そうしてダークマターを持った名前は、練習場へと着いた。名前はどこかソワソワした様子で遠慮がちに中を覗く。
それを見かけた堂本が、校内の数少ない女生徒で、時折見学しに来ている名前のことを知っていたため、紳士的に声をかけてあげた。

「おや、名字さん。そんなところでどうしたんだい？」
「堂本監督！お忙しいところお邪魔してすみません。
バスケ部の皆さんに手製の差し入れを持って来たのですが……お渡ししてもよろしかったでしょうか？」

少しモジモジしつつそのように言う名前を堂本は、(おやおや、これは青春だなあ。)と生暖かい視線で見ながら、ダークマターの入ったクーラーボックスを優しく受け取った。

「そうか、ありがとう名字さん。
よかった。ちょうど今から休憩させようと思っていてね。
せっかくだから皆でいただこうじゃないか。
お前たちー！名字さんが差し入れをくれたぞー。」
「えっ……今なんですか！？」

彼の粋な計らいなのか本当だったのかは定かではないが、堂本の声掛けで部員がぞろぞろと集まった。
まさか自分の目の前で食べられるとは思ってなかった名前は、ますます気恥ずかしくなってしまう。

「名字、急にどうしたピョン。」
「女の子の手作りの差し入れ……！」
「沢北、お前はダメだぞ。いつも女の子からもらってんだろうが。」
「ひどいっす！俺もいただきますよ。」

校内では希少な女子からの差し入れということもあり、絶対王者と言えどもまだまだ年頃の少年たちは、浮き足立っている様子を見せた。ただし沢北以外は。

「みなさん、お疲れ様です……。」
「名字さん、アザース！」

哀れ、何も知らない少年たちは、不運なことにいよいよダークマターを口に含んでしまう。
そして、疲れた体に甘くて爽やかな柑橘の風味が味わえると、もちろん信じて疑わなかった少年たちの期待は、奈落の底へと突き落とされた。

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ダークマターをあえて無理に表現するならば、某魔法学校ファンタジーの、百味ビーンズミミクソ味もビックリ仰天レベルの不味さだった。
たった1口で一同は血の気が引いてしまった。

「名字、これは……いや、何でもねえ。」
「はは……ありがとう……。」

度胸のある河田が、名前にこれがとんでもないダークマターであることを伝えようとしたのだが、キョトンとしている名前を見たら、良心が傷んで真実が言えなくなってしまった。
河田と同じく人情のある松本は、元気の消え失せた顔を必死に引きつり笑おうと頑張った。
泣き虫な沢北は小声で「む、無理……。」と呟き、口を抑えて白目で泣いてしまっている。
野辺はトーテムポールのように凝固してしまい、まだまだ未熟な美紀男からは、美紀男に似たかわいらしい顔の魂が抜き出ていた。
あの自他ともに認める校内一の我慢強さをもつ一之倉でさえ、一見平気そうに見えても大量の冷や汗がタラタラと流れているではないか。
他の部員たちも、みんな顔色が悪くなってしまっていた。

さすがにホヤホヤしている名前と言えども、これは何かがおかしいと思い、慌てて余っていたダークマターに手をつけたのだった。