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ラストンベル 〜



職人の街、ラストンベル。
相も変わらずここは賑わっている。今は別の意味で、だが。先にあったグレイブガント盆地での二国間の争いのせいで騎士団が検問を敷いてピリピリしている。
そんな中、周りには目を向けず検問を通過する。騎士たちはそれに気付くことはない。

この世界には、人間と霊的な存在である天族が息づいている。霊能力が高いものにしか見えない天族。その天族である自分の姿は、ここにいる人間達には見えていないのだろう。
それをいいことに中央通りを人目をはばからず進む。ノルミン天族達の情報を元に辿り着いたこの地。恐らくここに彼女は居るはずだ。あたりを見回し、彼女を探す。

そして、ローランス側の門が見えた辺りで、この場には馴染んでいない人影を見つける。旅人も多いこの街でも、その人物が目に付いたのは、恐らくその羽織と、左手に付けられているグローブの紋章の所為だろう。
緩めていた歩調を早めてその人物の元へ駆ける。

「なぁ、あんた!」
「え?」

驚いたその瞳がこちらに向けられた。それはつまり、こちらの声が届いているという事を意味している。当たりだ。心の中で小さく呟いた。

「えっと……?」
「――やっぱり来たのね」

青年が言葉を詰まらせていれば、その隣にどこからともなく届いた声。そして現れた姿を視界に移した瞬間に安堵する。あぁもう、どうしてそう平然としているのか。

「…っと勘弁してくれ……ッ、生きた心地がしなかったっての……!」
「なに、あなたこそ自由に色んなところを好きに歩き回ってるのに、ワタシはダメだっていうの?」
「そうは言ってないだろ…!ただせめてノルに何か伝言残すとか、書き置きするとかさぁ…!」

彼女の両肩に手を置けば、ちゃんとそこにいるのが分かって心底安心する。言葉通り、生きた心地がしなかった。人を嫌っていたはずの彼女が、外に行くなんて思ってもみなかったから尚更だ。それに、導師と共に行くということはただ散歩に行くのとは訳が違う。彼女だって分かってるはずだ。
言いたいことはまだ山ほどあったが、とにかく今は、見つかって良かった。

「何も無くて良かった……」
「……ちょっと困らせてみたかっただけよ。悪かったってば」
「もうやめてくれよ……本当に焦ったんだからな……」

彼女の肩から手を離し、改めて視界に移せばいつもと変わりない彼女。だが、先程彼女は〝器〟から姿を表した。それが意味していることが分からない訳が無い。
この状況に置いていかれている青年と、隣の赤髪の女性。そして彼女と同じように姿を見せた火・水・風の天族へと視線を向けた。

「悪い、みっともない所を見せた」
「ううん、大丈夫。エドナの知り合い?」
「まぁそんなとこだ。この子が世話になった」
「ちょっと」

文句ありげな彼女の睨みもなんのその。エドナを視界に収めつつも、青年を見やる。

「色々話したいことはあるが、ここじゃ人目があるな……。どこか静かな場所があればいいんだが……」
「それなら、宿に移動しよう。時間的に今日は宿を取って明日出ようかって話してた所だったし」
「その方が腰を落ち着けて話ができるな」

じゃあ、宿をとってくるよ、と返事を残して彼らは宿の方へ歩いていく。
隣に残ったのは、探していた彼女だけ。

「これは自分で決めた答えか?」
「私があの子に無理矢理連れてこられたとでも思ってるの?」
「いいや、ただお前の意思を確認したいだけだ」

彼女が自分の意思で、その足であいつの元を離れたのならば、それは彼女にとっての大きな一歩だろう。答えは聞くまでもないような導師だったが、それでも彼女の意思を聞きたかった。

「……一緒にアイゼンを鎮める方法を探しに行こう。あの子にそう言われたわ。呆れるほどに真っ直ぐな目で」

あの子、と彼女の視線の先には導師の青年。レイフォルクに人間が来ることはこれまでもあった。あるものはドラゴンバスターの名を欲して、あるものはただの好奇心で。
そんな人間ばかり見てきたからこそ彼女は人間が嫌いだった。

「あんな人間もいるのね」
「だから言ったろ。世界にはいろんな奴がいるって」
「得意げにならないで。あの子が特別なだけよ」

お気に入りの傘を開いて、彼女は歩きだす。答えは先の言葉で十分だった。その背を見て巣立ちを見守る親というのはこういう気持ちか、とぼんやり思った。口に出せば誰が親だ、と怒られそうだが。
そして彼女を世界に連れ出したあの青年に自身が興味を抱いたのも事実。
こりゃ長旅になりそうだ、と踏み出した足は思ったよりも軽かった。
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