「土井先生…」
「はい。なんでしょう？山田先生」

私と山田先生はいつもの様に職員長屋に充てられた自分の部屋で授業の準備や次にやる抜き打ちテストの問題を製作したりしていた。
今は一段落着いたのでお茶を飲んでいるところだ。

「ちょっとつかぬ事を聞きたいんだが…」
「はい」
「土井先生とやす菜くんは、夫婦になる約束とかをしていたりするんですかね？」

そう言われて飲んでいたお茶をぶふっと吹き出してしまった。

「げほっげほっ…なんなんですか…いきなり…」
「おや？その様子だと、二人はそういう仲ではないのかね？」

山田先生の言葉に「違いますよ」と返した。

「やす菜のことはきり丸と同様に家族みたいに大事には思っていますが…そういう風には…」
「そうなんですか？」

「二人を見ていると仲睦まじく見えますけどね」と言う山田先生に、「いやいや…」と首を横に振る。

「近いうちじゃなくても、将来的に一緒になりたいとか…」
「そんな…第一、将来誰と一緒になるかはやす菜の自由ですからね」

私がそう言えば、「それもそうだねぇ…」と山田先生は頷く

「じゃあ、土井先生自身はやす菜くんにそういった感情は持っていないと？」
「ええ…まあ…」
「じゃあ、私がやす菜くんに利吉を紹介しても一向に構いませんね？」
「………はい？」

山田先生の言葉に一瞬反応が遅れてしまった。
そんな私に対し、山田先生はいつもと変わらない様子でお茶を啜った。

「いやぁ、さっき利吉が来ていた時にやす菜くんがお茶を運んできてくれたんだが、その時に利吉がやす菜くんのことを気になったみたいでね。
もし、土井先生とやす菜くんがそういう仲ではないのなら、こう、さりげなーくお互いに勧めてみる感じで引き合わせてみようかと…で、あわよくばやす菜くんを利吉の嫁に…と思ってね」
「………………」
「土井先生？」
「え!?あ、はい…別に、いいんじゃないですかね？どうなるかは本人達の問題ですし…」
「そうですか。じゃ、今度利吉が来たときにでもやす菜くんに紹介してみましょうかね」
「そ、そうですね…」

山田先生の話を聞きつつ、私は内心戸惑っていた。
……やす菜が…利吉君の嫁に…？

確かに二人は歳の頃も近い。
利吉君はフリーの売れっ子忍者で好青年だし、やす菜は気立ての良いとても良い子だ。
あの二人が恋仲になったらかなりお似合いなんじゃないんだろうか…

頭の中で二人が仲良く笑い合っている仲睦まじい様子を思い描く。

…うん。お似合いだ…
だが、なんだかモヤモヤする…


「………土井先生」
「あ、はい!!」
「何でそんな渋い顔で唸っているんだい？」
「え…？」

無意識の内に顔をしかめてうんうん唸っていたらしい。

「…まあ、私の場合はあわよくば…って感じですからね。土井先生がもし、やす菜くんを嫁にしたいとなっても別に邪魔はしませんからね」
「え!?いや、ですから私は別に…」
「土井先生」

名前を呼ばれて口を閉じる。
山田先生は再びお茶を啜った。

「恋だの愛だのは、気付かぬ内に変わっているものですよ。
今は親愛かもしれないが…そのうち…ね」

そう言って私に笑いかけた山田先生の顔は、なんだか微笑ましいものを見ている顔だった…




彼女に対する心情は？


(自分でもよくわからない)