オベぐだ子ワンライ

 リップを貰った。

 立香の唇が余りにもガサガサだったからそれを見かねてメイヴが自ら愛用しているものを分けてくれたのだ。
 ほんのりと色付くリップはとても綺麗な色をしていて、見ているだけでちょっと心が弾んでしまう。スティックタイプじゃなくて、指で塗るタイプのリップバームを、メイヴに教えられたとおりに掌で温めた後、薬指で薄く掬い取り唇に塗った。付け心地も色付きも、さらに香りも良くて流石メイヴちゃん!と立香は一塗りでツヤツヤになった唇を鏡で見ながら鼻歌を歌いながら笑った。
 そんな立香が気付かぬうちにマイルームへやって来たオベロンが「ご機嫌だねぇマスター」と声を掛けてきた。その声に反応して顔を鏡からオベロンに向けると白い妖精王の姿で笑って扉の前に立っていた。
 「オベロン」と彼の名前を呼ぶと彼は立香に一度笑いかけた後、立香に近寄りながら一瞬で黒いヴォーティガーンの姿になり…

「何一人で鏡見てにやにやしてんの?気持ち悪い」

 と暴言を吐いた。そんなオベロンの言葉も気にせず、立香は「メイヴちゃんにリップバーム貰ったんだ~」とのんびり返す。

「唇が乾燥して荒れちゃってたから分けてくれたの今塗ってみたんだけど、一塗りですっごくツヤツヤになったし、色付きで可愛くない?」

 「流石の逸品だよね!」と上機嫌な立香に、オベロンは「ふーん」と対して興味なさそうに適当な相槌を返した。

「しかも、“キスがしたくなる魔法のリップ”なんだって!」
「何それ」
「メイヴちゃんがそう言ってたんだよ。なんか素敵じゃない?」

 オベロンはハッと鼻で嗤って「馬鹿馬鹿しい」と吐き捨てた。

「あの恋愛女王が好みそうなものだな。君も、そんなものを使ってキスでもしたい相手がいるのかい?マスター」

 馬鹿にするように片眉を上げて立香を見ると立香はパチリ、と一つ瞬きをした後

「いるよ」

 と言って笑って見せた。
 あまりにもあっさり返ってきた答えにオベロンは目を見開いたが、すぐに「は?」と眉間に皺を寄せる。

「………誰?そいつ?」

 と尋ねるオベロンに立香は悪戯っぽく笑うと、人差し指を立てて口元に寄せ「内緒」と答えた。それにますます眉間の皺を深くする。そんな、いかにも「不機嫌です」と顔に出しまくっているオベロンに立香は逆に笑みを深め、

「ところで…オベロン」

そして何でもないことであるかのように平常心を装って言った。

「君は、この唇にキスしてみたくなった?」
 
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