生まれ変わるなんて絵空事だとわかっていた



それでも、また会えたらいいな。と思っていたから…



例え、死んでしまっても…



みんなとまた、巡り会えたら…それは、とても嬉しいことだと思う。










…なぁ、兵助……俺達、また会えるかな？






どんどん自分が死に近付いて行くのを感じながら、俺は思った。


本当は声に出して言いたかったけれど、やめた。



だって…あまりにも夢見過ぎている。



目もどんどん霞んできて、みんなの顔をハッキリと見ることが出来ない…

でも、気配で誰がいて、どんな顔をしているのかは、何となくわかった。
幼い頃から今まで、伊達に忍者として修行してきた訳じゃないな。




…勘ちゃんがいない…
お使いか何かだろうか？
他のみんなはいるのに、勘ちゃんだけいないのはなんだか寂しいな…
…死ぬ前に一度、会っておきたかった。

この場にいる他のみんなは、忍者の卵だというのに、感情を抑えて隠すことなく“悲しい”と気配で全面的に表して、口でも必死に、俺に「死ぬな」と言っている。




…嬉しいなぁ…

俺の死をこんなに惜しんでくれるなんて…


…悲しいなぁ…

優しいお前らを、俺のせいで泣かせてしまうんだ…




すべて、済んだと思ったんだ…
もう、終わったと思ってたんだ…

とても長かった忍務。
仕事の仲間達と数ヶ月かけて下準備をし、最後、一ヶ月で仕上げに掛かった。


…完璧だと、思っていたんだ…


怪我を負いつつも、１人の犠牲者も出すことなく、忍術学園に危害を加えようとする輩を再起不能になるまで、徹底的に叩きのめした。


…俺が大好きな、忍術学園。
あの優しい箱庭は守られた。

そのことに、安心しきっていたんだ…



さあ、帰ろう。学園へ
大好きな友が待っている。

そう思って、俺はその場から離れようとした。









――――闇の中から、矢が飛んで来て、俺の背に刺さった。

反射的に持っていたクナイを、矢が飛んできた方向に投げた。
少しして「ぐぁっ」という声と共に、どさっと大きなものが地面に落ちる音が聞こえた。
…どうやら仕留められたらしい。
その直後に驚きと痛みがやって来た。

…敵の最後の悪あがきだった。
油断していた…もう敵は誰も立ち上がるまいと思っていたのに…

ぐらり、と視界が揺れた。
…毒だ。矢に塗ってあったのだろう。

うかつだった…気を抜いてしまった、俺の落ち度だ。


「……………」

俺は無言で駆け出した。



帰ろう
あの優しい学舎へ

帰ろう
大好きなあいつらのもとへ

帰ろう
この毒が全身を全身を回りきってしまう前に




帰るんだ!!


この命が尽きてしまう、その前に…!!







それから、俺はどうやって学園に辿り着いたかは覚えていない。
無意識に、ただ、がむしゃらに駆けた
毒に犯されながらも帰ることの出来た自分を、褒めてやりたいと思った。

だが、やっぱり俺は戻ってこなかった方が良かったのかも知れない。

だって…みんな泣きそうだ…




俺が帰ってきたかったのはまたみんなと笑い合いたかったからであって、みんなを泣かせたかったわけじゃないのに…



ああ…俺ってなんて酷い奴なんだろう…



ごめんな…
俺が弱かったばっかりに…

ごめんな…
俺がうかつだったばっかりに…



本当…ごめんな…



お前らが、こんな酷い俺を嫌いになっても仕方ない。

でも、どうかこれだけは覚えてて…


俺はお前らが、大好きだ。


お前らと過ごした時間は、本当に楽しかった…


最期に、『ありがとう』と口を動かす。
…ちゃんと、声に出せただろうか…？


そう思うと同時に、俺の意識はぷっつりと途切れ、肉体も生命活動を止めた。







さようなら。また、会う日まで…





(そんな日が来なんて、わからないけれど、それでも…)
(そんな日が来ると夢見て…)