あいつが死んだ日のこと
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『##NAME2####NAME3##』
それが今は亡き親友の名だ。俺達は『やす菜』と呼んでいた。
組は俺と同じい組で、長屋の部屋も俺と同室。
成績は教科・実技共にとても優秀で、三郎と並ぶ天才と言われていた。
明るく気さくで、たまに、三郎と共に悪戯をしていたりしていたがなんだか憎めなくて、同学年のみならず先輩・後輩からも慕われていた。そんなやつだった。
…あいつが死んだ日のことは数ヶ月経った今でも鮮明に覚えている。
夜中に、「少し出掛けてくる」と言って部屋から出て行った。
以前から度々こういう事はあった。
学園側はこのことを知っていて容認しているようだったし、やす菜は大抵翌日、遅くても数日で帰ってきていたので俺も深くは追求しなかった。
気になっていなかったと言えば嘘になるが、いつの間にか帰ってきて、何事もなかったようにいつも通り笑っているあいつを見ると「まぁ、いいか」という気になってしまうのだ。
その日も、用が済んだらすぐに帰ってくるのだろうと思っていた。
だが、違った。
数日経っても、十日を過ぎても、あいつは帰ってこなかった。
帰ってきたのは、一ヶ月後。
門の前で倒れていたのをヘムヘムが発見したらしい。
俺達が医務室に駆けつけた時に新野先生と善法寺先輩に手当てされていたあいつは忍術学園のものではない黒い忍装束を着ていて、その装束は所々血が滲んでいた。
「へ…すけ…」
呻きながら俺の名前を呼ぶやす菜の側に駆け寄り手を握るとやす菜は少し反応し、俺の方を見た。
「へい…すけ?」
「ああ」
「私達もいるぞ」
三郎達もこちらに来て俺から少し下がった所に座った。
「…さぶろ…らい、ぞ…はち…」
やす菜は俺の後ろにいる三郎達に視線を向けた。その目は少し虚ろで、微妙に焦点が合っていなかった。
握っていたやす菜の手に少し力が入る。やす菜が微かに俺の手を握り返していた。
「よかっ…た…俺、帰っ、て…これ、たん…だ…」
やす菜は目を閉じて、心から安堵したように微笑み、息を吐いた。
「おい、やす菜!!何があった!?」
「全てを話せ!!」
「ちょっと、二人とも!!まずはやす菜の回復を待たないと…」
「…悪いな…三郎…それ、無理っ、ぽい…」
「何故「げほっ」…!?」
やす菜が咳き込むと同時に…吐血した。
「血!?」
「やす菜!?」
「刺さった矢に、毒が塗ってあったんだ…」
「新野先生!すぐに解毒剤を」
「無駄だ…」
ゴホッと再び咳き込みながらやす菜が言った。
「無駄…?」
「…俺は…生まれたとき、から…ありと、あらゆる、毒の耐性を…付けてきた…並の毒は…効かない…」
「…それじゃあ…」
「…これは、相当…やばい毒って…ことだ…」
俺達は揃って新野先生と善法寺先輩を見た。
二人とも、浮かない表情をしている。
「…新野先生と…彼の手当てをしながら矢に塗られていた毒を調べたんだ…そしたら…」
「私の、見たことのない毒でした…恐らく、薬物・毒物に通じた者が独自に開発したものと…」
「…それじゃあ…」
「…調べて、解毒剤を造るのには、時間が掛かってしまう」
「「「「!!?」」」」
「…多分…それまで、保たないな…新野先生」
ヒュウッとやす菜が呼吸をする度に喉が鳴る。
…相当、苦しいのではないだろうか…それでも、やす菜の眼には強い光が宿っていた。
「俺の体を調べ上げて、なんとしても…解毒剤を造って下さい…もう、この毒で…誰かが、死なないように…」
「##NAME3##君…」
「おい、待てよ…それじゃあ、お前はどうするんだよ!」
「言ったろ…俺は、もう保たないって…ぅっ」
ゴホッゴホッとやす菜が咳き込む。
「やす菜!!」
「…解るんだ…この毒は…少しずつ…でも…確実に、俺の命を蝕んでいる…もう、目も…ほとんど見えて、いない…んだ」
「そんな…!!」
「な…こんなこと言うと…笑、われる、かも…しれないん…だが…」
「…何だ?」
「…まだ、生き、て…いた…かっ、た…な」
「っ!!」
「俺…死ぬの…覚悟、してた…つもり…だったん、だけ、ど…いざとなると…死ぬの…や、だなぁ…」
「何…言ってんだよ…」
ギュウッと握っている手に力が入る。
「何、弱気になってるんだよ!!やす菜!!死ぬとか言うなよ!!」
「そうだよ!!」
後ろにいた雷蔵達も身を乗り出してやす菜の顔を覗き込む。
「死んじゃ嫌だよ!!やす菜!!大丈夫!!きっと助かるって!!」
「そうだ!!死ぬなんて許さないぞ!!やす菜まだ…お前と私との勝負の決着、ついていないじゃないか!!悪戯だって、お前が居なくなったら面白さ半減だ!!」
「それに、お前言ってたじゃないか!!春になったら、みんなで花見をしようって!!」
「夏になったら海に行って西瓜割りをして、」
「山にも行って虫取りをして…」
「秋になったらお団子食べながらお月見をして…」
「冬にはかまくら作って雪合戦…」
「学年が上がって、授業はきつくなるかもしれないけど…みんなでたくさん思い出作ろうって…言ってたじゃないか!!」
「ああ……楽、しいこと…これから、たっく、さん…あっ、たのに…な」
ヒュウ…と音が鳴る。
「…せめて…学園に居る間くらいは…お前らと…一緒に、居た、かったよ…」
「……やす菜」
「お前らと会えて…友達になれて…本、当に…よかっ…た…」
『ありがとう』
…最後に、唇がそう動き、やす菜は目を閉じた。
俺の握っていた手から、力が抜ける。
「##NAME4##…##NAME5##…?」
名前を呼びかけた。だが、あいつは何も反応しなかった…
「おい…嘘だろ!?」
「やす菜!?おい!やす菜!!」
「目を開けろよ!!やす菜!!」
みんなで声を掛けても、あいつが目を開けることはなかった。
新野先生がやす菜の首に手を当て、瞼を上げて眼球を見た。
「新野先生…」
「…………」
新野先生はやす菜から手を離し、首を横に振った。
「嘘だ…嘘だぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!!!」
ハチが、学園中に聞こえるんじゃないかと思うくらいの叫び声を上げた。
あいつが死んだ日のこと
声を上げながら、ハチが泣いた。
顔を手で覆い、しゃくり上げながら、雷蔵が泣いた。
唇を噛み締め、声を出さないように、三郎が泣いた。
でも…
俺の目から、涙は出なかった…
それが今は亡き親友の名だ。俺達は『やす菜』と呼んでいた。
組は俺と同じい組で、長屋の部屋も俺と同室。
成績は教科・実技共にとても優秀で、三郎と並ぶ天才と言われていた。
明るく気さくで、たまに、三郎と共に悪戯をしていたりしていたがなんだか憎めなくて、同学年のみならず先輩・後輩からも慕われていた。そんなやつだった。
…あいつが死んだ日のことは数ヶ月経った今でも鮮明に覚えている。
夜中に、「少し出掛けてくる」と言って部屋から出て行った。
以前から度々こういう事はあった。
学園側はこのことを知っていて容認しているようだったし、やす菜は大抵翌日、遅くても数日で帰ってきていたので俺も深くは追求しなかった。
気になっていなかったと言えば嘘になるが、いつの間にか帰ってきて、何事もなかったようにいつも通り笑っているあいつを見ると「まぁ、いいか」という気になってしまうのだ。
その日も、用が済んだらすぐに帰ってくるのだろうと思っていた。
だが、違った。
数日経っても、十日を過ぎても、あいつは帰ってこなかった。
帰ってきたのは、一ヶ月後。
門の前で倒れていたのをヘムヘムが発見したらしい。
俺達が医務室に駆けつけた時に新野先生と善法寺先輩に手当てされていたあいつは忍術学園のものではない黒い忍装束を着ていて、その装束は所々血が滲んでいた。
「へ…すけ…」
呻きながら俺の名前を呼ぶやす菜の側に駆け寄り手を握るとやす菜は少し反応し、俺の方を見た。
「へい…すけ?」
「ああ」
「私達もいるぞ」
三郎達もこちらに来て俺から少し下がった所に座った。
「…さぶろ…らい、ぞ…はち…」
やす菜は俺の後ろにいる三郎達に視線を向けた。その目は少し虚ろで、微妙に焦点が合っていなかった。
握っていたやす菜の手に少し力が入る。やす菜が微かに俺の手を握り返していた。
「よかっ…た…俺、帰っ、て…これ、たん…だ…」
やす菜は目を閉じて、心から安堵したように微笑み、息を吐いた。
「おい、やす菜!!何があった!?」
「全てを話せ!!」
「ちょっと、二人とも!!まずはやす菜の回復を待たないと…」
「…悪いな…三郎…それ、無理っ、ぽい…」
「何故「げほっ」…!?」
やす菜が咳き込むと同時に…吐血した。
「血!?」
「やす菜!?」
「刺さった矢に、毒が塗ってあったんだ…」
「新野先生!すぐに解毒剤を」
「無駄だ…」
ゴホッと再び咳き込みながらやす菜が言った。
「無駄…?」
「…俺は…生まれたとき、から…ありと、あらゆる、毒の耐性を…付けてきた…並の毒は…効かない…」
「…それじゃあ…」
「…これは、相当…やばい毒って…ことだ…」
俺達は揃って新野先生と善法寺先輩を見た。
二人とも、浮かない表情をしている。
「…新野先生と…彼の手当てをしながら矢に塗られていた毒を調べたんだ…そしたら…」
「私の、見たことのない毒でした…恐らく、薬物・毒物に通じた者が独自に開発したものと…」
「…それじゃあ…」
「…調べて、解毒剤を造るのには、時間が掛かってしまう」
「「「「!!?」」」」
「…多分…それまで、保たないな…新野先生」
ヒュウッとやす菜が呼吸をする度に喉が鳴る。
…相当、苦しいのではないだろうか…それでも、やす菜の眼には強い光が宿っていた。
「俺の体を調べ上げて、なんとしても…解毒剤を造って下さい…もう、この毒で…誰かが、死なないように…」
「##NAME3##君…」
「おい、待てよ…それじゃあ、お前はどうするんだよ!」
「言ったろ…俺は、もう保たないって…ぅっ」
ゴホッゴホッとやす菜が咳き込む。
「やす菜!!」
「…解るんだ…この毒は…少しずつ…でも…確実に、俺の命を蝕んでいる…もう、目も…ほとんど見えて、いない…んだ」
「そんな…!!」
「な…こんなこと言うと…笑、われる、かも…しれないん…だが…」
「…何だ?」
「…まだ、生き、て…いた…かっ、た…な」
「っ!!」
「俺…死ぬの…覚悟、してた…つもり…だったん、だけ、ど…いざとなると…死ぬの…や、だなぁ…」
「何…言ってんだよ…」
ギュウッと握っている手に力が入る。
「何、弱気になってるんだよ!!やす菜!!死ぬとか言うなよ!!」
「そうだよ!!」
後ろにいた雷蔵達も身を乗り出してやす菜の顔を覗き込む。
「死んじゃ嫌だよ!!やす菜!!大丈夫!!きっと助かるって!!」
「そうだ!!死ぬなんて許さないぞ!!やす菜まだ…お前と私との勝負の決着、ついていないじゃないか!!悪戯だって、お前が居なくなったら面白さ半減だ!!」
「それに、お前言ってたじゃないか!!春になったら、みんなで花見をしようって!!」
「夏になったら海に行って西瓜割りをして、」
「山にも行って虫取りをして…」
「秋になったらお団子食べながらお月見をして…」
「冬にはかまくら作って雪合戦…」
「学年が上がって、授業はきつくなるかもしれないけど…みんなでたくさん思い出作ろうって…言ってたじゃないか!!」
「ああ……楽、しいこと…これから、たっく、さん…あっ、たのに…な」
ヒュウ…と音が鳴る。
「…せめて…学園に居る間くらいは…お前らと…一緒に、居た、かったよ…」
「……やす菜」
「お前らと会えて…友達になれて…本、当に…よかっ…た…」
『ありがとう』
…最後に、唇がそう動き、やす菜は目を閉じた。
俺の握っていた手から、力が抜ける。
「##NAME4##…##NAME5##…?」
名前を呼びかけた。だが、あいつは何も反応しなかった…
「おい…嘘だろ!?」
「やす菜!?おい!やす菜!!」
「目を開けろよ!!やす菜!!」
みんなで声を掛けても、あいつが目を開けることはなかった。
新野先生がやす菜の首に手を当て、瞼を上げて眼球を見た。
「新野先生…」
「…………」
新野先生はやす菜から手を離し、首を横に振った。
「嘘だ…嘘だぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!!!」
ハチが、学園中に聞こえるんじゃないかと思うくらいの叫び声を上げた。
あいつが死んだ日のこと
声を上げながら、ハチが泣いた。
顔を手で覆い、しゃくり上げながら、雷蔵が泣いた。
唇を噛み締め、声を出さないように、三郎が泣いた。
でも…
俺の目から、涙は出なかった…