若き先生の悩み
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【1部】
「名字先生、そんなに心配しなくていいですよ。名前をお借りするだけですから。」
「うう、わかりました。それならば……。」
それは今年の春のこと。湘北高校の教員幾年目の私は、バスケ部の副顧問となった。
昨年度まで副顧問だった先生が退職し、どうしても誰かしらの登録だけは必要ということで、部活を持っていないフリーの私が指名されたのだ。
私はバスケのことをろくに知らない。しかも運動音痴で、副顧問になったとしても部員たちに貢献出来ることなどろくに無いのだ。
そんな引け目から、できれば断れないものかと思っていたのだけれど……。
校長曰く、
『副顧問と言っても、仕事はほとんどないですよ。
対応して欲しいのは顧問が対応できない緊急の時だけ。前任者も全く関わっていませんでしたから。
部員数も少ないし、みんな優秀な生徒ばかりです。
そうそう、優秀な部長が全てを取り仕切っているので心配ありません。
試合は監督の安西先生が全て対応しますよ。
それに県予選1回戦敗退の弱小チームですから、プレッシャーもないですよ。柔道部なんて大変ですからね。
気楽に引き受けてくださいな。はっはっは。』
ーーと、いう話だった。まあそれなら私でもどうにかなるかなと、名ばかり副顧問を承諾した。
いざ副顧問に就任し、名ばかりとは言っても最初の挨拶はちゃんと行かないとね。と体育館に顔を出しに行ったら……。
部長の赤木くんと赤い頭の新入生くんが、ギャラリーに囲まれて何やら大騒ぎしているではないか。
……ん?随分と聞いていた話と違うな?
波風立たない部活、って口振りだったけれど、今年からのバスケ部は、ちょうど激動の年だった。
確かに去年までのバスケ部は、赤木くんのワンマンチームでお世辞にも強くはなかったようだ。
バスケの天才・流川楓くんに、初心者だけどポテンシャル抜群な問題児の桜木花道くん。
クセの強い2人が入って、優等生集団と評されていたバスケ部はガラッと変わったようだった。
私はそれから、赤木くん達を中心とした部員の熱意を目の当たりにして、彼らの抱く全国制覇の夢は本気だとわかった。
私はまだまだ未熟だけど教師だ。彼らの抱く目標のために、全力で背中を押してあげたい思った。
でも、バスケをできない私に出来ることはほとんど無くて。
忙しい教員業務の合間でも行ける時は手伝いに行ったり、せめてもの労いにと差し入れを持っていったりした。
「みんなー、調子はどうかな?差し入れ持ってきたよ。」
「アザース!」
「名前先生、いつもありがとうございます。 」
「がんばってね~!」
みんなは毎日、休みの日もバスケ漬けで真剣に取り組んでいた。
それから時が少し進んで、宮城リョータくんと三井寿くんが一悶着ありながらもバスケ部に戻ってきた。
やんちゃ坊主たちが増えて、バスケ部はますます騒がしく、そして強くなっていった。
「みんな、お疲れさま。」
「名前センセー、いつもいいのかよ。差し入れ、ポケットマネーだろ?」
「宮城くん、高校生がそんなこと気にしないの。
どう?赤木くん。何か困ってる事あったら教えてね。」
「名字先生、いつもすまない。」
「うんうん、かわいいバスケ部のためなら、先生がんばるよ~。」
それから私は、インターハイに至るまでの彼らの激闘の数々を見届けた。
最終的には、副顧問として彼らを応援できて本当に良かったと感慨深い気持ちで一杯になった。
そして、インターハイが終わると三井くんを除く3年生は引退し、3年生は本格的な受験モードに入るのだった。
リハビリ中の桜木くんを待ちながら、宮城くんをキャプテンとする新たな湘北バスケ部が始動したのである。
……これが今までの話である。
以上の経緯を聞くと、我ながら少年らの美しい青春を見守る優しい教師に見えるかもしれない。
けれども。ひとつだけ、重大な問題点があった。
私は困ったことに、三井くんに異性として心を奪われてしまっていたのだ。
自信家な割に年相応の脆さを持つ彼は、誰よりも支えてあげたくなってしまうような存在だった。
支えたいという気持ちを持ちながら見守っていると、試合中での彼の諦めない姿が何よりも輝いて見えた。
そして、時間が経つごとに恋慕の情を含んでいってしまった。
守るべき生徒にこんな気持ちを抱くなんて教育者失格だと、とにかく必死に自分を制した。それこそ、想いを墓場まで持っていく位の勢いで。
さらに複雑なことに、私の気のせいでなければ、三井くんも私を気にしている素振りがあった。
三井くんが時々、熱を帯びた瞳で私を見るのを、必死に気付かないふりをしていた。
こうして彼らの激闘の夏が終わってから、私が1人で懊悩を抱えるうちに、なんだかあっという間に季節は文化祭の時期となっていた。
【2部へ続く】
「名字先生、そんなに心配しなくていいですよ。名前をお借りするだけですから。」
「うう、わかりました。それならば……。」
それは今年の春のこと。湘北高校の教員幾年目の私は、バスケ部の副顧問となった。
昨年度まで副顧問だった先生が退職し、どうしても誰かしらの登録だけは必要ということで、部活を持っていないフリーの私が指名されたのだ。
私はバスケのことをろくに知らない。しかも運動音痴で、副顧問になったとしても部員たちに貢献出来ることなどろくに無いのだ。
そんな引け目から、できれば断れないものかと思っていたのだけれど……。
校長曰く、
『副顧問と言っても、仕事はほとんどないですよ。
対応して欲しいのは顧問が対応できない緊急の時だけ。前任者も全く関わっていませんでしたから。
部員数も少ないし、みんな優秀な生徒ばかりです。
そうそう、優秀な部長が全てを取り仕切っているので心配ありません。
試合は監督の安西先生が全て対応しますよ。
それに県予選1回戦敗退の弱小チームですから、プレッシャーもないですよ。柔道部なんて大変ですからね。
気楽に引き受けてくださいな。はっはっは。』
ーーと、いう話だった。まあそれなら私でもどうにかなるかなと、名ばかり副顧問を承諾した。
いざ副顧問に就任し、名ばかりとは言っても最初の挨拶はちゃんと行かないとね。と体育館に顔を出しに行ったら……。
部長の赤木くんと赤い頭の新入生くんが、ギャラリーに囲まれて何やら大騒ぎしているではないか。
……ん?随分と聞いていた話と違うな?
波風立たない部活、って口振りだったけれど、今年からのバスケ部は、ちょうど激動の年だった。
確かに去年までのバスケ部は、赤木くんのワンマンチームでお世辞にも強くはなかったようだ。
バスケの天才・流川楓くんに、初心者だけどポテンシャル抜群な問題児の桜木花道くん。
クセの強い2人が入って、優等生集団と評されていたバスケ部はガラッと変わったようだった。
私はそれから、赤木くん達を中心とした部員の熱意を目の当たりにして、彼らの抱く全国制覇の夢は本気だとわかった。
私はまだまだ未熟だけど教師だ。彼らの抱く目標のために、全力で背中を押してあげたい思った。
でも、バスケをできない私に出来ることはほとんど無くて。
忙しい教員業務の合間でも行ける時は手伝いに行ったり、せめてもの労いにと差し入れを持っていったりした。
「みんなー、調子はどうかな?差し入れ持ってきたよ。」
「アザース!」
「名前先生、いつもありがとうございます。 」
「がんばってね~!」
みんなは毎日、休みの日もバスケ漬けで真剣に取り組んでいた。
それから時が少し進んで、宮城リョータくんと三井寿くんが一悶着ありながらもバスケ部に戻ってきた。
やんちゃ坊主たちが増えて、バスケ部はますます騒がしく、そして強くなっていった。
「みんな、お疲れさま。」
「名前センセー、いつもいいのかよ。差し入れ、ポケットマネーだろ?」
「宮城くん、高校生がそんなこと気にしないの。
どう?赤木くん。何か困ってる事あったら教えてね。」
「名字先生、いつもすまない。」
「うんうん、かわいいバスケ部のためなら、先生がんばるよ~。」
それから私は、インターハイに至るまでの彼らの激闘の数々を見届けた。
最終的には、副顧問として彼らを応援できて本当に良かったと感慨深い気持ちで一杯になった。
そして、インターハイが終わると三井くんを除く3年生は引退し、3年生は本格的な受験モードに入るのだった。
リハビリ中の桜木くんを待ちながら、宮城くんをキャプテンとする新たな湘北バスケ部が始動したのである。
……これが今までの話である。
以上の経緯を聞くと、我ながら少年らの美しい青春を見守る優しい教師に見えるかもしれない。
けれども。ひとつだけ、重大な問題点があった。
私は困ったことに、三井くんに異性として心を奪われてしまっていたのだ。
自信家な割に年相応の脆さを持つ彼は、誰よりも支えてあげたくなってしまうような存在だった。
支えたいという気持ちを持ちながら見守っていると、試合中での彼の諦めない姿が何よりも輝いて見えた。
そして、時間が経つごとに恋慕の情を含んでいってしまった。
守るべき生徒にこんな気持ちを抱くなんて教育者失格だと、とにかく必死に自分を制した。それこそ、想いを墓場まで持っていく位の勢いで。
さらに複雑なことに、私の気のせいでなければ、三井くんも私を気にしている素振りがあった。
三井くんが時々、熱を帯びた瞳で私を見るのを、必死に気付かないふりをしていた。
こうして彼らの激闘の夏が終わってから、私が1人で懊悩を抱えるうちに、なんだかあっという間に季節は文化祭の時期となっていた。
【2部へ続く】
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