短い
人は誰しもなにか曇りや悩みを抱えるもの。
それは大きさも重さも人によるが、なにかは持っている。能天気になにも抱えず考えず、楽観視だけして生きていくのはままならない。
だが、そんな気がまったくしないやつに初めて会った。
「え?くもり、ですか?」
「お前はなさそうだな。自分のなかの暗く曇ったものや悩みごと」
目の前にいる、薄い金髪の緑の囚人服を着た男。のほほんとして毎日どこかしらに楽しみを見つけ生きている。
「毎日よくわからんが笑って、なにも抱えてなさそうだな」
「ぼ、僕そんな笑ってますかね……でも、僕にも悩み、ありますよ」
「あ、あるのか…」
あまりにも意外な返事にオレは目を白黒させた。そんな驚きます?!と心外そうな声でやつが言っているが、驚くだろう。こんなぽやんぽやんとしてまさに能天気というやつに悩みがあるとは。
「なにが悩みだ」
「えーと……ほしいものがなかなか手に入りづらいこと、ですかね」
「ほしいもの?高いのか?」
「いえ、あ、んー……高い、かもです」
「なんだその微妙な答えは」
おかしな答え方だ。ほしいと言うからには価格くらい知っているだろう。それを高いかもってなんだ?
「えっと……それはとても貴重で、きれいで、かっこよくて、僕には不釣り合いかもしれないし手に入れるのはかなり困難なんですよ」
「ほーん…随分と高望みなんだな」
「はい……でも、絶対に諦めません」
諦めない、と言ったこいつの目が今までに見たことのない強い色をしたものでまた驚いた。宝石も金も美術品も古物にも興味のなさそうなこいつがこれほどまでにほしがるものとはどんなものなのか。
「手に入ったらなんだったか教えろ」
「えっ」
「おまえがそうしてでもほしがるもの、どれほどの価値かオレも見てやる」
「え、えっと……わ、わかりました…」
どんなものがオレの前に出てくるのか、久しぶりに靴以外のものに期待が湧いてくる。
こいつの返事をしかと聞くと、オレはベッドに寝転び読み途中だった雑誌のページをめくり始めた。
END
(変な約束をしてしまった……うまくごまかせたの…か?)
(僕のほしいものはあなたですよ、キレネンコさん)