花ざかりフライデイ
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金曜の午後の7時をちょっと過ぎた頃。今日も仕事でくたくたになった私は、人が集まる待ち合わせの大きなオブジェの前であの子を待つ。
こちらに向かってくるあの子の姿を見つけると、嬉しくて私はぶんぶんと手を振った。
「やよちゃーん!」
「お疲れ様。待たせてもうてごめんね、名前。」
「お疲れ様ー!残業大丈夫だったの?」
「名前と飲むために、無理やり終わらせてきたわよ。」
そんな可愛いことをいいながら片目をおちゃめに瞑って、今日の相手である目の前の美女、相田弥生は微笑んだ。
どれだけ仕事で疲れていても、彼女に会った途端に疲れが吹っ飛んでしまうのだから不思議だ。
「今日もお疲れ様っ!」
「カンパーイ!」
2人のいつもの行きつけの店で、いつも通りやよちゃんは生、私はチューハイ、そしていくつかのご飯を頼んで、楽しい花金の宴の幕は開けた。
「どう~?やよちゃん。インハイが終わって、しばらくは忙しかったでしょ。」
「そりゃあもう大変だったわよ。まさか山王が緒戦敗退するだなんて思わないじゃない。」
「大どんでん返しな大会だったよね。山王の優勝記事の構想とか、あらかじめ考えてあったんじゃない?」
「正直それは否定できないのよね~。しかもあの試合からは、湘北が本当に表紙になるんじゃないかって、編集部が期待しちゃってて。しばらくはドタバタやったわ。」
「はぁ~、湘北が表紙の週バス、見てみたかったなあ……。」
私はやよちゃんの影響で、今年から高校バスケの魅力を知った。
高校バスケというか、高校バスケのイケメン……と言った方が正しいかもしれない。
学生の頃に出会った時からやよちゃんには「名前も絶対見たら好きになるわよ!1度見に行ってみ?」と言われ続けていたんけど、ずっと食指が動かなくて。
『 やよちゃーん!藤真くんも流川くんもヤバい!ハマっちゃったよ~!』
『 もう~。だから言ったやないの。』
最近、気が向いてやっと地元の神奈川県予選の湘北と翔陽の試合を見に行ってみたら、私はアイドルのようなルックスの藤真くんにずっと目がいってしまった。
でも、藤真くんの率いる翔陽はその試合で敗けてしまって……次に気になった流川くんの試合を追っているうちに、すっかり湘北のファンになってしまった。
ついには大人の財力で有給も取って、はるばる広島まで湘北の応援に行ってしまった程だ。
私はお酒のせいなのか年甲斐もなくほのかに頬を上気させて、インターハイでの私のイチオシ、三井寿くんの姿を思い出す。
「それにしても……山王戦の時の三井くんがバンバンゴール決める姿、本っ当にカッコよかったなあ~!
広島まで行ってよかったよお~。
でも、山王の沢北くんもかっこいいから要チェックだよ……。はぁ、また新しい子にハマっちゃいそう……。」
「アンタ、会う度にお気に入り増えるじゃない。気の多い女やねえ。」
「うるさーい!みんなカッコイイんだから仕方ないじゃん……。
逆になんでやよちゃんはそんなに仙道くん一筋でブレないのさ……。」
やよちゃんは仙道くんがお気に入りすぎて、その情熱で自分の書いた仙道くんの記事を週バス全国掲載に押し通したほどの、筋金入りの仙道くんファンだ。もちろん、私も仙道くんのかっこよさにはメロメロになってしまうのだけれど……。
「……名前の気持ちも分からなくはないけどね~。でも、国体こそは仙道キャプテンが率いる陵南が絶対に全国行くんだから。
彦一だって、がんばってるんよ。」
「……いいねいいね、仙道くんとひこいっちゃんが全国デビューできたら、やよちゃんますます燃えちゃうでしょ~。
もちろん湘北も全国行くよ!
あぁ、でも……できれば翔陽にも海南にも行って欲しいよ~……。
あっ、店員さん。ハイボール、2つおねがいしま~す。」
高校の3年間の青春を、バスケに捧げる彼らの姿は美しくって。どうしても、みんな応援したくなってしまうんだよね。
私たちはこんな調子でずっとおしゃべりをしてお酒を飲み進めた。あまりお酒が強くない私は、徐々に顔が赤らんできて、急にしんみりとして弱音を言いたい気分になってしまった。
「はぁ~、やよちゃんはいいなあ。美人だし、夢中になれる仕事があって。一生懸命情熱を持って仕事に打ち込むやよちゃんは、輝いてるよ。
私にはなーんにもないや。」
バスケが好きでそのバスケに携わる仕事を生き甲斐としていて、そのうえ美人でハキハキとした彼女を見ると、時々何の取り柄も無い自分がむなしい気持ちになる。
こんな私と学生時代からずっと仲良くしてくれるやよちゃんは、本当に優しい子だ。
そんな弱気な私を見て、やよちゃんはフッと笑った。
「……何言うてんの、名前。アンタはアンタなりに毎日頑張ってるからこうして美味しいお酒飲めてるんでしょ?
言うとくけど、私はアンタとバスケの話しながら飲むお酒が一番好きなんやからね!」
……そのように優しいことを言ってくれたやよちゃんの友情に思わず目が潤んで、私は今すぐ彼女に抱きつきたくなった。
向かいあってる席だから、抱きつけないけれど……。
「やよちゃぁぁぁぁん!!
あたしもやよちゃんと飲むお酒が一番楽しくて美味しくて好きだよぉぉぉ!
そんな可愛いこと言ってくれるやよちゃんがだいすき!」
「名前、私のこと可愛いなんて言ってくれるの、アンタだけよ?」
「え、なんで?絶対嘘でしょ?」
「相田さんはしっかりしてるとか、強い女だとか、綺麗だとかよく言われるけど……可愛いなんて全然言われないんよ。」
「その3つの賞賛を私は1度たりとも受けたことがないのですが……。」
やよちゃんの贅沢な発言に思わず汗がタラタラと流れて苦笑いになってしまう。平凡なOLの私からしたらそんなの羨ましくて仕方ない話だけれど、芯のあって凛々しい彼女には彼女なりの、思うところがあるらしい。
「そうやね、名前は可愛いってタイプやもんね。
でも……私だってたまには言われたくなるんよ?カワイイって。女だもん。」
酔いで頬がやや赤らみ、伏し目がちにそう呟いたやよちゃん。
そう。彼女のこういう所が、本当に可愛いのだ。
「も~。一生分でも言ってあげるよ、やよちゃんはカワイイって!」
「フフ、おおきに。まだまだお酒おかわりしよか。」
「カワイイ私たちにカンパーイ!」
そうしてほろ酔い気分ですっかりいい気分になった私たちは、飲み放題の時間が終わるまでずっとおしゃべりをして、次の2軒目にいくことにした。
「じゃ、今日はパーッと行くわよー!」
「たまにはパーッと行っちゃお~!イェーイ!」
いよいよへべれけになった私たちが向かった先は、魚住さんちのお寿司屋さんだった。
「大将、やってる~?」
「ぬ、貴女は彦一の……!?」
「わぁ~本当に陵南の魚住くんが修行してる!近くで見るとますます大きいねえ~。」
「魚住くん、今日のおまかせのネタ、要チェックやわ~!」
こうして私たちは美味しいお寿司をたらふく食べてから、満足してお別れをした。
「うげえええ!?」
次の日の朝……じゃなくて寝すぎてお昼。目が覚めた私はお財布がすっからかんになってるのを見て2日酔いも吹っ飛ぶ衝撃だった……。
……だけど、やっぱりやよちゃんとの時間は最高なんだよね。そう思って、優雅にコーヒーを淹れて、彼女が魂を込めた週バスの新刊の表紙を開くのだった。
【完】
こちらに向かってくるあの子の姿を見つけると、嬉しくて私はぶんぶんと手を振った。
「やよちゃーん!」
「お疲れ様。待たせてもうてごめんね、名前。」
「お疲れ様ー!残業大丈夫だったの?」
「名前と飲むために、無理やり終わらせてきたわよ。」
そんな可愛いことをいいながら片目をおちゃめに瞑って、今日の相手である目の前の美女、相田弥生は微笑んだ。
どれだけ仕事で疲れていても、彼女に会った途端に疲れが吹っ飛んでしまうのだから不思議だ。
「今日もお疲れ様っ!」
「カンパーイ!」
2人のいつもの行きつけの店で、いつも通りやよちゃんは生、私はチューハイ、そしていくつかのご飯を頼んで、楽しい花金の宴の幕は開けた。
「どう~?やよちゃん。インハイが終わって、しばらくは忙しかったでしょ。」
「そりゃあもう大変だったわよ。まさか山王が緒戦敗退するだなんて思わないじゃない。」
「大どんでん返しな大会だったよね。山王の優勝記事の構想とか、あらかじめ考えてあったんじゃない?」
「正直それは否定できないのよね~。しかもあの試合からは、湘北が本当に表紙になるんじゃないかって、編集部が期待しちゃってて。しばらくはドタバタやったわ。」
「はぁ~、湘北が表紙の週バス、見てみたかったなあ……。」
私はやよちゃんの影響で、今年から高校バスケの魅力を知った。
高校バスケというか、高校バスケのイケメン……と言った方が正しいかもしれない。
学生の頃に出会った時からやよちゃんには「名前も絶対見たら好きになるわよ!1度見に行ってみ?」と言われ続けていたんけど、ずっと食指が動かなくて。
『 やよちゃーん!藤真くんも流川くんもヤバい!ハマっちゃったよ~!』
『 もう~。だから言ったやないの。』
最近、気が向いてやっと地元の神奈川県予選の湘北と翔陽の試合を見に行ってみたら、私はアイドルのようなルックスの藤真くんにずっと目がいってしまった。
でも、藤真くんの率いる翔陽はその試合で敗けてしまって……次に気になった流川くんの試合を追っているうちに、すっかり湘北のファンになってしまった。
ついには大人の財力で有給も取って、はるばる広島まで湘北の応援に行ってしまった程だ。
私はお酒のせいなのか年甲斐もなくほのかに頬を上気させて、インターハイでの私のイチオシ、三井寿くんの姿を思い出す。
「それにしても……山王戦の時の三井くんがバンバンゴール決める姿、本っ当にカッコよかったなあ~!
広島まで行ってよかったよお~。
でも、山王の沢北くんもかっこいいから要チェックだよ……。はぁ、また新しい子にハマっちゃいそう……。」
「アンタ、会う度にお気に入り増えるじゃない。気の多い女やねえ。」
「うるさーい!みんなカッコイイんだから仕方ないじゃん……。
逆になんでやよちゃんはそんなに仙道くん一筋でブレないのさ……。」
やよちゃんは仙道くんがお気に入りすぎて、その情熱で自分の書いた仙道くんの記事を週バス全国掲載に押し通したほどの、筋金入りの仙道くんファンだ。もちろん、私も仙道くんのかっこよさにはメロメロになってしまうのだけれど……。
「……名前の気持ちも分からなくはないけどね~。でも、国体こそは仙道キャプテンが率いる陵南が絶対に全国行くんだから。
彦一だって、がんばってるんよ。」
「……いいねいいね、仙道くんとひこいっちゃんが全国デビューできたら、やよちゃんますます燃えちゃうでしょ~。
もちろん湘北も全国行くよ!
あぁ、でも……できれば翔陽にも海南にも行って欲しいよ~……。
あっ、店員さん。ハイボール、2つおねがいしま~す。」
高校の3年間の青春を、バスケに捧げる彼らの姿は美しくって。どうしても、みんな応援したくなってしまうんだよね。
私たちはこんな調子でずっとおしゃべりをしてお酒を飲み進めた。あまりお酒が強くない私は、徐々に顔が赤らんできて、急にしんみりとして弱音を言いたい気分になってしまった。
「はぁ~、やよちゃんはいいなあ。美人だし、夢中になれる仕事があって。一生懸命情熱を持って仕事に打ち込むやよちゃんは、輝いてるよ。
私にはなーんにもないや。」
バスケが好きでそのバスケに携わる仕事を生き甲斐としていて、そのうえ美人でハキハキとした彼女を見ると、時々何の取り柄も無い自分がむなしい気持ちになる。
こんな私と学生時代からずっと仲良くしてくれるやよちゃんは、本当に優しい子だ。
そんな弱気な私を見て、やよちゃんはフッと笑った。
「……何言うてんの、名前。アンタはアンタなりに毎日頑張ってるからこうして美味しいお酒飲めてるんでしょ?
言うとくけど、私はアンタとバスケの話しながら飲むお酒が一番好きなんやからね!」
……そのように優しいことを言ってくれたやよちゃんの友情に思わず目が潤んで、私は今すぐ彼女に抱きつきたくなった。
向かいあってる席だから、抱きつけないけれど……。
「やよちゃぁぁぁぁん!!
あたしもやよちゃんと飲むお酒が一番楽しくて美味しくて好きだよぉぉぉ!
そんな可愛いこと言ってくれるやよちゃんがだいすき!」
「名前、私のこと可愛いなんて言ってくれるの、アンタだけよ?」
「え、なんで?絶対嘘でしょ?」
「相田さんはしっかりしてるとか、強い女だとか、綺麗だとかよく言われるけど……可愛いなんて全然言われないんよ。」
「その3つの賞賛を私は1度たりとも受けたことがないのですが……。」
やよちゃんの贅沢な発言に思わず汗がタラタラと流れて苦笑いになってしまう。平凡なOLの私からしたらそんなの羨ましくて仕方ない話だけれど、芯のあって凛々しい彼女には彼女なりの、思うところがあるらしい。
「そうやね、名前は可愛いってタイプやもんね。
でも……私だってたまには言われたくなるんよ?カワイイって。女だもん。」
酔いで頬がやや赤らみ、伏し目がちにそう呟いたやよちゃん。
そう。彼女のこういう所が、本当に可愛いのだ。
「も~。一生分でも言ってあげるよ、やよちゃんはカワイイって!」
「フフ、おおきに。まだまだお酒おかわりしよか。」
「カワイイ私たちにカンパーイ!」
そうしてほろ酔い気分ですっかりいい気分になった私たちは、飲み放題の時間が終わるまでずっとおしゃべりをして、次の2軒目にいくことにした。
「じゃ、今日はパーッと行くわよー!」
「たまにはパーッと行っちゃお~!イェーイ!」
いよいよへべれけになった私たちが向かった先は、魚住さんちのお寿司屋さんだった。
「大将、やってる~?」
「ぬ、貴女は彦一の……!?」
「わぁ~本当に陵南の魚住くんが修行してる!近くで見るとますます大きいねえ~。」
「魚住くん、今日のおまかせのネタ、要チェックやわ~!」
こうして私たちは美味しいお寿司をたらふく食べてから、満足してお別れをした。
「うげえええ!?」
次の日の朝……じゃなくて寝すぎてお昼。目が覚めた私はお財布がすっからかんになってるのを見て2日酔いも吹っ飛ぶ衝撃だった……。
……だけど、やっぱりやよちゃんとの時間は最高なんだよね。そう思って、優雅にコーヒーを淹れて、彼女が魂を込めた週バスの新刊の表紙を開くのだった。
【完】
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