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魔核奪還編



ハルルの村長にルルリエの花びらを譲ってもらえるかと交渉しに行った所、ハルルの木を治せるならと村長はたった1枚しか残っていないその花びらを譲ってくれた。
パナシーアボトルを作る為に必要な残りの材料であるニアの実とエッグベアの爪を手に入れるべく、一行は道すがら会話と魔物との戦闘を挟みながらクオイの森まで来ていた。そして森に入った所でカロルがふと疑問に思ったことを口に出す。

「ねぇ、疑問に思ってたんだけど、さんにん…ラピードもなんだけどなんで魔導器持ってるの? 普通、武醒魔導器なんて貴重品持ってないはずなんだけどな」
「カロルも持ってんじゃん」
「ボクはギルドに所属してるし、手に入れる機会はあるんだよ。魔導器発掘が専門のギルド、遺構の門のおかげで出物も増えたしね」
「へぇ、遺跡から魔導器掘り出してるギルドまであんのか」
「うん、そうでもしなきゃ帝国が牛耳る魔導器を個人で入手するなんて無理だよ」

#ニル#はふと自分の胸元にあるブローチ――武醒魔導器に手を当てる。自分のものでは無い。父の私室から勝手に持ち出してきたものだ。

「古代文明の遺産、魔導器は有用性と共に危険性を持つため、帝国が使用を管理している、です。魔導器があれば危険な魔術を、誰でも使えるようになりますから無理もないことだと思います」
「やりすぎて独占になってるけどな」
「そ、それは…」
「で、実際のとこどうなの? なんで、持ってんの?」

話がややこしくなると思ったのか、それとも自分の質問の答えを早く聞きたかったのかカロルが催促するように問う。

「オレ、昔騎士団にいたから、やめた餞別にもらったの。ラピードのは、前のご主人様の形見だ」
「餞別って、それ盗品なんじゃ。……えと、ニルとエステルは?」
「あ、わたしは……」

言い淀んだエステルに、ニルは隠すことなんて無いと思いそのまま素っ気なく口を開いた。

「勝手に取ってきた」
「え、勝手に…?」
「父様の所から、勝手に取ってきた」
「そりゃあ随分と思い切ったこった。ま、貴族のお嬢様方なんだから魔導器くらい持ってるって」

その言葉に、素っ気なく森に向けられていたニルの視線が言葉を発したユーリの方へと向けられる。その瞳は、明らかな嫌悪を表しており、ユーリ思わず目を疑った。

「違う。僕は貴族なんかじゃない」
「え? でもニルって身なり良いよね」
「違うってば!」
「……落ち着けって。まぁ俺はどっちでもいいさ。なんであろうがとりあえず一緒に行くんだろ?」

眉間にシワを寄せ、口をグッと噤んで、何処か泣きそうな顔で堪えるように頷く。こちらも訳ありか、とユーリは人知れず肩を竦め、ほらニアの実を取りに行くぞ、と3人に言って先に歩き出した。
そのまましばらく森の中を進めば、ニアの実は簡単に見つかった。この森では珍しくもない実のようだ。ユーリはそれをいくつか拾ってニルへと手渡す。落とさないように、潰さないように両手でしっかり受け取った頃には、ニルの機嫌は元通りに戻っていた。

「あとは、エッグベアの爪、だね」
「森の中を歩いて、エッグベアを探すんです?」
「それじゃ見つからないよ」
「なら、どうすんだ?」
「ニアの実ひとつ頂戴。エッグベアを誘い出すのに使うから」
「誘い出す…?」
「エッグベアはね、かなり変わった嗅覚の持ち主なんだ」

ニルから受け取ったニアの実をひとつ。カロルはそれを得意げに笑って火をつけた。煙が昇る。それと同時に異様な匂いが辺りを包み、嗅覚の鋭いラピードが後ずさる。
それは次第に人の嗅覚でも分かる程の匂いを発していった。

「くさっ‼︎ おまえ、くさっ‼︎」
「ちょ、ボクが臭いみたいに‼︎」

事実ではあるが、大袈裟な程にユーリは声を上げ、眉間に皺を寄せた。酷い匂いだ。人でもこれなのだから、ラピードの嗅覚にはかなりキツイだろう。実を持ったままカロルが1歩こちらに近づいて来るが、ユーリたちは同じだけ下がる。

「先に言っておいてください」
「あ、ラピードが…」
「ラピード、しっかりして」

フラリ、ここまで頼もしかったラピードがその場に伏してしまった。ニルとエステルはその傍らにしゃがんでラピードを気遣う。

「みんな警戒してね!いつ飛び出してきてもいいように。それにエッグベアは凶暴なことでも有名だから」
「その凶暴な魔物の相手はカロル先生がやってくれるわけ?」
「やだな、当然でしょ。でも、ユーリも手伝ってよね」
「わたしもお手伝いします」
「僕も。ラピードも頑張るって」
「じゃ、まぁ、これでちょっと森の中、歩き回ってみっか」

ニアの実を持つカロルとは少し離れたまま、エッグベアを探す為に森を歩く。どこを見ても草木ばかり。魔物の姿はあれど、探しているエッグベアではない。本当にこの方法で出てくるのか、そう思い始めた時、前方から獣の咆哮が響いた。それに表情を引き締めたユーリ、反してカロルはそそくさとユーリの後ろへとその身を隠す。

「き、気をつけて、ほ、本当に凶暴だから……!」
「そう言ってる張本人が、真っ先に隠れるなんて、いいご身分だな」
「エ、エースの見せ場は最後なの!」

そうは言えど、その体は少し震えている。かさり、草が揺れたのにその肩が跳ねた。だがその草むらから出てきたのは小さな植物を思わせるような魔物。

「……これは、違いますよね?」

エステルが拍子抜けしたように零した直後、それを追うかのように今度は大きな魔物が飛び出してきた。

「うわああっ!」
「こ、これがエッグベア……」

この森に入ってから見てきた魔物とは大きさも見た目もまるで違う。大柄な体躯を見せびらかすかのように、エッグベアはこちらに反応を示しにじり寄ってきた。

「なるほど、カロル先生の鼻曲がり大作戦は成功ってわけか」
「へ、変な名前、勝手につけないでよ!」
「そういうセリフは、しゃきっと立って言うもんだ」

エッグベアの目には明らかな敵意。一同は武器を構えた。
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