短い
「お前、なに作ってるんだ」
唐突にキレネンコさんの声が問いかけてきた。
別々のベッドでそれぞれに過ごしていた昼下がりのこと。
キレネンコさんはずっといつもの雑誌を読んでいて、僕は看守さんからもらった余りの部品で何か作れないかとここ数日勤しんでいた。キレネンコさんは雑誌に夢中だと思っていたけど、案外こちらのことも見ていて驚いた。
そちらを向くとすでに雑誌は閉じて、ベッドに腰かけた彼がいた。
「えっと……まぁ、形的にはロボットになってきたところです」
「ロボット…」
「余った部品でなにか作れるかなぁと試していたんです」
こうして話始めたのならもっと近くで話したくなる。自分のベッドから降りると、キレネンコさんのベッドへ移動し隣に座る。特に抵抗されることもなく受け入れられて、縮まった距離感に嬉しくなる。
「そんなつもりじゃなかったんですけど…ちょっとキレネンコさんに似ちゃいました」
隣の彼にまだ形が出来てきたばかりのロボットを見せる。
僕の頭の中が彼でいっぱいだからか、余った部品を合わせただけなのになぜか外装が似てしまった。怒られちゃうかなぁと一抹の不安を感じ、少しドキドキする。
「……これを作ってたのか、何日も」
「はい…あの、似ちゃったのはたまたまで…」
「こっちの方がいいのか」
「え?」
似たことは偶然であることを弁明していた最中、キレネンコさんからの問いかけ。こっちの方がいい……?どういうことなのか。
「オレの方が丈夫だし強い。それに会話もできる、お前に触ることもできる」
「え、あの……キレネンコさん…」
「それでも、こいつの方がいいのか」
ロボットを指差しながら鈍い赤色の目が僕を捉えて離さない。これ……僕の自惚れじゃなかったら、勘違いじゃなかったら、キレネンコさんは……
「あの……もしかして、ロボットに妬いてますか…?」
「……悪いか。お前が何日もこいつに構ってて、オレは暇だった」
「…っ……」
不満げに眉をひそめる彼に色々な感情が沸き起こってぐちゃぐちゃになる。
この人もやきもち妬くんだ、とか可愛いな、とかこの顔もいいな、とか取り留めもない。にやけそうになる口元を必死に抑える。だめだ、こんなこと考えてるってばれたらきっとめちゃくちゃに怒られる。
「す、すみません…」
「プーチン」
「っ、は、はい」
「キス」
「……はい」
滅多に呼ばれない名前を呼ばれ、内臓が大きく跳ね上がる。心臓が痛いくらいに鳴っていて、キレネンコさんにも聞こえてしまいそうだ。
けれど、キレネンコさんからの要求を叶えるまではそんな情けないことはできない。
「キレネンコさん…僕にはあなただけですよ」
「…当たり前だ」
うるさい心臓を抑えながら、嫉妬をこぼした唇に口づけた。
END