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短編集



「「トリック オア トリート!」」

 そんな元気な声が響いたのは、いつもお茶会をしている場所で、普段であればお茶会のメンバーたちが話に花を咲かせている所だった。しかし、今日の装いはいつもと違う。そこには普段居るメンバーはおらず、だがいつも通りその場にいる彼が仮装した子供たちを出迎えていた。

「お、よく来たな。ハッピーハロウィン」

 心の底から楽しそうに、彼は子供たちの両手に収まる位の包みを手渡していく。昨日、夜遅くまでご機嫌で焼いていた焼き菓子がその中に詰まっていることだろう。子供達は目を輝かせ、その包みを嬉しそうに、大事そうに受け取っていく。普段から何かとお菓子を配り歩く彼を知らない子供はここには居ないだろう。そんな彼がこうして特別な行事に作ったお菓子だ。期待しない訳がない。そうして彼はあっという間に子供達に囲まれていた。

「何のお菓子が入ってるの?」
「そりゃ、空けてからのお楽しみだ。ほら、まだ他にも回るんだろ、行ってきな」
「はーい!」
「またね、ノーア!」

 走って転ぶなよ、と子供たちの背に声をかけてはまた次の子供達にお菓子を配る。中には、子供と呼んで良いのか怪しい奴らも居たが、それでも彼は呆れたように笑いながら分け隔てなくお菓子を手渡して行く。それを暫く繰り返し、来客が落ち着いた頃、彼はこちらへと歩いてきた。その顔は清々しい程に喜びに溢れていて、思わずこちらも少し笑ってしまう。

「随分と楽しそうなことね」
「まぁな。趣味でやってる事がこんなに色んな奴に喜ばれるなんざ思ってもみなかったからよ」
「あら、ワタシだけじゃ不満だったって言うの?」

 冷ややかな視線も何のその。彼はその笑顔を崩すことなくちょっと待ってて、と1度この場を離れ、直ぐに戻ってきた。その手には、いつものようにティーセットと、ケーキがトレーの上に置かれている。

「はい、これはエドナの分」
「お菓子で釣ろうって魂胆? ノーアの癖に生意気ね」
「そう拗ねるなよ。エドナの為に作ったんだぜ?」

 自分の前に置かれたケーキは、子供たちに渡すような可愛らしいものでは無く、シンプルなカップケーキ。香りからしてかぼちゃを使ったものだろう。

「お前が居なきゃ、こんな趣味持ってねぇって。ありがとな」
「どうしてあなたが礼を言うのよ」
「素直に受け取っとけって。俺は今を楽しんでるからさ。それに、お前もだろ?」
「……まぁ、悪くはないわね」

 その返事を分かっていただろうに、彼はワタシの返事を聞いてまた楽しそうに笑う。そんな彼を横目にカップケーキに手を伸ばす。甘すぎず、紅茶に良く合う味。ワタシ好みの味。

「合格点」
「お、珍しい。素直に合格くれるなんて」
「慢心せずに頑張る事ね」

 じゃあ、また来年も期待してるわ。そうして当たり前のように約束を重ねていく。ここで何度もこれからも。

「「ハッピーハロウィン」」

 当たり前の日常に、そんなちょっとした特別を。
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