見晴らしのいい丘の上。その頂上には一本の大きな山桜が満開とは言わないが、八分咲き程に蕾を綻ばせていた。
俺、久々知兵助は級友である八左ヱ門・雷蔵・三郎と共にそれぞれ菓子などを持ち寄ってこの桜の木の下で花見をしていた。

「俺達、五年生になったな」

雷蔵の持ってきた団子を食べながらハチが言った。
いつものように柔らかな笑みを浮かべながら、「そうだね」と雷蔵が頷く。

「皆で無事に五年生になれたな…あいつ以外は」

その三郎の言葉に雷蔵は悲しげに微笑み、ハチも沈痛な面持ちで「ああ…」と言った。俺は、表情を動かさなかったが少しだけ反応した。

三郎の言った“あいつ”とは、俺らと仲が良かったの同級生だ。
俺の入学当初からの親友だった…

「俺、さ…」

再び、ハチが口を開く。

「未だに、信じられないんだ…あいつが、死んだってことが…」
「「「……………」」」

俺も、雷蔵も、三郎も、何も言わなかった。

四年生の冬――今から数ヶ月前だ――にあいつは死んだ。
今日、俺達が花見をしているのは、あいつへの弔いだったりする。
学園全体を見渡せるこの丘が、あいつは好きだったから…

「…嘘つきめ」

三郎達に聞こえないように、ボソリと呟く。
時々、あいつは何処か遠くを見つめているようなときがあった。
そのまま、消えてしまうんじゃないかと不安になった俺に、勝手に消えたりしないと言ったのに…



もう、この世のどこにも、

お前はいないじゃないか…



死んだ奴に、無駄だと解っているが心の中で悪態を吐く。
団子でも食べようと、手を伸ばしたその時

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

どこからか、人の叫び声が聞こえてきた。
辺りを見回しても、誰もいない。まさかと思い、上を見ると…

…誰かが上から落ちてきていた。

「え、人!?」
「何で人が空から!?」
「!?兵助!!危ない!!」

人は、丁度俺の真上に落ちて来た。
とっさに受け止めようとしたが、勢いに負けて一緒に倒れ込んでしまった。

「おい！兵助!?」
「大丈夫か!?」

三郎達が俺を心配して声を掛けていた。

「うっ…」
「いったたたたたた…っ」

俺の上に落ちてきた誰かが、ゆっくりと起き上がる。

「…女の子？」

心配そうにこちらを見ていた雷蔵が呟く。
落ちて来たのは美しい長い黒髪の女の子だった。

「いってぇ！超いってぇ!!ったく、やるならもうちょい、丁寧にやってくれよなぁ…」

俺の上で、頭を抱えて痛がる女の子。
さらり、と長い髪の間から顔が垣間見えた。

「………!?」

それに、俺は息を呑んだ。




空から落ちて来た女の子



(少女の顔は、死んだあいつに瓜二つだった…)