【オベぐだ♀】1600文字くらいで小説を書く

「おかーさーん」
「はーい」

 両手を伸ばし、「ぎゅーってしてー」と甘えるように言うジャックに応えるようにマスターの立香も笑顔で手を伸ばしてジャックをぎゅーっと抱きしめた。それに「私にもお願いできるかしら?マスター」とナーサリーにもねだられ、「もちろんいいよー」と彼女達の事も抱き締める。傍から見てても微笑ましい、少女のサーヴァント達とマスターの触れ合いだ。

「やあ、仲良しさんだね」

 そんな心温まるやり取りをしているマスター達の居る近くをたまたま通りかかったオベロンが彼女達に声を掛けると、ジャックとナーサリーを腕の中に抱えた立香が「あ、オベロン」と彼の顔を見て微笑んだ。

「えへへーいいでしょー」
「ええ。私達、マスターととっても仲良しさんなのよ」

 と立香からの抱擁を受けている2人は幸せそうに笑っている。
 しばらくして満足したのか、「おかあさんありがとー!」「またね、マスター」と言ってパタパタとどこかへ駆けて行ってしまった。

「ああいう触れ合いはよくするのかい?」

 2人を手を振りながら見送っていた彼女に、オベロンは尋ねる。

「うん。ハグは良くねだられるから」

 「ぎゅーってすると元気になるんだって」と立香は笑う。

「ハグって、好意を持ってる相手とするとストレスが軽減されるっていうの良く言われているんだけど、マスターとサーヴァントだから接触することで多少の魔力の受け渡しもあるみたい」

 そう言う立香にオベロンは「そうなんだ」と笑い返しながら、ふと…彼女をからかってやろうかなという少し意地悪な気持ちが芽生えてきた。

「ねえ、マスター」
「ん?何?オベロン」
「僕にもハグ、してもらえるかい?」

 「え?」と目を瞬かせる立香に、オベロンはにこにこと笑っている。

「最近、出撃も多かったから少し…疲れたかなって…」

 「だから、僕もぎゅーってして欲しいな?」と言って両手を広げた。
 先程の少女の姿のサーヴァント達と違って、オベロンは青年のサーヴァントである。そんな彼に、うら若き乙女であるマスターが、どんな反応をするのだろうかと、オベロンは内心面白がりつつ立香の対応を待った。
 恥じらうか、笑って誤魔化すか、それとも怒るか…けれど、その予想したどの反応でもなく、立香はパッと笑顔を見せた。

「もちろん!いいよ!」

 そして、なんのためらいもなくオベロンの腕の中に飛び込んできた。予想していなかった立香の反応に、逆にオベロンの方が固まってしまうが、立香はそんなオベロンにお構いなしに彼の背中に腕を回してぎゅうっと抱きしめる。

「…マスター…」
「なぁに?オベロン」
「…僕から言い出しておいてなんだけど…いくらサーヴァントといえどこんなにホイホイ言われるがままに抱き着くのはあまりよくないんじゃないかなぁ…」

 抱き締め返すこともできずに宙に手を彷徨わせながら、「僕も一応男だよ?」と呟く。
 しかし、立香はきょとんとした顔でオベロンを見た後「…ごめん。あまり意識してなかった…」と苦笑した。
 『意識してなかった』の言葉にオベロンがぴくっと反応してどういうことか聞こうとしたが、それよりも先に立香が口を開いた。

「オベロンは確かにかっこいい妖精の王様かもしれないけれど…それ以上に私がマスターになって人理修復の旅を始めた時から助けてくれている頼りになる存在だから…ハグして欲しいって言われてちょっと嬉しかったんだ…少し甘えてもらえたのかなって」

 そう言って立香は再びぎゅっと腕に力を入れて抱き着く。彼の白い外套についているファーが丁度顔にあたり、そこに頬ずりをした。…第二再臨のオベロンの、真っ白で柔らかい外套が立香はとても好きだった。

「オベロン、毎回頼りっきりでごめんね。いつもありがとう!大好き!」

 抱き締められながら告げられる感謝の言葉と、真っ直ぐな好意を伝えられてオベロンは一瞬息が詰まった。
 しかし、自分の腕の中にいるマスターに気付かれないようにそっと呼吸を整えると、彼女の背に手を回して自分もそっと抱きしめ返した。
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