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短い



「初めまして、オレはキレの兄のキルネンコだよ」
「は、初めまして……プーチンです」

この人はマズい。
普通じゃない、というはすぐにわかった。
柔らかい笑顔は上っ面で、赤く鈍い色の目は射殺すような目をしている。ひと目でわかることは、僕は歓迎されておらずむしろ敵として見なされている。

「刑務所からキレと一緒に脱獄したんだってね」
「まぁ……はい」
「やるじゃん、君ぼやぼやしてそうなのに。おもしろいね」

乾いた愛想笑いしか出なかった。
おかしそうに笑う姿はキレネンコさんと全然違う。
本当に双子?ここまで違うの?

「ところで、いつまで一緒にいるの?」
「え?」
「ん?」

いきなりの質問に頭が切り替わらず聞き返してしまう。やっぱり、キルネンコさんにとって僕は邪魔らしい。
口元は笑みを作っているが、目は先程のまま。
恐らくこの人は、僕を殺すことくらい造作もないし、むしろ今ここでだってやるだろう。

けど……僕は、

「ずっと、一緒にいます」
「…へぇ?」
「離れたくないので」

ここで引けるほど僕の気持ちは軽くないし、キレネンコさんをこの人に渡したくないから、この人が恐ろしいなんて言ってられない。

「ほんと、おもしろいねお前」
「笑えること言ったつもりはないですけどね」
「十分笑えること言ってるよ」

笑いのセンスは微妙だけどね、と余計なことを付け足して笑ってない殺意のある目が僕を捉えている。
どう言い返してやろうと考えていると、どこからか電話の着信音が鳴った。

「あらら、ズルか……残念、ここまでだ」
「ほんと残念ですね」
「……また会おうね、それじゃ」

僕の言葉にキルネンコさんは一瞬目を細めたが、すぐに最初の笑顔をこちらに向け踵を返して去っていった。

「はぁ〜〜……」

キルネンコさんの姿が完全に見えなくなると、急に脚の力が抜けてしまいその場に座り込んだ。
よかった、生きてる。

「お前、兄キと何話してたんだ?」
「あ、キレネンコさん」

キルネンコさんが来てもお構いなしで雑誌を読んでいたキレネンコさんが近づいてきて僕を見下ろす。
こちらの赤く鈍い色の目には殺意がなく安心する。

「キレネンコさんといつまで一緒にいるのかって聞かれました」
「……」
「僕がずっと一緒にいますって言ったらすごい目で見られました」

あの目は今思い出しても引きつった笑いしか起きない。

「本当に殺されるかと思いました……でも、僕はキレネンコさんのことが好きです。キルネンコさんが恐ろしい人だからといって引くことはできません」
「……」

見下ろしてくるキレネンコさんの目を見ながら話すと、キレネンコさんは少し驚いたような顔をした後ふいっとそっぽ向いてしまった。
あれ……僕なにか変なこと言っちゃったかな……

「キレネンコさ……っわ!」

声をかけようと手を伸ばすと、キレネンコさんにその手を引っ張られ立ち上がらされた。いきなりだったから肩が若干抜けそうになったが、なんとか保てた。

「行くぞ、次の街までまだ距離がある」
「……はい」

勘違いかもしれない、聞き間違えかもしれない。都合のいい思い込みかもしれない。
それでも僕には、キレネンコさんの今の声が少し嬉しそうな明るい声に聴こえた。

やはり僕はここで引くことなんて絶対できない。
強めに握られる手の痛みでさえ愛しく感じた。


END
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