ほろ苦いロマンス
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「はい、名字さん。私はガトーショコラだよ!」
「ありがとう。私はチョコクッキー作ってきたんだ。」
高校に入って初めてのバレンタインの日。
この日は、お菓子が好きな女の子たちはお菓子を持ち寄って、女の子同士で交換をしたり、クラス中に配ったりと、このイベントを思う存分楽しんでいる。
恋をしている女の子はどこか照れくさそうで、男の子もどこかソワソワとしている。学校中が色めきたつ、そんな日だった。
「桜木くん……あのね、これ……。」
「あの、私も……。」
「オ、オ、オレにですか!
おお、ついにオレにもモテ期というやつが……!
いやあ~でも参ったなあ。オレには心に決めた女性が……。」
私たちのクラスで色んな意味で目立つ存在の桜木くんも、この日は人気があるようだった。
「「これ、流川くんに渡しといてくれない?」」
「ふざけんなぁぁルカワめぇぇぇぇ!!」
……彼と同じ部活のモテ男・流川くんへのメッセンジャーとして。
「チッ。どいつもこいつもルカワルカワって……あのキツネの何がそんなにいいんだっての。」
「ギャハハハハハハハ!!」
メッセンジャー扱いをされてふてくされている桜木くんの姿を見て、何時も仲良しな水戸くんたちの4人組は爆笑していた。
私はほろ苦い味のチョコクッキーを持って、そんな楽しそうな様子の彼らの元へと近寄った。
「桜木くん。」
「おう、名字さん!」
「なんだなんだ、名字さんもルカワへのチョコかあ~?」
「ははっ、高宮くん、私は流川くんへの用事じゃないよ。
これ、みんなに配ってるから。桜木くん達にもあげる。
……桜木くん、今日は赤木さんから貰えるといいね。」
「おお、ありがとう名字さん!や、やだな~名字さんったら……へへっ……。」
……赤木さん。私が彼の意中の女の子の名前を出すと、桜木くんはわかりやすくデレデレとした。
私は桜木くんのことが好きだ。……なのに、こうしてわざわざ自爆をしてしまう私は、どうにも素直な女じゃない。
『あの……ありがとうございました。』
『おうっ、気ぃつけてくださいよ。』
私は桜木くんと同じ中学だった。
中学の2年に上がったばかりの頃。変な先輩にぶつかってしまい難癖をつけられていた私は、たまたま近くにいた桜木くんの痛快な一撃によって助けられたのだ。
桜木くんは同級生でその時から既に目立つ存在だったけれど、ずっと怖い人だとばかり思っていた。
でも……。桜の花びらがひらひらと舞う中で、お礼を言った私に対してニカッと笑顔で去っていった彼の姿が、まるで写真のフィルムを切り取ったかのように、私の脳裏に鮮明に残り続けた。
それまでは人を好きになるという感覚がイマイチわからなかった私だけど、この時ばかりは、これが恋なのだと明確に分かった。
それから初めて恋をした私は、地味な自分を変えたくて、メガネを外したり、髪型を変えたり、おしゃれな事に興味が出るようになった。
けれども、桜木くんに話しかける勇気は全然無くて、中学の間には結局一言も話しかけられずに終わった。
中学2年のバレンタインの時には、初めて自分で作ったヘタクソな甘すぎるチョコを、結局自分で食べた。
最後のチャンスだった中学3年の時のバレンタインには、もう学校は自由登校になっていて、渡す機会が無いままで終わった。
……私はその時に、もうこの気持ちを儚い初恋の思い出として諦めてしまっていた。
高校が一緒なのは、本当にただの偶然だった。さらに幸運なことに、彼とは同じクラスになった。
「桜木くん、いつも寝てるから宿題困ってるよね。同じ中学のよしみで、ノートくらい貸してあげるよ。」
「なんと、名字さん……!」
「私……湘北のバスケ、嫌いじゃないからさ。桜木くんが成績不振で出られなくなったら困るから。」
どうにも素直になれない私はそんな上から目線な事を言って、桜木くんに近づくためのきっかけとして、いつも真面目にきっちり授業を受けては、宿題やテストの手助けをしたりなんてしていた。
すると、よく話をするクラスメイトくらいの存在にはなれた。
……結局諦められなかったのは、私にとって良かったのか悪かったのか。今でも分からない。
高校に入ってバスケに打ち込むようになったのはとても意外だったけれど、バスケに夢中になっている姿をみたら、助けてもらった頃よりも、もっともっと好きになってしまった。
桜木くんの瞳には、ずっと別の女の子が映っているというのに。
彼の好きな赤木さんは、私から見ても可愛くて素敵な女の子だった。
「名字さんは本命のチョコとか無いの~?」
「そんなの無いよ。」
クラス中にチョコクッキーを配っているうちに、女の子にそんなことを聞かれた私はあっさりと嘘の答えを言う。
本当は今日だって、桜木くんに渡すための特別なチョコレートを用意していた。
でも……勇気の無い私は、今年もチョコを渡せそうにない。
だから、放課後にそっと彼の机の中へと忍ばせた。
『バスケ頑張ってください。
応援してます。』
……こんな簡潔なメッセージを添えて。
私は本当に意気地無しだった。こんなちっぽけなメモの中でさえ、好きだということが伝えられなかった。
ーーそして次の日。
少しだけ昨日の胸のざわつきが残るまま、教室に着いた私に対して桜木くんは話しかけてきた。
「名字さん、昨日机にチョコ置いてってくれたのって名字さんですよね?」
「えっ……。なんでわかったの。」
「そりゃあ分かりますよ、よく名字さんのノート借りてますから。」
桜木くんは、いつも貸している私のノートの筆跡で、メモが私のものだとわかったようだった。
……流石にそこまでバカでは無かったか。だなんて、私はそんな、好きな人に対してとは到底思えないようなひどい考えがよぎったりした。
「いやあ、名字さんがオレのファンだったなんてなあ~。ホワイトデーは期待しててくださいよ、名字さん!
貰ったお菓子はこの天才桜木が、100倍にしてお返ししますからね!」
「あはは、ありがとう。100倍どころか1000倍返しでよろしくね。」
そんな風に喜んでくれた桜木くんだけれど、私のチョコはきっと、大好きな赤木さんに貰うそれよりは、ずっと価値がないのだろう。
でも今はそれでよかった。君にもし、赤木さんを諦めるような未来があるならば。
……その時には、私の気持ちを受け取って欲しいんだ。
【完】
「ありがとう。私はチョコクッキー作ってきたんだ。」
高校に入って初めてのバレンタインの日。
この日は、お菓子が好きな女の子たちはお菓子を持ち寄って、女の子同士で交換をしたり、クラス中に配ったりと、このイベントを思う存分楽しんでいる。
恋をしている女の子はどこか照れくさそうで、男の子もどこかソワソワとしている。学校中が色めきたつ、そんな日だった。
「桜木くん……あのね、これ……。」
「あの、私も……。」
「オ、オ、オレにですか!
おお、ついにオレにもモテ期というやつが……!
いやあ~でも参ったなあ。オレには心に決めた女性が……。」
私たちのクラスで色んな意味で目立つ存在の桜木くんも、この日は人気があるようだった。
「「これ、流川くんに渡しといてくれない?」」
「ふざけんなぁぁルカワめぇぇぇぇ!!」
……彼と同じ部活のモテ男・流川くんへのメッセンジャーとして。
「チッ。どいつもこいつもルカワルカワって……あのキツネの何がそんなにいいんだっての。」
「ギャハハハハハハハ!!」
メッセンジャー扱いをされてふてくされている桜木くんの姿を見て、何時も仲良しな水戸くんたちの4人組は爆笑していた。
私はほろ苦い味のチョコクッキーを持って、そんな楽しそうな様子の彼らの元へと近寄った。
「桜木くん。」
「おう、名字さん!」
「なんだなんだ、名字さんもルカワへのチョコかあ~?」
「ははっ、高宮くん、私は流川くんへの用事じゃないよ。
これ、みんなに配ってるから。桜木くん達にもあげる。
……桜木くん、今日は赤木さんから貰えるといいね。」
「おお、ありがとう名字さん!や、やだな~名字さんったら……へへっ……。」
……赤木さん。私が彼の意中の女の子の名前を出すと、桜木くんはわかりやすくデレデレとした。
私は桜木くんのことが好きだ。……なのに、こうしてわざわざ自爆をしてしまう私は、どうにも素直な女じゃない。
『あの……ありがとうございました。』
『おうっ、気ぃつけてくださいよ。』
私は桜木くんと同じ中学だった。
中学の2年に上がったばかりの頃。変な先輩にぶつかってしまい難癖をつけられていた私は、たまたま近くにいた桜木くんの痛快な一撃によって助けられたのだ。
桜木くんは同級生でその時から既に目立つ存在だったけれど、ずっと怖い人だとばかり思っていた。
でも……。桜の花びらがひらひらと舞う中で、お礼を言った私に対してニカッと笑顔で去っていった彼の姿が、まるで写真のフィルムを切り取ったかのように、私の脳裏に鮮明に残り続けた。
それまでは人を好きになるという感覚がイマイチわからなかった私だけど、この時ばかりは、これが恋なのだと明確に分かった。
それから初めて恋をした私は、地味な自分を変えたくて、メガネを外したり、髪型を変えたり、おしゃれな事に興味が出るようになった。
けれども、桜木くんに話しかける勇気は全然無くて、中学の間には結局一言も話しかけられずに終わった。
中学2年のバレンタインの時には、初めて自分で作ったヘタクソな甘すぎるチョコを、結局自分で食べた。
最後のチャンスだった中学3年の時のバレンタインには、もう学校は自由登校になっていて、渡す機会が無いままで終わった。
……私はその時に、もうこの気持ちを儚い初恋の思い出として諦めてしまっていた。
高校が一緒なのは、本当にただの偶然だった。さらに幸運なことに、彼とは同じクラスになった。
「桜木くん、いつも寝てるから宿題困ってるよね。同じ中学のよしみで、ノートくらい貸してあげるよ。」
「なんと、名字さん……!」
「私……湘北のバスケ、嫌いじゃないからさ。桜木くんが成績不振で出られなくなったら困るから。」
どうにも素直になれない私はそんな上から目線な事を言って、桜木くんに近づくためのきっかけとして、いつも真面目にきっちり授業を受けては、宿題やテストの手助けをしたりなんてしていた。
すると、よく話をするクラスメイトくらいの存在にはなれた。
……結局諦められなかったのは、私にとって良かったのか悪かったのか。今でも分からない。
高校に入ってバスケに打ち込むようになったのはとても意外だったけれど、バスケに夢中になっている姿をみたら、助けてもらった頃よりも、もっともっと好きになってしまった。
桜木くんの瞳には、ずっと別の女の子が映っているというのに。
彼の好きな赤木さんは、私から見ても可愛くて素敵な女の子だった。
「名字さんは本命のチョコとか無いの~?」
「そんなの無いよ。」
クラス中にチョコクッキーを配っているうちに、女の子にそんなことを聞かれた私はあっさりと嘘の答えを言う。
本当は今日だって、桜木くんに渡すための特別なチョコレートを用意していた。
でも……勇気の無い私は、今年もチョコを渡せそうにない。
だから、放課後にそっと彼の机の中へと忍ばせた。
『バスケ頑張ってください。
応援してます。』
……こんな簡潔なメッセージを添えて。
私は本当に意気地無しだった。こんなちっぽけなメモの中でさえ、好きだということが伝えられなかった。
ーーそして次の日。
少しだけ昨日の胸のざわつきが残るまま、教室に着いた私に対して桜木くんは話しかけてきた。
「名字さん、昨日机にチョコ置いてってくれたのって名字さんですよね?」
「えっ……。なんでわかったの。」
「そりゃあ分かりますよ、よく名字さんのノート借りてますから。」
桜木くんは、いつも貸している私のノートの筆跡で、メモが私のものだとわかったようだった。
……流石にそこまでバカでは無かったか。だなんて、私はそんな、好きな人に対してとは到底思えないようなひどい考えがよぎったりした。
「いやあ、名字さんがオレのファンだったなんてなあ~。ホワイトデーは期待しててくださいよ、名字さん!
貰ったお菓子はこの天才桜木が、100倍にしてお返ししますからね!」
「あはは、ありがとう。100倍どころか1000倍返しでよろしくね。」
そんな風に喜んでくれた桜木くんだけれど、私のチョコはきっと、大好きな赤木さんに貰うそれよりは、ずっと価値がないのだろう。
でも今はそれでよかった。君にもし、赤木さんを諦めるような未来があるならば。
……その時には、私の気持ちを受け取って欲しいんだ。
【完】
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