お姉さんシリーズ 南くん編
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【三年目・夏】
坊っちゃんの高校生活最後の夏。今年も、坊っちゃんのチームは難なく夏のインターハイ全国出場を果たした。
私は、坊っちゃんが日々情熱を捧げているバスケの試合をずっと見に行きたかったのだけれど、「小っ恥ずかしいんで名前さんは見に来んといてください。」と言われてしまって、行けた試しがなかったのだ。
でも……今年のインターハイは広島だ。幸いにも、大阪から近かった。
「うん、バレなければいいよね。」
いよいよ熱意の上がってしまった私は、坊っちゃんには内緒でインターハイ緒戦を応援しに行くことにしたのだった。
「な、なんか……変わった雰囲気だなあ……。」
私は会場に着き、なるべく目立たなさそうな席に付いた。
……なんだか妙に観客から出るヤジのガラが悪い気がするけれど、バスケ観戦って意外と、プロレスのような雰囲気だったりするのだろうか?
すると隣に座っていた女の子たちが、キャッキャと話に花を咲かせて盛り上がっていた。
「うちらも大概だよね~。いくら自分の学校の応援って言うても、超カッコイイって噂の神奈川のイケメンルーキー見たさで、広島まで来ちゃうなんてさ~。」
「でも可哀想だよねえ。エースだったら、たぶん南に目ぇ付けられるやん?」
「あーん南、せめてイケメンの顔は傷つけんといて欲しいわぁ~!」
その会話の中で、南、という単語が聞こえてきてピクっと反応してしまった。
どうやら彼女たちは坊っちゃんの事を話しているようだけれど、目を付ける、やら傷つける、と言った物騒な単語が聞こえてきたことに、不穏な気配を感じてしまう。
……もしかしたら、以前私が感じた坊っちゃんの纏う翳りと関係があるのだろうか。
「あの……お嬢さんたち、急にごめんなさい。
いまお話されていた南くんって、どんな選手なんですか?」
「あれ、お姉さん、うちの学校の試合見るの初めてなん?キャプテンの南は通称エースキラーの南って言われてんねん。」
「えっ……!?」
「うちってガンガン攻めるプレーするんやけど、特に南は勝つためにラフプレーで相手のエース退場させることもあるんよ。」
「そう、なんですか……。教えてくれてありがとうございます……。」
私は、坊ちゃんの抱えていた葛藤はきっとこの事なのではないかと察知した。
いつも聡明で落ち着いた坊っちゃんが故意に人を傷つけるとは、私には到底信じられなかった。
その話が本当だとしたらきっと何か、どうしても勝たなければいけない事情があるのだろう……。そんなことを考えているうちに、試合の幕は開けた。
最初は女の子たちが言っていた通り、攻めたプレーの豊玉が勢いをつけていて、その中でも坊っちゃんの鮮やかな3Pシュートが決まるのを初めて見た時は、心に熱い気持ちが込み上げて来るのを感じた。
(やっぱり、坊っちゃんには悪いけど見に来てよかった……。坊っちゃんはこの瞬間のために、毎日がんばっているんですね。
勝ってください、坊っちゃん!)
試合の攻防を夢中で見ているうちに、女の子たちが言っていたエースキラーという不穏な話は私の頭から消えていた。
しかし、豊玉が途中で相手に押されると、相手の11番の子が坊っちゃんのラフプレーを受けて倒れてしまった。
「そんな……。」
「ああー!イケメンの顔があぁぁぁ……。」
「南……やってくれたやん……。」
試合は一気に荒れて、後半になって11番の子は戻ってきたけれど、腫れた片目が痛々しかった。
それからの後半の豊玉は、見るからに調子が悪く、対してエースを傷つけられた相手校は足並みを揃えて、11番の子も片目とは思えないような好プレーを見せる。
豊玉を応援している私がこんなことを言ってはいけないけれど、もし、これが両校とも私になんの関係もない試合ならば、私は相手校を応援していただろう。それくらい直向きな姿だった。
ついに豊玉は内輪揉めを起こしてしまう。
「あーあ、イケメンの顔傷つけるからバチ当たったんやわ。」
「アホやな~。」
バチが当たる……。
女の子たちの言っている事とは意味が違うけれど、自分が故意に傷つけたエースが痛々しい姿で懸命に立ち向かってくるその姿は、坊っちゃんの心にどう映っているだろうか……。
「ああっ……!」
そして、遂に11番の子にぶつかってしまった坊っちゃんが、倒れてしまう。私は、思わずガタリと立ち上がって、いても立ってもいられず坊っちゃんが倒れた方向へと向かった。
「……あのお姉さん、南の知り合いだったんやね。」
「ていうか、彼女なんちゃうの?なんかえらい心配してたし。」
涙目で下へと降りた私は、坊っちゃんが優しそうな初老のおじいさんに手当されている光景が目に入ってきた。
「……ん?嬢ちゃんは、南の彼女かい?」
「あの、坊っちゃ……烈くんは、大丈夫なのでしょうか……?」
「ああ、心配せんでええよ。すぐに目が覚めるやろう。嬢ちゃんは、安心して客席から見守っておやり。」
「それなら、よかったです……。烈くんのこと、お願いします。」
おじいさんに言われた通り、私は客席に戻って試合の再開を待つことにした。
戻る途中、子供たちの集団がぞろぞろと降りていくのが見えた。
「あっ!ねえねえ、お姉さんって、南の彼女だったん~?」
「えっと、そういうわけでは……。南くんのご実家で働いてるんです。」
「ふーん……。それにしてはなんか大事そうな感じやない?」
「お姉さん、南に気があるんとちゃうの~?」
「あはは……。」
女の子たちは、ニヤニヤと楽しそうに私をからかった。
そして、坊っちゃんが頭に包帯を巻いた姿でコートに戻る。
結局、試合は敗けてしまったけれど。最後の坊っちゃんは、どこか重荷が無くなったような、晴れ晴れとした姿に見えた。
その光景を目に焼き付けて、私は、そのままひっそりと大阪に帰った。
そして数日後、私は坊っちゃんに会った。
「お帰りなさい坊っちゃん、試合お疲れ様でした。」
「ただいま名前さん。……試合、見に来とったやろ。」
「えっ、なんで知って……あっ!!」
「……やっぱそうやったんか。
オレが倒れとった時、何や胸のでかい可愛い姉ちゃんが心配そうに見に来とったらしいって、チームで噂になって散々からかわれましたわ。そんなんアンタしか心当たりないやろ。」
せっかくひっそりと帰ったのに、カマをかけられた私は、呆気なくもバレてしまった。
坊っちゃんはハァ、と小さくため息を漏らした。
「アハハ……。ごめんなさい、どうしても気になっちゃって……。でも、私は見れてよかったです。」
「……まあ、ええですわ。」
少しムスッとした顔の坊っちゃんは、照れくさそうだった。
「あの……。私、試合を見にいってやっと気付いたんですけど、坊っちゃんはラフプレーをしたこと、恐らくずっと1人で悩まれてたんですよね?
どうしてそこまでして勝ちにこだわってたんですか?」
「オレの尊敬してた監督が解雇されてもうて。
オレらのやり方で全国ベスト4までいかんと、その人が戻ってこれへんかったんや。その為に手段は選ばんかった。
……でも、いまは吹っ切れましたわ。」
坊ちゃんは、どこかすっきりとした表情でそのように答えてくれた。
「良かった……。坊っちゃん、いい顔をしています。
私、むかし同じことを聞いたんですけど……部活、いまは楽しいですか?」
「……そうやね。これからはやっと、素直に楽しめそうですわ。」
「坊っちゃん……!良かったです!坊っちゃんが楽しく大好きなバスケをできるなら、私は何より嬉しいです!」
私は坊っちゃんが抱えていた葛藤が無事に消えたことが嬉しくて、思わず笑顔で正面からぎゅっと抱きしめてしまった。
「……ああ。あと、アンタのことも吹っ切れましたわ。」
「えっ、私……?私が何か……?」
坊っちゃんは抱きついていた私の肩をガシッと掴み、引き離して、私の顔をじっと見据えた。
「全く……オレが今までいったい何回、アンタの無防備な態度にムラムラさせられたと思ってるんですか。
何も知らずに健全な男子高校生の劣情煽りよって、オレだってもう限界超えてまうわ。」
「えっ…………。」
「次オレに抱きつきでもしたら同意とみなして襲うで。ええですか?」
「え、えっ……。す、すみません、でした……?」
坊っちゃんは少し苛立ちを含んだような、なんとも言えない笑顔でそう告げた。
その日からの坊っちゃんは、私にストレートな愛情を向けるようになった。
……その状況が、この話の冒頭の通りである。
私はその日以来、家族のようなものだと思っていた坊っちゃんに、女として思われていたということが妙に恥ずかしくて、迫られると目が合わせられなかった。
「グイグイ行って何がいかんのですか。名前さんだってオレのこと好きやろ。
そないに意識されたら、オレにだってわかりますわ。」
「うう……、そ、それは……。」
「まさか、この期に及んで弟みたいなもんだなんて言う気や無いですよね?」
「う…………。」
そう、今の私は、1人の男性として坊っちゃんを意識してしまっている。
そしてもうこれ以上、有耶無耶にすることはできないだろう。
でも、私は気恥ずかしさで坊っちゃんへの気持ちを言葉で伝えることが出来ず、衝動のままに坊っちゃんに抱きついた。
「ちょ……!名前さん、次抱きついたら同意と見なすって言ったやろ。忘れたんか!?」
そうは言うけれど坊っちゃんは、心の優しい人だ。私が少しでも嫌がるような素振りを見せたら、今までのようにきっと、ぐっと堪えてしまうのだろう。
……でも、私はそんな坊っちゃんに求められたいと思ってしまった。
そんな不埒な自分に思わず頬が熱くなり、私は坊っちゃん……烈くんの瞳を見上げて見つめた。
「わかってます、坊っちゃん。
……ううん、私はちゃんと、わかっててやってるの……烈くん。」
「……!! ほんま、アンタには敵わんわ……。」
烈くんが真っ赤な顔で私を優しく包み込んで、ドクドクと激しい鼓動が心地よく身体に伝わってくる。私はもっともっと強く抱きしめて欲しくて、烈くんの背中にまわした腕を更に強く、ぎゅっと力を込めたのだった。
【完】
坊っちゃんの高校生活最後の夏。今年も、坊っちゃんのチームは難なく夏のインターハイ全国出場を果たした。
私は、坊っちゃんが日々情熱を捧げているバスケの試合をずっと見に行きたかったのだけれど、「小っ恥ずかしいんで名前さんは見に来んといてください。」と言われてしまって、行けた試しがなかったのだ。
でも……今年のインターハイは広島だ。幸いにも、大阪から近かった。
「うん、バレなければいいよね。」
いよいよ熱意の上がってしまった私は、坊っちゃんには内緒でインターハイ緒戦を応援しに行くことにしたのだった。
「な、なんか……変わった雰囲気だなあ……。」
私は会場に着き、なるべく目立たなさそうな席に付いた。
……なんだか妙に観客から出るヤジのガラが悪い気がするけれど、バスケ観戦って意外と、プロレスのような雰囲気だったりするのだろうか?
すると隣に座っていた女の子たちが、キャッキャと話に花を咲かせて盛り上がっていた。
「うちらも大概だよね~。いくら自分の学校の応援って言うても、超カッコイイって噂の神奈川のイケメンルーキー見たさで、広島まで来ちゃうなんてさ~。」
「でも可哀想だよねえ。エースだったら、たぶん南に目ぇ付けられるやん?」
「あーん南、せめてイケメンの顔は傷つけんといて欲しいわぁ~!」
その会話の中で、南、という単語が聞こえてきてピクっと反応してしまった。
どうやら彼女たちは坊っちゃんの事を話しているようだけれど、目を付ける、やら傷つける、と言った物騒な単語が聞こえてきたことに、不穏な気配を感じてしまう。
……もしかしたら、以前私が感じた坊っちゃんの纏う翳りと関係があるのだろうか。
「あの……お嬢さんたち、急にごめんなさい。
いまお話されていた南くんって、どんな選手なんですか?」
「あれ、お姉さん、うちの学校の試合見るの初めてなん?キャプテンの南は通称エースキラーの南って言われてんねん。」
「えっ……!?」
「うちってガンガン攻めるプレーするんやけど、特に南は勝つためにラフプレーで相手のエース退場させることもあるんよ。」
「そう、なんですか……。教えてくれてありがとうございます……。」
私は、坊ちゃんの抱えていた葛藤はきっとこの事なのではないかと察知した。
いつも聡明で落ち着いた坊っちゃんが故意に人を傷つけるとは、私には到底信じられなかった。
その話が本当だとしたらきっと何か、どうしても勝たなければいけない事情があるのだろう……。そんなことを考えているうちに、試合の幕は開けた。
最初は女の子たちが言っていた通り、攻めたプレーの豊玉が勢いをつけていて、その中でも坊っちゃんの鮮やかな3Pシュートが決まるのを初めて見た時は、心に熱い気持ちが込み上げて来るのを感じた。
(やっぱり、坊っちゃんには悪いけど見に来てよかった……。坊っちゃんはこの瞬間のために、毎日がんばっているんですね。
勝ってください、坊っちゃん!)
試合の攻防を夢中で見ているうちに、女の子たちが言っていたエースキラーという不穏な話は私の頭から消えていた。
しかし、豊玉が途中で相手に押されると、相手の11番の子が坊っちゃんのラフプレーを受けて倒れてしまった。
「そんな……。」
「ああー!イケメンの顔があぁぁぁ……。」
「南……やってくれたやん……。」
試合は一気に荒れて、後半になって11番の子は戻ってきたけれど、腫れた片目が痛々しかった。
それからの後半の豊玉は、見るからに調子が悪く、対してエースを傷つけられた相手校は足並みを揃えて、11番の子も片目とは思えないような好プレーを見せる。
豊玉を応援している私がこんなことを言ってはいけないけれど、もし、これが両校とも私になんの関係もない試合ならば、私は相手校を応援していただろう。それくらい直向きな姿だった。
ついに豊玉は内輪揉めを起こしてしまう。
「あーあ、イケメンの顔傷つけるからバチ当たったんやわ。」
「アホやな~。」
バチが当たる……。
女の子たちの言っている事とは意味が違うけれど、自分が故意に傷つけたエースが痛々しい姿で懸命に立ち向かってくるその姿は、坊っちゃんの心にどう映っているだろうか……。
「ああっ……!」
そして、遂に11番の子にぶつかってしまった坊っちゃんが、倒れてしまう。私は、思わずガタリと立ち上がって、いても立ってもいられず坊っちゃんが倒れた方向へと向かった。
「……あのお姉さん、南の知り合いだったんやね。」
「ていうか、彼女なんちゃうの?なんかえらい心配してたし。」
涙目で下へと降りた私は、坊っちゃんが優しそうな初老のおじいさんに手当されている光景が目に入ってきた。
「……ん?嬢ちゃんは、南の彼女かい?」
「あの、坊っちゃ……烈くんは、大丈夫なのでしょうか……?」
「ああ、心配せんでええよ。すぐに目が覚めるやろう。嬢ちゃんは、安心して客席から見守っておやり。」
「それなら、よかったです……。烈くんのこと、お願いします。」
おじいさんに言われた通り、私は客席に戻って試合の再開を待つことにした。
戻る途中、子供たちの集団がぞろぞろと降りていくのが見えた。
「あっ!ねえねえ、お姉さんって、南の彼女だったん~?」
「えっと、そういうわけでは……。南くんのご実家で働いてるんです。」
「ふーん……。それにしてはなんか大事そうな感じやない?」
「お姉さん、南に気があるんとちゃうの~?」
「あはは……。」
女の子たちは、ニヤニヤと楽しそうに私をからかった。
そして、坊っちゃんが頭に包帯を巻いた姿でコートに戻る。
結局、試合は敗けてしまったけれど。最後の坊っちゃんは、どこか重荷が無くなったような、晴れ晴れとした姿に見えた。
その光景を目に焼き付けて、私は、そのままひっそりと大阪に帰った。
そして数日後、私は坊っちゃんに会った。
「お帰りなさい坊っちゃん、試合お疲れ様でした。」
「ただいま名前さん。……試合、見に来とったやろ。」
「えっ、なんで知って……あっ!!」
「……やっぱそうやったんか。
オレが倒れとった時、何や胸のでかい可愛い姉ちゃんが心配そうに見に来とったらしいって、チームで噂になって散々からかわれましたわ。そんなんアンタしか心当たりないやろ。」
せっかくひっそりと帰ったのに、カマをかけられた私は、呆気なくもバレてしまった。
坊っちゃんはハァ、と小さくため息を漏らした。
「アハハ……。ごめんなさい、どうしても気になっちゃって……。でも、私は見れてよかったです。」
「……まあ、ええですわ。」
少しムスッとした顔の坊っちゃんは、照れくさそうだった。
「あの……。私、試合を見にいってやっと気付いたんですけど、坊っちゃんはラフプレーをしたこと、恐らくずっと1人で悩まれてたんですよね?
どうしてそこまでして勝ちにこだわってたんですか?」
「オレの尊敬してた監督が解雇されてもうて。
オレらのやり方で全国ベスト4までいかんと、その人が戻ってこれへんかったんや。その為に手段は選ばんかった。
……でも、いまは吹っ切れましたわ。」
坊ちゃんは、どこかすっきりとした表情でそのように答えてくれた。
「良かった……。坊っちゃん、いい顔をしています。
私、むかし同じことを聞いたんですけど……部活、いまは楽しいですか?」
「……そうやね。これからはやっと、素直に楽しめそうですわ。」
「坊っちゃん……!良かったです!坊っちゃんが楽しく大好きなバスケをできるなら、私は何より嬉しいです!」
私は坊っちゃんが抱えていた葛藤が無事に消えたことが嬉しくて、思わず笑顔で正面からぎゅっと抱きしめてしまった。
「……ああ。あと、アンタのことも吹っ切れましたわ。」
「えっ、私……?私が何か……?」
坊っちゃんは抱きついていた私の肩をガシッと掴み、引き離して、私の顔をじっと見据えた。
「全く……オレが今までいったい何回、アンタの無防備な態度にムラムラさせられたと思ってるんですか。
何も知らずに健全な男子高校生の劣情煽りよって、オレだってもう限界超えてまうわ。」
「えっ…………。」
「次オレに抱きつきでもしたら同意とみなして襲うで。ええですか?」
「え、えっ……。す、すみません、でした……?」
坊っちゃんは少し苛立ちを含んだような、なんとも言えない笑顔でそう告げた。
その日からの坊っちゃんは、私にストレートな愛情を向けるようになった。
……その状況が、この話の冒頭の通りである。
私はその日以来、家族のようなものだと思っていた坊っちゃんに、女として思われていたということが妙に恥ずかしくて、迫られると目が合わせられなかった。
「グイグイ行って何がいかんのですか。名前さんだってオレのこと好きやろ。
そないに意識されたら、オレにだってわかりますわ。」
「うう……、そ、それは……。」
「まさか、この期に及んで弟みたいなもんだなんて言う気や無いですよね?」
「う…………。」
そう、今の私は、1人の男性として坊っちゃんを意識してしまっている。
そしてもうこれ以上、有耶無耶にすることはできないだろう。
でも、私は気恥ずかしさで坊っちゃんへの気持ちを言葉で伝えることが出来ず、衝動のままに坊っちゃんに抱きついた。
「ちょ……!名前さん、次抱きついたら同意と見なすって言ったやろ。忘れたんか!?」
そうは言うけれど坊っちゃんは、心の優しい人だ。私が少しでも嫌がるような素振りを見せたら、今までのようにきっと、ぐっと堪えてしまうのだろう。
……でも、私はそんな坊っちゃんに求められたいと思ってしまった。
そんな不埒な自分に思わず頬が熱くなり、私は坊っちゃん……烈くんの瞳を見上げて見つめた。
「わかってます、坊っちゃん。
……ううん、私はちゃんと、わかっててやってるの……烈くん。」
「……!! ほんま、アンタには敵わんわ……。」
烈くんが真っ赤な顔で私を優しく包み込んで、ドクドクと激しい鼓動が心地よく身体に伝わってくる。私はもっともっと強く抱きしめて欲しくて、烈くんの背中にまわした腕を更に強く、ぎゅっと力を込めたのだった。
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