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✩.*˚哀とコナンと……②✩.*˚

「でも兄ちゃんは、何で小説家にならなかったの?」

一通り話が終わった時、コナンは俺が持っていた推理小説を見てぽつりという。

「え!?」
「お父さんの影響なら小説家になるんじゃ…」

その質問を聞き、俺はクスッと笑った。高校生の時、俺は同じ事言われた気がしたんだ。

あいつに……。

「あ、いや…昔同じ質問を蘭に言われてな…俺は推理小説を書きたいんじゃなくて探偵になりたかったから探偵の道を選んだんだ」

俺は子供の頃からその気持ちだけは真っ直ぐだった。その言葉をコナンに言うと、驚いていた。

「兄ちゃんは凄いよ、兄ちゃんが僕と同じ歳の時は僕の面倒見ながら勉強してたんでしょ?」
「ん?ああ、まあな。」
「それに、子供の頃からの夢をちゃんと叶えてるんだもん…」
「お前だって、これから叶えるんだよ!大丈夫。ちゃんと叶えられるさ!」
「僕…子供の頃から兄ちゃんとか色んな人に守られて育ったから……もし警察官になれたら、今度は僕が色んな人を守ってあげたいって思ってるんだ!でも……」

コナンの警察官になる意思は硬いように思えたが、何かがコナンの中で葛藤している様で……それが夢への道に素直に歩かせてくれない理由にもなっていた。

でもとにかく、コナンの夢が決まってよかったと安堵してる時…コナンは慌てて立ち上がって言った。

「そうだ、灰原にも言ってこなきゃ!」
「ああ、そうだな。」
「兄ちゃん、ありがとう!」
「そんな、慌てるなよ」

俺は急ぎ足で玄関に向かい靴を履き替えるコナンの背に向かって声をかける。

「だって、灰原心配してると思うし…いつまでも決めないでいたらあいつに怒られるから……」
「灰原さんは昔から怒ると怖いからな」
「じゃあね、新一兄ちゃん!蘭ねーちゃんにも言っておいてね」
「ああ!気をつけてな」
「うん!」

そう言って、俺はコナンを送り出した。夢へ一歩歩き出したコナンに……俺は少なからず安心していた。

だが、コナンの中で何かが引っかかってる事ではっきりと決めれずにいる事は薄々感じていて……後は、灰原さんに委ねようとコナンの走る後ろ姿を見て思っていた。






私は、工藤君が進路を決めてない事を知り、隣の家の工藤家へ向かっていた。

その時、彼はどこかに出掛けていたのか……走りながら私の名前を呼びながら掛けてくる声に反応し、私は振り向いた。

「灰原ぁ~」

その声の主の方へ顔を向けると、工藤君は何か決断したかの様な顔をして大きく手を振って私の方へ走ってきた。

「工藤君……どこか行ってたの?」
「兄ちゃんち!それでね、僕…警察官になる事にしたんだ!」
「………え!?」

唐突に何を言い出したのか、工藤君はまた突拍子のない事を言ってると思った私はその発言にポカーンとしていた。

「何を…言ってるの?」
「あ、でもね…警察官になるには、また離れ離れになるかもしれなくて…だから……」

私は工藤君のまだしっかり決められていない進路の事を察し、工藤君の手を引くと歩き出した。

「灰原?」
「とにかく来て!吉田さん達も心配してるんだから……」
「え!?あいつら来てるの?」

そう言って、私は工藤君を阿笠邸まで引き連れて行った。



工藤君の事が心配で集まってた面々に、工藤君の口から警察官を目指す事を聞かされた私達一同は当然の様に驚いた。

「「警察官!?」」

吉田さんや円谷くん小嶋くんは声を合わせて驚いていた。

「コナンが!?」
「大丈夫なの?コナン君…」
「大変ですよ?警察官になるって…」

心配する三人の視線が工藤君に突き刺さる中、工藤君は何やら躊躇する様な事があり、最後の決断が出来てない様子だった。

「お兄さんは何て言ってるの?」
「応援するって…」
「まったく、無責任な」

私はそう言うとパソコンに向かって少し調べてみた。

「…………なるほどね。私が留学終わって帰ってくる頃には、またお別れね…」
「だから、僕考えちゃって…」
「何言ってるのよ、全寮制と言っても休みの日には帰って来れるし、外出だってあるじゃない。10ヶ月もの間、警察学校に閉じ込められてるって訳じゃないのよ?」
「え?僕家から通うつもりだけど…」

私の説明に何も分かってない工藤君はぽつりと言う。

「無理ね」
「え、何で?」
「全寮制と決まってるらしいわよ、自宅から通う事は出来ないらしいわ。門限は7時位みたいだし…相当厳しいみたいね…」
「え……じゃあ僕やっぱり他の職業にしようかな」

警察学校の詳しい詳細を伝えると、工藤君は面食らった顔をしながら……さっきまで決めていた夢を簡単に翻しそんな事をぽつりと言う。

私は少し怒り気味にパソコンの前に座っていた椅子から立ち上がり、工藤君に迫ると言い放った。

「もうっ!何言ってるの?一度決めた事でしょ?今更別の進路にするなんて信じられない!」
「だって…」
「ずっと帰れない訳じゃないのよ、いいじゃない寮に入るくらい」
「でも、なかなか帰れないんでしょ?灰原が留学から帰ってきても会えないじゃん」
「だから、週末に帰れるって書いてあるじゃない!」
「でも……」

大きな声で口喧嘩をする私達を見て、博士も吉田さん達もどうすればいいか不安な思いで見守っていた。でも、これは私達の問題。工藤君はきっと私とまた離れ離れになる事を心配して決断出来ないでいることを、私は知っていた。

これだけ言ってもまだグチグチ言ってる彼に私は嫌味と笑みを込めて言った。

「でもまあ、貴方みたいな甘ったれには、丁度いいかもね~警察学校で根性叩き直されて来れば?でもその前に公務員試験に合格しなければ話にならないけどね……」
「酷いよ灰原…」

警察官になるにはこんな現実が突きつけられると知った工藤君に…私はあえて突き放した。思った通り、工藤君は項垂れていたけど、このままじゃ、工藤君の為にならないと思った私は…工藤君の目を見て言い放った。

「やると決めたらちゃんとして。途中で逃げ出したら私は許さないわよ?」
「うっ…分かったよ」

そんな私達を見ていた吉田さん達は決着が着いたのを知ると安心していた。子供の頃から喧嘩しながら育った私達。決着の付け方も知っていた。

「コナン君は哀ちゃんの事大好きなのよね~」

吉田さんにそう言われ、顔を赤らめていた彼を見ながら私は思う。私だって、平気な訳じゃないのよ。日本に逃げ出したいと思う事何度もあった。

だって、一人だし皆とも会えないし…工藤君にだって会えないんだもの。

唯一の救いである彼からのメールを期待していたのに、全然送ってくれない事に少し不満はあったけど…彼が気を利かせて送らなかったことを聞かされ、彼の優しさを感じていた。

この二年間…一生の内では短いけど、こうして皆と会えない間は長いんだって事、留学して身にしめて感じていた。

「今度はちゃんと送ってよね、メール…待ってるから」
「うん、送るよ!」

そう笑顔を向ける彼に私は微笑み返す。それを見ていた博士がそろそろおやつにしようと声をかけていた。

昔の様にこうして集まって博士が作ってくれたクッキーを頬張りながら、円谷くんは笑いながら言う。

「でも、あんな泣き虫だったコナン君が警察官になるなんて想像出来ませんよ~」
「本当本当~警察学校では泣いちゃダメだよ?コナン君!」
「な、泣かないよ…」
「逆に先生を泣かせるんじゃねーの?」

そう言って、皆にからかわれながら一緒に笑っていた。私はクッキーをかじりながら、工藤君に静かに言った。

「工藤君、私もお兄さんの様に…応援してるから、頑張ってよね」
「うん、ありがとう灰原!」
「でも、あまり危険な事はしないでよ?貴方まで居なくなったら、悲しいもの。」

そう話すと、子供の頃に寂しい思いをした私の心を察してくれてる様に、静かに頷いた。

「……うん。」

そう頷いただけだけど…工藤君はクッキーを頬張りながら、遠い目をしていた。私達に待ち受ける未来がどんな風になるのか分からないけど…きっと、我慢して頑張った分だけ…会えない分だけ、素敵な未来が待ってると私は信じている。

子供の頃に戻ったみたいに、私達はこうして今でも博士の家に集まっている。

そこには、今まで消しても消えなかった友情の証が刻まれていた事…この場にいる暖かい気持ちに酔いしれる度に…そう、思えていた。
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