「ただいま～」

バイクのヘルメットを玄関先にゴロンと転がして蘭丸が部屋に入ってきた。

「あれ？こら～ザクを出すなよ～」

ザクというのはどうやら冷蔵庫に入っていたロボットのことらしい。

「こんなもん冷蔵庫に入れんとき。アホちゃうん」

不機嫌なまま美咲はため息をつく。

「これはな、寒冷地仕様のザクやからな。こいつが冷蔵庫を守ってるんねん」

意味わからん。なんでこいつの家はロボットが冷蔵庫を守っとるんや。そもそも冷蔵庫を「守る」って、なんのためやねん。

「あぁ！ケロ蔵とガー子まで出してるやん！あかん！これは入れとかなあかん！」

蘭丸はカエルとアヒルのおもちゃを冷蔵庫に戻そうとする。

「なんでそれ冷やさなあかんのよ」

「アホやな。これな、抗菌って書いてあるねん。こいつらが冷蔵庫の中をばい菌から守ってくれるんやないか！」

アホや・・・こいつアホすぎる。抗菌仕様のおもちゃが、冷蔵庫全体のばい菌を防ぐわけないやん。そのおもちゃ自体にばい菌が繁殖しにくい、ってだけやん。こいつ・・・こんなんでよく大学受かったな。世の中の大学生はみんなこんなにアホなのか？

「それよりあんた。またこんなんいっぱい買ってるん」

Ｌカップ女やペタ胸少女の写真集を顎で指し示す。

「おまえ、また勝手に出して、なにしよんじゃ！ほっとけや俺の勝手やんけ！」

「そんなしょうもない物にお金いっぱい使って。アホちゃうん？あんたもしまいにインポなるで」

「アホか。それとこれは別やんけ。Ｇマイレージではヤッてないから大丈夫や」

「ほんまにもう…オナニーばっかりして、アホちゃう」

「うるさいわッ！ほっとけや！」

「なんやのッ！ほんならあんたはそういう、本とかＤＶＤとかの女で、一生オナニーしといたらええわ！オナニー中毒で、死ね！」

「ちょ、おま、でかい声でそんなこと言うなボケ…」

「もう知らんわ！勝手にしたらええやんッ」


怒りが一気に爆発し、美咲は蘭丸の家を飛び出した。

あんなガキっぽいやつ、もうイヤや。いままではあいつのアホなとこ、あたしのオトナの度量で見逃してきたけど、もう限界。

神谷くんがあんなことになって、莉奈ちゃんも悲しんで、大変な事になってるけど、結局蘭丸も神谷くんも「おかず」欲しさにＧマイレージみたいな胡散臭いサイトでバカみたいにオナニーばっかりしたのが原因。オナニー中毒の猿男たち。自業自得。そしてこんな事態になってもまだオナニーしてる蘭丸たち。

あきれる。信じられない。
あんなＬカップ女やペタ胸ロリータ見ながらアレをしごいてる姿とか・・・想像したら、最悪。キモチワルイ。


怒りに肩を震わせながら歩く美咲。怒っているのに涙がぽろぽろこぼれてくる。
それを無理矢理押さえ込むように、上を向き、空を仰ぐ。

夜空に青白く煌々と光る満月が、薄い雲に覆われてその光を失っていった。