「工藤君からメールで聞いていたんですけど、こんなに小さかったんですね…」
「そう…コナン君から聞いてたのね」
「はい、もうそれは煩いくらいに。」

そう言われたコナンを見ながら俺は尋ねた。

「お前どんだけ送ってたんだよ」
「だって…可愛かったから」

コナンが鈴の写真を執拗に撮っていたのは知っていたのだが、灰原さんに見せてもらった写真メールを見て、俺と蘭は驚いていた。

「あんまり送ってくるものだから、勉強にならなくって…」

そう言って、悪戯な表情でコナンを見る灰原さんに見つめられ、コナンは口を尖らせていた。

「でも、赤ちゃんの写真見る度安心していたのは確かです。よかったですね」
「うん、ありがとう」

灰原さんにそんな風に声をかけられて、蘭は本当に幸せそうな顔をしていた。そんな顔を見て、俺も安心する。

俺達が来るまで元太くん達はパーティーの準備をしてくれていた様だったが、鈴を任された俺と元太くん光彦くんは準備が終わるまで鈴を見ていた。

本当はコナンも鈴をを見ていたかった様だが、"あなたはこっち"と灰原さんに強引に手伝う様に手を引っ張られていて少し残念そうに時より俺達の方を見ながら渋々手伝ってる様子だった。

そして、用意が出来た事を伝えられ、次々に料理がテーブルに運ばれた。

「落とさないでよ?」
「分かってるよ」

灰原さんにそう言われながら運ぶコナンを見て、もし二人が結婚したらコナンは尻に敷かれそうだなと思っていた。

「じゃあ、始めようか」

そう言う博士の言葉に、灰原さんも合流して卒業パーティーは始まった。

「みんな、卒業おめでとう」
「「ありがとう」」

俺達の祝いの言葉に五人の卒業生は笑顔でお礼を言っていた。卒業もそうだが…何より、灰原さんを交え、こうやって五人集まった事が嬉しいのだろう。

コナンもいつも以上に楽しそうにしている事が伝わってきていた。

そして、その後…灰原さんが居なかった間の学校の事や灰原さんがどんな風に留学先で過ごしていた事を報告しあっていた。

そして、灰原さんからもうひとつ報告を聞いて、俺達は驚いていた。

「合格したの。」
「え!?」
「薬剤師の資格取れたわ」

そう言って、灰原さんは合格通知を両手に持って皆に見せていた。

「哀ちゃんすごーい!」
「さすが灰原さん!」
「やるな~灰原、すっげーじゃん」

灰原さんの報告に、それぞれが祝福の言葉を投げかける中で、コナンだけは違った反応を見せた。

「え!?いつ受けたの?」
「えっと、2月よ」
「えー?僕聞いてないよ、何で言ってくれなかったの?」
「びっくりさせたかったし、あなたに言ったら余計な心配されかねないから」
「いいじゃねーか、コナン。受かってよかったな!」
「はい、ありがとうございます」
「哀ちゃんなら、大丈夫だと思っていたわよ」

そんなコナンを他所に、俺と蘭は灰原さんにそう声を掛けると、スっーと肩の荷が降りたように安心しきった顔をしていた。

でも、試験を受けた事を語る灰原さんの口から当日の不安な様子を知らされた。

「受かってみれば、安心するんだけど…試験を受けながら落ちたらどうしようって、不安だったのよ、これでも…100%自信があった訳じゃないもの…きっと大丈夫って、自分に言い聞かせながら解いていったの。じゃなきゃ、投げ出しそうで怖かった…でも、今は凄く安心出来るの。よかったって…」

灰原さんの言葉一つ一つに、たった1人で試験に立ち向かっていた日の不安な様子が伝えられた。

隣で聞いていたコナンの表情が曇っていたのは、灰原さんにも伝わっていた様だった。

「もう、試験終わったんだから…そんな顔しないでよ…」
「あ、ごめん…だって、灰原が大変だったのに、僕何も知らなくて。」
「あなたがそんな風に心配するから言えなかったのよ…心配され過ぎたら、受かるものも受からないわ」
「灰原~」

灰原さんの話を聞いて、自分の事の様に心配して不安な表情をするコナンに、灰原さんと同様、コナンには伝えなくて正解だったのかも知れないなと、俺は思っていた。

もしコナンが知っていたら、きっと…灰原さんが試験を受けた当日、心配でそわそわしたりして落ち着けないで騒いでいただろうから。

そして、話が落ち着いた所で最後に大きなケーキを食べ始めた。

「待ってました!」
「でっけーな」
「博士が頼んでくれたのよ、私達の為に…」

目を大きくして驚く面々を前に、冷蔵庫から出された大きなケーキを見て、灰原さんはそっと教えてくれた。

「凄いね、博士ありがとう!」
「ありがとう、博士!」

コナンと歩美ちゃんに続いて、元太くんや光彦君もケーキを前に嬉しそうに博士にお礼を言っていた。

「俺達の分までいいのか?博士…」
「いいんじゃよ、君らも可愛い子が産まれたんじゃし、お祝いじゃ」
「ありがとな、博士…」
「すいません」

俺達は博士に感謝しながら、次々へとケーキを頬張る。五人の卒業お祝いと、出産祝いを合わせてこの日合同パーティーとなった。

「美味しい」

ケーキを一口食べながら、そう灰原さんが呟くと、隣にいたコナンが灰原さんに声をかけていた。

「でも、よかったよ…灰原が合格出来て…」
「え?」
「おめでとう!」

コナンは屈託のない笑顔を灰原さんに向けて笑っていた。

「もう、ずるいんだから……」

コナンのそんな顔を見て笑う灰原さんだったが、コナンに掛けられた祝福の言葉に照れながら嬉しそうにしていた。

無事に帰国した灰原さんを交えての卒業パーティーで、俺は久しぶりの面々の顔合わせに安心していた。こいつらの子供の頃を思い出すと変わらない関係が続いてる事に安堵する。

相変わらずコナンをからかう元太くんや光彦君を中心に、歩美ちゃんや灰原さんは笑っていた。

もうすぐコナンの試験が始まるが、灰原さんがいるならきっと大丈夫だと願っている。いつか、皆が夢を叶えた時に集まる時が楽しみで仕方ない。

そして、俺は……蘭と一緒に新しく鈴を向かい入れたあの家で、少し賑やかになった家族をこれからも、築けあげようと思っている。
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