オベぐだ子ワンライ

 ツヤのあるオレンジ色に塗られた自分の爪をまじまじと見つめる。

『僕がささやかだけど君に魔法をかけてあげよう』

 世界を救うためとマスターになったばかりの頃、自分の呼び掛けに応えて力を貸してくれている妖精の王様──オベロン。
 碌なケアも出来ていなかった自分の手を取って彼がそう言ってくれてから、立香の爪は手も、足も、彼がくれたマニキュアに彩られない日は無かった。
 
 少しでも指先を守り、魔術師とはとても呼べない未熟な小娘のマスターの助けになるように……

 明るくて元気が出るけれど、どこか夕焼けの様に優しい、オレンジ色のマニキュア。
 立香は確かにこの旅路の中で、彩られた指先の色に勇気付けられて来た。

「……よし!」

 しばらく指先を眺めていたが、不意に気合を入れる様に声を出した。
 自分に当たられた部屋から出て、もう大分歩きなれたカルデアの通路を歩いて一騎のサーヴァントを探した。

「オベロン」

 そのサーヴァントは、立香の部屋から十数分歩いた所にある小休憩スペースに腰を掛けていた。

「おや?マスター、どうしたんだい?こんな所で」

 オベロンは、いつも通りの穏やかな顔で立香を見て、微笑んだ。
 それに立香も微笑み返して「お願いがあるの」と言いながら彼の隣に腰を下ろす。

「オベロンの少しの時間を私にくれないかな?」

 そうしてオベロンから時間を貰い自室に招いた後、立香は彼の左手の小指にマニキュアを塗った。
 いつも自分が特異点から帰ってきた後彼がしてくれるように丁寧に爪を磨いて、自分の為に作ってくれたオレンジ色のマニキュアでオベロンの左手の小指だけを彩った。

「……あのね、オベロン。私、オベロンがくれたこのマニキュアにすごく助けられたの。たくさん、オベロン自身にも助けて貰ったね。でも、それも……もう終わり。
……だから、最後に、もう一つ我儘を言っても、いいかな……」

 マニキュアが乾いた小指に、立香は自分の小指を絡ませる。


「どうか、最後まで……私の戦いを、見守ってね」


 それは、最終決戦に臨む少女の最後の祈りだった。
3/6ページ
スキ