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短編集



 もう一度会いたい。そんな小さな声が耳に届いた。嗚咽混じりの声。それは彼女の隠しきれない本心。こんなにも願って止まないのに、それすら許されないなんて。そんな彼女の願いを叶えてやれないなんて。昔も今も、何処までも無力な自分が不甲斐なくて仕方がなくなる。いつだってたどり着く答えには何かが欠けていて、どう転んでも彼女を傷つける結末ばかりだ。そう分かっていても、進まなくては行けないところまで来てしまった。

「エドナ」

 涙で濡れ、赤くなった瞳がこちらを映す。そこに映る自分はどんな表情をしていただろうか。それすらももう何も意味を成さない。先に歩いて行った彼らの答えは、確かに正しいのだろう。悩んで、苦しんで出した答えだろう。だが、それでも。

「待ってて」

 それだけ残して。先に歩いて行った彼らを追う。彼女の消え入りそうな声が小さく自身の名をこぼしたのを聞こえないフリをして、背負うと決めてドラゴンの元へ向かおうとしている導師を追う。そして思い詰めたような瞳で霊峰を見上げていたその隣を通り過ぎ、そのまま真っ直ぐな瞳と対峙する。ドラゴンの大きな咆哮を背に、なんて無様な結果だと自嘲した。

「悪いな、スレイ。これだけは譲れねぇんだわ」
「ノーア……」
「お前、どういう事か分かってんのか?」

 長年同じ様に約束に縛られてきた風が、鋭く視線を寄越す。それに肯定の笑みを返せば、大きな舌打ちと共に風はペンデュラムをその手に取った。

「っんとに、揃いも揃って頑固だぜ、お前ら」
「お前もな。渡すつもりは無いだろ、それ」
「死に急ぐ奴に易々と渡せるかよ」

 指さす先の銃。穢れとの結び付きを断つ唯一の方法。長い旅の末にたどり着いた答えは、パズルのピースが未だに揃っていない。だが、もうここまで来てしまった。どちらかを選ばなければならない。あいつか、俺か。もはや迷いなどない。その答えがどれだけ愚かだとしても、どれだけ彼女を傷つけようとも、それでも、彼女の世界は――。



 
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