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✩.*˚哀とコナンと……②✩.*˚

数日後……。

私は自分の部屋で留学のため、荷物の整理をしていた。

あれから、工藤君には会っていない。

というのも、元気になるまで私は会いに行くのを控えていた。

工藤君の体調を気にしつつも、私は着々と荷物をダンボールに仕舞い込んでいた。




暫くして、部屋の扉を叩く音に反応して返事をする。

「灰原っ!」

その主は、工藤君だった……。

笑顔を向けながら、招き入れる私の側に座って…工藤君は黙って荷物をダンボールに仕舞うのを手伝ってくれる。

「この間は、ごめんな……風邪が治った後、お父さんとお母さんに怒られたんだ……」
「えっ!?」

その言葉に、私は驚いて工藤君を見つめる。

今まで、怒られたっていう話をあまり聞くことがなかった私は…耳を疑う。

「仕方ないよ…僕、灰原の夢を素直に応援する事出来なかったし……」

彼は、そう言って静かに俯く。

「僕、待ってるよ……灰原が帰ってくるのを……だから、頑張って!」
「工藤君……うん!!」

私は嬉しい。

そう、素直に思えた。

だから、私は工藤君に笑顔を送った。

私の笑顔を見て、工藤君も笑顔を向けてくれていた。

「工藤君、いきなりごめんなさいね……こんな事、突然決めてしまって……」
「そんな、僕の方こそ……」
「いいえ……だって、私達…3歳から、ずっと一緒にいるのよ!戸惑ってしまうのは仕方ないわ!」
「灰原……」

私は、荷物に視線を移しながら…工藤君にそう言った。

私達は、いつだって一緒だった…小さい頃から、お兄さんに二人揃って面倒見てもらいながら、ここまで育ってきた。

だから、ずっと子供の心のまま、大人になるんだと、子供の頃はずっと思っていた。

でも、高校生になった今は…二年弱だけど、離れる事になってしまったのがとても辛かった。

私だって、行くのが平気な訳じゃない…何度も何度も考えて決断した結果がこれだった。

結果的に、工藤君を悲しませる事になってしまったけど…私は、きっと工藤君が変わらない心で待ってくれると信じている。

「工藤君…ありがとう、でも…ごめんなさい……必ず、しっかりやり遂げて帰ってくるわ……それまで、待っててね!!」
「当たり前じゃないか!!」

そうして、私達は見つめあった……。

視線が重なるに連れて、自然とお互いの身体が寄り添い……お互いの顔が近づく瞬間、私は瞳を閉じた。

そっと、唇が触れ合う時……。

私も工藤君も、お互いを信じられた瞬間に触れられたんだと、この時そう思った。

優しい気持ちで、暫くくちづけをかわした後……瞳を開けた私に、工藤君が言う。

「行ってらっしゃい…灰原!!」
「行って来ます……」

頬を赤く染めながら、私を送ってくれる工藤君の優しさが嬉しかった。

工藤君の胸の鼓動を感じながら、私も…自分の鼓動を気づかれるんじゃないかという思いで、恥ずかしさでいっぱいだった。


そのあと、照れながら…荷物をダンボールに詰めるのを再開する工藤君に、私は呆れて言う。

「もうっ!照れるんなら、最初からやらなければいいのに!」
「別にっ!!照れてなんか……」
「ありがとう!」

ぷいっと横を向いて訂正する工藤君に、私はちゃんとお礼を言った。

留学を許してくれた…認めてくれた工藤君に、心を込めて。






そのあと、お兄さんや蘭さんに色々迷惑掛けた事を謝りに行き……出発の日にちを伝えた。

工藤君が認めた事を多少驚いていたけど、お兄さんも蘭さんも…私達が帰路に着く時、笑って見送ってくれた。

でも、当日は恥ずかしいからという、私の意見で…見送りは博士の家までにしてもらった。

空港まで送ると言って聞かない工藤君を説得するのが大変だった事は、言うまでもない……。



「じゃあ、行って来ます!!」

9月になり…私は工藤君や工藤君のお母さん、お兄さん…そして、蘭さんに見送られて、私は博士の車に乗り込んだ。

「灰原…やっぱり、僕も……」
「ダメよ!付いてこないで!!」
「くっ…」

私はあれだけ言ってもまだ付いてこようとする工藤君を、突き放した。

「ほら、コナン…もう、諦めろっ!!」

お兄さんは、私の気持ちを汲んでくれ…工藤君を止めてくれた…。

「気をつけてね、哀ちゃん!!」
「頑張れよ!」

蘭さんや工藤君のお父さんに応援の言葉を掛けられながら、私は笑顔を返しながら、頑張ることを誓った。

「じゃあね、工藤君!!」
「うん……」
「もう、そんな顔しないでよ!!」
「ごめん……頑張って!!」

悲しそうな表情を無理やり笑顔に変えた工藤君は……私に精一杯の言葉をくれた。

「行って来ます……」

私は集まってくれた皆にそんな言葉を投げると、博士の運転する車で空港に向かった。

いつまでも、手を振り続ける工藤君の姿を…サイドミラー越しに見つめると、嬉しさのあまり…何だか涙が零れた…。

そんな私の様子を心配そうな表情で見つめる博士に私は言った。

「大丈夫……」
「もしかして、哀君……」
「バレた?そうよ、空港まで送られたら…涙が止まらなくなっちゃうもの……ここでいいのよ!!」

私は一雫流れた涙を拭いながら、段々小さくなって行く工藤君の姿をサイドミラー越しに見つめていた…。

“行って来ます”

私は心の中でもう一度工藤君にそう言うと、博士の車が曲がり角を曲がり……サイドミラーから工藤君の姿を消した。

暫く帰って来れない米花町を目に焼き付けて、私はアメリカへと旅立った。
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