潮江くんの妹
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会計委員会と他の委員会との間で起こる合戦―――――予算会議
委員長の六年、もしくは委員長代理の五年を筆頭に、会計委員長・潮江文次郎に予算の請求をする。
だが、会計委員長は他の委員会の要求する予算を易々と渡さないため、予算会議の場は激化し、戦場となる。
今日も、怒号と物が飛び交っている。
が…
今日はいつもと違った。
会議の行われている部屋にある緑・青紫・赤紫・萌黄・青・水色の中に、桃色が降り立った。
普段、この予算会議忍たまのみで行われる。
くのいち教室も委員会に所属しているものの、面倒はごめんというように、予算会議には顔を出さない。
だが、今日は珍しくくのいち教室の生徒が予算会議に参戦した。
突然現れたくのたまにその場が静まる。
天井裏から会計委員会と他の委員会の間に下りてきたくのたまの少女が、スッと立ち上がる。
「遅かったな」
静寂を破ったのは用具委員長の食満留三郎。
彼女は彼を見た。
「食満先輩…」
体ごと彼に向き直ると「遅くなってすみません。」と頭を下げた。
「思ったよりも実習が長引いてしまって…」
「いや、気にしなくていい。実習ご苦労だったな」
留三郎が労いの言葉を掛けると、少女は嬉しそうに笑った。
「はい。…用具委員会の番は、終わってしまいましたか?」
「いや、これからだ」
「よかった」
留三郎の言葉を聞くと、ホッとした表情をした。
話の内容から解るように、彼女は用具委員だ。
「やす菜…」
唸るように、会計委員長の潮江文次郎が彼女の名を呼ぶ。
「兄さん」
今度は文次郎の方を向き、彼のことを“兄さん”と呼んだ。
彼女の名前は潮江やす菜。用具委員会に所属する五年生のくのたまで、会計委員長潮江文次郎の妹だ。
「何故、お前がここに…」
「何故?…決まっているじゃないですか。用具委員として、予算会議に参加しに来たんですよ」
実習があったので少し遅れてしまいましたが…と言いながら文次郎の方に歩み寄り、懐から一枚の紙を取り出して突き付けた。
「…用具委員長・食満留三郎先輩の代わりに、用具委員会の代表として申し上げます。先日、会計委員会より頂いた予算案…これに記載されている金額だけでは、用具を直すための工具が満足に買えません。こちらが提示した予算を認めて下さい。」
しばらく兄妹で見合った後、文次郎が「ダメだ」と言った。
「各委員会の予算は、すでに決まっている。今更用具委員会の予算を変えることはできない」
「………そうですか…」
やす菜は突き付けていた腕を下ろす。
なんだ、もう諦めたのか?と部屋にいる者達が思う中、「兄さん」と文次郎を呼んだ。
「実はですね、私最近悩みがあるんですよ」
「?何だ、急に」
「まあ、聞いて下さい。その悩みと言うのがですね…」
スッと右手を挙げると用具の下級生達が水の入った桶と手拭いを持ってやって来た。
「ありがとう」
にこっと笑って後輩達の頭を撫でる。
撫でられると嬉しそうな顔をする後輩達(作兵衛は恥ずかしそうだ)に一層笑みを深くすると桶に入った水で顔を洗い始めた。
何をしているんだ?と周りが見守る中、顔を洗い終えたやす菜は作兵衛から手拭いを受け取り顔を拭いた。
「…前々から気になってはいたのですが…最近…ますます濃くなってしまったんですよ…
目の下の隈が!!」
顔を拭き終わり、顔を上げたやす菜の目の下にはくっきりと隈が浮かび上がっていた。
「うわぁ、潮江先輩そっくりだぁ…」
彼女の顔を見た、団蔵が呟く。
もちろん、やす菜の方が線が細く女性らしいものの、顔立ちは兄の文次郎とそっくりであり、化粧を落としたことによって現れた目の下の隈がさらに彼女を文次郎に似せていた。
「…この隈の原因。なんだかわかりますか?」
「何って…単なる寝不足だろう」
「そうなんです。ここのところ夜ゆっくり寝れる日がなくって寝不足なんです。でも、私は兄さんのように夜中に鍛錬していて寝不足なのではありません」
「じゃぁ、なんなんだ」
ふぅ…とやす菜が溜息を吐いた。
「…寝る間も惜しんでやっているんですけど…終わらないんですよ。壊れた器具の修理が」
やす菜が遠い目をする。
「不思議なことに直した分だけ、貸し出した器具がまた壊れて返ってくるんですよね…」
それを聞いた文次郎が言葉を失う。
「…何度も何度も『器具は丁寧に扱ってください』『器具を壊さないでください』って仰ったはずですよね?兄さん」
ジ…ッと、文次郎の顔を見つめる。
「いや…あれは不可抗力というか…ていうか、俺よりも小平太の方が壊してるだろ!!」
「確かに七松先輩も貸し出した器具…主にバレーボールをことごとく壊してます。その数なら兄さんの上をいきます」
「なら、俺より小平太に「何度も何度も申し上げました!!でもあの人聞いてくれやしないんです!!
それに、器具を壊す数は七松先輩の方が多いですが、忍術学園の塀や壁を壊すのは兄さんがダントツです!!夜の鍛練や敵と戦えなくて悔しいからって壁に頭をぶつけるの止めてください!!
誰が修理すると思ってるんですか!?この鍛練バカ!!」
クワッと一喝され、文次郎はたじろいだ。
「バ、バカとはなんだ!!兄に向かって!!」
「実際バカでしょうが!プロの忍者を目指す者として鍛練に励むのは結構ですが、周りに迷惑掛けないでください!!…って、今はいいんですよ!!そんなこと!!」
ダンッとやす菜は机を叩いた。
「…兄さんにわかりますか?器具を直した側から壊される、この何とも言えない気持ちが……」
ぎゅっと手を握り、俯く。
「…昼間の委員会だけじゃ修理は追いつかないし…かといって、下級生に睡眠時間を削らさせるわけにはいかないし、食満先輩も最上級生でお忙しいし…
でも壊れた器具を放っておくことは出来ないから寝る間も惜しんで修理して…
お陰で目の下の隈はくっきりとしてきちゃって、顔に塗る白粉は濃くなるし、肌も髪も荒れてくるし…」
はぁ…とやす菜は重い溜息を吐いた。
「…今までの睡眠時間を返せと言いたいところですが、無理なので言いません。でも、これからも器具を壊すようなら、用具の予算、上げて下さい。…そうすれば…少しは楽になりますから」
心の底から疲れた様子で、やす菜は言う。
その姿に同情したらしく、会計委員の三木ヱ門・左門・佐吉・団蔵が「潮江先ぱーい…」と文次郎に声を掛ける。
「予算…少しくらいなら上げてもいいんじゃないんですか?」
「そうですよ!!」
「このままじゃ、やす菜先輩が可哀想です!!」
「てか、もういつ倒れてもおかしくありませんよ!!」
「「「「潮江先輩!!」」」」
後輩の言葉と目の前で項垂れるやす菜を見て、文次郎は唸った。
「しかし…用具の予算を上げると、他の委員会とのバランスが…やはり、認めるわけに…
ヒュッ
は…」
文次郎の頬を何かが掠め、後ろの壁に突き刺さる。
…見ると、薄く磨き抜かれた鋼の短刀だった。
「…では…やはり、用具委員会の予算を上げる気はない…と?」
ゆらぁり。とやす菜が立ち上がる。
「…器具は壊す。でも予算は寄越さない…随分といい度胸だな?え?」
完全に目の据わりきったやす菜に、文次郎は戸惑った。
…こんな妹の姿を見るのは初めてだ。
「いや…まだ上げるか上げないかは悩んでる途中でだな…」
「…これでさらに予算を減らしたりなどしたら、覚えてろよ。……本気で寝首掻いてやる…」
ボソリと不穏な言葉を呟くと、やす菜はフラッと倒れた。
委員長の六年、もしくは委員長代理の五年を筆頭に、会計委員長・潮江文次郎に予算の請求をする。
だが、会計委員長は他の委員会の要求する予算を易々と渡さないため、予算会議の場は激化し、戦場となる。
今日も、怒号と物が飛び交っている。
が…
今日はいつもと違った。
会議の行われている部屋にある緑・青紫・赤紫・萌黄・青・水色の中に、桃色が降り立った。
普段、この予算会議忍たまのみで行われる。
くのいち教室も委員会に所属しているものの、面倒はごめんというように、予算会議には顔を出さない。
だが、今日は珍しくくのいち教室の生徒が予算会議に参戦した。
突然現れたくのたまにその場が静まる。
天井裏から会計委員会と他の委員会の間に下りてきたくのたまの少女が、スッと立ち上がる。
「遅かったな」
静寂を破ったのは用具委員長の食満留三郎。
彼女は彼を見た。
「食満先輩…」
体ごと彼に向き直ると「遅くなってすみません。」と頭を下げた。
「思ったよりも実習が長引いてしまって…」
「いや、気にしなくていい。実習ご苦労だったな」
留三郎が労いの言葉を掛けると、少女は嬉しそうに笑った。
「はい。…用具委員会の番は、終わってしまいましたか?」
「いや、これからだ」
「よかった」
留三郎の言葉を聞くと、ホッとした表情をした。
話の内容から解るように、彼女は用具委員だ。
「やす菜…」
唸るように、会計委員長の潮江文次郎が彼女の名を呼ぶ。
「兄さん」
今度は文次郎の方を向き、彼のことを“兄さん”と呼んだ。
彼女の名前は潮江やす菜。用具委員会に所属する五年生のくのたまで、会計委員長潮江文次郎の妹だ。
「何故、お前がここに…」
「何故?…決まっているじゃないですか。用具委員として、予算会議に参加しに来たんですよ」
実習があったので少し遅れてしまいましたが…と言いながら文次郎の方に歩み寄り、懐から一枚の紙を取り出して突き付けた。
「…用具委員長・食満留三郎先輩の代わりに、用具委員会の代表として申し上げます。先日、会計委員会より頂いた予算案…これに記載されている金額だけでは、用具を直すための工具が満足に買えません。こちらが提示した予算を認めて下さい。」
しばらく兄妹で見合った後、文次郎が「ダメだ」と言った。
「各委員会の予算は、すでに決まっている。今更用具委員会の予算を変えることはできない」
「………そうですか…」
やす菜は突き付けていた腕を下ろす。
なんだ、もう諦めたのか?と部屋にいる者達が思う中、「兄さん」と文次郎を呼んだ。
「実はですね、私最近悩みがあるんですよ」
「?何だ、急に」
「まあ、聞いて下さい。その悩みと言うのがですね…」
スッと右手を挙げると用具の下級生達が水の入った桶と手拭いを持ってやって来た。
「ありがとう」
にこっと笑って後輩達の頭を撫でる。
撫でられると嬉しそうな顔をする後輩達(作兵衛は恥ずかしそうだ)に一層笑みを深くすると桶に入った水で顔を洗い始めた。
何をしているんだ?と周りが見守る中、顔を洗い終えたやす菜は作兵衛から手拭いを受け取り顔を拭いた。
「…前々から気になってはいたのですが…最近…ますます濃くなってしまったんですよ…
目の下の隈が!!」
顔を拭き終わり、顔を上げたやす菜の目の下にはくっきりと隈が浮かび上がっていた。
「うわぁ、潮江先輩そっくりだぁ…」
彼女の顔を見た、団蔵が呟く。
もちろん、やす菜の方が線が細く女性らしいものの、顔立ちは兄の文次郎とそっくりであり、化粧を落としたことによって現れた目の下の隈がさらに彼女を文次郎に似せていた。
「…この隈の原因。なんだかわかりますか?」
「何って…単なる寝不足だろう」
「そうなんです。ここのところ夜ゆっくり寝れる日がなくって寝不足なんです。でも、私は兄さんのように夜中に鍛錬していて寝不足なのではありません」
「じゃぁ、なんなんだ」
ふぅ…とやす菜が溜息を吐いた。
「…寝る間も惜しんでやっているんですけど…終わらないんですよ。壊れた器具の修理が」
やす菜が遠い目をする。
「不思議なことに直した分だけ、貸し出した器具がまた壊れて返ってくるんですよね…」
それを聞いた文次郎が言葉を失う。
「…何度も何度も『器具は丁寧に扱ってください』『器具を壊さないでください』って仰ったはずですよね?兄さん」
ジ…ッと、文次郎の顔を見つめる。
「いや…あれは不可抗力というか…ていうか、俺よりも小平太の方が壊してるだろ!!」
「確かに七松先輩も貸し出した器具…主にバレーボールをことごとく壊してます。その数なら兄さんの上をいきます」
「なら、俺より小平太に「何度も何度も申し上げました!!でもあの人聞いてくれやしないんです!!
それに、器具を壊す数は七松先輩の方が多いですが、忍術学園の塀や壁を壊すのは兄さんがダントツです!!夜の鍛練や敵と戦えなくて悔しいからって壁に頭をぶつけるの止めてください!!
誰が修理すると思ってるんですか!?この鍛練バカ!!」
クワッと一喝され、文次郎はたじろいだ。
「バ、バカとはなんだ!!兄に向かって!!」
「実際バカでしょうが!プロの忍者を目指す者として鍛練に励むのは結構ですが、周りに迷惑掛けないでください!!…って、今はいいんですよ!!そんなこと!!」
ダンッとやす菜は机を叩いた。
「…兄さんにわかりますか?器具を直した側から壊される、この何とも言えない気持ちが……」
ぎゅっと手を握り、俯く。
「…昼間の委員会だけじゃ修理は追いつかないし…かといって、下級生に睡眠時間を削らさせるわけにはいかないし、食満先輩も最上級生でお忙しいし…
でも壊れた器具を放っておくことは出来ないから寝る間も惜しんで修理して…
お陰で目の下の隈はくっきりとしてきちゃって、顔に塗る白粉は濃くなるし、肌も髪も荒れてくるし…」
はぁ…とやす菜は重い溜息を吐いた。
「…今までの睡眠時間を返せと言いたいところですが、無理なので言いません。でも、これからも器具を壊すようなら、用具の予算、上げて下さい。…そうすれば…少しは楽になりますから」
心の底から疲れた様子で、やす菜は言う。
その姿に同情したらしく、会計委員の三木ヱ門・左門・佐吉・団蔵が「潮江先ぱーい…」と文次郎に声を掛ける。
「予算…少しくらいなら上げてもいいんじゃないんですか?」
「そうですよ!!」
「このままじゃ、やす菜先輩が可哀想です!!」
「てか、もういつ倒れてもおかしくありませんよ!!」
「「「「潮江先輩!!」」」」
後輩の言葉と目の前で項垂れるやす菜を見て、文次郎は唸った。
「しかし…用具の予算を上げると、他の委員会とのバランスが…やはり、認めるわけに…
ヒュッ
は…」
文次郎の頬を何かが掠め、後ろの壁に突き刺さる。
…見ると、薄く磨き抜かれた鋼の短刀だった。
「…では…やはり、用具委員会の予算を上げる気はない…と?」
ゆらぁり。とやす菜が立ち上がる。
「…器具は壊す。でも予算は寄越さない…随分といい度胸だな?え?」
完全に目の据わりきったやす菜に、文次郎は戸惑った。
…こんな妹の姿を見るのは初めてだ。
「いや…まだ上げるか上げないかは悩んでる途中でだな…」
「…これでさらに予算を減らしたりなどしたら、覚えてろよ。……本気で寝首掻いてやる…」
ボソリと不穏な言葉を呟くと、やす菜はフラッと倒れた。