お姉さんシリーズ 南くん編
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【二年目・冬】
私が大阪で迎える2度目の冬の日。寒波が急に激しくなってきて、のど飴やかぜ薬を買いに来るお客さんも多くなってきた頃だった。
私も、その日はタートルネックのニットセーターでしっかりと防寒をしてバイトへと向かった。ご夫婦が用件で外出をしていて、1人での店番が終わり店仕舞いをしていると、部活終わりの坊っちゃんが帰ってきた。
「お疲れ様です、坊っちゃん。今日は寒かったですね。」
「おつかれさん、名前さん。……何や、ずいぶんと手ェカサカサやないですか。ワセリン塗った方がええですよ。」
「アハハ……ハンドクリームは持ってるんですけど、恥ずかしいこと塗り忘れることが多くて……この季節は、すぐに手が荒れてしまって。」
「ちょっと待っとってください。」
すると坊っちゃんは、2階の家の方へと上がり、ワセリンを持ってこちらへ戻ってきた。
私は坊っちゃんの優しさに感謝して、それを受け取ろうとした。
「坊っちゃん!そんな、わざわざありがとうございます。」
「……名前さん、オレが塗ったる。手ェ貸してください。」
「え……。」
坊ちゃんは、自分でワセリンの蓋を開け、私に向かってそのように告げた。
私は一瞬、部活でお疲れな坊っちゃんのお手を煩わせなくても自分で塗りますよ。そう言おうと思ったけれど、坊っちゃんの気遣いを無視するのも失礼だと思い、両手を差しのべた。
私の手よりも、一回り大きな坊っちゃんの手のほかほかとした温もりが伝わる。
「名前さん、ずいぶん冷えてるやないですか。」
「冷え性なんです……。」
「アパートは寒ないですか?ちゃんと身体温めなアカンですよ。
うちの風呂、名前さんならいくらでも使ってええですから。」
坊っちゃんの大きくゴツゴツとした手がゆっくりと、私の指や手の甲に、優しく丁寧にワセリンを塗り進めていった。
「坊っちゃんは、よく手のケアをされてるんですか?」
「それなりに。乾燥するとボールが滑りやすいんですわ。」
「バスケのために大事にされてるんですね。坊ちゃんの手は、いつも練習頑張ってる手ですもんね。」
「名前さんのは白くてやわっこくて、小さい手やなあ……。」
そうしてワセリンが全体に塗り渡ったけれど、なぜか坊ちゃんはしばらく私の手を離そうとはせず、未だ重なり合ったままだった。
「坊っちゃん……?」
坊っちゃんは、伏し目で物憂げな様子で、私の両手を握って更にぎゅっと強く力を込めた。
「……名前さん。アンタといるときだけは、オレは……。」
俯いて目線をずらした坊ちゃんが、やや眉をひそめた切なげな表情で呟いた。
「坊っちゃん……?どうしたんですか?なにか、あったんですか?」
「……。」
一瞬、目を瞑って何か思考を巡らせたような坊っちゃんだったけれど、煮え切らない様子のまま、するりと手を解いた。
「……いや、なんでもないですわ。ちょっと、疲れとったみたいや。」
「坊っちゃん……何か、ひとりで抱え込んではないですか?」
その坊っちゃんの様子があまりにも辛そうで、見ていられなくなった私は思わず、坊っちゃんの肩へと手を伸ばした。
すると、突如その私の手首が坊っちゃんにグイッと掴まれた。
「いたっ……!?」
その力強さに思わず反射的に悲鳴が出ると、坊っちゃんは、すぐハッとして手首を離した。
「あ……。ごめん、名前さん……。でも、今のオレに触らんといてください。」
家族のように思っている坊っちゃんに拒まれたのは心が痛むけれど、それ以上に、悲痛そうな坊っちゃんの顔を見るのが心苦しかった。
そろそろ冬の全国大会が間近だ。エースである坊っちゃんは、プレッシャーを感じて気が張りつめているのかもしれない。
「坊っちゃん、私でよかったら、いつでも何でもお話してくださいね。
私にとっては、南家は……坊っちゃんは、第2の家族のように大事ですから……。」
「……おおきに。まあ、そうさせてもらいますわ。」
無理に儚げな笑顔を作って、坊っちゃんは2階へと上がって行った。
……坊っちゃんは確実に、なにかの葛藤を抱えている。
思えば、夏の全国大会が終わった辺りの時から、坊っちゃんの雰囲気に影が刺し始めていた。
でも、それが何なのかは、その時の私には知ることが出来なかった。
【次回へ続く】
私が大阪で迎える2度目の冬の日。寒波が急に激しくなってきて、のど飴やかぜ薬を買いに来るお客さんも多くなってきた頃だった。
私も、その日はタートルネックのニットセーターでしっかりと防寒をしてバイトへと向かった。ご夫婦が用件で外出をしていて、1人での店番が終わり店仕舞いをしていると、部活終わりの坊っちゃんが帰ってきた。
「お疲れ様です、坊っちゃん。今日は寒かったですね。」
「おつかれさん、名前さん。……何や、ずいぶんと手ェカサカサやないですか。ワセリン塗った方がええですよ。」
「アハハ……ハンドクリームは持ってるんですけど、恥ずかしいこと塗り忘れることが多くて……この季節は、すぐに手が荒れてしまって。」
「ちょっと待っとってください。」
すると坊っちゃんは、2階の家の方へと上がり、ワセリンを持ってこちらへ戻ってきた。
私は坊っちゃんの優しさに感謝して、それを受け取ろうとした。
「坊っちゃん!そんな、わざわざありがとうございます。」
「……名前さん、オレが塗ったる。手ェ貸してください。」
「え……。」
坊ちゃんは、自分でワセリンの蓋を開け、私に向かってそのように告げた。
私は一瞬、部活でお疲れな坊っちゃんのお手を煩わせなくても自分で塗りますよ。そう言おうと思ったけれど、坊っちゃんの気遣いを無視するのも失礼だと思い、両手を差しのべた。
私の手よりも、一回り大きな坊っちゃんの手のほかほかとした温もりが伝わる。
「名前さん、ずいぶん冷えてるやないですか。」
「冷え性なんです……。」
「アパートは寒ないですか?ちゃんと身体温めなアカンですよ。
うちの風呂、名前さんならいくらでも使ってええですから。」
坊っちゃんの大きくゴツゴツとした手がゆっくりと、私の指や手の甲に、優しく丁寧にワセリンを塗り進めていった。
「坊っちゃんは、よく手のケアをされてるんですか?」
「それなりに。乾燥するとボールが滑りやすいんですわ。」
「バスケのために大事にされてるんですね。坊ちゃんの手は、いつも練習頑張ってる手ですもんね。」
「名前さんのは白くてやわっこくて、小さい手やなあ……。」
そうしてワセリンが全体に塗り渡ったけれど、なぜか坊ちゃんはしばらく私の手を離そうとはせず、未だ重なり合ったままだった。
「坊っちゃん……?」
坊っちゃんは、伏し目で物憂げな様子で、私の両手を握って更にぎゅっと強く力を込めた。
「……名前さん。アンタといるときだけは、オレは……。」
俯いて目線をずらした坊ちゃんが、やや眉をひそめた切なげな表情で呟いた。
「坊っちゃん……?どうしたんですか?なにか、あったんですか?」
「……。」
一瞬、目を瞑って何か思考を巡らせたような坊っちゃんだったけれど、煮え切らない様子のまま、するりと手を解いた。
「……いや、なんでもないですわ。ちょっと、疲れとったみたいや。」
「坊っちゃん……何か、ひとりで抱え込んではないですか?」
その坊っちゃんの様子があまりにも辛そうで、見ていられなくなった私は思わず、坊っちゃんの肩へと手を伸ばした。
すると、突如その私の手首が坊っちゃんにグイッと掴まれた。
「いたっ……!?」
その力強さに思わず反射的に悲鳴が出ると、坊っちゃんは、すぐハッとして手首を離した。
「あ……。ごめん、名前さん……。でも、今のオレに触らんといてください。」
家族のように思っている坊っちゃんに拒まれたのは心が痛むけれど、それ以上に、悲痛そうな坊っちゃんの顔を見るのが心苦しかった。
そろそろ冬の全国大会が間近だ。エースである坊っちゃんは、プレッシャーを感じて気が張りつめているのかもしれない。
「坊っちゃん、私でよかったら、いつでも何でもお話してくださいね。
私にとっては、南家は……坊っちゃんは、第2の家族のように大事ですから……。」
「……おおきに。まあ、そうさせてもらいますわ。」
無理に儚げな笑顔を作って、坊っちゃんは2階へと上がって行った。
……坊っちゃんは確実に、なにかの葛藤を抱えている。
思えば、夏の全国大会が終わった辺りの時から、坊っちゃんの雰囲気に影が刺し始めていた。
でも、それが何なのかは、その時の私には知ることが出来なかった。
【次回へ続く】