どうも俺はいつもみんなよりも出来事と遭遇するのが遅い気がする。






思えばあの日も俺は一人用事があって学園にはいなかった。
そのせいで、俺は幸か不幸か、友の死に際に立ち会えなかった。




数ヶ月程前、そいつ―――やす菜は何処かへ出掛けた。
そういったことは学園に入学してそいつと知り合ってから度々あって、その時もいつもと同じように兵助にちょっと出掛けてくると言って部屋を出て行ったらしい。
その出掛ける用事の内容は詳しく俺達はよく分からないけれど、いつものようにその内帰ってくるだろうと思っていた。

だが、一週間経っても二週間経ってもそいつは帰ってこなかった。こんなことは初めてだ。
「何かあったんじゃ…」と雷蔵が心配しはじめ、八左ヱ門が「あいつのことだからそのうちひょっこり帰ってくるって！」と安心させるように言う。だが、八左ヱ門自身も心配そうな顔だ。
鉢屋は一緒に悪戯を働く共犯者が居なくて退屈そうな顔をしているし、やす菜と一番中のいい兵助は一見なんとも思ってなさそうだが寂しそうだ。長年付き合ってきた俺にはお見通し。
かく言う俺も、やす菜が居なくて寂しい。
居るときは鉢屋の悪戯に協力してさらに被害を拡大したり、かと思えば一人でも何かしらやらかしたりして騒動を起こしたりするちょっと困ったりする奴だが、居ないとものすごく物足りない。

鉢屋が何かやらかす。
やす菜が事をさらに大きくする。
八左ヱ門がそれを全力で追い掛けて、雷蔵も慌てながら二人を止める。
それを見て俺は「またかー」と笑い、兵助はどこ吹く風で後で八左ヱ門と雷蔵のお説教を受けている二人を横目で見ながら「懲りないよな…」と呆れて溜息を吐く。



それが、俺達六人が出会ってからの日常。
これが、あたりまえ。

そうだろう？やす菜
いつまでもお前が欠けていちゃあつまらない。だから、早く帰っておいで。
でないと兵助が萎れてしまうよ。
お前が居ると居ないのとでは大好物の豆腐を食べていているときの様子が違うんだ。
本当に、兵助はやす菜が大好きなんだから。
もちろん、俺や、他の仲間達も、やす菜の事が好きだけどね。



やす菜が出掛けてから三週間ちょっと経った頃、俺は学園からお使いを頼まれ、しばらく留守にすることになった。


そしてその出掛けていた数日の間に全てが終わってしまっていた。

「おかえり。勘右衛門…あのね、落ち着いて聞いて…






やす菜が…死んだ」


「…………え？」

雷蔵の口から信じられない言葉が聞こえた。
…死んだ？やす菜が？
嘘だろう？と言いたかったが、泣きはらした顔の雷蔵を見ると嘘を言っているとは思えない。
詳しく話を聞くと、俺が出掛けた次の日にやす菜が帰ってきたのだがやす菜は毒に犯されていて新野先生の手当の甲斐も虚しく息を引き取ったそうだ…
そして、その亡骸は暫く学園で安置した後、親族が引き取っていったそうだ。
…仲間達はみんなやす菜の死を看取った。
だが、俺はやす菜の死に顔すら見ることが出来ない。



だから、俺の頭の中に残っているのは息をしていないやす菜の安らかに眠った顔ではなく、元気なやす菜の笑顔。


だからだろうか…俺の中ではやす菜はまだ死んでいない。

みんながやす菜は死んだと言う中で、俺だけが心の何処かでやす菜はその内帰ってくると思っていた。







…どうやら、その思いは正しかったらしい。





「勘ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

今日はみんなでやす菜の弔いも兼ねた花見をやることになっていた。
だが、またしても俺は先生に用事を頼まれてしまい、少し遅れてしまった。

すると、どうだろう？

見たことのない子がいる。

その子が俺の方を見た。



…それは、みんなが死んだと言っていたやす菜だった。


俺の名前を呼びながら勢いよく飛びついてくるやす菜
…うん。やす菜だ!!
短かった髪は長くなってて、
見たことのない服も着ていて、
体が少し小さくなっているけど、



これは間違いなく、友の##NAME2####NAME3##だ!!


だってほら、笑った顔が思い出の中のままだ!!



「…おかえり。やす菜」
「!?勘ちゃん…いきなり飛びついておいてなんだけど…俺が##NAME2####NAME3##だってわかるの!?」
「わかるさ…だって、やす菜じゃないか。少し、前とは変わっているけど…」
「～～～～～勘ちゃぁぁぁん」

首に手を回して、ひっしと抱きついてくる。
俺も背中に手を回して抱き締めた。


「随分と長かったね…おかえり。やす菜」
「うん。ただいま！勘ちゃん」





ようやく全員勢揃い