わたしきみのしっぽ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それから楓くんは学ランへと着替えて、わたしたちは学校を出た。2人で近くのバスケットゴールのある公園へと向かうことになった。
「楓くん、お手手つないでもいいかな?」
「好きにしろ。」
楓くんの隣から見える広くて大きな青い海の景色が、キラキラと輝いている。
わたしは楓くんの手を取って、ギュッと力をこめた。いつも感じている楓くんの手のひらの温もりが、人間の身体だと、なんだか胸がドキドキしてしまう。
……幸せだなあ。ずっとこうして、楓くんにピタッとくっついて歩いていたいなあ……。
「あんこ、着いたぞ。」
「にゃ~。」
そんなことをわたしが思ってるうちに公園のバスケットゴールへと着いてしまった。
楓くんは、わたしにボールをポンっと渡してきた。
初めて両手でつかんだバスケットボールは、ザラザラとしていて大きかった。
「楓くん、バスケットボールって大きいね。猫のわたしが丸くなったらこのくらいかな?
……これが本当にあんなに高くて小さな輪の中に入るの?」
「一度狙ってみな。」
「むむ~っ……えいっ!あ、全然ダメだにゃあ~!」
そう言われたわたしは、じっとゴールを見定めてボールを力を込めて放ったけれど、全く違う方向へスポーンっと飛んで行っちゃった。ゴールのほど近くなのにな……。
ママたちのビデオで見た楓くんは、いとも簡単そうにたくさんポイポイ入れていたけれど……こんなにも難しいんだね。
しかも、飛んで行ったボールを追いかけて走ったわたしは、ズルっとすんでのところで転びそうになった。
「うにゃあああ!?」
「……あんこは人間になっても鈍臭いんだな。」
「楓くん、わたしのことそんな風に思ってたのかにゃ!?」
確かに、ジャンプ失敗することもよくあるけど……。ママからは「おっちょこちょいな猫よねえ。」って言われたけど……。
見かねた楓くんがボールを取りに行ってくれて、それからシュッとゴールに向かってボールを放った。
ボールは、スポンっと軽快にゴールの中へと吸い込まれて行った。
「楓くん、すごいにゃあ~!」
「あんこ、足はこれくらい広げて、膝を曲げろ。
ボールはこう持つんだ。」
すると楓くんがわたしの後ろに立って、わたしにボールを持たせて後ろから覆い被さるように手を取った。
耳の近くで聞こえてくる楓くんの声は、なんだか身体が熱くなっちゃいそうだなあ……。
「にゃ、にゃあ……。」
「この状態でここから投げてみろ。」
「むう……がんばるにゃ!」
それからわたしは何回かあさっての方向へ飛ばしちゃったけど、めげずにがんばって、ようやくボールがゴールの周りをコロコロと回ってスっと入ってくれた。
「えいっ!あっ……やった、入ったにゃあ~!」
「よくやったな、あんこ。」
最初は人間のわたしに素っ気なかった楓くんも、一緒にバスケをしているうちに、いつの間にか猫の時と変わらない優しい態度になってくれた。
抱きついたら、いつもみたいに優しく頭を撫でてくれた。
「えへへ。楓くんの大好きなバスケができて嬉しいにゃ!」
そんなことをしている間に、すっかり夕暮れ時になっていた。
ベンチにいって、2人でまったりおねんねの時間にしよう。
「さあ、楓くん!わたしのお膝に乗るにゃあ~!」
「無理だろ……。頭しか乗せれねえよ。」
ベンチに座ったわたしは、両手をうんと広げてお膝に乗る楓くんを迎え入れようとした。
でも、体格がわたしよりもずっと大きい楓くんがお膝に乗るのは無理だから、楓くんは横になって頭を乗せてくれた。
「楓くん、わたしは楓くんのお膝が大好きにゃ。だから、人間の女の子になったら、楓くんにもわたしのお膝でおねんねして欲しかったんだ。
いつもあんこにしてくれてるみたいに、ナデナデしていいかな?」
「……好きにしろ。」
わたしのワガママに対して、楓くんは諦めたようにそう言った。
わたしが楓くんの頭を優しく撫でていたら、楓くんはまどろみはじめて、
「……あんこ、オレも、お前と離れるのは寂しい。
でも、必ず戻るから安心しろ……。」
ウトウトしながらわたしにそう告げて、眠りに入ってしまった。相変わらずの寝付きの早さだなあ……。
……きっと今日も大好きなバスケをしたかったのに、人間になっただなんて無茶を言ったわたしを受け入れて、時間を使ってくれた優しい優しい楓くん。
そう、さみしいのはわたしだけじゃないんだよ。
きみはわたしをおうちに連れてきてくれた時から、ずっとずっとたくさんの愛を捧げてくれたね。
「楓くん……わたしの最後の願いは、きみに大好きだよって伝えること。」
……わたしの夢は、楓くんが夢を叶えること。そんな気持ちは、決してウソではないけれど。
わたしの本当の、1番叶えたい夢は、決して叶うことはなくって。
本当はね、ずーーーーーっとだいすきな君と一緒にいたいんだよ。でも、猫であるわたしは、きみよりも遥かに早くお空に行ってしまう。
だから……わたしのいのちが続く限りは、きみの人生を誰よりも応援していたい。
ずっと一緒にいたからこそ誰よりも知ってるよ。きみの大事なものも、きみの大事な夢も。
いっぱい大好きなバスケをして、たくさんの人に会って、それからこれはちょっと考えたくないけど……心から大事だと思える人にもいつか出会うのかな。……もちろんわたしとバスケの次に、だけど!
きみの信じる道を進んで、もっともっと素敵なお兄さんになっていってね。
そして、いつかわたしがきみより先にお星様になっても、きみを心から愛した小さないのちがあったことを、忘れないでいてね。
「……大人になったね、楓くん。
海の向こうに行ったら、憧れのマイケルにも会えるのかな?
わたしはずっとママとパパと一緒に、いつかお空に旅立つその時まで、きみがいつでも帰ってこられる場所にいるよ。
だから、安心して行っておいでね。」
私はこれからの楓くんの行く道が幸運であることを願って、いまは夢の中にいる楓くんにそっとくちづけをした。
そしてーー。
<ピピピピピピピピ…………>
「にゃ~ん!」
「ム……。あんこ……?」
さっきまで夕暮れの公園で人間のわたしと寝ていたはずの楓くんは、自分のベッドの上で、目覚まし時計の騒音に起こされて目を覚ました。
時間は、朝の6時。
「…………そうか、夢だったのか。」
「うにゃあ。」
楓くんは人間の男の子で、わたしは猫。わたしたちは、いつもの日常に戻ったんだ。
それから何日か過ぎて、いよいよ楓くんの旅立ちの時が来た。
大きなスーツケースを持って、楓くんはお見送りをするママたちと一緒に家を出ていった。
楓くんは最後に、わたしを抱っこして鼻でチューをしてくれた。
「うにゃあ、うにゃあ!」
「あんこ、行ってくる。
……絶対にまた戻るから。」
……バイバイなんて言わないよ。いってらっしゃい、楓くん。
「にゃぁん。」
そのあと、わたしは主人の居なくなった楓くんの部屋の窓から、きれいな空に浮かんだひこうき雲を見つめて、ふにゃあとあくびをした。
さあ、そろそろ午後のお昼寝をしよう。
夢の中で楓くんに、会えるといいなあ……。
そしてわたしはあたたかい夢を見たんだ。
その夢の中では、人間の女の子の姿をしたわたしが、出会った頃の幼い楓くんの頭を、いとおしそうに撫でていた。
【完】
「楓くん、お手手つないでもいいかな?」
「好きにしろ。」
楓くんの隣から見える広くて大きな青い海の景色が、キラキラと輝いている。
わたしは楓くんの手を取って、ギュッと力をこめた。いつも感じている楓くんの手のひらの温もりが、人間の身体だと、なんだか胸がドキドキしてしまう。
……幸せだなあ。ずっとこうして、楓くんにピタッとくっついて歩いていたいなあ……。
「あんこ、着いたぞ。」
「にゃ~。」
そんなことをわたしが思ってるうちに公園のバスケットゴールへと着いてしまった。
楓くんは、わたしにボールをポンっと渡してきた。
初めて両手でつかんだバスケットボールは、ザラザラとしていて大きかった。
「楓くん、バスケットボールって大きいね。猫のわたしが丸くなったらこのくらいかな?
……これが本当にあんなに高くて小さな輪の中に入るの?」
「一度狙ってみな。」
「むむ~っ……えいっ!あ、全然ダメだにゃあ~!」
そう言われたわたしは、じっとゴールを見定めてボールを力を込めて放ったけれど、全く違う方向へスポーンっと飛んで行っちゃった。ゴールのほど近くなのにな……。
ママたちのビデオで見た楓くんは、いとも簡単そうにたくさんポイポイ入れていたけれど……こんなにも難しいんだね。
しかも、飛んで行ったボールを追いかけて走ったわたしは、ズルっとすんでのところで転びそうになった。
「うにゃあああ!?」
「……あんこは人間になっても鈍臭いんだな。」
「楓くん、わたしのことそんな風に思ってたのかにゃ!?」
確かに、ジャンプ失敗することもよくあるけど……。ママからは「おっちょこちょいな猫よねえ。」って言われたけど……。
見かねた楓くんがボールを取りに行ってくれて、それからシュッとゴールに向かってボールを放った。
ボールは、スポンっと軽快にゴールの中へと吸い込まれて行った。
「楓くん、すごいにゃあ~!」
「あんこ、足はこれくらい広げて、膝を曲げろ。
ボールはこう持つんだ。」
すると楓くんがわたしの後ろに立って、わたしにボールを持たせて後ろから覆い被さるように手を取った。
耳の近くで聞こえてくる楓くんの声は、なんだか身体が熱くなっちゃいそうだなあ……。
「にゃ、にゃあ……。」
「この状態でここから投げてみろ。」
「むう……がんばるにゃ!」
それからわたしは何回かあさっての方向へ飛ばしちゃったけど、めげずにがんばって、ようやくボールがゴールの周りをコロコロと回ってスっと入ってくれた。
「えいっ!あっ……やった、入ったにゃあ~!」
「よくやったな、あんこ。」
最初は人間のわたしに素っ気なかった楓くんも、一緒にバスケをしているうちに、いつの間にか猫の時と変わらない優しい態度になってくれた。
抱きついたら、いつもみたいに優しく頭を撫でてくれた。
「えへへ。楓くんの大好きなバスケができて嬉しいにゃ!」
そんなことをしている間に、すっかり夕暮れ時になっていた。
ベンチにいって、2人でまったりおねんねの時間にしよう。
「さあ、楓くん!わたしのお膝に乗るにゃあ~!」
「無理だろ……。頭しか乗せれねえよ。」
ベンチに座ったわたしは、両手をうんと広げてお膝に乗る楓くんを迎え入れようとした。
でも、体格がわたしよりもずっと大きい楓くんがお膝に乗るのは無理だから、楓くんは横になって頭を乗せてくれた。
「楓くん、わたしは楓くんのお膝が大好きにゃ。だから、人間の女の子になったら、楓くんにもわたしのお膝でおねんねして欲しかったんだ。
いつもあんこにしてくれてるみたいに、ナデナデしていいかな?」
「……好きにしろ。」
わたしのワガママに対して、楓くんは諦めたようにそう言った。
わたしが楓くんの頭を優しく撫でていたら、楓くんはまどろみはじめて、
「……あんこ、オレも、お前と離れるのは寂しい。
でも、必ず戻るから安心しろ……。」
ウトウトしながらわたしにそう告げて、眠りに入ってしまった。相変わらずの寝付きの早さだなあ……。
……きっと今日も大好きなバスケをしたかったのに、人間になっただなんて無茶を言ったわたしを受け入れて、時間を使ってくれた優しい優しい楓くん。
そう、さみしいのはわたしだけじゃないんだよ。
きみはわたしをおうちに連れてきてくれた時から、ずっとずっとたくさんの愛を捧げてくれたね。
「楓くん……わたしの最後の願いは、きみに大好きだよって伝えること。」
……わたしの夢は、楓くんが夢を叶えること。そんな気持ちは、決してウソではないけれど。
わたしの本当の、1番叶えたい夢は、決して叶うことはなくって。
本当はね、ずーーーーーっとだいすきな君と一緒にいたいんだよ。でも、猫であるわたしは、きみよりも遥かに早くお空に行ってしまう。
だから……わたしのいのちが続く限りは、きみの人生を誰よりも応援していたい。
ずっと一緒にいたからこそ誰よりも知ってるよ。きみの大事なものも、きみの大事な夢も。
いっぱい大好きなバスケをして、たくさんの人に会って、それからこれはちょっと考えたくないけど……心から大事だと思える人にもいつか出会うのかな。……もちろんわたしとバスケの次に、だけど!
きみの信じる道を進んで、もっともっと素敵なお兄さんになっていってね。
そして、いつかわたしがきみより先にお星様になっても、きみを心から愛した小さないのちがあったことを、忘れないでいてね。
「……大人になったね、楓くん。
海の向こうに行ったら、憧れのマイケルにも会えるのかな?
わたしはずっとママとパパと一緒に、いつかお空に旅立つその時まで、きみがいつでも帰ってこられる場所にいるよ。
だから、安心して行っておいでね。」
私はこれからの楓くんの行く道が幸運であることを願って、いまは夢の中にいる楓くんにそっとくちづけをした。
そしてーー。
<ピピピピピピピピ…………>
「にゃ~ん!」
「ム……。あんこ……?」
さっきまで夕暮れの公園で人間のわたしと寝ていたはずの楓くんは、自分のベッドの上で、目覚まし時計の騒音に起こされて目を覚ました。
時間は、朝の6時。
「…………そうか、夢だったのか。」
「うにゃあ。」
楓くんは人間の男の子で、わたしは猫。わたしたちは、いつもの日常に戻ったんだ。
それから何日か過ぎて、いよいよ楓くんの旅立ちの時が来た。
大きなスーツケースを持って、楓くんはお見送りをするママたちと一緒に家を出ていった。
楓くんは最後に、わたしを抱っこして鼻でチューをしてくれた。
「うにゃあ、うにゃあ!」
「あんこ、行ってくる。
……絶対にまた戻るから。」
……バイバイなんて言わないよ。いってらっしゃい、楓くん。
「にゃぁん。」
そのあと、わたしは主人の居なくなった楓くんの部屋の窓から、きれいな空に浮かんだひこうき雲を見つめて、ふにゃあとあくびをした。
さあ、そろそろ午後のお昼寝をしよう。
夢の中で楓くんに、会えるといいなあ……。
そしてわたしはあたたかい夢を見たんだ。
その夢の中では、人間の女の子の姿をしたわたしが、出会った頃の幼い楓くんの頭を、いとおしそうに撫でていた。
【完】
2/2ページ