ハッピーエンドルート
リツカが姿を見せなくなって、もうすぐ一年になろうとしていた。
毎日の様に、リツカと会っていた浜辺に足を運んではあの夕陽のようなオレンジを探していた。しかし、いくら浜辺に足を運んでも、リツカが現れることは無かった。
太陽の様に明るい人魚の少女。
海の藻屑となろうとしていた僕の命を助けてくれた命の恩人。
毎日僕の他愛もない話を目をキラキラさせて楽しそうに聴いてくれて、自分の話も弾むような声でたくさん話をしてくれた。
……君と会う毎日が、僕にとって生きる糧だった。
(ああ…まるで、光を失ってしまったようだ…)
君は、僕の太陽だった。
リツカと会えなくなってからも、僕の日常は続いている。
下手に弱みを見せて足元を救われたりしても面倒なので、人前ではしばらくは可能な限りいつも通りに振舞っていた。
けれど、家で自室に下がると一気に何もやる気が起きなくなってしまい、窓際で海を眺め続ける日々を送っていた。
「…ちょっと、オベロン!聞いています!?」
その日も、窓際に運んだ椅子に座って、リツカと会っていた海を見ていた。
…が、今日は自室に一人ではなく、遠縁の令嬢アルトリアと、学園の友人のフジマルが部屋に来ていた。
「ああ、ごめん…なんだっけ?」
「もー! だから、舞踏会のパートナー どうするんですか!?もう一月後ですよ!!」
ぼんやりと上の空だった僕に、アルトリアはちょっと怒っていたがそれに対しても特になんとも思えなくて「ああ…」と気のない返事を返す。
「……別に、どうもしないさ。直前になったら適当に声掛けるか一人で行くよ……」
未だに申し込みの手紙も来るし、学園でも舞踏会で一緒に行かないかと声を掛けてくる相手もいる。……エスコートの相手を選ばないと色々勘ぐられて面倒ではあるが、もう誰もエスコートしないで参加してもいいかと思っている。
「……僕が本当にエスコートしたい相手はいないし……」
そう言うと、アルトリアとフジマルが顔を見合わせた。
「……オベロン、やっぱり知らない間に失恋でもした?」
「一年位前から様子可笑しいよね」とフジマルが言うとアルトリアも「あ、そうなんですか?」と少し驚いたような顔をした。
「髪の色まで変えて、急に雰囲気変わったな~とは思いましたが」
「………別に」
フジマルに『失恋?』と指摘されて、二人から顔を背けて窓に向ける。
…リツカと会えなくなって半年たった頃に魔術で髪色をプラチナからグレーブラックに変えた。
物心ついてから今まで、面倒ごとを起こさぬように人前でニコニコ愛想よく笑う明るい男を演じて来たけれど、リツカが浜辺に姿を荒さなくなってから段々取り繕うのも面倒になった。そのため多少不愛想な顔をしていても違和感ない様に、気分転換と言って暗めの髪色にしたのだ。
「あ、本当に失恋したんだ」
変に勘のいいフジマルは僕の反応を見て図星だったのだと勝手に納得したようだ。そして何故か僕に対しては遠慮が無いのでズバッと言ってくる。
「え、オベロン振られたんですか?」
そして同じく僕に対して遠慮のないアルトリアも傷をえぐるようなことを容赦なく言ってくる。
「振られてない」
振られてないというか、告白する前にリツカはいなくなってしまったのだから想いを伝えることすら出来ていないけれど即座に強がって否定する。すると、フジマルもアルトリアもなんだか変に生暖かい目で見てきた。
「いつの間にか振られていたって言うのは驚きですが、基本時に人が嫌いなオベロンが誰かに恋していたなんて衝撃ですね」
「めったに人を好きにならないというか心開かないオベロンが失恋しちゃったらそりゃ髪色変えて雰囲気変えるし何に対してもやる気失くしちゃうよね」
好き勝手色々話す二人に米神に青筋が浮かぶ感覚がする。
とっとと屋敷から追い出してやろうかと思い始めた時フジマルが「でも、オベロンに紹介したい女の子が居たんだけどな」と言い始めた。
「……は?紹介したい女?」
「うん。知り合いから仲介頼まれてさ。その女の子がどうしてもオベロンと舞踏会で踊りたいんだって」
……フジマルを利用して僕に近付こうとする輩は掃いて捨てるほどいた。だが、フジマルは底抜けのお人好しではあるが自分や周りへの悪意に対しては勘が働くらしく誰も彼もを取り次いできたりはしなかった。
(……そのフジマルが、知り合いから頼まれたとはいえ僕に女を紹介するだって……?)
珍しいこともあるものだ……と思いはしたが、「悪いけど」と自分は会う気が無いと手を振った。
「だよね~まあ、俺も難しいとは思うって言ってはあったし断っておくよ。」
「ああ、よろしく」
「…でも実は、もし万が一オベロンが一目でも会ってくれるって言ったら今日紹介しようと思って近くまで来てもらってはいるんだよね」
「はぁ?ねえ、いくらなんでもあんまり勝手なことされると僕だっていい気はしないんだけど」
「ごめんって。でも……なんとなくオベロンとその娘会わせた方がいいかもって思ってさ……上手くは言えないんだけど」
そして、フジマルは僕が座っている窓際まで来て「ほら、あそこ」と浜辺を指さした。
勝手なことをしたフジマルに怒りを覚えながらも、指さされた方向に顔を向けると……僕は、そこに見えた人物に大きく目を見開いた。
「あそこに立っているのが、例の女の子だよ。名前は―――」
フジマルが言い終る前に、僕は座っていた椅子から立ち上がり部屋を飛び出した。
部屋から玄関までの通路を走り、門を飛び出して浜辺まで駆ける。自室から海が見えるとはいえ、浜辺までは結構な距離があった。
息を切らし、全速力で走る。そして辿り着いた先に居たのは、波打ち際にいる……夕焼け色の髪の少女。
その場所は、リツカが僕と会う時のお決まりの場所で……けれど、僕の知る彼女は腰から下が尾びれで、いつも座るようにして僕を待っているのだが、目の前の少女はスカートの裾を託し上げて、素足で海に少し足を付けるように砂浜に立っていた。
「……リツ……カ……?」
ずっと、会いたかった少女の名前を呟くと海を見ていた彼女が、こちらを振り返った。
……その顔を、見間違えるはずがない。
そこに立っていたのは、間違いなくリツカだった。
けれど、どうして人間の足に……?と驚いていると、リツカは一瞬首を傾げて見つめていたが、直ぐに僕だと気付いたらしい。
「オベロン!!」
ぱぁっと輝く太陽の様な笑顔を浮かべ、弾むような明るい声で僕の名前を呼ぶと、こちらに駆け寄り……
そして大きく腕を広げて僕に抱き着いてきた。
「オベロン!!待たせてごめんね!!会いたかった!!」
抱き着かれた衝撃で、たたらを踏みそうになったが何とか受け止める。
ぎゅうっと抱き着いてくる体の感触と、耳元で聞こえるリツカの声に色々な感情が込み上げて来て言いたいことはたくさんあった。
だが、僕もリツカの体に腕を回して力を籠めると「僕も……ずっと、会いたかった……!!」と、ただそれだけを口にした。
毎日の様に、リツカと会っていた浜辺に足を運んではあの夕陽のようなオレンジを探していた。しかし、いくら浜辺に足を運んでも、リツカが現れることは無かった。
太陽の様に明るい人魚の少女。
海の藻屑となろうとしていた僕の命を助けてくれた命の恩人。
毎日僕の他愛もない話を目をキラキラさせて楽しそうに聴いてくれて、自分の話も弾むような声でたくさん話をしてくれた。
……君と会う毎日が、僕にとって生きる糧だった。
(ああ…まるで、光を失ってしまったようだ…)
君は、僕の太陽だった。
リツカと会えなくなってからも、僕の日常は続いている。
下手に弱みを見せて足元を救われたりしても面倒なので、人前ではしばらくは可能な限りいつも通りに振舞っていた。
けれど、家で自室に下がると一気に何もやる気が起きなくなってしまい、窓際で海を眺め続ける日々を送っていた。
「…ちょっと、オベロン!聞いています!?」
その日も、窓際に運んだ椅子に座って、リツカと会っていた海を見ていた。
…が、今日は自室に一人ではなく、遠縁の令嬢アルトリアと、学園の友人のフジマルが部屋に来ていた。
「ああ、ごめん…なんだっけ?」
「もー! だから、舞踏会のパートナー どうするんですか!?もう一月後ですよ!!」
ぼんやりと上の空だった僕に、アルトリアはちょっと怒っていたがそれに対しても特になんとも思えなくて「ああ…」と気のない返事を返す。
「……別に、どうもしないさ。直前になったら適当に声掛けるか一人で行くよ……」
未だに申し込みの手紙も来るし、学園でも舞踏会で一緒に行かないかと声を掛けてくる相手もいる。……エスコートの相手を選ばないと色々勘ぐられて面倒ではあるが、もう誰もエスコートしないで参加してもいいかと思っている。
「……僕が本当にエスコートしたい相手はいないし……」
そう言うと、アルトリアとフジマルが顔を見合わせた。
「……オベロン、やっぱり知らない間に失恋でもした?」
「一年位前から様子可笑しいよね」とフジマルが言うとアルトリアも「あ、そうなんですか?」と少し驚いたような顔をした。
「髪の色まで変えて、急に雰囲気変わったな~とは思いましたが」
「………別に」
フジマルに『失恋?』と指摘されて、二人から顔を背けて窓に向ける。
…リツカと会えなくなって半年たった頃に魔術で髪色をプラチナからグレーブラックに変えた。
物心ついてから今まで、面倒ごとを起こさぬように人前でニコニコ愛想よく笑う明るい男を演じて来たけれど、リツカが浜辺に姿を荒さなくなってから段々取り繕うのも面倒になった。そのため多少不愛想な顔をしていても違和感ない様に、気分転換と言って暗めの髪色にしたのだ。
「あ、本当に失恋したんだ」
変に勘のいいフジマルは僕の反応を見て図星だったのだと勝手に納得したようだ。そして何故か僕に対しては遠慮が無いのでズバッと言ってくる。
「え、オベロン振られたんですか?」
そして同じく僕に対して遠慮のないアルトリアも傷をえぐるようなことを容赦なく言ってくる。
「振られてない」
振られてないというか、告白する前にリツカはいなくなってしまったのだから想いを伝えることすら出来ていないけれど即座に強がって否定する。すると、フジマルもアルトリアもなんだか変に生暖かい目で見てきた。
「いつの間にか振られていたって言うのは驚きですが、基本時に人が嫌いなオベロンが誰かに恋していたなんて衝撃ですね」
「めったに人を好きにならないというか心開かないオベロンが失恋しちゃったらそりゃ髪色変えて雰囲気変えるし何に対してもやる気失くしちゃうよね」
好き勝手色々話す二人に米神に青筋が浮かぶ感覚がする。
とっとと屋敷から追い出してやろうかと思い始めた時フジマルが「でも、オベロンに紹介したい女の子が居たんだけどな」と言い始めた。
「……は?紹介したい女?」
「うん。知り合いから仲介頼まれてさ。その女の子がどうしてもオベロンと舞踏会で踊りたいんだって」
……フジマルを利用して僕に近付こうとする輩は掃いて捨てるほどいた。だが、フジマルは底抜けのお人好しではあるが自分や周りへの悪意に対しては勘が働くらしく誰も彼もを取り次いできたりはしなかった。
(……そのフジマルが、知り合いから頼まれたとはいえ僕に女を紹介するだって……?)
珍しいこともあるものだ……と思いはしたが、「悪いけど」と自分は会う気が無いと手を振った。
「だよね~まあ、俺も難しいとは思うって言ってはあったし断っておくよ。」
「ああ、よろしく」
「…でも実は、もし万が一オベロンが一目でも会ってくれるって言ったら今日紹介しようと思って近くまで来てもらってはいるんだよね」
「はぁ?ねえ、いくらなんでもあんまり勝手なことされると僕だっていい気はしないんだけど」
「ごめんって。でも……なんとなくオベロンとその娘会わせた方がいいかもって思ってさ……上手くは言えないんだけど」
そして、フジマルは僕が座っている窓際まで来て「ほら、あそこ」と浜辺を指さした。
勝手なことをしたフジマルに怒りを覚えながらも、指さされた方向に顔を向けると……僕は、そこに見えた人物に大きく目を見開いた。
「あそこに立っているのが、例の女の子だよ。名前は―――」
フジマルが言い終る前に、僕は座っていた椅子から立ち上がり部屋を飛び出した。
部屋から玄関までの通路を走り、門を飛び出して浜辺まで駆ける。自室から海が見えるとはいえ、浜辺までは結構な距離があった。
息を切らし、全速力で走る。そして辿り着いた先に居たのは、波打ち際にいる……夕焼け色の髪の少女。
その場所は、リツカが僕と会う時のお決まりの場所で……けれど、僕の知る彼女は腰から下が尾びれで、いつも座るようにして僕を待っているのだが、目の前の少女はスカートの裾を託し上げて、素足で海に少し足を付けるように砂浜に立っていた。
「……リツ……カ……?」
ずっと、会いたかった少女の名前を呟くと海を見ていた彼女が、こちらを振り返った。
……その顔を、見間違えるはずがない。
そこに立っていたのは、間違いなくリツカだった。
けれど、どうして人間の足に……?と驚いていると、リツカは一瞬首を傾げて見つめていたが、直ぐに僕だと気付いたらしい。
「オベロン!!」
ぱぁっと輝く太陽の様な笑顔を浮かべ、弾むような明るい声で僕の名前を呼ぶと、こちらに駆け寄り……
そして大きく腕を広げて僕に抱き着いてきた。
「オベロン!!待たせてごめんね!!会いたかった!!」
抱き着かれた衝撃で、たたらを踏みそうになったが何とか受け止める。
ぎゅうっと抱き着いてくる体の感触と、耳元で聞こえるリツカの声に色々な感情が込み上げて来て言いたいことはたくさんあった。
だが、僕もリツカの体に腕を回して力を籠めると「僕も……ずっと、会いたかった……!!」と、ただそれだけを口にした。