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短い



「手、繋ぎませんか?」

僕がキレネンコさんにそう声をかけると、不思議そうな顔でこちらを見る。
壁と背中の間に枕を挟み、もたれながら雑誌を読んでいるいつもキレネンコさん。その正面に座る僕もいつもの様相になってきた。
こうしてキレネンコさんのことを見ていられるのは本当にうれしい。僕はいまだ表情を変えないキレネンコさんに掌を差し出した。

「手を乗せてください」
「……犬か」
「…あ、やだな違いますって、お手なんてつもりじゃないですよ」

考えてもなかったが、確かに掌を差し出しそこに手を乗せてもらうのは犬のお手のようだ。キレネンコさんの返答で気付き、笑っている僕にため息をつきながらキレネンコさんは僕の掌に手を乗せてくれた。
なんやかんやキレネンコさんは僕のお願いをきいてくれる。ノリがいいというか、やさしいというか。

「ありがとうございます」

軽く手を握ると、拙い動きで手を握り返そうとしてくる。普段のキレネンコさんからは想像できないくらいとても弱い力で。きっとわからないのだろう、手を握り返すことが。

「キレネンコさん、手を握り返すのちょっとヘタですよね」
「…人と手を繋ぐことなんかなかったからな」
「そうなんですか?」
「親とは覚えがない。兄キとはあったかもしれないが覚えていない」

本来知ってるであろうことを知らないキレネンコさんの手。
大人の男性の手に残る幼さを愛おしく感じた。彼だからだろう。その手を少し強く握ると、キレネンコさんも少し握り返す力が強くなった。

「今はこうして、僕と繋いでますね」
「……」
「キレネンコさんの手はあったかくて、とても心地いいです」
「……わからない」

キレネンコさんの視線はいつの間にか僕の目ではなく、重ねる手の方に向いていた。そんな彼からのわからない、という言葉。僕の言ったことだろうか、それとも僕がなにかしてしまったのだろうか。

「なにがですか?」
「力……」
「力?」
「どのくらいの力で握り返すんだ」

今まで何度もこうしたが初めて聞かれた。ついに気になったようだ。僕のことを考えてくれているのだろうか、それならものすごくうれしい。
けれど、僕の希望なんてそこには不要だ。

「キレネンコさんの思う加減で大丈夫ですよ」
「…いいのか」
「折れなければ平気です」

僕は彼の拙く幼いその手が好きだから。
今でもちゃんと彼なりに加減しようとしてくれてる。これならきっとちゃんとわかる日がくる。
だからそれまではこの感覚を楽しみたい。もちろんからかうような意味じゃない、僕は彼のすべてを見たい。こんな拙い彼も。
そしてその幼い手は僕を通して知るはずだったことを知ってほしい。

「……」
「くすぐったいですね」
「……」
「あたたっ」
「……難しい」

僕と共に覚えて、刻んでいってほしい。
ちょっと望みすぎかなぁ、と思いながら、眉間にしわを寄せ考えあぐねるかわいらしいキレネンコさんを見つめた。



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