短編集
とある日の早朝。ミクリオは寝ているスレイとロゼを起こさぬように宿に備え付けられていたキッチンへと向かった。そこから物音が聞こえたのに気付いたのは恐らくミクリオだけだろう。その証拠に未だ部屋は静まり返っている。そんな中そっとキッチンへと顔を出せばノーアが1人、慣れた手つきで何かを作っていた。
「お、おはようさん、ミクリオ」
「おはよう。君はこんな早くから何してるんだい」
「んー、頑張ってる若人達にたまには豪華な朝食でも、と思ってな」
器用にパンケーキをひっくり返せば、香ばしくほんのり甘い匂いが鼻を擽る。そのうちこの匂いを嗅ぎつけてスレイたちが起きてくるだろう。鼻歌交じりで調理している目の前の男は、楽しそうだ。どうも料理が好きらしい。
「見てるなら手伝ってくれよ。そこの果物切ってくれると助かる」
「……って、何品作る気なんだ君は」
並ぶ食材の数々にミクリオは思わず零す。人間2人が食べる量にしてはかなり多い。朝食なら尚更だ。
「作ったら作ったでお前らも食うだろ。後は保存のきく調理方法でなんとかなるって」
「君は大雑把なのか器用なのか分からなくなるな…」
言っていても仕方がない、と尚もご機嫌でフライパンを握るノーアを横目にミクリオも包丁を手にする。もう少ししたら起きてくるであろう幼なじみの驚く表情を想像し、その頬を綻ばせながら。