オベぐだ子ワンライ

『はぐれない様に、手を繋ごう』


 そう言って、いつも手を繋いでいた。けれど、それは子供の頃だから当たり前に繋げていただけで、大きくなってからその行為は当たり前ではないのだと気付いた。
 ちらり、と立香は自分の隣を見た。そこには、プラチナブロンドのサラサラの髪に澄んだ空の様な瞳の少年…。彼の名はオベロン。立香の家の隣に住む男の子で、その手はしっかりと立香の手を握っている。
 オベロンは立香よりも少し年下で、立香の事を『立香姉さん』と呼び慕ってくれている。双子の兄しか兄妹の居ない立香にとって、本当に弟の様に可愛い存在。そんなオベロンとは一緒に出掛けるときはいつも手を繋ぐのが当たり前だった。
 しかしオベロンはもう中学生になり、自分も高校生。そんな思春期真っ只中の少年が女の子と手を繋ぐのなんて恥ずかしいのではないのだろうか…と立香は思う。友達に聞いても「さすがにその年になって手を繋ぐのなんて嫌がるでしょう」と言われてしまった…。


「ねえ、オベロン」


 名前を呼ぶとオベロンは立香を見てふわっと笑った。


「何?立香姉さん」
「…私と手を繋ぐの…嫌じゃない…?無理しなくていいんだよ…?」


 そう立香が言うと、オベロンはぱち…と瞬きをして「無理なんてしてないよ」と言って首を傾げた。


「僕が立香姉さんと手を繋ぐのが嫌だなんて思ったこと一度もないよ」
「…本当に…?でも…オベロンも大きくなったし…恥ずかしい気持ちにさせていないか心配なの…」
「僕はむしろ、立香姉さんと手を繋ぐの嬉しいよ。…それとも、立香姉さんは僕と手を繋ぐのはもう嫌かい?恥ずかしい?」


 長い睫毛を伏せて、少し悲しそうな顔をするオベロンに立香は慌てて「そんなことないよ!!」と否定した。
 自分だって、オベロンと手を繋ぐのは当たり前の事だったしそれを嫌ではないと言われて嬉しいのも本当だ。それを伝えた上で、でも…と続ける。


「…彼氏や彼女じゃないのに…ずっと手を繋いでいるのは、おかしいって言われちゃった…」


 本当の兄妹ですら日常で手を繋いで歩くのは珍しいと言われ、ならば幼馴染とはいえこうして手を繋ぐのは恋人同士でも無いともっと有り得ない。と友人に言われた。しかし、それを伝えたらオベロンは「ふーん」と相槌を打った後


「なら、僕が立香姉さんの彼氏になれば何も問題無いよね?」


 と言った。


「え!?」


 思わぬ言葉にびっくりしているとオベロンは立ち止まり、繋いでいた立香の手を軽く引いて自分の顔の高さにまで持ち上げて、ちゅっと一つキスをした。


「今日から僕は立香姉さんの彼氏。立香姉さんは、僕の彼女。ほら、これで手を繋いでいても何も問題ないだろ?」


 突然のことに目を白黒させている立香に、オベロンは再び歩き出す。


「さ、帰ろう。あ、明日の朝も手を繋いで歩こう」


 繋いだ手を、指を絡ませる握り方に変えてオベロンはにっこりと笑って言う。


「僕らは恋人になったから…改めて…これからも、よろしくね」
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