わたしきみのしっぽ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ママにご飯をもらって、おなかいっぱいでうたたねをしていた夜のはじめ頃。そろそろ、わたしの大好きなあの子が帰ってくる頃かな。
そう思っていたら、早速あの子の足音が聞こえてきた。丸まっていた体をうんと伸ばして、わたしは玄関へと向かった。
「ただいま。」
「にゃーん!」
「おかえり、楓。ご飯できてるよー。」
わたしの大好きな子、楓くんが帰ってきた。
今日もおつかれ様。そんな気持ちを込めてニャンニャン鳴きながら楓くんをスリスリすると、楓くんは大きな温かい手で頭をわしわしと撫でてくれた。
うん、幸せなひとときだにゃあ~!
……でも、この幸せはいつまでも続かないんだ。
楓くんは、もうすぐ海の向こうに行ってしまうんだ。
わたしと楓くんが出会ったのは6年前。
お外で産まれた赤ちゃん猫だったわたしを、まだ小さかった楓くんがおうちに連れてきたの。
パパとママはびっくりして戸惑ったけれど、楓くんは「やだ。ぜったいにコイツといる。」と言ってわたしを離さなかった。
ママたちは絶対に、絶対に今回だけだからねって何度も言ってわたしを受け入れてくれた。
楓くんは、わたしを憧れの人と同じ「マイケル」って名前にしたがってた。
でも、この子は女の子だからマイケルは変だよってママたちに言われて、「あんこ」って名前になったんだ。
「寝るぞ、あんこ。」
「なぁ~ん。」
楓くんもわたしも、おねんねするのが大好きだった。2人で仲良くおねんねしている時間がわたしの一番の幸せなんだ。
でも楓くんには、わたしとおねんね以外にもうひとつ大好きなものがあった。
楓くんは、バスケットボールに恋をしている少年だったんだ。
だから愛を捧げたバスケのために、成長してお兄さんになった楓くんは海の向こうへ行ってしまうの。
……もし人間の女の子だったら、わたしも海の向こうにいっしょに行けたのかなあ。
人間の女の子だったら、楓くんと同じ学校の制服を着て、いっしょにおでかけをしてみたかったな。
一度でいいから、人間の女の子になって楓くんに会えないかなあ……。
わたしはいつもよりもキラキラと輝くお星様を眺めてそんなことを考えながら、もうとっくに暗くなってる楓くんの部屋のベッドに入って、すやすやと、なんだかいつもよりも深い眠りについた。
そしてーー。
「…………にゃ?」
おうちに来てからはお外に出たことがないはずのわたしは、目が覚めたら見知らぬ外の世界にいた。
え、な、なんで?しかも心なしか、いつもよりも視界がずいぶんと高い気がする。
いつもふにゃふにゃと柔らかいはずのわたしの体が、その柔軟さを失っている。
楓くんと同じように毛で覆われていない素肌の身体になって、いつも覆っている毛皮は人間が着ている服になっていた。
「……にゃあ~~~!?!?!?」
……わたしは、人間の女の子になってしまっていた。
初めての二足歩行なのに、なぜかなんの不自由もない。
しかも、わたしの前の石には文字が書いてあって、どうしてか、文字なんて読めるわけがないのに意味が理解できてしまっている。
湘北高校……ショーホクコウコウ。ここは、楓くんの通う学校の前だった。
わたしの周りには、わたしと同じ服を着た女の子がちらほらと歩いていた。
わたしが着ているのは、湘北高校の女の子の制服らしい。楓くんがいつも着ている、学ランとお揃いの格好だ。
……これはきっと、一度でいいから、女の子の制服を着て楓くんと一緒におでかけがしたいという願いを、お星様が叶えてくれたんだ!
わたしは今すぐに楓くんに会いたかった。
でも、楓くんはこの学校のどこにいるんだろう。
わたしは考えた。
楓くんがいるとしたら……きっと、おねんねできる場所かバスケをする場所だ。
知らない人は怖いし、嫌いだけど……わたしは近くにいた女の人たちに、勇気を持って話しかけた。
「あ、あの……ここで、お昼寝かバスケをする場所はありませんか?」
「うわ、可愛い子……。って、バスケ部の見学かな?」
「お昼寝?って言うのはよく分からないけど、バスケ部が見たいならあっちの体育館だよ。」
「わあー、優しい人たち、ありがとうございますにゃん!」
わたしは全速力で、その人たちが教えてくれた場所に向かった。
「……あんな可愛い子、いたっけ?」
「転校生じゃないの?何も知らない感じだったし。」
「転校生がバスケ部かあ……。やっぱり流川くん目当てかな?」
「さすが流川くんだよねー。」
体育館に着いて、無事にわたしは楓くんを見つけられた。
いままでママたちの撮ったビデオでしか見たことがなかった、楓くんのバスケをしている姿がわたしの視界に直接入る。
生で見られることなんて、ずっと無いと思っていたのに……。どうしよう、すごく、嬉しい。
嬉しさのあまり、わたしはいつもみたいに勢いよく楓くんにガバッと抱きつきにいってしまった。
「楓くん!楓くんだあーーーー!!」
「……!? おい、いきなり何すんだおめー。」
「にゃっ!」
「流川!?」
勢いよく抱きついたわたしに、楓くんは驚いて、それから迷惑そうにべりっと引き離した。
そんな……。楓くんは、わたしがあんこだとはわかっていなかった。
「何だ何だ!?」
「見たことない女の子だけど……。」
「おめー、何のつもりだよ。」
「か、楓くん……?なんで?いつもちゅーしてくれるのに……。」
だいすきな楓くんに拒絶されたショックで、わたしのしっぽがタラーンと下がってしまった。
あ、今はしっぽは無かったね。
「はあっ!?」
「おい、ルカワテメー!どういうことだ!?」
「なんて大胆な子なのかしら……。」
「まさか、流川のストーカーなのか?」
楓くんのおともだちは、この状況で楓くんのことを心配してくれてるみたい。よかった、いいおともだちだね。
……赤いおサルのような人は、ちょっと騒がしいけれど。
「オレはこんな女知らねえよ。」
……楓くんの冷たい目が胸に突き刺さって、キリキリと痛む。
知らなかった。楓くんは、人間の女の子にはこんなにも冷たいんだね。
こんな状況なのに、わたしは人間じゃなくて猫の女の子に産まれてよかったんだなあ、なんて思っちゃった。
「……ねえ、楓くんはあんこの事、好き?」
「!? 何でおめーがあんこの事知ってんだ。」
「ん?なに??あんこ……??」
事情を知らない楓くんのおともだちは、突然でてきた「あんこ」って言葉で急に通じあってるわたしたちにキョトンとしてしまった。
「楓くん、お願い。2人で、話せないかな?」
「……こっち来い。」
楓くんは「キャプテン、抜けます。」とだけ言って体育館を後にした。おともだちは、何かわけアリな雰囲気のわたしたちに何も言えず不思議そうに見ていた。
そうして楓くんに連れられたのは屋上だった。
ここはいつもより空が近くて、風が心地いいな。高いところは大好きだよ。
「何であんこを知ってんだ。」
「それは、わたしがあんこだから……。
人間の姿になったんだよ。信じてもらえないかもしれないけど……。」
「意味がわからねえ。」
そうだよね。こんな非現実的な話、楓くんが信じられないのも無理は無いよ。
どうしてわたしは最初から分かってもらえると思ってたんだろう。
せっかくお星様の奇跡で人間の女の子になれたのに、あんこだって分かってもらえなかったらなんの意味もないじゃないか。わたしはどうにかしようと必死に考えた。
「えっと、どうしよう……。わたししか知らない楓くんのこと、言えたら信じてくれるかな?
まず、昨日のご飯はハンバーグだったよね。
ハンバーグを食べたあとは、わたしの大好きな赤いくしでブラッシングをしてくれた。
それから大好きなバスケのビデオを見てて、
最近ハマってるエリック・クラプトンのアルバムを聞いて英語の勉強をしてたよね。
それから、それから……えっと……」
「……もうわかった。お前、本当にあんこなんだな。」
「楓くん……!信じてくれるんだね!」
「……信じられねーけど、そうとしか思えねえ。」
がむしゃらなわたしの姿を見て、楓くんは、戸惑いながらもわたしを認めてくれた!
ちょっと、いや、だいぶ頭が痛そうな様子だけど……。
「あのね、楓くんもうすぐ海の向こうにいっちゃうでしょ?
あんこ、さみしくて……それで……一度だけでいいから人間の女の子になって楓くんに会いたいなってお星様に願ったの。
そうしたら、こうなってたの。」
「あんこは、お前はその姿で何がしたいんだ。」
「わたし、楓くんの大好きなバスケをいっしょにしてみたい!
それから、楓くんがいつもしてくれてる膝枕を、今日はわたしがしてあげたい!
あともうひとつは……後で言うね。」
そう思っていたら、早速あの子の足音が聞こえてきた。丸まっていた体をうんと伸ばして、わたしは玄関へと向かった。
「ただいま。」
「にゃーん!」
「おかえり、楓。ご飯できてるよー。」
わたしの大好きな子、楓くんが帰ってきた。
今日もおつかれ様。そんな気持ちを込めてニャンニャン鳴きながら楓くんをスリスリすると、楓くんは大きな温かい手で頭をわしわしと撫でてくれた。
うん、幸せなひとときだにゃあ~!
……でも、この幸せはいつまでも続かないんだ。
楓くんは、もうすぐ海の向こうに行ってしまうんだ。
わたしと楓くんが出会ったのは6年前。
お外で産まれた赤ちゃん猫だったわたしを、まだ小さかった楓くんがおうちに連れてきたの。
パパとママはびっくりして戸惑ったけれど、楓くんは「やだ。ぜったいにコイツといる。」と言ってわたしを離さなかった。
ママたちは絶対に、絶対に今回だけだからねって何度も言ってわたしを受け入れてくれた。
楓くんは、わたしを憧れの人と同じ「マイケル」って名前にしたがってた。
でも、この子は女の子だからマイケルは変だよってママたちに言われて、「あんこ」って名前になったんだ。
「寝るぞ、あんこ。」
「なぁ~ん。」
楓くんもわたしも、おねんねするのが大好きだった。2人で仲良くおねんねしている時間がわたしの一番の幸せなんだ。
でも楓くんには、わたしとおねんね以外にもうひとつ大好きなものがあった。
楓くんは、バスケットボールに恋をしている少年だったんだ。
だから愛を捧げたバスケのために、成長してお兄さんになった楓くんは海の向こうへ行ってしまうの。
……もし人間の女の子だったら、わたしも海の向こうにいっしょに行けたのかなあ。
人間の女の子だったら、楓くんと同じ学校の制服を着て、いっしょにおでかけをしてみたかったな。
一度でいいから、人間の女の子になって楓くんに会えないかなあ……。
わたしはいつもよりもキラキラと輝くお星様を眺めてそんなことを考えながら、もうとっくに暗くなってる楓くんの部屋のベッドに入って、すやすやと、なんだかいつもよりも深い眠りについた。
そしてーー。
「…………にゃ?」
おうちに来てからはお外に出たことがないはずのわたしは、目が覚めたら見知らぬ外の世界にいた。
え、な、なんで?しかも心なしか、いつもよりも視界がずいぶんと高い気がする。
いつもふにゃふにゃと柔らかいはずのわたしの体が、その柔軟さを失っている。
楓くんと同じように毛で覆われていない素肌の身体になって、いつも覆っている毛皮は人間が着ている服になっていた。
「……にゃあ~~~!?!?!?」
……わたしは、人間の女の子になってしまっていた。
初めての二足歩行なのに、なぜかなんの不自由もない。
しかも、わたしの前の石には文字が書いてあって、どうしてか、文字なんて読めるわけがないのに意味が理解できてしまっている。
湘北高校……ショーホクコウコウ。ここは、楓くんの通う学校の前だった。
わたしの周りには、わたしと同じ服を着た女の子がちらほらと歩いていた。
わたしが着ているのは、湘北高校の女の子の制服らしい。楓くんがいつも着ている、学ランとお揃いの格好だ。
……これはきっと、一度でいいから、女の子の制服を着て楓くんと一緒におでかけがしたいという願いを、お星様が叶えてくれたんだ!
わたしは今すぐに楓くんに会いたかった。
でも、楓くんはこの学校のどこにいるんだろう。
わたしは考えた。
楓くんがいるとしたら……きっと、おねんねできる場所かバスケをする場所だ。
知らない人は怖いし、嫌いだけど……わたしは近くにいた女の人たちに、勇気を持って話しかけた。
「あ、あの……ここで、お昼寝かバスケをする場所はありませんか?」
「うわ、可愛い子……。って、バスケ部の見学かな?」
「お昼寝?って言うのはよく分からないけど、バスケ部が見たいならあっちの体育館だよ。」
「わあー、優しい人たち、ありがとうございますにゃん!」
わたしは全速力で、その人たちが教えてくれた場所に向かった。
「……あんな可愛い子、いたっけ?」
「転校生じゃないの?何も知らない感じだったし。」
「転校生がバスケ部かあ……。やっぱり流川くん目当てかな?」
「さすが流川くんだよねー。」
体育館に着いて、無事にわたしは楓くんを見つけられた。
いままでママたちの撮ったビデオでしか見たことがなかった、楓くんのバスケをしている姿がわたしの視界に直接入る。
生で見られることなんて、ずっと無いと思っていたのに……。どうしよう、すごく、嬉しい。
嬉しさのあまり、わたしはいつもみたいに勢いよく楓くんにガバッと抱きつきにいってしまった。
「楓くん!楓くんだあーーーー!!」
「……!? おい、いきなり何すんだおめー。」
「にゃっ!」
「流川!?」
勢いよく抱きついたわたしに、楓くんは驚いて、それから迷惑そうにべりっと引き離した。
そんな……。楓くんは、わたしがあんこだとはわかっていなかった。
「何だ何だ!?」
「見たことない女の子だけど……。」
「おめー、何のつもりだよ。」
「か、楓くん……?なんで?いつもちゅーしてくれるのに……。」
だいすきな楓くんに拒絶されたショックで、わたしのしっぽがタラーンと下がってしまった。
あ、今はしっぽは無かったね。
「はあっ!?」
「おい、ルカワテメー!どういうことだ!?」
「なんて大胆な子なのかしら……。」
「まさか、流川のストーカーなのか?」
楓くんのおともだちは、この状況で楓くんのことを心配してくれてるみたい。よかった、いいおともだちだね。
……赤いおサルのような人は、ちょっと騒がしいけれど。
「オレはこんな女知らねえよ。」
……楓くんの冷たい目が胸に突き刺さって、キリキリと痛む。
知らなかった。楓くんは、人間の女の子にはこんなにも冷たいんだね。
こんな状況なのに、わたしは人間じゃなくて猫の女の子に産まれてよかったんだなあ、なんて思っちゃった。
「……ねえ、楓くんはあんこの事、好き?」
「!? 何でおめーがあんこの事知ってんだ。」
「ん?なに??あんこ……??」
事情を知らない楓くんのおともだちは、突然でてきた「あんこ」って言葉で急に通じあってるわたしたちにキョトンとしてしまった。
「楓くん、お願い。2人で、話せないかな?」
「……こっち来い。」
楓くんは「キャプテン、抜けます。」とだけ言って体育館を後にした。おともだちは、何かわけアリな雰囲気のわたしたちに何も言えず不思議そうに見ていた。
そうして楓くんに連れられたのは屋上だった。
ここはいつもより空が近くて、風が心地いいな。高いところは大好きだよ。
「何であんこを知ってんだ。」
「それは、わたしがあんこだから……。
人間の姿になったんだよ。信じてもらえないかもしれないけど……。」
「意味がわからねえ。」
そうだよね。こんな非現実的な話、楓くんが信じられないのも無理は無いよ。
どうしてわたしは最初から分かってもらえると思ってたんだろう。
せっかくお星様の奇跡で人間の女の子になれたのに、あんこだって分かってもらえなかったらなんの意味もないじゃないか。わたしはどうにかしようと必死に考えた。
「えっと、どうしよう……。わたししか知らない楓くんのこと、言えたら信じてくれるかな?
まず、昨日のご飯はハンバーグだったよね。
ハンバーグを食べたあとは、わたしの大好きな赤いくしでブラッシングをしてくれた。
それから大好きなバスケのビデオを見てて、
最近ハマってるエリック・クラプトンのアルバムを聞いて英語の勉強をしてたよね。
それから、それから……えっと……」
「……もうわかった。お前、本当にあんこなんだな。」
「楓くん……!信じてくれるんだね!」
「……信じられねーけど、そうとしか思えねえ。」
がむしゃらなわたしの姿を見て、楓くんは、戸惑いながらもわたしを認めてくれた!
ちょっと、いや、だいぶ頭が痛そうな様子だけど……。
「あのね、楓くんもうすぐ海の向こうにいっちゃうでしょ?
あんこ、さみしくて……それで……一度だけでいいから人間の女の子になって楓くんに会いたいなってお星様に願ったの。
そうしたら、こうなってたの。」
「あんこは、お前はその姿で何がしたいんだ。」
「わたし、楓くんの大好きなバスケをいっしょにしてみたい!
それから、楓くんがいつもしてくれてる膝枕を、今日はわたしがしてあげたい!
あともうひとつは……後で言うね。」
1/2ページ