ハッピーエンドルート
一人の人魚に恋をしていた。
ある日国で催された船上パーティーで、船が大きく波に揺られた際に甲板の端に立っていた僕が海に頬り出されて溺れて沈みかけてしまった。沖の方まで船を出してしまっていたから、ああ、もうこれは助からないな。特に面白くも無い人生だった…なんて思いながら肺の中の息をすべて吐き出して瞼を閉じようとしたその時、オレンジ色の尾びれが視界に入った。
その尾びれの持ち主が、僕の命の恩人の人魚の少女・リツカ。
欲望と計略渦巻く貴族社会の中で常に足元をすくわれないように区の休まらない日々。それは、社交界デビューをする前の子供たちの間にも多少は影響し、ニコニコ笑顔を張り付けながら腹の中を探り合う。そんな毎日に僕はうんざりしていた。
けれどリツカは太陽の様にいつもニコニコ明るくて、一緒にいると心が温まるような気持になることができる。
まるで海に溶けた夕陽のような女の子……。
「オベロン!今日も君の話を聞かせて!私の方はね、こんなことが合って…」
海で僕を助けてくれた日から、リツカと僕は人魚と人間という異なる種族でありながらも友好的な関係を築いている。
弾むような声で話をする彼女の声が心地よかったし、僕の話を楽しそうに聴いてくれる様子もとても可愛くて……浜辺でリツカとお喋りをする時間が、僕にとって一番心休まる時間だった。
けれど、そんな幸せな時間は唐突に終わりを告げる。
きっかけは、僕が社交デビューの話をした時だった。
僕はあと一年程で社交界に大人の一員として仲間入りしなくてはならなかった。
その時、城で舞踏会が開かれるのだがそのパートナーの申し込みが山のように来てうんざりだ…という話をリツカに愚痴ってしまったのだ。
下心が見え見えの、親の魂胆を背負って媚びてくる令嬢達がうっとおしくて仕方がない。けれど、パートナーがいないと舞踏会では飛んだ笑い者になるのは目に見えていた。だから、舞踏会の日までにどうにかしてパートナーを決めなければならない。
(………どうせ、舞踏会でダンスを踊るのならば………)
僕は波打ち際に座る、人魚の少女をじっと見つめる。
一緒にいて疲れるどころか、逆に元気を分け与えてくれる目の前の女の子。
彼女が、もしも陸に上がることができたのならよかったのに……そう、思って止まなかった。
だから、つい、言ってしまったのだ。
「君の尾びれが、人間の足だったのなら一緒にダンスを踊れたのにな」
と。
本当に、深い意味はなかった。
一緒に舞踏会に言ってくれるのがリツカならばどんなにいいかと……ただ、それだけだった。
だが、その日を境に、リツカは浜辺に来なくなった。
「リツカ」
待てど暮らせど姿を現さない人魚の少女の名前を呼ぶ。
けれど、あの明るい弾むような声は、どこにも聞こえてこない。
(……僕が、リツカが人間の足だったら良かったとか、言ってしまったから……)
そのことが、彼女に侮辱されたと取られてしまったのかもしれない。
「……ちがう……」
顔を片手で覆い、ゆるゆると頭を振る。
「違うんだよ…リツカ」
君の尾びれを侮辱したわけではないんだ。むしろ、その夕焼け色の鱗が、とても美しいと思っているのに……
「謝るから…」
もう君の尾びれが人間の足なら良かったなんて、言わないから……
「だから……僕の前からいなくならないでくれ……」
何度も何度も、彼女と会って話をした浜辺に足を運ぶ。
けれども、今日も……リツカが姿を見せることは無かった。
ある日国で催された船上パーティーで、船が大きく波に揺られた際に甲板の端に立っていた僕が海に頬り出されて溺れて沈みかけてしまった。沖の方まで船を出してしまっていたから、ああ、もうこれは助からないな。特に面白くも無い人生だった…なんて思いながら肺の中の息をすべて吐き出して瞼を閉じようとしたその時、オレンジ色の尾びれが視界に入った。
その尾びれの持ち主が、僕の命の恩人の人魚の少女・リツカ。
欲望と計略渦巻く貴族社会の中で常に足元をすくわれないように区の休まらない日々。それは、社交界デビューをする前の子供たちの間にも多少は影響し、ニコニコ笑顔を張り付けながら腹の中を探り合う。そんな毎日に僕はうんざりしていた。
けれどリツカは太陽の様にいつもニコニコ明るくて、一緒にいると心が温まるような気持になることができる。
まるで海に溶けた夕陽のような女の子……。
「オベロン!今日も君の話を聞かせて!私の方はね、こんなことが合って…」
海で僕を助けてくれた日から、リツカと僕は人魚と人間という異なる種族でありながらも友好的な関係を築いている。
弾むような声で話をする彼女の声が心地よかったし、僕の話を楽しそうに聴いてくれる様子もとても可愛くて……浜辺でリツカとお喋りをする時間が、僕にとって一番心休まる時間だった。
けれど、そんな幸せな時間は唐突に終わりを告げる。
きっかけは、僕が社交デビューの話をした時だった。
僕はあと一年程で社交界に大人の一員として仲間入りしなくてはならなかった。
その時、城で舞踏会が開かれるのだがそのパートナーの申し込みが山のように来てうんざりだ…という話をリツカに愚痴ってしまったのだ。
下心が見え見えの、親の魂胆を背負って媚びてくる令嬢達がうっとおしくて仕方がない。けれど、パートナーがいないと舞踏会では飛んだ笑い者になるのは目に見えていた。だから、舞踏会の日までにどうにかしてパートナーを決めなければならない。
(………どうせ、舞踏会でダンスを踊るのならば………)
僕は波打ち際に座る、人魚の少女をじっと見つめる。
一緒にいて疲れるどころか、逆に元気を分け与えてくれる目の前の女の子。
彼女が、もしも陸に上がることができたのならよかったのに……そう、思って止まなかった。
だから、つい、言ってしまったのだ。
「君の尾びれが、人間の足だったのなら一緒にダンスを踊れたのにな」
と。
本当に、深い意味はなかった。
一緒に舞踏会に言ってくれるのがリツカならばどんなにいいかと……ただ、それだけだった。
だが、その日を境に、リツカは浜辺に来なくなった。
「リツカ」
待てど暮らせど姿を現さない人魚の少女の名前を呼ぶ。
けれど、あの明るい弾むような声は、どこにも聞こえてこない。
(……僕が、リツカが人間の足だったら良かったとか、言ってしまったから……)
そのことが、彼女に侮辱されたと取られてしまったのかもしれない。
「……ちがう……」
顔を片手で覆い、ゆるゆると頭を振る。
「違うんだよ…リツカ」
君の尾びれを侮辱したわけではないんだ。むしろ、その夕焼け色の鱗が、とても美しいと思っているのに……
「謝るから…」
もう君の尾びれが人間の足なら良かったなんて、言わないから……
「だから……僕の前からいなくならないでくれ……」
何度も何度も、彼女と会って話をした浜辺に足を運ぶ。
けれども、今日も……リツカが姿を見せることは無かった。
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